ロクサーヌとミーゼルの覚悟(貴博と真央)
(真央)「祝、百話なのです!」
(優香)「おめでとうだね」
(恵理子)「ほんとにね」
(千里)「……」
(桃香)「千里さん、どうしたのです?」
(千)「私、二十六話しか出てない」
(桃)「私と一緒じゃないですか」
(千)「桃ちゃん、プロローグ一人で出てるじゃん。つまり、私が一番少ないじゃん」
(桃)「……」
ルイーズとシーナがクラリスに呼びかけながら、自分のスカートを破り、傷口を押さえていく。
「ごめ、ん、ゆだん、した」
クラリスがなんとか言葉を発する。傷口からは血が流れ続けている。
「クラリス、しゃべっちゃダメ!」
ルイーズが傷口を押さえながらクラリスに言う。
「すまない、たび、ついて、いけない」
「クラリス、いや! 一緒に行くの!」
「クラリス、お願い、しゃべらないで。頑張って」
そこで、ミーゼルが叫ぶ。
「真央! ヒール! 私達じゃヒールは使えない。真央しか、真央しかできない!」
「真央! お願い!」
「真央!」
ルイーズもシーナも真央に向かって叫ぶ。
「で、でも、私、センセみたいにうまくない……、ヒール上手じゃない」
「真央! いいから。血を止めるだけでもいい。お願い! クラリスを助けて!」
「う、うん!」
真央は、クラリスの傷口に手を当てる。生温かい血があふれてくる。
「ヒール!」
傷口がふさぎかかるが、まだふさがらない。
「ヒール! ヒール! ヒール!……」
何度もヒールをかけ、なんとか傷口がふさがり、血が止まる。しかし、クラリスの意識は戻らない。腹の中では傷ついた臓器が未だに血を流しているのであろう。
「お願い、お願いだから、死なないで」
真央は、クラリスを抱きしめながら魔法を唱え続ける。
「ヒール! ヒール! ヒール!……」
真央は、ひたすらヒールを唱える。
しかし、魔法はイメージである。傷口の中をイメージできない真央には、これ以上の治癒はできない。
「センセ、お願い。お願いします。クラリスを助けて」
真央は泣く。
そこへサンタフェが声を上げる。
「来ました!」
船の外に目を向けると、一隻の船が近づいてくる。そして、奴隷船にロープのついたフックを投げ入れ、横づけした。
「大丈夫か!」
貴博とロクサーヌが乗り込んでくる。
「センセ! センセ! クラリスがクラリスを助けて!」
真央が叫ぶ。
「どうした?」
「背中をナイフで刺されて、ヒールで傷口をふさいだのに、意識が戻らないの」
貴博は、中がか、と、理解する。
「ロクサーヌ、船に医務室は?」
「あるわ。急いで」
貴博はクラリスを抱きかかえると、キザクラ商会の船へと戻った。
そして、医務室へと向かい、ベッドにクラリスを寝かせる。
貴博は、ついて来た真央やミーゼル達に、
「ごめん、部屋の外で待ってて。それか、ロクサーヌ達の手伝いをお願い。こっちは任せて」
と言い、ドアを閉めた。
「真央、どうする?」
「私、ここにいる」
「じゃあ、私達は、手伝ってくるわ」
ミーゼル達は、奴隷船へと戻って行った。
船の上では、ロクサーヌが指揮を執り、船員達を縛り上げて行った。それをミーゼル達も手伝った。
「ミーゼル様、あなた達も傷だらけじゃない。休んでいていいのですよ」
と、ロクサーヌはミーゼルに声をかける。
「いいの。何かしてないと落ち着かないから。やらせて」
ロクサーヌ達は、船内からも全員を甲板に上げ、縛り上げていく。
その過程で、クラリスを刺した少女の契約者が司厨長だとわかった。
ミーゼルは、司厨長をぶん殴ろうとしたが、ルイーズに止められた。
何とか、ことを収めた後、ロクサーヌがミーゼルに声をかける。
「ミーゼル様、相談があります」
「私に?」
「多分、ここではミーゼル様が一番適任かと」
「わかった。何?」
「この状況ですが、客観的にみると、どうしてもミーゼル様達が押し入ったようにしか見えないのです。どうしたらいいでしょうか」
「な、私達は騙されてこの船に乗って、襲われたからクラリスが、クラリスが!」
「ですが、この船も船員も、そして奴隷も、奴隷商会のものです。あの船長達が、自分達がミーゼル様達をはめた、そう証言してくれればいいのですが、そうでない場合。例えば、勝手に乗り込んできたとか、訳の分からないことを言って襲ってきたとか、言われたら? 実際どうなのです? ミーゼル様達をはめたと言われましたか?」
「言われていない」
「では、なぜこの船に?」
「市場で言われたの。真央の探している人がこの船に乗ったと」
「それは誰です?」
「わからない。冒険者と言っていた。テッチと名乗っていた。そいつが私達をだましたんだ」
ロクサーヌは、これは難しいな、そう思った。多分、そのテッチと名乗った冒険者は見つからないだろう。
「見ての通り、我々キザクラ商会は、皆さまの味方をしました。ですから、私達は皆さまと一心同体です。私達も一緒に奴隷商会を襲ったのです。理由もなく。現状はそういうことです」
「私に何ができる?」
「時間を稼いでください。辺境伯にお願いして、時間を」
「時間を稼いでどうするの?」
「解決方法は二つです。一つ目は奴隷商会の言われるがままに補償をする。もう一つは、奴隷商会をつぶします」
ロクサーヌは続ける。
「おそらく、見目麗しいミーゼル様達を奴隷にしようと画策したのでしょう。それで船に乗せて沖まで出て、奴隷達を使ってあなた方を捕まえ、奴隷に。強制的に奴隷にすることは禁じられています。そんなことをする商会は、許しておけません。それに、グレイス様のこのキザクラ商会に損失を与えることは、私にとっては許しがたいことです。死んだ方がましです。よって、私が取る選択は二つ目しかありません。どうか、協力してください。私達が奴隷商会をつぶすまで」
「私達が奴隷商会をつぶすのは?」
「あなた方にその覚悟はありますか? 血が流れます。人が死にます」
ミーゼルは唇をかむ。そして、
「相談させて」
とだけ答えた。
「わかりました。ただ、岸に戻ったらまず、辺境伯への説明をお願いします」
「それはわかったわ」
「岸壁には、衛兵が集まっていると思います。いざとなったら、私達が壁になってミーゼル様達を逃がします。私達が捕まった場合は、すべてをミーゼル様達に任せます」
ミーゼルは、パシン、と、自分の両頬をたたき、
「相談させてなんて言って悪かったわ。私がやる」
そう言い切った。
キザクラ商会の船の医務室にて。
「クラリス、真央を守ってくれてありがとう。君は、僕が必ず治す」
貴博は、クラリスの上着を脱がせ、そして、ブラウスのボタンをはずしていく。
すると、腹部には傷穴はふさがってはいるものの、赤くその痕が残っていた。背中側から刺されたのだ。背中にも傷跡があるのだろう。
貴博は、クラリスの腹部に手をあて、クラリスの腹部をスキャンし、自分と比較していく。皮膚、脂肪組織、筋肉、腸、肝臓、腎臓……
貴博は、ドアの向こうにいるであろう真央に声をかけた。
「真央、全魔力を使う。メガヒール、今日、三度目なんだ。僕は倒れると思うけど、後は頼む」
真央は、血だらけの貴博を思いだす。そしてここにいないリル。嫌な予感がするが、今はクラリスだ。
「わかった。お願いするです」
真央の声が帰って来た。
「よし。クラリス。行くよ」
貴博は、全魔力をクラリスに注ぎ込み、
「メガヒール」
と、治癒魔法を唱えた。クラリスの周りから光が立ち上り、そしてはじけ飛び、クラリスが光を帯びる。
ドサッ!
貴博が倒れる。
バンッ!
ドアを開けて真央が飛び込んでくる。
貴博が床に倒れているが、それは魔力切れのせい。今は、ごめん、と、貴博に心の中で謝って、クラリスの様子を見る。
呼吸、ある。胸が上下している。鼓動、安定している。
真央はクラリスが無事であることを確認し、クラリスに抱きつく。
「ありがとう。クラリス、ありがとう」
ん? と真央が思う。クラリス、もうちょっと胸があったような。そうか、メガヒールで必要なエネルギーって脂肪からって言ってたっけ。
まあいい。真央はとりあえず、クラリスのブラウスのボタンをとめる。
そして、貴博も持ち上げる。そして、クラリスの横に寝かせる。
ちょっとうらやましいが、今はそんなことを考えている余裕はない。
真央は二人を隣り合わせに寝かせて、布団をかけた。
(桃)「千里さん、二十六話って、おおよそ三十話です。三分の一です」
(千)「違うわよ、おおよそ四分の一よ!」
(桃)「(チッ、意外と賢い) あ、センセ、こっちこっち!」
(千)「え? (もじもじもじ)」
(桃)「なんてね。うっそでーす」
(千)「(ぷるぷるぷる)桃ちゃん!」
(桃)「キャー!」
(千)「まちなさーい」
バタバタバタ
(真)「というわけで、百話達成なのです。これも皆様のおかげなのです」
(優)(恵)「「今後ともよろしくお願いいたします」」
(優)「で、登場人物紹介を除いたら九十九話っていう説は?」
(恵)「しーっ、だよっ」




