私達を探すのに、きれいな人を探していたら?(優香と恵理子)
優香と恵理子は、森から木々を拾ってきて火をつける。
「リオル、こっちを向いちゃだめだからね」
「わかってるよ。タカヒロはいいのかよ……」
と、リオルは火に背を向ける。
リーシャとリーシュ、そして、ブリジットまでがびしょぬれになっている。
その服を脱がせて、水を絞り、火で乾燥させる。
ブリジットには、優香の団服を、リーシャには恵理子の団服を着せ、リーシャと一緒にリーシュがくるまる。
恵理子は、空に向かって、ファイアボールを打ち出す。
これは、仲間を集める合図だ。
しばらくしていると、ミリー班がやってくる。
「ごめん、ミリー。何か着るものを持って来てほしい」
「承知しました」
ミリー班は再び森へと入っていく。
その後、オリティエや他の班もやってくる。
「あのホーンベア、解体して、運んでくれる?」
「承知しました」
ブリジット達は、ミリー達が持って来てくれた服に着替える。
オリティエ達が解体したホーンベアは、少しずつ運び出されていく。
ホーンベアの素材がすべて運び出された後、
「私達も帰ろうか」
恵理子が声をかけた。
帰り際、リーシャはリオルに背負われたリーシュに言う。
「どうしてあんなことしたの?」
「だって、お姉ちゃん達なら余裕だと思って」
「ふう。余裕よ。あれくらいのホーンベアを殺すだけならね。だけどね、素材として持ち帰らないといけないし、そのために戦い方も注意しなければいけない。あの時、リーダーのタカヒロ様が撤退を決断したの。それには理由があるの。たとえ倒せるからと言って、リーダーの指示を無視しちゃダメなの」
「だってぇ、お姉さま、強いから」
グスっ、と鼻を鳴らすリーシュ。
「あなたはこれから先、そういう作戦を指示するリーダーになるの。そんな時に、部下が好き勝手に動いたら困るでしょ」
「うん」
「今回は、あなたが動いたせいで、私もお兄様もブリジットも戦えなくなった。タカヒロ様とマオ様二人で戦わなければいけなくなったの。それは、危険なことなの。わかる?」
「うん」
「わかったならいいわ」
「お姉様、ごめんなさい」
「違うわ。リーダーに謝りなさい」
「タカヒロ様、ごめんなさい」
優香は手を上げてそれに答えた。
この日は、そのまま王都へ帰ることにした。
ギルドに着くと、昨日と同じように素材を運び入れる。
「ミューラさん、ギルマスいる?」
「はい。いらっしゃいます」
ミューラに連れられて優香と恵理子はギルマスの部屋へ行く。ブリジット達は、先に家に帰した。風呂に入れと。
「お疲れさま。今日は、早かったな。それに、大量のホーンベアも」
「昨日言っていたところにいたホーンベアを狩ってきた。これでだいぶいなくなったと思う」
「そうか。ありがとうよ。依頼は、あと三日あるけど、それを上回る範囲を見てくれたんだ。もう大丈夫だろう。おしまいにしていい。ちゃんと報酬は払う」
「ありがとう。だけど、注意した方がいいな」
「わかっている。ちゃんと掲示板に情報を貼っておく。あんまり深入りするなとな」
「ところで」
と、優香がギルマスに聞く。
「なんだ?」
「冒険者の多くは冬の間、何をやっているんだ?」
「カッパー等の駆け出しは、王都の中の依頼を受けているぞ。中堅は、引きこもりつつ鍛錬をするとかかな。ハイランカーはたいてい、貯めた金でバカンスだな」
「バカンス?」
「ああ、南の方へ行って、依頼を受けながら遊ぶ、そういう奴らも多い」
「多い?」
「ああ、そういう奴らばっかりじゃない。温泉に行ってくつろぐ奴らもいるからな」
「温泉?」
恵理子が食いつく。が、優香は違うことを聞く。
「と言うことは、そういうバカンスに行く冒険者達は強いってことだよね。逆に言うと、冬にバカンスの地に行けば、強い人達に会える可能性があるってことだ」
「ま、そういうことになるな。実際、この王都のハイランカーはすでに移動している者も多いぞ」
「バカンス、温泉、バカンス、温泉……」
そう、悩んでいると、
「あー、南に行ってバカンスはもう無理だ。サウザナイトは通れないだろうし、北を回るには遅すぎる。行くならもっと早く行かないとだめだな」
「じゃあ、温泉? おすすめは?」
「あのな、王都のハイランカーがバカンスに行っているって話をしたばっかりだよな。あんまりハイランカーに抜かれると、万が一の時に不都合が起こるんだよ。こっちとしては、お前達には行ってほしくないんだが?」
「いいよ。他の人に聞くから」
「あー、待て待て。わかったよ。強いやつ希望なんだろう?」
「はい」
「じゃあな、北の森の東側を沿って北上してな、そのまま森に沿って西に向かう。さらにずっと山脈に向かっていくと、その辺境がスティングレー伯爵領だ。その山脈のほとりにある温泉街がスタースプリング。冬にはそこにハイランカーが集まっている。当然、鍛錬のための施設も闘技場もある」
「どれくらいかかるの?」
「本当はもっと季節のいい時期から移動するんだがな。今なら、十日は見ておいた方がいいかもな」
「サウザナイトより遠いじゃないか」
「ぐるっと回るんだ。覚悟しろ。それか、来年にしろ」
「ところで、そういう強い人の情報って、ギルドで手に入らないの?」
「お前な、この王都で一番強いやつが誰か言ってみ?」
「ギルマス?」
「あのな、俺は準優勝なんだよ。優勝した奴がいるんだ」
はぁ、と、ギルマスはため息をつき、優香に提案する。
「まあ、この国はこの国で広い。しかも、本当に強い奴ってのは意外と一国にとどまっていない。行って確かめてきたらどうだ?」
「ありがとう。検討してみる」
二人は、ギルドを後にする。ブリジット達やミリー達はすでに返してあるので、徒歩になる。
「貴博さん達も探してくれているかな。どうやって探しているかな」
「同じように、私達が強いと信じて、そういう人を探してくれていると、きっと会えるのが早いと思うんだけど」
「もしかして、私達を探すのに、きれいな人を探していたら?」
恵理子が笑う。
「それで会えたらすごいね」
「ちょっとうぬぼれちゃう?」
「そうね」
二人とも今は、いや、今もお互い見惚れるくらい美しい。それを望んで魔力ぐるぐるをした。
……
「シャルロッテ母様もソフィリア母様もすごいきれいだった」
「リーゼロッテ姉さまも他の母様達もね」
「きれいな人じゃ、きっと無理ね」
「そうね」
二人は、がっくりと肩を落とす。
「そういう意味では、強い人って言うのも、最終的にはパパや母様達にたどり着きそう」
「でも、あの人達の噂って聞かないのよね」
「そうよね。どういうことかしら」
「まあ、悩んでも仕方ないわよね。信じて進みましょう」
「はい」




