タカヒロがやるより優しいと思うわよ(優香と恵理子)
そのリーシャは、兄と呼んだ魔族を止めていた。
「何があったのです、なぜリーシュが? それにその首輪!」
「お前がいなかった間にちょっとな」
リーシャとその兄は、剣を交えながら、話を進める。
「里がアストレイアに攻め込まれて、俺達はつかまり、横流しにされたんだ」
「だけど、兄さま達が人にやられるわけが」
「攻め込まれる前に、毒の煙が舞ったのだ。それで、弱ったところに攻め込まれた。で、このざまだ」
「なんてことを」
「と言うわけでな、リーシュをああやって人質に取られている以上、手を抜けんわけだ。お前は殺したくない。下がれ」
「嫌です。止めます。と言うより、タカヒロとマオが、リーシュを助けてくれます。それまで、私が兄さまを止めて見せます」
「言うようになった。稽古で俺にいつも泣かされていたお前が」
「今も稽古では泣かされています。見せてあげます。特訓の成果を。兄さま、我慢してくださいね」
と、リーシャが言った瞬間、兄の膝が燃えた。
「な、何を? まさか、戦いながら無詠唱で魔法を?」
「特訓を積めば、こんなのは朝飯前になります。うちのメンバーは全員出来ます」
兄は、膝から落ちる。だが、
「この程度で」
と、立ち上がろうとする。しかし、遅い。
「兄上、申し訳ありません」
と、リーシャは兄の首に手刀を当てた。
突然、ブリジットを襲っていた魔族が吹き飛ぶ。
「ごめん、お待たせ」
「待ったよ。まあ、この程度余裕だったがな」
「なにいってるの? 仮面もかつらももうどっかに行っちゃってるじゃん。私なんて、まだ猫耳健在だから」
「ほう? じゃあ、マティとお茶を飲んでていいか?」
「え? いや、今はダメでしょう。ねえ、一緒にやろうよ」
二人そろうと、会話をする余裕が出てくる。
その友達同士が気さくにするような会話を聞いて、マティは思わず、笑ってしまう。
「のんきな姫様ね」
「ふふ。かわいいだろう。守りたくなるだろう?」
「何言ってるの、うちの妹だって負けてないから」
マティは思う。もう何も怖くない。自分が信じる背中がすべてを守ってくれる。
「ユリア、リーシャ、頼む」
「「はい。姫様」」
観客席では、背後を火に遮られた騎士達が、闘技場へと降りて来て、優香達と向き合う。
「ミリー、こいつらの相手をお願いね」
「お任せを。こんな鈍いやつら、相手にもなりませんわ。でも、タカヒロ様が抱きついて、胸をぐりぐりしてくれた、あのきっかけを作ってくれたのも事実ですし? 多少は加減をして差し上げましょうか?」
「ミリー、そのあたり、ちょっと詳しく」
ミリーと並ぶオリティエが聞く。
「ふふ。内緒です。じゃあ、行きますよ。簡単には殺しません」
ミリー達は、メイスをかまえる。
「アリーゼ、ナディア、マロリーにルーリー、バレットを撃ちこんで。ひるんだところへ突入するわよ!
アリーゼ達は、その後、援護射撃を!」
「「「「はい!」」」」
「てー!」
バシュ! バシュ! バシュ! バシュ!……
アイスバレット、ファイアバレットが撃ちこまれる。
「よし! 突撃!」
「「「「おー!」」」」
優香と恵理子は観客席へと突入する。皇子を守る騎士達をメイスでぶん殴る優香。そのわきをすり抜けて少女を抱える恵理子。
「ねえ、この首輪、どうやって外すの?」
と、はじけ飛んだ手首を押さえてうめいている皇子に恵理子が聞く。
皇子は答える余裕はなく、うずくまっている。
皇子から首輪の解除方法を聞こうと、少女を抱えたまま立ち止まる恵理子に、当然のように鎧の騎士が切りかかる。が、恵理子は、それをすっとよけて、その腹に蹴りを入れて闘技場へ落としてしまう。
「ねえ、皇子様だっけ。どうやって外すの、これ」
皇子は答えない。
「あんまりいじめたくないのよ」
と、恵理子は、その手首を踏みつける。
「うがぁ、手が、手が?」
ようやく、声を発する皇子。
「ねえねえ、教えてほしいんだけど」
恵理子が手首を足でぐりぐりする。
「ねえ、私もちょっと怒ってるんだからね。でも、タカヒロがやるより優しいと思うわよ。ほら、教えなさい」
「うわぁ」
喚き声しか上げない皇子。
「仕方ないわね」
恵理子は、少女を左腕で抱えると、右手で皇子の首をつかみ、持ち上げ、そして、地面にたたきつけた。
「グハッ」
「ねえ、教えてくれる気になった?」
「指輪……指輪、解除」
「あら、素直になったわね。これかしら?」
と、落ちていた皇子の手首を拾い、指から指輪を外す。
「これでどうするの?」
「リリース……」
「そう」
優香は、指輪を少女の首輪に添え、
「リリース」
と、唱えた。すると、
カチッ!
と、音がして、首輪が外れた。
「ねえねえ、これ、つけるときはどうするの?」
「あ、アタッチ……」
「ふうん」
と、恵理子は落ちた首輪を拾い、皇子の首にはめる。当然のように抵抗されたが、こぶし一つでおとなしくさせた。
皇子の首にはめた首輪に指輪を添え、
「アタッチ」
と、唱えると、
カチッ!
と、何かがはまる音がした。
「これでくっついたんだ」
「ねえ、これ、爆発させるにはどうしたらいいの?」
「……」
「教えないと、ナイフで切るわよ」
「……距離を置く、もしくは、指輪に魔力を注ぐ……」
「なるほどね。やってみてもいいかしら」
「やめろ、やめてくれ、今やると、あの魔族たちも皆死ぬぞ? いいのか?」
「ふうん。じゃあ、魔族を開放してからやってみるわ」
と、恵理子は、少女を連れて、闘技場へ降りた。
「魔族よ、聞け! 少女は取り返した。奴隷の首輪を外してほしくば、私のところへ来い!」
そう叫ぶと、魔族の戦闘がやむ。
だが、サウザナイトの騎士とクサナギとの戦闘は終わっていない。
鎧の騎士を殴っていた優香は、恵理子が少女を助けたのを確認し、皇子の下へと行く。
「貴様があの子を殺したのか? 殺す指示をしたのか?」
と言って、皇子の顔にこぶしを叩き込んだ。
「グハッ」
皇子が血を吐く。優香が殴る。歯が飛ぶ。
「お前は、殺さない。一生悔いろ」
と、ナイフを取り出し、もう片方の手首を切ってしまう。
両の手首を拾った優香は、それを魔法で燃やしてしまった。
そして、皇子の首を後ろからつかんで立たせると、
「サウザナイトの騎士ども。戦闘をやめろ。でないと、今度はこいつの足を切るぞ?」
「や、やめろ」
「なんだって? 皇子様。そうやって命乞いをした子供達を何人殺した?」
「こ、殺していない」
「うそをつくな!」
と、優香は皇子の腹にこぶしを叩き込む。
「グエッ」
「貴様が直接殺していなくても、指示を出しただろう!」
と、皇子を地面にたたきつけた。
「おい、騎士ども、武器を捨てて南の門まで下がれ」
鎧の騎士達は、武器を捨て、手を上げて、南の門まで後ずさっていった。




