ホーンベア達、覚悟しろ(優香と恵理子)
「千里ちゃん! 桃ちゃん!」
と、優香が手を広げると、ホーンベアも優香の前で止まり、立ち上がり、両手を広げた。
そして、爪を立てて
「グワ―」
と、その手を振り下ろした。
「違うんかい!」
恵理子が回し蹴りをホーンベアの腹に撃ちこむ。
バッチャーン!
ホーンベアは吹っ飛んで池に落ちる。
小さいの方のホーンベアは、それを見て足を止め、池に飛び込んだ。
「千里ちゃんじゃなかったのね」
「それ、千里ちゃんに言ったら怒られるわよ」
「そうよね」
あはははは。
「ところで、熊さん達はと」
「森の奥へと帰って行くっぽいね」
「これでいいかな。一応、ギルドへ報告だね」
「そうしましょう」
二人は帰り道に話をする。
「もしかして、人じゃない可能性もあるのかな」
「せめて人族であってほしいと思うけどね」
「でも、千里ちゃん、結構猪突猛進なところあったから、もしかしたら、ホーンボアかも」
「あははは、悪いよ、そういうこと言っちゃ」
「桃ちゃんはかわいいからホーンラビットかもね」
「あはは、そうじゃないことを祈るわ。でも、もし、二人が魔物だったり魔獣だったりとしても、仲良くしたいわね」
「そうね。あと、貴博さんと真央ちゃんね」
「あれ、千里ちゃん達、魔物決定?」
「そんなことないわよ。きっと違うわ。どこかでまた二人でダメンズにつかまっているわよ」
「あはははは。ありえそうで怖い」
優香と恵理子が森の外まで戻ると、ミリー達何組かはすでに戻って来ていて、ホーンベアやホーンボアの解体作業をしていた。
「あ、やっぱりそっちにもいたんだ」
「タカヒロ様、マオ様、お疲れ様です。そっちにも、って言うってことは?」
「ああ、こっちにも二頭いたんだけど、マオが蹴りを入れたら森の奥に逃げて行っちゃった」
「そうだったんですね。命拾いをしたホーンベアもいたものですね」
しばらくすると、ブリジットとリーシャの班も戻ってくる。リオルのお付きがホーンベアを運んでいる。
「ブリジット達もホーンベアを倒したんだ」
「いえ、それは……」
「おう。俺が倒したんだ」
リオルが自己申告をする。
「お兄様が、俺にやらせろってうるさくて」
リーシャが視線を逸らす。
「じゃあ、それも解体しちゃって」
「おうよ。それも任せておけ」
リオルは、お付きと一緒に解体作業を始めた。
全班が戻ってくると、ホーンベアは四頭、ホーンボアが二頭となり、それなりの荷物になる。
「今日は、これで帰って、ギルドに報告しよう」
と、皆で王都に帰ることにした。
「昨日は報告忘れちゃってすみません」
優香がミューラに言う。
その後ろでは、ミリー達がホーンベアやホーンボアを運び込んでいる。
「いえ、昨日の若い冒険者がホーンボアを取ってきたのって、タカヒロ様達が関わっていますよね?」
「正しくは、ブリジットだけど」
ミューラは、魔物の素材の運び込み具合を確認し、
「それじゃ、今日はギルマスに報告してもらえますか?」
と、二階へと促した。
「で、ホーンベアを何頭も狩って来たって?」
優香は地図を見ながら、
「この辺まで、大体小道がなくなってもうちょっと行った先だけど、そこまで行くと、ホーンベアやホーンボアがいるみたいだ」
「それじゃ、小道の範囲にはいないんだな」
「昨日のホーンボアのように、はみ出してくる魔獣はいるかもね」
「そうか。まだ危ないのか?」
「わからないけど。ちなみに、僕とマオは、ホーンベアを二頭、取り逃してる」
「おいおい、そういうの、ちゃんと狩って来てくれよ」
「マオがゲインって、蹴り飛ばしたら、そのまま森に入っちゃって」
恵理子が視線を逸らせる。
「蹴り飛ばしたうえで逃がしたのか……」
「あれ、まずかった?」
「ホーンボアまではいい。三歩歩けば忘れるしな。だが、ホーンベアは覚えているんだよ。意外と賢いんだよ」
「ギルマスよりも?」
「そう、俺よりも。って違うわ!」
ミューラのお約束的な突っ込みに、丁寧に答えるギルマス。
「意外とやることはやる性格なんだな」
「うるさい。そういうのはいい。で、なんだっけ」
「ホーンベアがギルマスより記憶力がいいって話」
もう忘れてる、というミューラの突っ込みはスルーされる。
「そこは、ホーンベアの縄張りだったんだろう?」
「ああ、爪の後があった」
「取り返しに来るんだよ」
「でも、ほっときゃもうすぐ冬眠だよね?」
「それが、縄張りを守るために冬眠しなくなる」
「じゃあ、退治しておけばいい?」
「ああ、そうしておいてくれないと、冬の間、駆け出しが危なくなるかもしれないしな」
家へと帰る途中で相談する。
「マオ、二頭いたよね。倒したとして、どうやって持って帰る?」
「一人一頭は無理」
「だよね」
「ねえ、ブリジット、リーシャ、明日、付き合ってくれない?」
「いいよ。ホーンベアを運ぶんだよね」
「うん。捨てて来たらだめだよね」
翌日。
「それじゃ、僕ら四人とリオルとリーシュ達高位魔族組は一緒に行動。ミリー達はいつも通りでお願い」
「「「「はい」」」」
優香と恵理子は、ブリジットとリーシャ達を引き連れて、昨日の池まで走る。
「さてと、いるかな、クマちゃん」
と、リーシャが気楽に覗く。ヨーゼフもラッシーも警戒態勢なのに。
「あれ?」
と、リーシャ。
「私達、熊二頭を運ぶためにこの人数で来たよね?」
「そうよね」
恵理子も池を覗きながら答える。
「えっと、ひーふーみー、十頭以上いるんじゃない?」
「どうするタカヒロ」
恵理子が聞く。
「出直そうか。昼にみんなで集まって、みんなで来る?」
「そうね、それがいいと思うわ」
「よし、帰ろう」
「あれ、リーシュ?」
リオルが周りを見回す。
「あ、リーシュ!」
リーシャがリーシュを見つける。
リーシュは、池のほとりまで出て行き、腰に左手を当て、右手でホーンベアを指さし、
「おい、ホーンベア達。覚悟しろ」
と言っている。
それに反応した全ホーンベア。しかも一番大きい奴がリーシュの前に出て立ちあがった。
そして、右手を大きく振り上げ、リーシュに向かって振り下ろす。
「リーシュ!」
リーシャが割り込んだ。だが、二人そろって、池へと飛ばされてしまった。
「やばい。ブリジット、リオル、二人を池から出して。凍える」
「はい」
「わかった」
「マオ、行くよ。逃がさないように」
「わかってる。私、後ろに回り込むから」
優香は、リーシャを殴り飛ばした一番大きなホーンベアと向き合う。もちろん、大きかろうがホーンベアごときに後れを取る優香ではない。だが、時間をかけたら他のホーンベアが、リーシャ達の方へ行きかねない。
「ほら、ホーンベア、こっちだ! まとめて相手にしてやるからかかってこい」
言葉がわかるかどうかわからないが、優香は存在感を示すために大声を出す。
よし、意識をこっちに向けた。と、優香は満足する。なぜなら、恵理子が後ろから、優香に気を取られたホーンベアを一頭、また一頭と、倒してきているからだ。
こうなると、優香は目の前のホーンベア達の意識を引いておくだけだ。
目の前の巨大ホーンベアは、立ち上がると、そののどが優香の頭のさらに上にある。
しかし、立ち上がったホーンベアのその右手の下を優香は潜り抜け、腹にナイフの柄をたたきつける。そして、熊が前のめりになったところで、首にナイフを突いた。
優香は、その後も、一頭、また一頭と倒し、恵理子と二人で全ホーンベアを倒した。
 




