マティルダ・アストレイア(優香と恵理子)
「ちょっとやって見よう。リーシャの好きそうなやつ」
四人は、親指を上にして握りこぶしを前に出す。せーので親指を立てたり寝かしたりして、その数を当てる、あの単純なゲームだ。
「せーの、六」
「せーの、五。よし、私一つこぶしを抜くね」
恵理子が片手を下げる。
「せーの、七」
リーシャだ。
「全部上げるのってなかなかないよね」
「むー」
……
「ブリジット、一騎打ちです」
その横では、優雅に優香と恵理子がお茶を飲んでいる。
「それじゃ、行きます。せーの、二。チッ」
「せーの、一」
「うわー! 私のバカバカ、どうして両方下げた!」
「ふふ。ちょろいわ」
「リーシャ、完封負けじゃん。一回も当たらなかったね」
優香が言ってしまう。
「いやいや、ようやく覚えてきたところだから。これからだから、これから私の時代が来るから」
「リーシャ、負けず嫌いなのはわかったけど、王女殿下にそういうのだめだからね」
「わかってる。私だって、場の空気くらい読みますよ。そんなことより、ほら、もう一回。何なら何かかけてもいいから」
「リーシャ、君は絶対にかけ事禁止だ。みぐるみはがれる未来しか見えないよ。しかも、その着ぐるみ脱いだらもう下着だろうに」
「な、タカヒロ、確かにそうですけど、そんな想像を?」
リーシャが自分の体を抱きしめる。
「いや、だから、君はかけ事禁止だと」
「まあいいわ。もう一回やりましょう。かけ事なしでね」
恵理子がもう一度やることを了承する。
「よーし、今度は負けない!」
……
そこには優雅にお茶をするる三人と、崩れ落ちるリーシャがいた。
出発当日、一台の馬車を引き連れ、プラチナランクパーティクサナギは、王城へと向かう。
「それではお付きの冒険者の皆様はこちらへ、メイドの皆様は、あちらの騎士団の方で待機をお願いします」
優香と恵理子、リーシャにブリジットは、王城前の広場に連れて行かれる。
そこには、豪華な馬車が一台。騎士が二人、文官が二人、メイドが二人、そして、小さな姫が一人いた。
「冒険者パーティ、クサナギの皆様が来られました」
「どうぞこちらへ、よろしくお願いいたしますぞ」
と言うのは、文官の一人。
その言葉に近づいて行くと、優香はとある騎士ににらまれる。
「えっと、どちらかで……」
「貴様、覚えていないのか? マークスだマークス。武闘会の一回戦で当たっただろう」
「あー」
「あー、ってなんだよ。もういいよ。よろしくな。こっちはルークス、弟で中隊長だ」
「よろしくお願いします」
と、弟の方は礼儀正しそうだ。
「こちらこそよろしくお願いします」
と、頭を下げておく。
それより、と、思っていると、
「タカヒロ様ですね。わたくしは、マティルダ・アストレイアです。お付きを引き受けてくれてうれしいですわ」
と、王女が挨拶をしてくる。
「申し訳ありません、王女殿下。この阿呆が話しかけてきたものですから」
マークスが額に青筋を浮かべる。
「お初にお目にかかります。タカヒロ・クサナギです。それと、妻のマオ、それから、仲間のリーシャとブリジットです」
皆で頭を下げる。
「ブリジットさんは、タカヒロ様と同じ髪、同じ仮面なのですね。ご兄妹ですか?」
「はい。そうです」
と、優香は適当に答える。
「そうですか。今回は、私のわがままを聞いてくださり、ありがとうございます。長旅になると思いますが、どうぞ、よろしくお願いいたします」
「お任せください。ところで、どうして私どもをご指名に?」
「いつもでしたら、騎士団長にお願いしておりました。今となっては元というか、いないのですが。私のそばにいつもいてくれ、いつも守ってくれていた方だったのですが、過ちを犯してしまい、亡くなられました。そこで、その元騎士団長となってしまったユリアを武闘会で倒したタカヒロ様にと、思いまして」
ブリジットが後ろを向く。
「そうでしたか。せっかくの御指名ですので、誠心誠意お勤めさせていただきます。ですが、一つお願いがございます」
「なんでしょうか」
「私どもクサナギは十六人パーティです。残りの仲間も同行することをお許しいただきたい」
「聞いております。皆さん、プラチナランクだと。心強いですわ」
「ありがとうございます」
「殿下、そろそろお時間です」
「わかりました。それではまいりましょう」
王女が馬車に向かう。
優香はどうしていいかと思っていると、マークスがやって来た。
「馬車は四台。お前達の馬車を入れると五台だ。俺達がその周りを守る。お前らは、四人のうち二人が王女殿下と同じ馬車に乗る。二人は、交代のため休んでおけ。順番に王女殿下の相手を頼む」
「ありがとうマークス。助かる。これからもいろいろと教えてほしい」
「ふん。ことをうまく進めるのも俺らの仕事だからな」
「とりあえず、僕とマオが乗ろうか。二人は、馬車で休んでいて」
「わかった。ミリー達はどうするんだ?」
「どこかで馬を六頭借りて、交代で馬車と馬に乗ってもらうとかする?」
「そういうことなら、先に借りに行ってくる。リシェルとローデリカを連れて行くぞ」
「わかった。リーシャも行って」
「オッケー」
「おい、馬が必要なのか?」
マークスがリーシャとブリジットを止める。
「歩いてついて行ける?」
「つらいだろう」
「やっぱり借りてこなきゃ」
「……どうするつもりだったんだよ、まったく。ルークス、近衛隊舎に行って借りてこい」
「わかった兄様」
「隊長だ」
「はい、隊長。ブリジットさんだっけ、来てくれる?」
「助かる。ありがとう」
準備が整う。近衛たちは全員が馬に乗っている。ミリー達も六人が馬に乗り、残りがリーシャ達と馬車だ。その他、王女のお付きのメイドが馬車一台に乗っている。
「マークス、行きましょう」
と、王女が声をかけると、
「出るぞ!」
「「「おー」」」
という掛け声のもと、部隊が前進を始めた。
王女の馬車は、七人が座れるようになっており、文官が二名、メイドが二名、そして、王女と優香と恵理子が座る。
「文官さん、移動のスケジュールは決まっているのですか?」
「アーネスとお呼びください。こっちはラルーズです。スケジュールですが、三日以内に国境の砦まで行きます。四日目にサウザナイト帝国へと入りますが、そこから先は、宿泊場所が決められておりますので、その通りに進みます」
「わかった。決められた宿っていうところがちょっと気になるけど、王女だもんね。それなりの対応をされるよね」
「その通りです」