私が決めたの!(優香と恵理子)
「ところで、それだけ強いのに、何で強い人族を求めるんだ? 強い相手に挑みたいなら、ドラゴンでもいいんじゃないか? その代わり、怒らせると国がなくなるけどな」
「友人を探している。四人。一緒にいるかばらばらにいるかわからない。ただ、強いだろうことはわかる」
「種族も容姿もわからないと?」
「ええ」
「小さいときに別れたとかそういうことか」
「まあ、そんなところね」
リオルが目をつむって考え込む。
「リオルどうした?」
「可能性の話だが」
と、真面目な顔をして、前のめりになり、小声で話し出す。
「さっき、魔族が悪魔から派生したと言ったよな」
「ああ」
「それは、悪魔がいなくなった、と言うことじゃない。というか、いなくなったという証明ができない」
「「……」」
「皆、会ったことがないから知らないだけだ。ハイエルフ同様に。少なくとも、我ら魔族には悪魔の要素は伝わっている。この角のように。だが、角も、翼も尾も伝わっている魔族がいないとは限らない。というか、悪魔そのものがいないとは言えない。お前らがケルベロスを連れているのがいい証拠じゃないのか? あれは、言い伝えでは悪魔の従者だぞ?」
優香も恵理子も悪魔の存在を知っている。リーゼロッテだ。あほのように強い存在だった。だから、悪魔はいる。だが、それがリオルの話とどうつながるのか。
「何が言いたい?」
優香が率直に聞く。
「藪をつついてヘビが出てきたらこの世界が終わるかもしれない。と言うことだ。強いものを探して玄関のドアをたたいて、悪魔が出てきたらどうするんだ?」
「あなたは私の友人ですか? って聞くだけさ」
「そうよ。ちがったらごめんなさいって」
「え?」
リオルは、きょとんとした表情を作る。そして、
「ふ、ふははは、あはははは、あっはっはっは」
と、大声で笑い出した。
「そうだよな。そう。聞けばいいんだよな。話をすればいいんだよな。それだけのことだよな」
「何を当たり前のことを」
「私達が誰にでも喧嘩を売るとでも思っているのかしら」
「よーし決めた」
お付きの魔族が嫌な顔をする。
「お前達の旅について行く」
「断る」
優香がかぶせ気味に答える。
「なんでだよ。手伝ってやるって。人探しだろう?」
「いや、間に合ってる」
「一緒に行動させろよ。ハイエルフ? 悪魔? こんな面白そうなこと、二度とないだろう?」
「いや、あるから。きっとあるから。自分で探せって」
それに、一緒に暮らす余裕はない。優香が女性だとカミングアウトしてしまった以上、ここに男を入れるのはめんどくさい。
「ほら、お付きの人も困っているから」
恵理子も参戦する。
お付きは、うんうんとうなずく。
「ああん?」
とリオルが後ろを振り向くと、お付きはそっぽを向く。
「なになに、どうしたの?」
と、騒ぎを聞きつけたリーシャとリーシュが降りてくる。
「リーシャ、俺も一緒に暮らすけどいいよな?」
「え?」
リーシャが固まる。
「ほんと? やった! うれしい!」
と両手を上げて喜ぶのはリーシュ。
「いやいや、余っている部屋はないから」
と、優香が抵抗をする。
「リーシャと一緒でいいぞ」
「嫌に決まってるでしょ!」
「じゃあ、今日は、どこに泊まるんだよ」
「客室……」
「そこでいいじゃないか」
「ダメ! とにかくダメ。お客さんとして来るのはいい。だけど、一緒に住むのも一緒に旅をするのもダメ」
「なんでそんなにかたくななんだ」
「お兄様は、里の復興があるじゃない。リーシュだって、里のシンボルなのよ? いいわけないでしょ」
お付きがうんうんと、頷く。
「お姉様は、私と一緒に暮らしたくないの?」
と、リーシュが涙目になる。
「いや、あの、そういうわけじゃないの。そうじゃなくて、ねえ、マオ様」
困りに困ったリーシャが恵理子に助けを求める。
「あのね、リーシュちゃん。貴方には役割があるでしょ。貴方を必要としている人がいるでしょ。その期待を裏切っちゃだめよ」
「う、うん。だけど。私、お姉様が大好きだし、一緒にいたいし」
「リーシュ」
リーシャが声をかける。
「私、この二人、タカヒロ様とマオ様の力になりたくて一緒にいたいの。必ず、必ずこの二人の目的を叶える。それが私の今の目標。そしたら、ちゃんと里に帰るから」
「ほんと!」
「……たぶん」
リーシャは目をそらす。
リーシュがふくれるのがわかる。
「帰る。必ず帰るから。いったんかもしれないけどね」
リーシャはリーシュを抱きしめて言う。
「私ね、二人のためになりたい。二人と一緒にいたい。二人が大好きなの。ごめんね。リーシュ。私、お嫁に行ったと思って」
「うわーん」
リーシュが泣き出してしまう。
「リーシャ。リーシャがそう言ってくれるのはうれしい」
優香がリーシャに言う。
「だけど……」
「だけどって言うな! 私が決めたの!」
恵理子が優香に言う。
「ここは素直になるところじゃない?」
「リーシャ。ありがとう。これからもずっと支えてほしい」
「そう言ってるじゃん。なにさ、そのツンデレ仕様」
「ツンデレ……」
優香が呆ける。恵理子が笑いをこらえる。
「おいおい、そっちの話は終わったか。今の話と俺が同行する話は関係ないな」
「「「あるわ」」」
「お兄様は、リーシュを、里を守る役目があるでしょうに」
「何から? 我ら最強の高位魔族に喧嘩を売る奴がいると?」
「いたじゃん。奴隷になったじゃん」
「まあ、そうだけどな。俺らだって学習する。もうやられない」
「わかった。私と勝負しよう。私が勝ったらあきらめて」
「お、生意気言うようになったな。俺に勝ったことないだろうに」
「サウザナイトで瞬殺されたの、思い出させるわ。このボケ兄様」
仕方がないと、わらわらと訓練場へと移動する。
訓練場の中心へと移動するリーシャとリオルの二人。
「えっと、僕が仕切るけど、その前にルールは?」
「なんでもいいぞ」
「私も」
「じゃあ、武器なし、魔法なし、殺すのなし。それでいい?」
「いいのか? 魔法を使えなくて」
「いいよ。始めましょう」
「それじゃ、始め」
優香の掛け声とともに、両者が飛び出し接近する。
リーチがリオルの方が長いため、リーシャはリオルの攻撃をよけつつ間合いに入ろうとする。しかし、手数足数でリオルがそれを許さない。
仕方ない、と、リーシャは、リオルの左ジャブにバランスを崩す。わざと。そこへリオルの右。これをリーシャは大きく踏み込むとともにつかみ、体を回転させ、投げ飛ばす。と言っても、腕を離さず、地面にたたきつける。
が、リオルが空中でくるっと回転し、両足で着地してしまう。さらに、蹴りを繰り出してきて、距離を取る。
「お兄様、やりますね」
そうなると、リオルはリーシャに簡単には近づけないため、さらにスピードを上げて手数を増やす。が、リーシャは気にもしない。隙を見ては踏み込んで殴りかかる。
こうなると、後は、体力の問題。
「お兄様、スピードが落ちていますわよ」
と、踏み込んで右のこぶしを突き出すリーシャ。
それを両腕をクロスしてガードするリオル。
だが、リーシャはこぶしではなく、さらに踏み込んで体を当てる。
バランスを完全に崩されたリオルは、何とか体制を立て直そうと踏ん張るが、もう、足が言うことを聞かない。
リーシャは回り込んで足を払い、リオルを倒してしまった。
「勝負あり。リーシャの勝ち」




