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ユリア!(優香と恵理子)

 マークスは部隊を下げ、騎士を前に出す。

 優香と恵理子は、手で合図をして、ミリー達を前に出す。特に、アリーゼ達魔導士隊を。

 そして、優香達は、メイスをかまえる。さすがに誰かわからない相手にいきなりゼロ距離魔法を撃ちこんだりしない。


「アリーゼ、初手で魔法を撃ったら下がってマティを守って。ブリジットとリーシャもマティをお願い。ゆっくりと後ろへ下がって。それからミリー達は、あいつらを後ろに行かせちゃだめだよ」

「「「はい」」」

「いいの? 私達下がって」


 リーシャが聞いてくる


「大丈夫。あんな鈍足に負けるような、私達でも、ミリー達でもないわ」


 優香の言葉に、ミリーが親指を立てたこぶしを上げる。

 



 闘技場の真ん中で、両軍が睨みあう。

 そして、ついに戦いの火ぶたが切られる。


「「「ウオー」」」


 と、フルプレートメイルの騎士が突進してくる。


「てー!」

「「「「ファイアボール!」」」」


 両手から一つずつ、合計八発のファイアボールを打った魔導士四人は、後ろへ下がっていく。

 ファイアボールは、相手の騎士に当たったものの、鎧が固いせいかあまり効いた様子はない。


「よし、殴ろう」


 優香がメイスをもって突入する。

 マークスたちは、すでに剣を交えている。


「私達も行くよ!」


 と、恵理子が声をかけ、ミリー達と走っていく。


 ガキン、ガツン、ガコン!


 優香や恵理子、ミリー達は鎧の騎士を殴っていく。


「ほら、そんな重たいもの着ているから動きが遅くなっちゃって」


 と、優香は、相手の剣をよけては、横っ腹にメイスを叩き込んでいく。

 一方、ミリーは、


「あれ、この剣筋、どこかでお会いしました? 例えば、アストレイア国内の森の中とか」


 首をかしげながら殴っていく。


「あの時の方が速かったですわ、特に逃げ足が」


 鎧の騎士は、言葉を発することなく、剣を振りかざしてくるが、やはりミリーには当たらない。

 ついに、


「下がれ、いったん下がって鎧を脱げ!」


 と、鎧の騎士のリーダー格が指示を出す。


「タカヒロ、どうする? 追撃するか?」


 マークスの問いに優香が答える。


「いや、中身を知りたいから、待ってみようかな。それから、メイスを置いて抜刀!」


 優香が声をかける。



 鎧の騎士達が鎧を脱ぎ捨てていく。首から頭まで布で隠し、目だけ出した男達だった。


「あー、やっぱり」


 と、ミリーがつぶやく。

 男達は、その布すら取る。

 その下から奴隷の首輪が出てくる。


「チッ」


 優香が舌打ちをする。また奴隷の首輪か。

 そして、頭の布まで取ると、そこから出てきたのは、角だった。


「え?」


 と、驚きの声を上げたのは、マティを守るために後ろに下がっていたリーシャ。

 リーシャは駆けだす。そして、優香の前まで来ると、


「兄さま!」


 と、叫んだ。

 優香は奥歯をかみしめる。奴隷の首輪がまた人を傷つける。


「り、リーシャ? 生きていたのか?」

「はい。気づいた時には誰もおらず、一人で。その後、暁の秘石を取り返すため、このタカヒロ様達に助けてもらっておりました」

「暁の秘石を?」

「はい!」

「そうか」


 魔族は優香に向き、


「秘石をリーシャに取り返してくれたこと、感謝する。だが、私達にはまだ守るものがある。悪いが、殺らせていただく」

「兄さま!」



「おいおい、早く始めろよ。何やってんだ?」


 と、観客席の皇子が叫ぶ。その手には、奴隷の首輪がはめられた角の生えた少女。


「本当に、イラつかせてくれる」


 優香は観客席をにらむ。


「魔族ども、聞け! お前らの相手は、このマークスとルークスだ。王国近衛隊を破れるものなら破ってみろ?」


 と、優香は魔族をあおる。


「「え? 俺らだけで?」」


 と、固まるのは、マークスにルークス、そして近衛騎士達。


「ブリジットは継続してマティを守って。クサナギ! 目標変更。目標、あのクズども。第一目標、あの少女の奪還。第二目標、あいつらの殲滅」


 優香は、魔族に向き、言う。


「いいか、お前らがうちの姫を殺すか、私らがあのクズどもを殺し、少女を助けるか、競争だからな」


 優香は、観客席に陣取る皇子、騎士達をにらみ、恵理子に指示と出す。


「マオ! 逃がすな!」

「はい! ファイアウォール!」


 炎の壁が観客席騎士達の後ろに展開する。


「貴様ら! このガキがどうなってもいいのか?」


 皇子が指にはまった宝石を掲げた瞬間、


 ドッ!


 と、その手首がはじけ飛んだ。


「クサナギ! 行け! 魔法解禁! マオは少女優先!」



 その一方で、魔族も


「行くぞ!」

「ダメ! 兄さま!」


 だが、魔族達は止まらない。リーシャを残して走り出す。

 しょせん、近衛隊は十八人しかいない。五十を超える魔族を押さえられるわけもなく、馬車を背に立つマティを守るブリジットの前にまで魔族がやってくる。


「絶対にやらせん」


 ブリジットが剣と盾をかまえる。

 ブリジットに切りかかる剣。右から左から、正面から、襲い掛かってくる。ブリジットは防御に撤する。すぐにタカヒロ達が終わらせてくれるはず。そう信じて。

 それに、どうやらリーシャの関係者らしいし。

 剣で、盾で、敵の刃をはじく。はじく。はじく。

 だが、三方向からの刃に、すべてをはじき、よけられるものでもない。肩に、腕に、足に、傷を負っていく。


「ブリジット……」


 自分を守るその背中に、涙を流すマティ。

 ブリジットは、そんなマティに気づいてか気づかずか、


「マティ、心配するな。笑っていろ。こんな攻撃、タカヒロのしごきに比べたら、子供のようなものだ」

「はっ!」


 マティは顔を上げる。その背中を見る。いつも見ていた、その背中を。


 しかし、剣をよけつづけるにも限度がある。ついに、その刃がブリジットの顔をかすめた。

 その刃がブリジットから奪ったもの。仮面と金色の髪。その下から出てきたもの。端正な美しい顔。そして、ピンクグレージュの長い髪。


「ユリア!」


 マティは声を上げる。


「はい。姫さま。私は大丈夫ですから。そこで大船に乗った気分で見ていてください」


 と、笑った。


「ユリア、ユリア、ユリア……」


 マティは、恐怖からではない、涙を流す。その美しい背中、髪、剣技、何一つ変わっていない。また会えた。そばにいてくれた。笑えと言ってくれた。


「ユリア! 頑張れ!」

「はい、姫さま! お任せを!」


 ブリジットは笑って返事をする。

 とはいえ、実際には、つらいな、と思う。せめて、リーシャが戻ってきてくれないかと。


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