熊(千里?)突猛進(優香と恵理子)
「よくやった」
と、ブリジットは男の子の頭をポンポンする。
「ありがとうございます」
男の子は、仮面をしたブリジットが男か女か決めかねたが、それでもうれしくてほほを染める。
そこへ女の子も走ってくる。
「やった。やったね!」
と、男の子に背後から抱き着く。
しかし、男の子の反応が薄いこと、助けてくれた冒険者を見てほほを染めているのを見て、男の子のほっぺをつねる。
「いたたたた。なんだよ、どうしたんだよ」
「やったねって」
「そうだな。二人でやったんだな」
ブリジットは、女の子の頭もポンポンして、
「頑張ったな」
と、ほめた。それに対して、女の子までほほを染めてしまう。
「あ、あの。ありがとうございました」
女の子も頭を下げる。
「いいって。それより、そろそろ戻らないと、森を出る前に暗くなるぞ」
「はい。そうですね」
「でも、これ、どうする?」
「解体は森を出てから、もしかしたら、そのままギルドに出した方がいいかもな。帰る前に暗くなってしまう」
そこへリオルが丈夫そうな棒を持ってくる。
「ブリジット、これでいいか」
「あ、リオル、ありがとう」
ブリジットは、リオルから長い棒を受け取ると、ホーンボアの足を棒に結び付ける。そして、首にナイフを入れて血を抜き、
「ほら、このまま持って帰れ」
と、二人に棒を持たせた。
「うう。ちょっと重いね」
と、女の子。
「仕方ないな」
と、リオルは、ホーンボアの腹を切って、内臓まで出してしまう。
それをリーシャが燃やして処理をする。
「ちょっとは軽くなったか?」
「はい。ありがとうございます」
「自分達の倒した獲物は自分達で持ち帰れ。森の外まで一緒に行ってやるから」
と、ブリジットが二人に帰ることを再度促した。
森を出ると、優香達をはじめ、全員がすでに戻っていた。
「どうしたの、その子達」
恵理子が聞く。
「ホーンボアと戦っていたから、応援してきた」
ブリジットが答える。
「あ、いえ、助けてもらったんです」
「いや、私は助言しかしていない」
「それでも」
「それはお前達が倒したんだ。お前達の実力なんだ。誇っていい」
「「はい。ありがとうございます」」
「ねえ、それ、重いでしょ。私達もこれから王都へ帰るから、乗っていきなさい。ギルドまで連れて行ってあげる」
「あ、ありがとうございます」
「助かります。実はもう、足がふらふらで」
あはははは
「頑張った証だ。今日はご飯がおいしいと思うぞ」
クサナギ一行は王都へ戻り、冒険者ギルド前で二人とホーンボアを馬車からおろす。
二人がホーンボアを担いでギルドへ入ったのを見届け、家へと帰る。
「え、そのホーンボア、坊主達が倒したのか?」
「すごいな、頑張ったな」
「えへへへへ」
先輩冒険者に褒められて嬉しそうにする駆け出しの二人。
「ちょっと、そのホーンボアどうしたの?」
それを見て、ミューラが聞く。
「北の森で遭遇しちゃって」
「それを二人で倒したって言うの?」
「はい、先輩冒険者に助言をもらいましたけど」
ミューラは、今日から北の森に入っているプラチナ冒険者パーティを思い出す。
「ほら、二人とも、それをこっちのカウンターに。それから冒険者カードを出して。まったく、無理しちゃだめよ」
「「はい」」
二人は、いつもより重たい財布を胸にしまい、帰路につく。
「今日の人、かっこよかったな」
「そうね。かっこよかったね」
「あんな冒険者になれるかな」
「なれるように頑張らないとね」
「また会えるかな」
ベシッ!
「いたっ」
「あの人、男の人よ?」
「いや、女の人だよ」
「んもう。まあ、どっちにしろ、あんたなんか相手にされないわ」
「そんなんじゃないよ。目標が出来たみたいでうれしいんだ」
「そっか。そうよね。私も目指す。かっこいい冒険者」
あはははは
「じゃあ、帰ろう」
男の子は手を差し出す。
「うん」
女の子は、その手を握った。
翌日。
「あ、昨日、報告するの忘れた」
優香が思い出したように言う。
「まあ、あの子達が北の森でホーンボアを倒したってこと報告しているからいいんじゃない?」
「そうだね。それで良しとしてもらおうか」
「さ、どうする。昨日と同じでいい?」
「そうしようか」
この日も、同じように森に入っていく。駆け出し冒険者に会ったら声をかけて情報収集をしながら。
昼食時、優香が提案する。
「ちょっと移動速度を速めて、範囲を広げてみようか」
「「「「はい」」」」
「私達とブリジット達がなるべく中央の小道ね。後は、ミリー達が左右に分かれて」
「それじゃ、行こう」
と、優香と恵理子が走り出す。ブリジットとリーシャ、リオルも走る。ミリー達とリシェル達が右、オリティエ達とローデリカ達が左へと分かれて行く。
駆け出しの冒険者でも小道を走る者はいない。よって、優香達は、小道がなくなる駆け出しが足を踏み込める末端までくる。きっと、ブリジット達も同じだろう。
そこからさらに森へと入っていく。すると突然、先を行くヨーゼフが
「わふ」
と、鳴いた。
また、その右前方でもラッシーが
「わふ」
と、鳴いた。
「どうした?」
と、優香と恵理子がそれぞれ声をかけると、二頭とも木の上を見つめている。
二人がその視線を追うと、木の幹、下から二メートルくらいのところに、三本の爪の後があった。どちらの木にも。
「優香―。この辺、ホーンベアのテリトリーみたいね」
「そうね。どうする?」
「帰って冒険者ギルドに報告かしら」
「はあ、明日は熊退治か」
「そう言わないの。じゃあ、これからこれ、退治していく?」
「森に入っている冒険者もいるしね。ここまで来なければ大丈夫かもだけど。心配かな」
「わかった。ラッシー、どっちに行ったかわかる?」
「わふ」
ラッシーが歩き始める。ヨーゼフも同じ方へ行くようだ。
しばらく歩くと、ヨーゼフとラッシーの歩みに慎重さが加わる。優香と恵理子も気配を消す。
さらに行くと、水場、池があった。そこに、二頭のホーンベア。大きいのが一頭にそれより小さいのが一頭。
「親子かな」
「子供って、いつまで親と行動するの?」
「じゃあ、夫婦?」
「わからないけどね。どうする?」
「うーん。ほおっておくと危ないのはわかる。だけど無駄に殺すのもね」
「じゃあ、追い返しましょうか」
「そうね」
二人は、ゆっくりと、池のほとりに姿を出す。
ホーンベアは二人に気づく。しかしながら、気づいただけで、特に気にする様子もない。
「あれ、驚いてくれないね」
「そうね」
「おーい、熊さん。森の奥へ帰ってくれるかい?」
ホーンベアはそこでようやく優香達を注視してくる。
「君達の居場所はもっと奥だよ。こっちに来ちゃだめだよ」
恵理子も優しく声をかける。
するとホーンベアは、首を横に振った。
「あれ? 言葉が通じる?」
優香と恵理子は顔を見合わせる。もしかして、と。
「もしかして、千里ちゃんと桃ちゃん?」
ホーンベアが頭を下げた。
「千里ちゃん! 桃ちゃん!」
そう、優香が言った瞬間、ホーンベアが二人に向かってダッシュしてきた。




