奴隷の首輪(優香と恵理子)
旅は順調に進んだ。
三日目の昼。夕方には砦につくと思われるところまでたどり着いた。
「タカヒロ様、また、食材を取ってきますね」
と、今日もミリー達が森に入っていった。
馬車の横のスペースでは、オリティエ達が食事を作っている。
さらに、騎士達は、なぜか親指を立てたり寝かしたりの数当てゲームにはまっている。
「うぉー、何で隊長、そこで親指を伏せるんですか。今までずっと立ててたじゃないですか」
「ほらほら、行くぞ、せーの、三。よしっ! 一抜けー。肉ゲットな」
「俺の肉がー」
「二抜けは譲らん! せーの、四!」
と、スープの肉をかけて争っている。
「タカヒロ達のおかげで、騎士達も楽しそうです。ありがとうございます」
「いえいえ、旅が長いので、何かないとですよね」
……と、昼食ができるのを待っていると、
キン! キンキン!
騎士団に緊張が走る。剣と剣が合わさる音だ。
騎士達が抜剣して森に向かってかまえる。
すると、後ろ向きに飛んで森から出てくるメイドが二人。アリーゼとナディア。
ザザザーと、滑りながら着地したそばから、右手を差し出し、
「「アイスバレット!」」
と、散弾銃のようなアイスバレットを撃ちこむ。
アイスバレットを追うようにして、今度は、オリティエ達が剣を抜いて森へと突入していく。
森の外では、アリーゼとナディア、マロリーとルーリーが右手をかまえて待機している。
が、何も音がしなくなる。
アリーゼ達が手をおろすと、ミリーやオリティエ達が出てきた。
「タカヒロ様、マオ様、申し訳ありません。取り逃がしました」
「どんな奴らだった」
「決して身なりがきれいとは言いがたかったので、盗賊かと思います。首から頭にかけて布を巻き付けており、目だけを出していました。数は確認できただけで七名です。私達の剣の腕がどれくらいかはわかりませんが、私達が取り逃す程度の手練れだと思われます」
「ミリー、追わなかったのは正解だよ。みんなが無事でよかった。情報だけでも持ち帰ってくれて感謝するよ」
「盗賊っぽいと言ったか?」
話を聞いていたマークスが口を挟んでくる。
「恰好から言ってそうかと思われます」
「盗賊が、これだけの騎士団に対して襲うかね」
「襲われていません。私達がかち合っただけです。様子見かも知れません。逆に、何百といる盗賊団かもしれません」
ミリーがマークスと憶測を交わす。
「ありがとうよ。いずれにしても、警戒が必要なわけだ。よし、俺らが警戒しておくから、今のうちに飯を食ってくれ。その後、交代な」
「わかりました」
マークスが優香に話しかけてくる。
「またやって来るかね」
「わかりません。が、砦まで急いだ方がいいとは思います」
「そうだな。そうするか」
マークスは騎士達のところまで戻り、指示を出す。
「北側に多め配置して進むぞ。警戒を怠るなよ」
「「「はい」」」
優香は恵理子やミリー達の方へ戻る。
「ヨーゼフ、ラッシー」
「「わふ」」
「森の中を進んでついて来て。何か怪しいやつがいたら教えて。攻撃しちゃだめだよ」
「「わふ」」
ヨーゼフとラッシーが馬車から飛び出し、森へと入っていく。
「リーシャとブリジットはマティについて、いざと言うときはマティ優先で」
「「わかった」」
部隊は足早に進み、結局何事もなく、砦までたどり着いた。
翌朝。
「さて、ここからが問題なんだ」
マークスが愚痴をこぼす。
「ここから? 敵国に入るから?」
「敵じゃないがな、今はまだ。まあ、そうだ。ここから先、南の森も張り出してくる。要は、南の森と北の森に挟まれた細い道を行くんだ。この細い道が我が国を守っていると言っても過言ではないんだが、いざ通るとなると、話がちがう」
「なるほどね。前をふさがれたら通れないわけね。ところで、予定を遅れたら?」
「そんな予定も守れんクソだってことだ」
「それを理由に敵対する可能性もあると?」
「そこまではいかんが、抑えた宿とかいろいろな経費を、膨らませに膨らませて請求はしてくるだろうな」
「嫌な感じ」
「まあな。そんなちっぽけでくだらないことでもな、払ってもバカにされるし、払わなかったら何をされるかわかったもんじゃないんだ。めんどくさいよ」
「なるほど」
「さあ、行くか。予定は厳守だ」
部隊はサウザナイト帝国の砦に向かって進みだす。
しばらく歩くと、森が両側から迫って来て、通りが狭くなってくる。
そこを、騎士団が馬車を囲んで警戒しながら歩く。
もちろん、ヨーゼフとラッシーは森の中だが、さらに先を歩いている。
昼を過ぎ、午後を歩いていると、ヨーゼフとラッシーが走って戻ってくる。堂々と姿を見せて。
「魔獣か?」
と、騎士団が騒ぎ出すが、ヨーゼフとラッシーは、騎士団をすり抜け、優香と恵梨子の胸に飛び込む。
「「わふ」」
優香と恵理子は顔を見合わせ、先頭に立って足を速める。
しばらく歩くと、道の真ん中に女の子が座っているのが見えてくる。
女の子は、泣き顔で、首にはまった首輪を握り何とかしようとしているように見える。
優香は、思わず飛び出して女の子の下へ行く。
「大丈夫?」
「うわーん、これ、これ、これが」
優香が女の子の首輪を見ると、内側にはまった石が点滅しているのがわかる。
「これ、どうしたらいいの?」
「外れないの、外れないと……」
と、泣きながら女の子は、首輪を外そうとする。
優香はどうしたらいいか、わからずにいる。
そうしているうちに点滅が早くなってくる。
優香は、女の子を抱え、首輪をどうしたら外れるかと、探る。探る。探る……。
「これ、どうしたら外れるの?」
「わかんない、わかんないの、わーん、お母さん……」
と、優香が悩んでいると、
「タカヒロ様―」
と言って、後ろから走ってくるミリー。
ミリーは、優香から女の子を奪い、走り出す。
「み、ミリー?」
ミリーが五メートル、十メートル離れたところで、
ドン!
と、爆発音が鳴った。
ミリーは、そこで倒れ込む。ミリーが抱きかかえていた子供から、煙が立ち上がっている。
「ミリー、ミリー?」
ミリーは、動かない。ミリーが抱きかかえていた子供も。
「ミリー……」
優香が立ち上がり、ミリーに駆け寄ろうとしたところで、森から集団が出て来た。
「おうおう、一人しか巻き込めなかったのか」
と、にやけた男を中心に、五十人ほどの盗賊風の男達だ。しかも、女の子と同じ首輪をつけた、子供を十人ほど連れている。
「お前達、何をした?」
優香が叫ぶ。
「何って? 見てわかるじゃねえか。まあ、メイド一人しか巻き込めなかったのは失敗だったがな。本当は、お前みたいな騎士を狙ったのに、メイドが邪魔しやがって。まあ、こっちにはまだ手はあるからな」
と、男は、子供の首にナイフを当てる。
「貴様ら」
「タカヒロ、私、ミリーを見るから」
恵理子はオリティエと一緒に倒れているミリーのところまで走り、二人でミリーと女の子を抱えて、下がる。
恵理子とオリティエは、二人をクサナギの馬車に連れ込んだ。




