優香と恵理子の訓練開始
場所は移って、
「優香様、恵理子様。起きてくださいませ」
「ん?」
「はよ」
優香と恵理子が目を覚ます。
優香は天井を見上げる。いつもとちがう部屋だということがわかる。
恵理子も、きょろきょろと見回しいている。
「アンヌさん、ここは?」
「はい。今日からお二人がお住まいになるお屋敷です」
アンヌは優香を、サーナは恵理子を抱え、ベランダに出る。
「うわーきれい……な、畑?」
「お庭じゃないのね」
優香と恵理子がベランダから体を乗り出して眺める。
「あはは。お嬢様方、ここは生活をしていくために必要なスキルを身につけていただくところなので、花は必要ありません」
「で、畑?」
「そうです」
「でも、今日から新しい生活なのね」
優香が意気込む。
「私も頑張るー。早くみんなを探しに行けるように」
恵理子も決意を述べる。
「そうよね。私も頑張るわ。待ってて、真央ちゃん」
優香も本来の目的について、恵理子に同意する。
「さて、そんな風に意気込んでくれている、やたら言葉の達者な一歳児のお二人に、運動を頑張ってもらえるよう、ご主人様からプレゼントです」
アンヌがパンパンと手をたたく。
すると、二人のメイドが入ってくる。その手には犬や猫を入れるかごが握られている。
「もしかして、犬ですか? 猫ですか?」
優香が聞く。
メイドは、かごを置いて、そして、蓋を開ける。
すると、ものすごい勢いで飛び出す、子犬。子犬?
「「え?」」
「きゃあー、頭が三つもある!」
「何なになに? 何なの?」
アンヌとサーナが二人をおろそうとするが、
「お願い、降ろさないで」
「こわいこわいこわい」
「あはははは、大丈夫ですよ。とてもなつっこいですから」
「え、だって、頭が三つもあるじゃん、なんて言ったっけ」
「ケルベロスよ! 少なくとも味方じゃないわよ」
優香と恵理子が叫ぶ。
「二人とも、失礼ですね。グレイス様の大事なペットですよ」
「「え?」」
「それを、二頭もお二人の護衛兼友達としてくれたんですから、感謝しないと」
「そ、そうなんですか」
「私、頑張ってみる、サーナさん、降ろしてください」
「私もおろしてください」
二人は、メイドの手から降り、ケルベロスに向かって手を広げてみた。
ケルベロスは、しっぽをぶんぶん振って、二人に突進する。大きさは、小型犬くらいだ。
二頭は、二人の直前でブレーキをかけ、突進することなく、二人のおなかに頭をこすりつけた。
「あれ、意外と賢いのかしら」
「ぶつかってこなかったわね」
二人は、恐る恐るではあったが、頭をひとつずつなでてやる。
ケルベロスは嬉しそうに、二人の顔をそれぞれ三つの顔でなめた。
「ぐえっ。さすがに三つの顔で同時になめられると……」
「でも、かわいいかも」
「よかったですね。慣れてくれて。この子たち、大きくなると、乗れますよ。っていうか、今でも乗れそうですけど」
「本当ですか?」
「それにかなり強いですから、狩りの時とか、頼もしいですよ」
「そっか、それじゃ、よろしくね、えっと」
二人は、アンヌとサーナの顔を見る。
「名前はお二人がお付けください」
「それぞれの頭につけなきゃダメ?」
「いえ、一つで構いません」
「わかった。じゃあ」
「ヨーゼフ」
と優香。
「ラッシー」
と恵理子。
「よーしよしよし、ヨーゼフ、いい子だ」
「あはははは、ラッシー、かわいい」
「さて、ケルベロスをなでながらでいいので聞いてください。これからの予定です。一歳を迎えたこと、語学はほぼ習得されましたことから、これまで行ってきた魔力ぐるぐると語学学習は終了します。ただし、魔力操作の練習と、寝る前の魔力消費は継続します。それから、今日から、普段のお付きが変わります。黒薔薇の騎士の皆さまがお二人につかれます。お願いします」
アンヌがドアの外に声をかけると、部屋に三人の騎士が入ってくる。
「初めまして。私達は黒薔薇騎士団の騎士です。私はジェシカ、隣からベティ、ビビアンです。今後は、アンヌ達メイドはメイドとしての仕事に専念してもらい、魔力操作などの練習や、体力づくりなどは、こちらで対応します。とりあえず、一歳児に体力づくりも何なので、基本的には遊んだり、各種作業を見たり、となります」
「私達、将来旅に出るために強くなりたいのですが」
「一歳児の言うことではありません。そういうのは、早くても三歳くらいからにしましょう。おそらく、そのケルベロスたちと遊ぶだけでも、かなりの体力づくりになると思われます。それに、散歩をしていろんな植物や動物を覚えるのも大事なことです」
「わかりました。よろしくお願いいたします」




