第2章 第6話 妹が兄に想うこと
223/02/05 20:00
フォレスティアタウン公園
アイカ視点
レイナを追って外に出た俺。
「待てって」
必死で走るが追いつけない。
そしてそのままの勢いで。この前俺が記憶の一部を思い出した公園に行くレイナ。
「兄貴のバカぁ!」
そう叫びベンチにドサッと腰を掛ける。
「やっと追いついた。お前速すぎんだよ!」
俺が言うと。
「ごめん。今は1人にして」
金色の髪を前にだらんと垂らし顔を隠すレイナ。
「ひっぐ、……えっぐ」
顔は見えなかったが泣いているのは確かだった。
「使えよ」
俺は持っていたハンカチを差し出す。
「……」
無言で受け取るレイナ。
「俺居ない方が良い?」
俺が聞くと。首を横にブンブンと振るレイナ。
「そっか。……なら横に座るよ」
俺もベンチに腰を掛けた。
「どうしてお兄ちゃんは、あたしよりミナ姉ぇの事を大事にするのかな」
「それは、結婚してるからじゃないかな?」
そう言うと。
レイナは、涙で目を腫らしていた。
その顔を俺に向け。
「あたしの方が大事でしょ!なのに殺すって言われた」
「あれは、レイナがミナさんを攻撃しようとしたからだろ」
「お兄ちゃんが大怪我したのよ!黙っておけないよ」
「落ち着けって。夫婦の問題なんだからさ」
「そうだけどさ、今日のは酷いよ。いくら理由があっても腕を奪うのは違うよ!」
確かに酷い有様だった。
だけど俺達はミナさんを責めることは出来ないだろうな。
恐らくレイキさんが全力で止めると思う。
それから2、3分程泣いた後。涙を拭き取り。
「ありがとう」
そのハンカチを返す。
「そのまま返すのかよ」
「なによ、悪い」
ようやく顔をあげたレイナ。
「別に良いけど」
と言いポケットにハンカチをしまい。
「落ち着いた?」
俺が聞くと、笑顔を見せ。
「おかげでね」
いつもの元気なレイナに戻っていた。
「戻ろうか」
俺が手を差し出す。
「そうだね」
その手を掴み返され。
そのまま手を繋ぎギルドへ戻って行った。
ギルドに着くと。
「あたし。ギルド辞めようかな」
そう不意に言うレイナ。
「どうしてだよ」
「なんかね。もう疲れちゃったのよ」
そう言ってレイナは俺から手を離し。
「またねアイカ」
トボトボと部屋に戻るレイナ。
「……」
俺は何も声を掛けてあげられなかった。
223/02/05 21:00
ギルド長室
レイキ視点
俺は今日あった出来事をまとめた。
もちろん嘘を含めてだ。
俺はSランクのソルジャーだ。
Aランク以上のソルジャーが負傷した際には、国のギルドをまとめてる『ギルド協会』に理由を報告しなければならない規則がある。
なので。今回俺が負傷した事を、魔物のせいにするしかない。
それしかミナを守る術がなかったのだ。
ミナが行った。アミュレットデバイスを使い、人を操る事は、明らかに倫理に反する事だ。
協会に知られるとミナの存在が危ぶまれる。
ただでさえフェニックスという危険な力を持っているのだ。
なんとか国王……エドのお陰で無事に暮らせている。
それにミナを守る為なら、俺は嘘くらい平気でつける。
「本当にこれで良かったの?」
心配そうな顔で聞くナミ。
「ミナを守る為には、これしかないだろうが」
元はと言えば。ミナを不安にさせた俺が悪いのだから。
ミナの事をもっと真剣に考えるべきだったんだ。
いつしか、ミナをからかって楽しんでいたのだ。
俺は、自分自身が許せないよ。
右腕はもう元に戻らないが。
それで済んで良かったんだよ。
当然の報いなのだから。
「俺、ミナに嫌われたかな」
気付けば涙を流していた。
後悔。それだけで済めばどれほど楽か。
ミナを追い込んでいた。
他でもない最愛の人をだ。
「大丈夫だよ。嫌われてないよ」
優しく頭を撫でるナミ。
だけど今欲しいのは肯定でも安息でもない。
「ミナに悪い事をしたよ。クレアとアオイも巻き込んだ。俺は、俺は!」
思いっ切り叱って欲しかった。
罰を受けたかったのだ。
右腕なんかどうでもいい。
ミナがまた俺に甘えてくれさえすれば。
あの天使の様な笑顔をまた。俺に向けてくれるのならば……。
「……」
静かに泣く事しか出来ない。
「あたしを選べばよかったのにね」
不意に言うナミ。
「それは無いよ」
と、冷静に返す俺。
「本当に後悔していない?」
「しつけえぞ!」
机をバンッと叩く。
「ミナに襲われて。子供が出来たから、仕方なく結婚した癖に。それで本当に後悔してないって言うの?」
ナミの言ってる事は事実である。
少し補足すると、俺がアイシクルタウンの学校を卒業する少し前に。ミナに監禁された。
もう既に恋人になっていたのだが。
ミナのあの性格だ。不安だったんだろうな。
俺を閉じ込めて。無理矢理行為に及んだ。
拘束を解いてと言ったが。
「ミナを1人にするからヤダ」
と子供みたいに言われた。
そして子供が出来た。
それがクレアとアオイだ。
「その前から好きだったんだよ」
だから別に気にしてなかった。
まああの後は大変だったが。
そのおかげでこのギルドが出来たような物だ。
結果オーライと思えば良いんだよ。
「あたしも顔は一緒なのになぁ」
「唐突にどうしたんだ」
確かに昔はよく似ていたよな。
髪色以外の違いはマジで無かったな。
もちろん見た目だけの話。
「だからなんだよ!性格はちげえだろうが!」
じっと睨む俺。
「あはは。あたしならレイキを傷付けないのに」
「勝手に言ってろ」
俺はミナを選んだんだ。
その選択に後悔はしていない。
「終わったなら、検査するから医務室に来てよ」
「やだよ。早く部屋に戻りたい」
俺が言うと呆れた顔で。
「あんたね。死にかけていたのよ」
「ナミが治してくれただろう」
ナミの治癒魔法は効果がある。
流石にミナと比べると劣るがな。
それでもう痛みや違和感は全く無かった。
「そうだけどさ。後遺症とかあるかも──」
「大丈夫だって」
遮るように言い。
勢いよく立ち上がった。
それがいけなかったな。
少しふらついた。
「おっと」
よろめいた拍子にナミに倒れ込む。
「ワザと……じゃないみたいだね」
その言葉を聞きナミの目線に視線をやる。俺の左手が胸に添えられていた。
ミナと比べ……いや比べるまでもない。
しっかり柔らかい。それに手より少し大きい。
「ミナもこんだけあればな」
ついついミナと比べてしまう。
ついでに1揉みする俺。
「ざっけんな!」
勢い良く蹴られる俺。
さっきまで心配してた奴がやる蹴りじゃない。
「ぐぁ!」
「ミナと比べんな、バカ!後胸揉むな!」
うずくまる俺を罵倒するナミ。
「ごめんって」
「もう、心配して損したわよバカ!」
何回言うんだろう。
というか俺はなにしてんだろう。
嫁の姉の身体に触れるなんて。
「2度と触れない身体にしてあげようか?」
ナミが怒った時のミナみたいになっていた。
「すみませんでした」
とりあえず素直に謝ろう。
「まっ。別に良いけど」
案外簡単に許してもらえた。
俺がホッとしていると。
「今更だけど。クレアとアオイはどこに行ったの?」
「あっ!」
完全に忘れていた。
食堂へと向かわせていたんだった。
色々あったからすっかり頭から抜け落ちていた。
「悪いナミ。2人の所へ行ってくれないかい?」
「良いけど。アンタはどうするの」
「俺はシアにこの報告書を提出して来る」
「あっそ」
そう言って部屋を出るナミ。
「さて、俺もこの報告書を持っていきますか」
なるべく人目に付きたくないから空間転移で向かおうとした。
「あれ?」
転移がうまく行かない。
「おかしいな……というか魔力切れか」
あれだけの戦闘をしたんだ。
そりゃあ疲れるよな。
机の中なら魔力をかなり回復する飲み物『マナドリンクスーパー』を2本取りだす。
「買いだめしてて正解だったな」
一気に2本とも飲み干し。
魔力がある程度回復したので。
もう一度空間転移を試みる。
「あれ?」
しかしうまく行かない。
何度か試す内に意識が遠くなる。
「あーあ。本格的に俺死ぬかもな」
鼻からぽたりと血が垂れてきた。
俺、本当に長生きする様に造られて無いんだな。
ヘタリと床に倒れ込む。
「嫁を泣かせて。娘にも嫌われて。妹にも心配かけて。俺は最低だね」
奇跡を起こす特権を持つ者。
そういう意味のミプリヴァリナー。
けどよ。
なにが奇跡だよ。
戦闘力が高くても人間的に弱いんだよ。
それじゃあ意味がない!
「どうしてこうも上手くいかないんだよ!」
1人で喚く事しか出来ない。
なんて無力なんだろうな。
そのまま寝ようとしたら、足音が聞こえてきた。
「バカ兄貴居るぅ……えぇ!どうしたの大丈夫?」
「ああ。ちょっと空間転移に手間取っただけだよ」
「鼻血出てんじゃん」
「うわっマジで!」
明らかにオーバーリアクションで言い。ハンカチで拭う。
こうする事によって。言われなきゃ気が付かなかった事をアピールする。
「また何か隠してるわね」
「なんでだい」
「リアクションが嘘臭いから」
バレてました。
流石我が妹とでも思っておくか。
こいつたまにヤケに感が鋭い時が有るんだよな。
普段は抜けてるくせに。
「なんか失礼な事考えてない?」
ジトーと俺を睨むレイナ。
「いやぁ。レイナも、もうちょい胸が大きければなぁと」
関係ない話で誤魔化そうとする。
「最低死ね」
「そんな酷い事言う子に、お兄ちゃん育てた覚えは無いが」
「あたしこそ。こんなお兄ちゃんだったなんて……」
段々と声のトーンが下がっていく。
「どうして無理してるのさ」
「なんだい急に」
「急じゃないでしょうが」
まあ確かに多少の無理はしてる。
あくまでも多少だ。
少なくとも俺の中ではだけど。
「このままだと早く死ぬよ」
すごく心配そうに言われてもな。
元々長く生きれないのだからな。
「妹にも言えない事なの?」
「言いたくない事くらい誰にもあるだろう?お前だって好きな奴教えろって言ったら答えないだろうに」
ここまで言えば。レイナも納得するだろう。
「お兄ちゃん」
「ん、なんだい」
怒ったのか呆れたのか。
いつもならここでもういいと言って部屋を出る。
しかし、レイナは大きな溜息を吐き。
「だからお兄ちゃんだってば!」
力強く俺に言う。
「だから何がだよ」
顔を赤くし恥ずかしそうに。
「あたし、お兄ちゃんの事好きなの」
「それは家族としてだろう」
「もういいわ」
急に強く抱きしめられ。
女の子特有のいい匂いがしてくる。
そして近付く顔。
我が妹ながら思う。かなりの美人だよな。
「もう、我慢しないから」
そして2人の唇が触れ合った。
「な、なにを」
また触れ合う。先程よりも深く長く。
どうにか妹を跳ね除けようとしたが。
片腕じゃ払いのけれない。
コイツいつの間に力強くなったんだよ。
まあ、俺が基礎能力低すぎるだけなんだけど。
「ちょっと落ち着けって」
「だからツラかったのよ!バカ兄貴!」
また俺の唇をむさぼるレイナ。
こんな所誰かに見られるとマズイ。
というか鼻血出したせいで、鼻からまともに息ができない。
キスと酸欠により頭がクラクラしてきた。
「お兄ちゃん好きぃ」
普段と違う艶っぽい声。
俺も変な気分になってきた。
「もうやめてくれ!」
「だったらあの女と別れてよ!」
涙ぐみながら言われても困る。
俺がなにも言わずに黙っていると。
「あたしこのギルド辞める」
唐突に言うので。
「待て待て。それは辞めてくれよ!」
「もう決めたの。それに」
目線を逸らし再び恥ずかしそうにする。
「お兄ちゃんの事。男として好きな妹って……ほら世間的にキツイじゃん」
笑ってはいるが、無理してるのだろう。
少し震えていた。
「それにあたしの気持ちバレちゃったし」
俺が誤魔化そうとしたばかりに。
レイナのとんでもなく、封印しておきたい秘密をされけだしてしまった。
「俺も何があったのか。全部話す」
「えっ」
「だから聞いてくれ!」
ここまで打ち明けてくれたんだ。
俺も隠せないな。
「さて、どこから話すかな」
俺は今日あった事に含めて。
なぜミナの呪いを受け入れているのか。
誰にも話していない。
ミナ本人も知らない秘密を打ち明けるとするか。




