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こんな世界、嫌い。もっと平和で、笑いあえる世界になってほしい(優香と恵理子)

「で、どうするんだ? ここは引き返してくれるのか?」

「どういうつもりだ」

「いやな、俺らの縄張りに、あんまり人に足を踏み入れてほしくないんだよ。だから、帰ってくれないかな。じゃないと、また同じように死ぬ子供が出るかもな」


 と、男が言う。


「お前ら、人を何だと思って!」

「何言ってんの? 武器に決まってんじゃん。自分のこの手も、手に握ったナイフも、この子供達も全部、お前らを殺す武器だよ。寝ぼけてんのか? ほら、帰れよ」


 と、男は、子供のほほにナイフを突き刺す。


「きゃっ! 痛い、痛いよ」


 子供が泣き出す。


「お前ら、絶対に許さない」


 と、殺気をまき散らす優香。

 そこに、声をかけるマークス。


「おい、タカヒロ、冷静になれ。相手は五十。しかも人質付き。俺らに関係ない人質だけど、お前には刺さっているだろう? ここは、下がるしかないって」

「悪いが、一人でやらせてもらう。怒ったよ。私、こんなに許せないことないってくらい、怒ったよ」

「おいおい、怒ったからって、何ができるんだ?」

「お前だけは切り捨てる。絶対にだ」


 と、優香は魔法を発動させる。いくつも。厳しい特訓で教えられたゼロ距離魔法を。男達が次々と背中から、胸から、氷の槍を突き出して倒れていく。


「な、何をした、貴様!」


 優香は気にせず歩いて男に近づいて行く。


「それ以上近づくとこいつがどうなっても知らないぞ!」


 と、ナイフを子供に突き付けようとする。その瞬間、優香が飛ぶように飛び出し、剣を一閃する。

 子供に突き付けていたナイフが、手首ごと地に落ちる。


「うわー」


 男は、切られた手首を押さえる。


「貴様は簡単に殺さん」


 と、優香は剣を振る。

 男の左手首も落ちる。


「ぎゃっ!」


 両手首を失った男は、後ずさる。

 優香が一閃する。

 男の右耳が切れる。

 さらに一閃。

 男の右足から膝から下が落ちる。


「ヒール!」


 切られた部位が止血される。


「や、やめろ、やめてくれ!」


 男は肘を使って腰を引きずりながら下がっていく。


「何でこんなことをしたんだ?」


 優香は剣を一閃し、ほほを切る。


「いや、悪かった、もうしない」


 優香は一閃する。胸が切られる。


「答えないならもういい、死ね」


 優香は、男の首に剣を突き刺した。

 そこに立っているのは優香と、十人の子供だけになった。

 だが、優香は崩れ落ち、膝をついて泣く。


「うわー。何でこんなことを! ミリー!」


 マークスは騎士団に指示を出していく。

 ほほを切られた子供の治療を。そして、首にはまった奴隷の首輪の解除を。

 優香は、その場で泣き続けたが、誰もそれを止めなった。



 しばらくすると、オリティエが優香に声をかける。


「タカヒロ様、マオ様が、マオ様が」


 オリティエがそこまで言うと、優香は立ち上がり、馬車へと駆けだす。


「マオは? マオはどうした?」


 追いついたオリティエが説明する。


「マオ様は、ミリーと女の子に治癒魔法をかけ、倒れられました。今は、寝かせてあります」

「三人は、大丈夫なの?」

「はい。三人とも、呼吸は落ち着いています。女の子にいたっては、首がえぐれ、瀕死だったのですが、マオ様が治療されました。ミリーも大きなやけどを負ったのですが、マオ様が治して下さいました」

「よかった。よかった」


 と、優香は崩れる。


「おい、もしかして、ヒーラーいるか? 良かったらこの子も頼みたいんだが」


 と、マークスがやってくる。ほほを切られた子供を連れて。


「私がやる」


 優香が子供のほほに手を当て、


「ヒール」


 と、治癒魔法を唱えた。


「それと、魔導士っ子が四人いただろう。盗賊を燃やしてしまいたいから、貸してくれないか」


 アリーゼ達が、無言でマークスについて行った。



 クサナギの馬車にもたれかっている優香の下に、マティが近づいて来た。


「タカヒロ様、大丈夫ですか?」

「マティ、何でこんなひどいことを」

「これがサウザナイトです。使えるものはすべて武器とします。勝つためには何をも使います。騎士団は表向き統制が取れ、秩序だっているように見えますが、その裏では何があるかわかりません。完全なる、武力国家なのです。今回は私達の遅延目的の足止め。引き返えさせることができればなお良し、というところだったのでしょう」

「許せない。私、許せないよ、こんなの。私、女性や子供たちを虐げる盗賊を許せなくて殺したことがある。でも、こんな風に、か弱い子供を人として扱わないような、武器にして簡単に命を奪うような、そんな奴ら、絶対に許せない」


 優香は素が出るほど、怒り、また、悲しんでいる。


「タカヒロ様、どうされます?」

「どうもできない。私には」


 これは国の問題なのだ。そんなことはわかっている。


「それでも、私は、行かなければならないのですが」

「……」


 マークスがやって来て、マティに聞く。


「子供達を連れて行くわけにはいきません。しかし、戻ると、一日のロスになります」

「戻りましょう。子供達を、あの国に連れて行くわけにはいきません。相手の策は成功したということにはなってしまいますが、致し方ないでしょう」

「かしこまりました」


 マークスは離れて行った。




 アストレイアの砦に着く頃、恵理子が目を覚ました。


「恵理子、目が覚めてよかった」


 周りに誰もいないこと、ミリーが寝ていることを確認し、優香が恵理子に声をかける。

「優香。ごめんね、魔力切れを起こしちゃった」

「ううん。二人を助けてくれてありがとう。私、あの首輪が爆発するって知ってたら……」

「知ってたら?」

「……どうしたらよかったのかわからないの。子供を見殺しにするのも嫌だし。だから、ミリーには助けられちゃった」

「そうね。私達が無知なせいで、ミリーを傷つけてしまったわね。ミリーが起きたらお礼を言いましょう。それと謝罪と」

「うん」

「で、どういう状況?」

「子供達を連れてアストレイアの砦に戻っているところ。もうすぐ着くと思う。そこで一泊してもう一度サウザナイトに向かうことになると思う」

「そう。一日遅れになっちゃったのね。何もないといいけど」


 恵理子は、優香をじっと見る。


「ねえ、優香、怒ってるでしょ。それに悲しんでる。そういう目をしてる」

「ふう。わかる? 何で自分がこんなに熱くなってるかわからないくらい。私こんな人だっけ?」

「ふふ。私も怒っているわよ。前はこんなひどいことが起こらない世の中だったし。私達が知らなかっただけかもしれないけどね。戦争をしていた人達って、こんな気持ちだったのかしら。それとも、私達の精神がこの世界に引っ張られているのかしら」

「こんな世界、嫌い。もっと平和で、笑いあえる世界になってほしい」

「そうよね。笑いあえるか。あの子ら、どこにいるのかしらね」

「一緒に鍋をつついたの、懐かしいわ」

「クリスマスに和食を持ち寄ってね。また、あんな風に暮らせるといいわよね」

「あはははは、そんなことあったね。そうよね。あの頃のように」


 優香は、深呼吸をし、


「あの子らのこと思い出したら、ちょっと落ち着いてきた」

「よかったわ。私もだけどね」

「「ふふふ」」

「頑張りましょう」

「うん。頑張ろう」


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