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森の巡回業務(優香と恵理子)

「何でだ!」


 リオルが悔しがる。


「そんなの決まっています。私の方がスピードも体力も上、さらには、実戦経験も上、ということです」

「実戦経験?」

「私、毎日あの二人と実践訓練をしているんです。倒されてはヒールをかけられ、倒されてはヒールをかけられの繰り返し」


 リーシャがなぜかほほを染める。


「特に寝技に持ち込まれた時なんて最高よ。首に入った時なんて天にも昇る気分になるし」


 それ、ダメなやつじゃん。と、魔族全員の心の突っ込み。優香と恵理子は、もう寝技はやめようと誓う。


 リオルは、立ち上がって、リーシャの肩をたたく。


「わかったよ。俺達とお前の住む世界が違うってことが。リーシュも里に連れて帰る。リーシュをお前みたいにしてはいけない。お前、ドエムだったんだな」

「な?」


 リーシャが驚きの表情を浮かべて固まる。

 オリティエ達も合わせて顔を染める。

 優香と恵理子はがっくりとうなだれる。子供達の育て方を間違ったらしい、と。


「まあ、せっかく来たし、リーシュもお前と一緒にいられるのを楽しみにしているんだ。明日からの三日間は一緒にいさせてもらうよ」




 ミリー達が戻って来て、夕食となる。食事時はいつも賑やかだ。

 突然、アリーゼ達年少組がゲームを始める。


「せーの、三」

「せーの、六」


 それを見つけたリオル。


「何やっているんだ?」

「肉をかけた戦いです」

「お、面白そうじゃん、俺も混ぜてくれよ。どうやるんだ」


 ……


 リオルのスープから肉が消えた。


「あははは、兄妹そろってこのゲーム弱いんだな」


 ブリジットが笑う。


「「なにを」」


 リオルとリーシャが立ち上がる。


「「勝負だ」」

「二人とも、もう肉ないじゃん」


 すでにリーシャもヴェルダ達に負けた後だ。


「く、くそう。明日勝負だ」


 と、魔族兄妹は、野菜中心食を食べた。


「はいはい、お肉も食べないと大きくなれないからね」


 と、優しいオリティエに肉を追加してもらっていたが。




「お兄様。先に風呂に入ってください」

「お、先でいいのか?」

「一応、お客様ですので」

「ありがとうな。おい、タカヒロ、背中を流してやるから、一緒に入ろうぜ」


 一瞬にして、部屋中に緊張が走る。

 メイドの一団が優香とリオルの間に立ち、リーシャが、


「一人で入ってください」


 と、強くお願いをした。殺気をまとって。


「お、おう。わかった」




 翌朝、依頼のため、出発をする。


「今日は、森まで馬車で行って、そこから歩きね」


 北の森は、駆け出しが薬草採取や弱い魔物を討伐する場なので、馬車が通れる道はない。ただ、よく通る道が決まっており、小道がいくつかできている。これを人は駆け出しの小道と呼んでいる。


「ミリー、オリティエ、リシェル、ローデリカはそれぞれ三人編成で別れて探って。リーシャとブリジットは二人で。だけど、リオル達はリーシャと一緒に行動するでしょ。リーシャ、お願いね。それと、私とタカヒロは、ヨーゼフとラッシーを連れて行くから。それじゃ、昼にいったん森の外で集合ね。行きましょう」


 北の森は駆け出しが利用するだけあって、王都からさほど離れてはいない。よって駆け出しの利用率も高い。


「それじゃ、行くわよ。冒険者の皆さんを驚かせないようにね」

「「「「はい」」」」


 それぞれ、チームごとに小道に入っていく。奥に行けば行くほど小道は枝分かれしており、皆はそれぞればらばらになっていく。


 ミリー達が小道を行くと、そのわきで薬草を採集しているパーティを見つける。パーティのメンバーもこちらに気づく。ミリーは、手を振って、その場を通り過ぎる。

 オリティエ達は、ホーンラビットを囲んでいるパーティを見つける。それを邪魔しないように、後ろから見守る。獲物の横取りはやってはいけない。しかも、駆け出しが頑張っているのだ。自分達もよくよく考えれば、まだ、数か月の駆け出しではある。毎日死ぬような思いをして、無理やり強化された感は否めないが。

 最後に剣士がホーンラビットの横腹を貫き、ホーンラビットは息絶える。

 それを確認して、オリティエ達は先へと進む。


 リシェルのチームもローデリカのチームも森の奥へと足を進める。時々パーティとすれ違ったり、薬草採取や魔物討伐の様子を眺めたりしながら。今のところ特に異常はない。




 ブリジットとリーシャ達も、優香と恵理子も特に異常を感じずに午前中が終わる。

 森の入り口に予定通り皆で集まり、昼食をとる。


 行きかう駆け出し冒険者が礼儀正しく挨拶をしていくのをほほえましく思いながら。


「こんにちわ。これからですか」

「お疲れ様。薬草取れました?」

「あ、タカヒロ様、ファンなんです」

「リーシャ様。猫耳かわいいです」


 武闘会のことを知っている冒険者もいるようだ。




 午後も森へと入っていく。それぞれ午前とは違う小道を通るように進む。


 リーシャとブリジットはリオル達と一緒に小道を歩く。


「特に異常もないね。駆け出しに対処できなさそうな魔物も、群れなすホーンウルフもいないし」

「そうだな。安全が何よりだ」

「ねえ、お姉様達は魔物を討伐したり、薬草を採取したりしないのですか?」

「今日はね、こうやって巡回する仕事なの。だから、どっちもしないわよ」

「ふーん」


「これ以上遅くなると、帰りに暗くなる。そろそろ戻ろう」


 と、ブリジットが声をかけたとき、


「うわっ」

「キャッ」


 と、声が森の奥から聞こえた。

 ブリジットがダッシュする。

 それにリーシャや肩にリーシュを乗せたリオルが追従する。

 声の下へと駆けつけると、駆け出しの男女二人組のパーティが大木を背にし、男の子は剣を、女の子は杖をかまえていた。


 視線を前方に移すと、そこには、一頭のホーンボアがいた。


「ホーンボアか。ちょっと、駆け出しにはつらいかな」


 と、ブリジットが分析をする。


「どうする? 声をかける?」

「ああ、そうだな。だが、あの二人、まだあきらめていないと思うぞ」

「だけど、どう見てもじり貧だけどね」

「そうだな。ちょっとだけ聞いてくるか」


 ブリジットは、大木の横まで瞬間的に移動すると、


「なあ、大丈夫か? まだ頑張る気はあるのか?」

「「え?」」


 突然話しかけられた二人は、ホーンボアから目をそらさずに答える。


「もちろんだ」

「もうちょっと頑張れます」

「いい答えだ。ちょっと待っていろ」


 と言って、ブリジットは、今度はホーンボアの前へ瞬間的に移動し、ゲインと、ホーンボアを蹴とばして遠ざける。


「おーい、剣士の君。もうちょっと前に来い。それから、魔導士の君、攻撃魔法を詠唱してホールド。いいか」

「「はい」」


 ブリジットは、またホーンボアの元まで行き、ホーンボアを男の子の方へ走らせるように蹴りを入れる。

 ホーンボアが男の子に迫る。


「今! 攻撃魔法をボアの足元狙いで!」

「はい! アイスバレット」


 バシュ!


 と、女の子がホーンボアの走る足元に撃ちこむ。

 それにたたらを踏むホーンボア。


「ほら、今だ、刺せ。狙いは首!」

「はい!」


 ザシュ!


 男の子の剣がのど元に刺さり、ホーンボアは沈黙した。


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