カミングアウト(優香と恵理子)
家に帰る途中、出来合いの食事を買った。オリティエがねだったので、酒も買った。
家につくと、とりあえず皆は風呂に入り、着替えをする。そして、食堂に集まる。
「二週間以上、お疲れ様。とりあえず、今日は、ご飯を食べて、寝よう。皆の無事に感謝して。カンパーイ」
「「「カンパーイ」」」
家でとる食事は楽しい。皆、笑顔だ。野営は疲れたし、やっぱり、家が落ち着く。
「ねえ、お姉ちゃん。今更だけど、どうして猫耳付けているの?」
「かわいいからだよ」
「そうなんだ。私もつける?」
「うーん、リオル兄様に聞いてからにしたら?」
「だって、お姉ちゃん、かわいいもん。私もちょっとつけたいもん」
リーシュはぷくーとふくれる。
「それに、どうしてお姉ちゃん、メイド服なの?」
「お姉ちゃんね、このタカヒロ様と、マオ様にお仕えしているからだよ。これが今の仕事なの。それに、メイド服は最強なんだよ」
「そうなの? お姉ちゃん、仕事するんだね。私もする?」
「リーシュはしなくていいと思うよ、まだ小さいから」
「ぷー。私だってできるもん」
「それに、リーシュは姫でしょ」
「お姉ちゃんだってじゃん」
「私は、もう、姫はやめたの」
「どうして?」
「楽しいことを見つけちゃったから」
「えー、ずるいじゃん。私もやる、それ」
「リーシュはダメだよ」
「どうして?」
「リーシュ。リオル兄様やみんなが、どれだけ頑張ったかわかる?」
「うん」
「じゃあ、リオル兄様やみんなが、誰のために頑張ったかわかる?」
「う、うん」
リーシュが少しうつむく。
「リーシュは偉いね。そのことがわかるなんて。リーシュは姫なの。みんなの大事な姫なの。だから、みんなの中心にいなさい。それが、あなたのみんなへの恩返し。いい?」
「わかる、わかるけど。わたし、お姉ちゃんともいたい」
「ふふ。もう会えないわけじゃないわ。ちゃんと会いに行くし、リーシュも会いに来て。だから、心配しないの。悲しまないの。いつだって会えるんだから」
「うん。絶対?」
「絶対」
「お姉ちゃん。リオル兄様が迎えに来るまで、一緒に寝て」
「いいよ、リーシュ」
「ブリジット、城に残らなくてよかったの?」
優香が聞く。恵理子もうんうんと、頷いている。
「いいんだ。ブリジットという冒険者が突然城に居座ったらおかしいだろう」
「ユリアに戻ればいじゃん」
「ユリアは死んだんだ。そもそも誰よ。とんでもない炎で跡形もなく燃やしたのは」
恵理子が目をそらす。
「そんなだから、いい。それに、マティも遊びに来るだろう、そのうち。今は同じ街にいるんだ。会えることもある」
「今は?」
「タカヒロ、マオ、いつまでもここにはいないんだろう?」
「ついてくるつもり?」
「何言ってるんだ。当たり前だろう? お前達のメイドだぞ、私は」
「いつでも首にするけど?」
「なんてひどいことを言うんだ、ご主人様は」
「敬語も使えないメイドが何を言ってるの?」
「申し訳ありません、ご主人様」
ブリジットは、立ち上がり、カーテシーをしながら言う。
「ふふ」
「あはは」
「「「あはははは」」」
そこへ酒瓶をもってオリティエがやってくる。
「タカヒロ様、あの、ミリーの胸ぐりぐりってなんですか?」
優香は仮面の下の顔を真っ赤にする。
それを見て、恵理子は笑いながら、優香の横腹を肘でつつく。
優香は恵理子と目を合わせると、二人でうなずく。
「みんな、聞いて欲しい」
二人は立ち上がる。
そして、優香は仮面を取り外す。
全員が優香の顔に視線を集める。
「ごめん、みんな。隠していたことがある。実は、私の本名は優香・一ノ瀬」
「そして、私は恵理子・佐々木」
「実は私、女です」
優香がカミングアウトする。
にもかかわらず、優香の整った顔を見て、ほほを染めるもの多数。
「私達、人を探しているの。それでその人の名前を名乗って、名を売ろうとしてた。そうすれば、気づいてもらえると思ったから」
「探している人の名前は、貴博・草薙、真央・石川、千里・佐藤、桃香・藤原。この四名なの。だから、この街で名前を売って、ダメなら、違うところへ移動するつもり」
「「みんな、ごめん」」
優香と恵理子が頭を下げる。
「優香、様?」
ミリーが近づいてくる。
「優香様、かわいいです。童顔なのですね。ぎゅってしていいですか?」
優香はまだ十六。ミリーより年下だ。
「え?」
優香がちょこっと引く。引いてはいけないと思いつつ。
「あの、優香様。私、優香様が優香様でもタカヒロ様でも構いません。たとえ、薔薇と呼ばれようが百合と呼ばれようが、私は、優香様について行きます」
と、ミリーが膝をつく。
すると、オリティエをはじめとして、全員、ブリジットとリーシャまでもが膝をつく。リーシュだけは、リーシャに膝をつかないように支えられているが。
「えっと、みんな、かしこまるの、やめてくれる?」
優香が頼み込む。
「そうよ。これまで通りって言うか、私達、家族だもの、もっと気さくに。ね。ほら、ブリジットなんて敬語を全く使わないでしょ、私達に」
「え、私を引き合いに出す?」
「そんな感じでいいのよ」
「あの、マオ様あらため恵理子様、一つ聞いても?」
ミリーが聞く。
「なあに?」
「ということは、お二人は夫婦ではないわけですよね?」
「ええ、そうだけど。それが?」
恵理子が首をかしげる。
「私が優香様にくっついてもいいわけですよね?」
「ええ、全く構わないわ」
オリティエ他、メンーの目が優香に向く。
「じゃあ、恵理子様、私が優香様と一緒にお風呂に入っても構わないわけですよね、同性ですし」
「……え、ええ。全く構わない、と」
「一緒にお布団に入っても?」
「一応、本人の了承を得なさいよ」
「もちろんです」
「優香様、今日、一緒にお布団に……」
「あ、ずるい。私が一緒に」
「私、もう一回お風呂に入る。優香様と一緒に」
「え、私も」
「っていうか、みんなでお風呂に入る?」
「「「はい」」」
「恵理子さーん……」
「おもてになるのね」
ふふふ、と、恵理子が笑う。
「みんな、聞いて」
恵理子が皆の注目を集める。
「私達はこれからも外では、タカヒロとマオで活動するから。冒険者登録がその名前だし。そこの線引きは忘れないでね」
「「「はーい」」」
これまで憧れていた勇者タカヒロが本当は、優香と言う名前の女性であり、しかも、恵理子と結婚しているわけでもないことを知り、ミリー達はその憧れをエスカレートさせる。
タカヒロ改め優香はこの日からしばらく、メイド達と裸の付き合いをし、全員に背中を流された。ブリジットとリーシャまでもなぜか。