第2章 第5話 すれ違いが生んだ悲劇
223/02/05 19:50
ギルドフォレストセイバー
地下訓練場
アイカ視点
レイナと2人で地下訓練場へとやって来た俺達。
扉を開けると。血の水溜りが数カ所出来ていた。その中で。ただ1人、レイキさんが仰向けで、大量の血を流し倒れていた。
「お兄ちゃん!」
「なんだよこれ。それに腕が!」
レイキさんの右腕が無くなっていた。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
真っ青な顔で横たわる、レイキさんに必死に呼びかけるが。反応がない。
「お兄ちゃん。しっかりして。お願いだから目を開けて!」
泣きながらずっと呼びかけるレイナ。
俺にはどうする事も出来ないので。
回復魔法が得意なナミさんを通信で呼んだ。
2分程でナミさんが到着し。
「これは、一体なにが起きたんだ?」
到着早々に驚きを隠せないナミさん。
「僕らが来た時にはもう倒れてました」
「そうか。とりあえずレイナは、離れてて」
「ナミ姉ぇ。お兄ちゃんをたすけて!」
必死な顔で訴えるレイナ。
「あたしに任せて」
といつになく真剣な表情のナミさん。
灰色の魔方陣を。レイキさんの身体の上に展開させ。
「目を覚ましてよ。じゃないとみんなが悲しむでしょうが」
ナミさんも魔方陣と同じ色の光を身にまとい。
「お願い目を開けなさい。生命魔法『エクスリバイン』!!」
魔方陣から出てきた無数の光が束になり。
その束がレイキさんの身体に注がれた。
全ての光がレイキさんに注がれると。
「う、うーん」
レイキさんは、目を覚ました。
「お兄ちゃん!」
真っ先にレイナが抱き着いた。
「れ、レイナか。どうしてここに」
「倒れてたんだよ!それで心配で」
「そうか……ミナはどうした!」
辺りを見回すレイキさん。
「ミナ姉ぇなら居ないけど。呼んでこようか?」
「いや、いい」
「それでなにがあったのよ?」
「ああ、ナミか。まずは助けてくれてありがとう」
起き上がるレイキさん。
「まだ安静にしてください」
「そうだよお兄ちゃん」
俺とレイナがそのまま横になる様に促すが。
レイキさんは立ち上がった。
「ああ。だけどそうも言っていられないんだよね」
「どういう事ですか?」
「訳なら後で話すから。今は──」
話してる途中でナミさんがその口を押さてこんだ。
「良いから今は安静にしてろ」
まるでミナさんが怒った時の様な顔をしていた。
レイキさんは、その手を退かして。
「分かったよ」
とだけ言い。
また横になった。
「他に痛む所とか無い」
「ああ。全身が痛い」
「そうだろうね。本当に死んでもおかしくなかったわよ」
たしかにレイキさんは、大量に血を流していた。
回復魔法を受けても。蓄積された痛みは早々には、取れないはず。
「あれ」
俺は不思議に思い辺りを見回した。
「どうしたのアイカ?」
レイナが俺をみて言い。
「他にも誰か居た」
ミナさんか?でもこの血の量だと1人じゃないはずだ。
「他の血は誰のですか?」
俺がレイキさんに聞くと。
「ごめん。言いたくない」
「なんで言わないのよバカ兄貴!」
レイナが怒りつつも心配そうな顔で言った。
だけどレイキさんは答えない。
見かねたナミさんが。
「どうせミナとケンカしたんでしょ?」
そういうとしゃがんでいた、レイナが立ち上がり。
「ちょっとミナ姉ぇに文句言ってくるわ」
「待て待て。お前が入るとややこしくなる」
「だから何よ!お兄ちゃんがこんな酷い目に合わせれたのに。なにもしないのは無理だよ!」
初めて見せる。怒りの表情で言うレイナ。
レイナにとって唯一の家族がこんな目に遭わされたのだから。
「今までもそうだったろうが」
「けどここまで酷くなかったわよ!それにあたしアイツ大嫌いなのよ!」
「それを姉のナミ前で言うなよ!」
「知らないわよ」
そのまま走り出そうとした。レイナの腕を俺は掴んだ。
「ちょっと落ち着けよレイナ」
「うっさい!離してよ」
もう片方の腕で払われ。
手放してしまった。
「だから待てって!」
再び腕を掴む俺。
そのまま背後から抱きしめて止める。
「今は落ち着いて。ちゃんとレイキさんから話を聞こうよ」
俺は、出来るだけ優しく言った。
「けど。許せないよ。あたしのお兄ちゃんが。これ以上酷い目に遭うのをもう見たくないよ」
泣き出すレイナ。
「……」
俺は、なにも言えないでいた。
どうすれば良いのか知らないから。
ただ落ち着かせる事しか出来なかった。
「アタシがミナを呼ぶから。それで良いでしょ」
ナミさんがアミュレットデバイスを取り出して。
通信をする。
手のひらに置いたアミュレットデバイス。その上に映像が映し出される。
最初はノイズだけだったが。
ミナさんの顔が映し出された。
と同時に俺はレイナから離れた。
「今すぐに地下の訓練場に来なさい」
通信が始まると開口1番にナミさんが言う。
「今は、クレアとアオイの治療をしています」
「はぁ。もう、本当になにがあったのよ」
頭を抱えるナミさん。
「レイキが……2人を殺そうとしてたんですよ」
「えっ!」
聞いた俺達は驚いた。
あのレイキさんがそんな事をするはずが無い。
クレアとアオイの事を、無茶苦茶可愛がっていたのに。本当に何が起こったんだ。
「お兄ちゃんがそんな事するはずが無い!そうだよねお兄ちゃん!」
「ミナの言う通りだ」
レイナの問いに静かに答えるレイキさん。
「まだ生きていたの!この娘達に酷いことしたのに良く生きていられますね」
映像でも分かる程。ミナさんの顔が、凄く憎悪に包まれていた。
「生きていたらマズイかよ」
レイキさんは、起き上がり。画面のミナさんをじっと見て言った。
「あなた。自分がなにをしたのか分かっていますの!!」
物凄い剣幕で言うミナさん。
「お前こそ。とんでもねえアミュレットデバイスと新しい武器を2人に渡したくせによ!」
レイキさんも同じくらいで言うと。
「え!」
ミナさんが驚愕の表情を浮かべた。
「わ、わたくし、なにも、知りませんわよ」
明らかにミナさんの歯切れが悪くなった。
「嘘つけよ!」
「何のことか分かりませんよ」
「そもそも。お前が2人を差し向けたんだろうがよ!」
「あの後。おふたりとは会ってませんわよ」
「はぁ!」
驚き。少し間を追いて。
「それは、本当なのかい?」
少し落ち着いたのか。普段通りにレイキさんが言うと。画面上のミナさんは、視線をずらし。
「クレア、アオイ。わたくしの研究所から。何か持ち出しましたか?」
治療中の2人に問うミナさん。
「それから、ヒーリング装置を切ったのはレイキですわよね?」
2人の声が聞こえないから。返事をしてるのか分からない。
だが。段々とミナさんの顔が青ざめるので。
恐らく頷くなりなんなりで返答しているのだろう。
「レイキさんは、アミュレットデバイスを使ってませんよね」
2人の声は聞こえないが。
ミナさんが震え出した。
「2人の攻撃は、レイキさんに当たって無いですわよね」
しばらくして両手で頭を抱え。
「いやぁあああ!」
と叫んだ所で。通信が途絶えた。
「マズイな」
そう言ったレイキさんは、すぐに空間転移を使って。ここから消えた。
「ちょっ!」
「お兄ちゃん!」
「レイキさん!」
俺達は、訳が分からないまま取り残された。
223/02/05 20:05
ギルドフォレストセイバー
セプテ家の部屋
レイキ視点
身体のダメージはナミが生命魔法を使ってくれたので大丈夫だ。
だが思ったより魔力を使って。もう殆ど無い。
今ならその辺の雑魚な魔物にもやられるだろうな。
ミプリヴァリナーの力も魔力を必要とするが。
俺は最後の力を振り絞り。ミナの元へと飛んだ。
幸いにも、俺達家族の部屋に居てくれたお陰で。
探す手間が省けた。
「あああああ!!」
頭を抱え、床にうずくまり発狂してるミナ。
双子は、床に突き刺さる刀の前で。2人で抱き合って震えていた。
良かった。クレアとアオイは、ちゃんと回復してたんだな。
少しホッとした。
「ミナ落ち着いて」
「いやぁ!いゃあ!いゃああああ!」
発狂し続けるミナ。
「ミナ、落ち着け」
再度俺が言うと。
「レイキさんは悪ぐながっだのにぃ!」
ようやく顔を見てくれた。
そうとう声を荒らげたのか。
喉がカスカスだった。
「ふたりの、ふたりのせいでぇ!」
俺の腰を掴み抱き締められた。
「うぁあああああ!」
泣きじゃくるミナの頭を撫でる事しか出来無かった。
俺はこんな姿を娘達に見せたくなかった。
「クレア、アオイ!」
と呼んだが。返事が無い。
そりゃあそうだよな。
俺の事を怖がってるのだろうな。
「誰かいると思うから食堂へ行け」
「……」
しかし何も答えてくれない。
仕方がないから俺は怒鳴ることにした。
ミナのこんな情けない姿を見せるくらいなら。
俺が嫌われた方がマシだ。
「いいから早く行けよ!ぶち殺すぞ!」
ようやく慌てて立ち上がり。
おぼつかない脚で部屋から出ていってくれた。
これで完全に嫌われたな。
「2人を治療してくれてありがとう」
また左手で頭を撫で。落ち着かせようとする。
それから10分が経ち。
ナミたちが部屋に入って来た。
「お兄ちゃんから離れろ!」
入ってきて早々に、レイナがミナを俺から引き離そうとする。
「ヤメロ!まだ落ち着いてないんだよ」
「そうだよレイナ。落ち着けって」
アイカも止めてくれるが。
なおも止まらないレイナ。
「だからって。こんなクソチビをゆ──」
「うるせぇんだよ!レイナ、お前を殺すぞ!」
俺は、怒鳴り。レイナを力強く睨みつけた。
「な、なんでよ。あたし、あたしは!」
涙目になり。
「お兄ちゃんのバカァ!」
そう言って部屋から逃げる様に出るレイナ。
「ちょ、レイナ!」
アイカが追いかけていったので。大丈夫だろう。
レイナにもこんなミナの姿を見せたくない。
「それでなにがあったのよ。あたしにはさっぱりわからないわよ」
事情を聞こうと。ナミがミナの元へと行き。
「ミナを殺して」
ボソッとミナが言う。
「どうしたの。レイキは死にかけだったし。ミナは、おかしくなってるし。訳が分からないよ」
「もう生きたくないの」
力の無い声で言う。
そんなミナの様子に頭に来た俺は。
「なら俺の腕返せよ」
左手でミナの胸ぐらを掴み持ち上げる。
「代わりにあげますわ」
右腕を差し出すミナ。
「こんな小さな腕は要らないよ」
そう言って、ミナを優しく降ろした。
俺も落ち着かないとな。
それに通信の最後にミナが言っていた。
俺がアミュレットデバイスを展開させていたかと。ダメージを受けていたかが気になる。
「レイキ。腕は諦めてね」
ナミが申し訳なさそうに言う。
「命が残ったんだ。それ位構わないよ」
何故かミナが俺を斬った位置を舐め始める。
「何をしてるんだい」
「治したいの」
ペロペロと舐められて少しくすぐったい。
「ミナ、何を隠してるんだ」
1度舐めるのを止め。
「言わないから殺して」
また再開する。
やっぱり何かを隠している。
「いい加減にしてよ!」
ナミが俺よりも先に怒った。
「あんた。いつも何かあれば、直に殺せ殺せって。レイキの気持ちも考えなさいよ」
ミナの肩を掴むナミ。
「白状しなさい。後これを飲み込め!」
ポケットから小瓶を取り出し。ミナに飲ませた。
「何ですかこれは」
「自白剤よ」
「ああ、そうですか」
吐き出す事なく。素直に飲み込むミナ。
というかそんな物をどこで。
いや、こいつの事だから自作したのだろうな。
「安心して。変なものは入ってないから」
全てを諦め。絶望する表情のミナにナミは。
「さあ。全てを話しなさい」
ミナから離れ床に座るナミ。
そして。
「分かりました」
観念したミナが顔を背け話し出す。
「レイキさんに、ミナが暴走した時の気持ちを分かって欲しくて。アミュレットデバイスに細工してました」
「なんだって!」
俺とナミ。2人同時に驚いた。
その反応を見て、虚ろな目で微笑むだすミナ。
「お父様の研究データを元に。強制的に人を暴走するプログラムを作りましたの。それをレイキさんのアミュレットデバイスに組み込んだのです」
俺は頭を抱えた。
だからだ。なんかアミュレットデバイスを使うと違和感があったんだよ。
こう。なんというか。感情の起伏が激しくなるって言ったら良いのか。
「ですが対象は、フェニックス。即ちわたくし。ミナ・セプテだけにしていた……それなのに」
瞳に涙を浮かべる。
「娘達に対して暴走するなんて。思わないじゃないですか!」
いやそこは、思えよ。
確かに検査でもフェニックスの力の兆候は見られなかった。
恐らくクリスタルの加護を受け。能力が目覚めたのだろう。
「ミナ、アンタ最低だね。アンタのくだらない行いのせいで。子供も巻き込んで」
唇を噛むナミ。
怒りたいのを我慢してるのだろう。
「そうですね。本当にわたくし最低ですね」
虚ろな瞳で言うミナに俺は。
「だいたい。お前の娘だろう。フェニックスの力を使えるかもって何故考えなかったんだ」
そういう俺も。あいつらがミプリヴァリナーの力を使えるようになっているなんて。知らなかったけどな。
「普通の人間と違って。ミナは、造られた人間です。……まさかその人為的に造られた能力が遺伝するなんて思いませんでしたわ」
確かに今まで能力に目覚める兆候も無かったから。そう思っていたのなら仕方がないのかもしれないな。
「そうか。……それとさ、あの2人がアミュレットデバイスの機能を使って自爆したんだよね。まだ搭載してたのかい?」
俺が言うと。力を無くしたのか、ぺたりと床に座るミナ。
「ああ。その件もバレていましたか」
「そんなに俺と、離婚したかったの?」
前に言ったはずだ。
こんな攻撃方法があってたまるかと。
次にしたら離婚するって。
「違います。ただの好奇心ですわ。研究者としての好奇心です。辞められませんでした」
ミナが、俺にすがるように言った。
「そうか」
溜息を吐く。
というかそれしか出来ない。
そんな俺を見てかは知らないが。
ミナが続ける。
「ミナが使わなければ。絶対にバレないって思ってました」
「そうか。別に離婚したい訳じゃないんだね」
静かに頷くミナ。
「まあ。その件は良いや。どうして俺が暴走するような細工をしたんだい?ミナの気持ちを知って欲しいって言っていたけど」
「怖かったの。ミナを試すレイキさんが。怖かった。それならミナと同じ事をすればいいって思って。ミナに対して暴走すれば。泣いて謝るって思ったんです」
「俺、今日泣いて謝ったよな」
「ええ。だけど足りなかった。もっとミナに対して暴走して欲しかった。そうでないと。ミナは──」
「もう分かった。充分だよ」
ミナの言葉を遮り。
俺は部屋を出ようとした。
「どこへ行くのよ」
ナミが立ち上がり。俺の手を掴む。
「今回の怪我を、昼間に出た魔物のせいにする」
「あんた何言って」
呆れた顔をするナミ。
「だから俺の怪我は、アミュレットデバイスを使った魔物にやられた。これで国に提出する。これで全部解決だ」
まあクレアとアオイの件は解決してないが。
俺は出来るだけ笑顔で2人に言った。
「ミナ。俺はお前と、絶対に離婚しないからな」
「分かりました」
覇気の無い声で言うミナ。
「ナミ。片腕じゃ厳しいから手伝ってくれないか?。後、誰かにクレアとアオイの側に居るように伝えてくれないかい?」
「別に良いけど。ミナはどうするのよ」
「部屋で大人しくしててくれるよね」
そうミナに問うと。
「分かりました」
返事をして体育座りで固まるミナ。
ナミが心配そうに。
「これで良いの?」
そう聞くが。
「良いよ」
すぐに返事を返した。
少なくとも今は良い。
俺は、……俺とナミは、ギルド長室へと向かった。
これから先はまだちゃんと描けていないので。
少し時間がかかると思います。




