第1章 第7話「クリスタルガーディアン」
223/01/5 11:00
フェニックス王国南西
不死の大火山
アイカ視点
旅に出た俺達は、炎のクリスタルがある『不死の大火山』に来ていた。
ここまでは、運転手の魔力で動く乗り物『魔導車』に乗って来たので。
凄く楽だった。
ここまで運んでくれたリリアさんが少し気怠そうに。
「私が送れるのはここまでだ。後は、頑張っておくれ」
シートを倒してアイマスクを付けて言った。
「ありがとうございます。助かりました」
「礼はいいわ。各自、死なないようね」
俺達は、不死の大火山の中に入っていった。
「あーつい!」
入って早々に、青髪を横に振りながらうなだれるクレア。
「えっそうか。そうでもないよ」
反対に妹のアオイは平気そうだった。
「アオイは炎属性だから平気なのよ。氷属性の私にとってはまさに地獄なのよ」
属性の相性が悪いとその属性の人も影響を受けるんだな。
いや。関係なくクレアが言う通り確かに熱い。
壁からはマグマだろうか。赤く熱を持った液体が滴っている。
「少しの我慢だよ。クリスタルガーディアンを倒せばクリアーなんだからさ」
額に汗を滲ませたレイナが言い。
エリスが続けて。
「それにクレアさんの氷魔法があればここの攻略も容易いことですよ」
確か、炎の弱点は氷。
と言っても氷の弱点も炎なんだけどな。
「それもそっか」
あっさり納得したようで。
たったった。と駆け足で前を走った。
「こらこら。1人で行かないよ」
レイナも追うように行き。
「待ってよー」
とアオイもクレア達を追う。
「皆さん元気ですね」
のほほーんと俺の隣をエリスは歩いていた。
「お前は行かないのかよ」
「あらアイカ君だって」
確かにそうだけど。暑いから無理に動きたく無かった。
「そう言えばさ夢の中で。俺とどんなクエストに行ったんだ」
「あらら。それを聞いてしまいますか」
「別に良いだろ。未来に何があるかくらい誰だって気になるものだろう」
「確かにそうですが。アイカ君が知ったら未来が変わりそうで嫌ですわ」
確か俺がエリスを庇って死ぬとか言っていたよな。
出来ればその未来は変わって欲しいんだけど。
「アイカ君が死ぬのは嫌ですけど。私の事好きになって──」
言いかけた所で止まった。
「どうした」
と俺がエリスを見ると顔を真っ赤に染めていた。
「な、なんでも有りませんわ。・・・いいですか。これからここの炎のクリスタルの加護を受けた後に氷、光、風、水、地、闇、雷の順でクリスタルの加護を受けに行きます。そこまではアイカ君は無事なのでじゃあ」
とエリスも駆け足なって行ってしまった。
「お、おい待てよ」
仕方がないので俺も駆け足で追いかけた。
それにしても訓練の成果なのか。元々俺達が強かったのか。それともここの魔物たちが弱いのか分からないが。
あっという間にクリスタルガーディアンの元まで来ることが出来た。
道中は殆どクレアが氷魔法で敵を一掃してくれたおかげで俺達は力を温存出来ていた。
そう俺達は殆ど何もしていない。
「もう私、限界です」
ふらふらと今にも倒れそうなクレア。
この年齢にしてはよく耐えてる方だと思う。
「こっからは俺に任せて」
そう勝気な妹のアオイが言い。
アミュレットデバイス『トリッカー』を展開させた。
「あたし達も行くわよアミュレットデバイス『トリッキー』起動」
双子が使うトリッカーの上位モデルらしい。
その分使用者の魔力を喰うのだとか。
作戦も何にもなくアオイと共にレイナも炎のクリスタルガーディアンに突っ込んで行った。
「いくらなんでも脳筋すぎるだろ」
気付いたらボスの前だったからって。
そのままの勢いで行って良いのかよ。
「ぎぁあ!」
俺の不安は的中し。
二人は跳ね返された。
クリスタルガーディアンは人間の2倍の身長。
だが後は人とそれほど変わりはない。
3メートルの巨人と戦えば良いって思えば良いと思う。
そこまでは、俺は理解できる。
だが問題は、リーチが明らかに長く。
こちらの攻撃が当たらないことだ。
「いてて。もう長すぎるわよ!」
「そうだそうだ!」
と言っても短くなるものでは無い。
「なあエリス?どうやって倒すんだ」
夢で先を知っているエリスに答えを聞くことにした。
「魔法で遠くから狙うのが一番ですわね」
よし俺の出番じゃ無いみたいだ。
「あたし魔法苦手なんだけど」
「俺も苦手だよ」
さっきまで元気だった2人が言い。
「私はもう魔力が無いよ」
頼りになりそうなクレアも魔力切れ。
「もちろん私は炎魔法以外の攻撃魔法は使えませんよ」
そんな自信満々に言わなくても良いじゃねぇか
。
「じゃあどうすんの」
5人ともお互いの顔を見合わせる。
そんな俺達に痺れを切らしたのか炎のクリスタルガーディアンが俺達に攻撃を仕掛ける。
「皆バラバラになって」
レイナが言い。5人バラバラに散っていく。
そしてあろうことか炎のクリスタルガーディアンは。一番戦力として当てにならないエリスの方へと向かって行った。
「どうして私の方に来るんですか!誰か止めてください」
「うぉおおりゃあ!」
俺が背後から思いっ切り斬りつける。
手応えは多少あったが。
直ぐにカウンターを喰らい吹き飛ばされる。
「いててて。流石に駄目か」
「風の第1魔法『ウィンド』」
レイナが自分で不慣れと言った魔法を放つ。
直撃したがあまり効いていないようだ。
「炎属性には風魔法はあまり効きませんよ」
エリスが言い。
「助けてあげたのになによ!」
苛立つレイナ。
「いちいち怒らないで下さいよ!」
反論を言うエリス。
「ちょっとお前ら落ち着けよ」
俺が声を掛けるが。2人は互いに睨み合ったまま。
「うぉぉおおお!」
クリスタルガーディアンが雄叫びをあげ。
2人の足元に赤い魔法陣が広がる。
「2人共避けろ!」
言ったが間に合わなかった。
魔法陣から炎が噴き出して2人を襲った。
223/01/5 11:15
ギルド『フォレストセイバー』
ミナの作業部屋
レイキ視点
子どもたちを送り出した後寂しさを埋める為にふて寝をしていた。
本当は途中まで付いていきたいが。
ギルド長である俺は、有事に備えて余程の理由が無いとギルドを空けられないのだ。
だからこうやって現実逃避をしていた。
「いつまで寝てるんですか」
刀を上段に構えた鬼嫁がベッドの側に立っていた。
「今起きるとこだよ。頼むから武器を閉まって」
慌てて立ち上がり。パジャマから着替えようとする。
「本格的に寝てましたわね」
「別にいいじゃないか」
見送る時はちゃんとした服を着てたが。
ふて寝の為に着替えた。
「良くないですわ。自分の仕事をせずに寝てるなんて。わたくしが嫌ですわ」
「ははは、ごめんごめん。それでなんの用?」
俺がいつものように笑って誤魔化すと。
ミナがポケットから、アミュレットデバイスを取り出した。
「遂に返してもらえるのか」
「2人の時は、わたくしが奪ったみたいな事言うの辞めていただけますか」
「でも実際そうだろうに」
再び刀に手を掛けるミナ。
「それもそうだね。気を付けるよ」
引きつった笑顔で俺は言ったと思う。
「本当に嫌になりますわ。なにが浮気防止でアミュレットデバイスを、わたくしが没収した事にするんですかね」
その説明で通る位束縛が激しい癖によく言うよね。
「仕方がないだろ。他に思いつかなかったんだから」
「正直に言えば良かったじゃないですか」
「やだよ。恥ずかしい」
実のところ、俺はミナにアミュレットデバイスを取られていたわけではなく。
正確に言うとカスタマイズの為に預けていた。
どうしてなのか最近アミュレットデバイスを起動すると意識が遠のくんだ。
俺がアミュレットデバイスに合ってないのか。
アミュレットデバイスが俺に合ってないのか。
とりあえず俺専用に作ってくれと2ヶ月程前に頼んでいた。
「わたくしの方が恥ずかしいですわ。夫を束縛する嫁みたいに思われたく無いですわ」
「実際そうだろうに」
つい本音が漏れてしまった。
「なにか言いましたか?」
目を見開いて俺を見つめる。
可愛いけど怖いよ。
俺が黙っていると。
「はぁ~。まあ、済んだことなので良いですが。改めてレイキさん用にカスタマイズしましたので。今から試しましょう」
そう言われ地下の訓練所へと連れてかれた。
左手を引っ張られて連れてかれたので右手で顔を隠すという。情けない抵抗をしたが。
ギルドのみんなに見られて恥ずかしかった。
「これをどうぞ」
訓練所に到着し、木剣を手渡された。
「なんで武器がいるの?」
俺が聞くとキョトンとした顔をされた。
「俺のアミュレットデバイスのテストだろ?どうして武器がいるんだい?」
そう言ったらため息を吐かれた。
「あのですね。わたくしのアミュレットデバイスのテストもしたいのですよ」
「あーなるほど。先にトイレ行くね」
そう言って俺は逃げ出そうとした。
「どうして逃げるんですか!」
速攻でバレて腕を掴まれてしまった。
「嫌だよ。ミナ強いんだもん!」
子供みたいに駄々をこねるように言うが。
手を離して貰えなかった。
「本当に嫌なら空間転移で逃げればよろしくて」
「使ったら後が怖い」
前に逃げ出したらめちゃくちゃ泣かれた。
どうせ浮気でしょうとか冤罪を着せられた。
そんな事するわけがないのに。
「たまにはちゃんと訓練しなさい!」
「いやいや。この前レイナ達としたじゃないか」
「えっ。何か反論が有るんですか?」
自分の刀に手をやり。殺気を出されたので静かに頷いた。
まあ確かに人には訓練勧めるくせに、俺自身はあまりやってないからな。
たまには強い人とやるのも悪くは無い。
「分かればよろしくて」
「でも急にどうしてさ」
「まだなにか文句でも?」
また目を見開く。頼むからいちいち怒らないで。
その顔も可愛いから別に良いけど。
「ないよ。ただ気になってさ」
ここでようやく手を離してくれた。
「イテテ。この馬鹿力が」
掴まれた部分が痛むので。簡単な回復魔法をかけて治す。
「女らしくなくて悪かったですね!」
あー駄目だ。360°地雷原だ。
今日は本当に機嫌が悪いな。
「本気で行くからね覚悟しなさい」
これもしかして。俺がこの前訓練で皆をボコボコにしたの怒ってるからか。
この前、俺がみんなにしたような事にをしようとしていないか?
そういえばあれ以来ろくに話て無かったな。
ミナがアミュレットデバイスを取り出す。
「アミュレットデバイス『レッドウィング』起動!」
色々考えてる俺に構わず。赤い鋼の翼を身に纏うミナ。
「それカッコいいな!」
誤魔化しじゃなくて本心で言った。
「そんな事より早く起動なさい!」
少し照れくさそうに言う姿は相変わらず可愛く思える。
「このデバイスの名前は?」
「ゼロトリッキーよ」
「分かった。アミュレットデバイス『ゼロトリッキー』起動!」
早速俺も起動し。
薄い鎧が身体に纏わりつく。
「意識も今の所大丈夫そうだ」
「それなら良かったわ」
そう言って宙を舞うミナ。
「言っておきますがミプリヴァリナーの力を使うのは禁止ですからね」
「はっ!なんでだよ」
俺が言うと高い所から俺めがけて攻撃を繰り出すミナ。
「あっ!」
俺の持っていた剣は、ミナの攻撃によって飛ばされてしまう。
「待て待て待て待て」
俺が手を広げ止まってくれと頼む。
ミナは、それを見て深く溜息を吐く。
「レイキさんは昔からミプリヴァリナーの力に頼り過ぎです。だからこの前みたいに時間切れで呆気なく負けるのですよ」
「ははは。確かにそうだね」
痛い所を突かれたので苦笑いで誤魔化す。
「笑ってる場合ですか!」
また攻撃されたのでギリギリかわすが。
回し蹴りをお見舞いされた。
「ぐぁあ!」
強烈な痛みが腹部を襲う。
「反撃はしないのですか」
「魔法は良いんだよな!」
「ええ勿論」
俺は白色の魔法陣を展開させ。
「氷の第7魔法『ブリザード』」
氷の粒達がミナ目掛けて飛んでいく。
「フレアショック!」
木剣に炎を纏わせて。それを放ち氷は溶かされた。
そして俺の方に飛んでくる炎の塊。
「アイスシールド!」
氷の盾で防ぐ。
盾を解くとミナが消えていた。
「遅いですわ!」
後ろに回り込まれていた。
「剣技。ミナザクラ!」
ミナが俺に斬りかかる。
それ自体は防げたが。
ミナが纏っていたアミュレットデバイスで出来た翼達が横から俺を襲った。
「グッ」
防ぐ事が出来ずに俺はそのまま倒れ込んだ。
「わたくしの勝ちですね」
しゃがんで見下すように俺に言う。
実際に見下されてるわけだが。
「パンツ見えてるよ」
「えっ。きゃあ!」
スカートを履いてるわけでもないのに。
ミナは、自分の股を隠そうとする。
「ばぁか!」
俺はこっそり魔力を込めた右手を地面に突き刺す。
「ホワイトインパクト!」
氷の魔法陣が地面に広がり。
ミナの足元から氷の柱が現れる。
「クッ!卑怯ですわ」
ギリギリで避けられたか。あまりダメージが無いようだ。やはりこれだけじゃ駄目か。
「これが戦いだろうが」
「それもそうですね。わたくしも奥の手を、使いますわ!」
そう言うと俺目がけて飛び込み。
そのまま抱きついてきた。
「一体なんのつもりだい?」
「このアミュレットデバイスの新機能を試したくて」
耳元で言う言葉が少しこそばゆい。
「なんだよ新機能って」
「自爆ですわ」
「はぁ!」
驚く俺を無視して。
俺の上にいるミナが光りだす。
そしてそのまま爆発した。