ゴールドプラスの実力、見せて見ろ!(優香と恵理子)
「いや、いい。まず、マオ、俺ではまずかなわん。Aをやる。それから、ブリジットと言ったか、スピードも速いし、剣捌きもしっかりしている。正直、俺が評価するなんておこがましいくらいだ。俺としても戦いたいなんて思わない。マオには負けたとはいえ、その強さは間違いない。マオが良ければAとするが?」
「いいよ」
「じゃあ、ブリジットもAな。それから、猫耳、リーシャ。お前は俺に負けたからCだが、どうする? 俺とやってみるか?」
「うん。やるよ。リベンジだよ」
「ギルマス、冒険者って、総合的な力を見るよね」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、魔法を使ってもいいの?」
「え? リーシャ、お前、魔法使うのか?」
「もちろん」
「ギルマス、今、マオとブリジットの試合も見てもらったけど、本来は、あそこに魔法が入る。ちなみに僕もね」
ギルマスが固まる。
「リーシャ、ちょっとやってみよう」
と、優香とリーシャが訓練場の真ん中に立つ。
「じゃあ、私が合図するね」
恵理子が間に立つ。
「よーい、始め!」
と、恵理子の合図があった瞬間、両サイドからファイアバレットとアイスバレットがダース単位で撃ちだされ、その弾幕を追うように二人が突入して、剣をあわせる。そして、ゼロ距離でお互いの放ったファイアボールが相殺して爆発する。その衝撃を二人ともバックステップでかわす。再びファイアバレットとアイスバレットが打ち出され……。
「もういいぞ」
ギルマスが二人を止める。その言葉には全く覇気がない。
「リーシャ、お前もAをやる。すまないが、お前達にSをやる権限が俺にはない。Aだって、このミューラがちょちょいと鉛筆をなめることになるんだ」
「わかりました。それで構いません。ところでですが、ミューラさんって、お強いですよね?」
ミューラが嫌な予感に顔をしかめる。
「一般的な強さで言ったらな。ちなみに、ゴールドプラスだ。あとちょっとでプラチナってところだな」
「おーい、アリーゼ、ナディア、ヴェルダ、メリッサ。ちょっと来て」
見学を決め込んでいた十二人から、一番若い四人が呼ばれる。
「この四人は、うちのメンバーの最年少なんだけど、ミューラさん、どの子と戦ってみます?」
「え?」
「せっかくなので、胸を貸してほしいのですが」
「ギルマス?」
ミューラはギルマスに助けを求めるが、ギルマスは知らん顔だ。
「じゃあ、アリーゼちゃん?」
ミューラはなんとなく、魔導士っぽい子を選ぶ。
「アリーゼ、準備して」
「はい」
「ミューラさんは何を使います?」
「私、魔導士なので……杖があればですが。ところでですが、聞いていいです?」
「なんでしょう」
「タカヒロ様とリーシャ様の戦いですが、お二人とも、詠唱していませんよね?」
ミューラは、タカヒロもリーシャも、さん付けが様付けに代わっている。
「え? 詠唱って、なんだっけ」
「??? まさかと思いますが、アリーゼちゃんも詠唱しません?」
「うん。しないね。というか、そういえば、という感じ」
「ぎ、ギルマス―」
「ゴールドプラスの実力を見せてみろ」
「ひえーん」
二人が訓練場の真ん中に立ち、優香が合図をする。
「火の精霊……」
ドゴーン!
無詠唱のファイアボールがミューラの横を通り抜けて、壁にぶつかった。
「こ、降参します」
「ギルマス―」
ミューラが再び助けを求める。
「もう、他の全員プラチナでいいだろう。依頼に全員連れて行ってもいいが、お付きは四人だからな」
「わかりました」
「依頼の受付けについては、全員で来られても困る。明日、四人で来い。その時までに冒険者カードを用意しておく。全員分を持って来てくれ。交換する」
ギルマスとミューラは、ギルドへと帰っていった。
「アリーゼ、頑張ったね。よくやった」
優香は、アリーゼの頭をなでなでする。
「ありがとうございます。タカヒロ様とマオ様のおかげです。もっと鍛錬を重ねてもっと強くなります」
「うん。頑張ってね」
翌日、優香と恵理子、リーシャとブリジットは、そろってギルドへ行く。
「ほら」
と言って、ギルマスは冒険者カードを渡してくる。全員分確認すると、四枚がプラチナA、十二枚がプラチナだ。
「これで、冒険者パーティクサナギは、プラチナランクパーティだからな。ちゃんと依頼を受けてもらうぞ」
「受けられる依頼ならね」
「高ランク冒険者は、それなりに義務が生じるんだぞ?」
「はめられた?」
「さあな。嫌なら逃げろ」
「わかった」
「逃げんなよ」
ギルマスは、ジト目で見てくる。
「さて、依頼だが、一週間後の朝、王城を出発。その時から二名が王女のお付きとして配置。残りの二人は交代だ。二十四時間見てもらうから、四人で交代してくれ」
ギルマスは説明を続ける。
「同行するのは、王女のサポートの文官二名、近衛二個中隊で十八名。王女の世話係のメイドが九名。馬車が数台に、お前達十六名。サウザナイト帝国帝都まで片道一週間」
「護衛は近衛がやるんだな?」
「その通りだ」
「うちの十二名の扱いは?」
「お前たちの世話係でいい」
「つまり、報酬は出ないと」
「そういうことだ。だが、充分おつりがくるくらい報酬が出る。もちろん、成功報酬な」
「つまり、王女を死なせたら、その場で逃亡するしかないわけか」
「王女を死なせて帰ってきたら、どういう扱いを受けるかわかったものじゃないからな」
「よくもまあ、そんな無責任な依頼を」
「仕方ないだろう。王女の指名なんだ。それになんだ。そんなことは万が一にもないと思うが、その時は、冒険者ギルドとしてかばってやる」
「最後に、この国と帝国の関係性は?」
「悪い」
「ダメじゃん」
「だから王女が行くんだ」
優香達は家に戻る。
「ミリー、一週間後にでる。馬車を用意して。完全武装で行くよ」
「危険なのですか?」
「基本的に護衛は近衛だけど、国家間の関係性は悪いみたいだから、何が起こるかわからない」
「わかりました。お任せください」
「リシェル、紙を買って来てくれる」
「はい。どれくらいですか?」
「多めにお願い。ペンとインクもね。それから、ローデリカ、誰か連れて行ってメイスをお願い」
「メイスですか?」
「うん。フルプレをぶん殴れるやつ」
「はい。かしこまりました」
「それから、リーシャとブリジットは別の特訓ね。」
「「……」」
「ねえ、タカヒロ、マオ、特訓って何?」
リーシャが聞いてくる。
「王女様ね、十歳なんだって。馬車で片道一週間でしょ。絶対に暇を持て余すと思うんだよね。だから、思い出せる限りの手遊びを教えるから、覚えて」
恵理子も優香も小児科の看護師をしたこともある。その時に子供の相手をさんざんした。手遊びなんて、お手の物だった。あやとりもちょっとした手品も思い出していく。
二人はさらに、思い出せる限りの童話を紙に書いていった。こっちの世界風にアレンジして。




