第1章 第12話 したくない再会
223/01/7 14:40
氷の迷宮
アイカ視点
ホントに今回は、剣を一度でも振っただろうか?
いや一度も振っていないし。
それどころか一度も振り上げていないな。
奥の部屋へ行こうとした時。
入口の方から誰が来た感じがしたので振り返った。
「また会いましたね」
そこにはプリシアさんとお付きの男が立っていた。
「プリシアさん達も加護を受けに来たんですか?」
俺が話かけようと駆け寄ったら。
炎の斬撃波が俺よりも先に2人の方へ向った。
何が起きたのか分からなかったけど。
振り返るとミナさんが放ったようだった。
「なんで。どうしてなのよ!」
最初に見た時の怖いミナさんになっていた。
「……」
なにか言おうとしたが。
なにも言えなかった。
「アイカ君!離れて下さい!」
突然エリスが今まで聞いたことない大声で言う。
俺がミナさんになにかしたのか?
その攻撃が間違って2人に行ったのか?
何が起きてるのかが分からない。
「アイカ君!早くこっちに来てよ!」
必死に叫ぶエリスの元へと行こうとしたが。
お付きの男。確かエルと言ってたよな?
そのエルが俺の肩をガッシリと掴み動けなかった。
それに不思議な事にミナさんの攻撃を受けたのに無傷だった。
「まだ行くな」
そう言った目が非常に冷たかった。
「なにをしに来たのですか!」
プリシアさんに斬り掛かるミナさん。
全て紙一重の所で交わし。
「あら久しぶりに会ったのに随分好戦的だこと」
余裕そうに話す。
「黙れ黙れ!」
レイキさんに怒ってる時よりも怖い顔で攻撃を繰り広げるミナさん。
しかし攻撃は当たらない。
「今日は戦うつもりは無いのよ」
フフッと笑みを浮かべて宙に舞う。
「挨拶をしにきたのよ」
「何が挨拶ですか!」
対抗する様にミナさんも宙に舞う。
アミュレットデバイスで出来た翼でも飛べるのだな。
というかプリシアさんは何故浮いているんだ?
「小僧。本当に何も憶えて無いんだな」
「俺が記憶喪失の事、なんで知ってるんですか」
「お嬢様から伺ってる。1人居なくなったと」
居なくなった?誰が?もしかして俺?
「知ってるなら教えてくれ、俺は誰なんだ」
「フッ、いずれわかるさ」
そう言って戦う2人の元へと向かうエル。
「ちょっと待ってくれよ!」
「アイカ君今の内に」
かなり焦った表情のエリスが俺の所まで走って来て。手を引っ張られる。
「一体何が起きてんだよ」
「あの女に殺されるのよ」
前に言っていた夢で見た話だろうか。
「え、こんな早くにか?」
確かエリスは俺とクエストをこなしていくとか言っていたよな。
まだクエスト受けたこと無いんだけど。
「イレギュラーが多すぎるのですよ」
怒った様に言われても俺は知らない。
「とにかく逃げなきゃ」
キョロキョロとあたりを見回す。
「逃げるったって何処へだよ」
「知りませんよそんなもの──」
「きぁああ!」
ミナさんの悲鳴が聞こえた。
ミナさんが2人?の人みたいな、小型のよく分からない者に背後から刺されていた。
「クッこれしき!」
小型のよく分からない者を斬りつけると。それぞれ灰になって消えた。
「戦うつもりは無いのよ。レイキによろしくねオチビさん」
「待ちなさい」
離れるプリシアさんを追おうとするが。ミナさんは地面へと落ちてしまう。
そして銀色の光がプリシアさんを包み。
「待って下さいお嬢様!」
慌てた様子でエルが大ジャンプし。その光に飲まれていった。
「待ちなさい!」
立ち上がり刀を再度構えるが。ミナさんはふらついてまた地面に倒れ込んだ。
そして2人は居なくなっていた。
「ママぁ!」
双子がミナさんに駆け寄り。回復魔法をかける。
「なんでアイツが生きてるのよ。どうして、どうしてですか!」
「大丈夫ですか」
俺達もミナさんの元へと行き。
数個持っていた回復薬をミナさんに使った。
「ええ。なんとか」
そう答えて。
「早く加護を受けて戻りましょう。レイキさん達に知らせないと」
気丈に振る舞うミナさんだったが。
傷は癒やされていなかった。
「全然傷が治ってないですわ」
エリスも回復魔法掛ける。
が、傷は治らない。
「大丈夫です。時間が経てば治りますから」
そう言って唇を噛み。苦しそうな表情を浮かべる。
「ママ大丈夫?」
「無理しちゃ嫌だよ」
双子が心配そうに言う。
「だから大丈夫って言ってますよね」
2人を睨みつけ怖い声で言ったので。
「お、怒らないでよ」
「心配しただけなのに」
ションボリとした顔をして。
「もう知らない!」
「ママのバカぁ!」
先にクリスタルの部屋へと行った。
「不味いですわ。はぁ。はぁ」
息を荒くするミナさん。
「どうしたんですか?」
俺も心配で声を掛けたが。
「とりあえず先に加護を受けましょう。それからどうにかしますわ」
そう言うので、クリスタルの加護を受けにいった。
無事に加護を受けて入口まで戻ったが。
ミナさんの傷は塞がらないままだった。
「やあ。遅かったね」
俺達の姿が見えるなり。真っ先に魔導車を降りて出迎えたレイキさん。
「ええなんとか」
先程よりもグッタリとした表情で言うミナさん。
「大丈夫かい?」
「カプリシアスにやられました」
「カプリシアスって、本当なのか?」
「ええ。……生きてたんですね。レイキさんが倒したと聞いていたんですが」
刀をレイキさんの喉元に向ける。
「隠し事……他に無いですか?」
「あったらどうする?」
冷静なのか余裕なのか分からないが。
喉元に刃が有るのに普段通りに話すレイキさん。
「怒る」
そう一言呟きそのまま魔導車に乗り込んだ。
「ちょっと待ってくれよ」
その背中を少し寂しそうに見ていたレイキさんに俺は、
「カプリシアスって誰なんですか?」
「あー。そいつはね、エリスが言っていた。君を殺すかもしれない人……って言う説明じゃ足らないよな」
どこまで話すかを、頭を抱えて悩んでいたので。
「今はそれで良いですよ。また今度教えて下さい」
「そうして貰えると助かるよ」
「レイキさん後で話したい事が有ります」
エリスが言い。
「分かった。今日中に聞くね」
「ええ。お願いします」
エリスも先に魔導車に乗り込む。
「ママ大丈夫?」
「無理させたのかな?」
双子が心配そうに言った。
「大丈夫だよ。お前達も早く魔導車に乗った、乗った。ほらアイカ君も」
そう言われたので俺も魔導車に乗り込んだ。
223/01/7 17:00
アイシクルタウン
アイカ視点
「着いたぞ」
シルヴァさんの一言で。地獄の様空気の車内から解放された。
(ここまで誰一人として口を開いていない)
レイキさん達が学生時代を過ごしたアイシクルタウンにやって来た。
「ご心配おかけしました。この通りもう大丈夫なので」
そう1番最初に降りたミナさんが笑顔で言うが。
どの通りなのか。傷はまだ塞がって無くて着替えた服に少し血が滲んでいた。
「絶対に無理してるだろ」
次に降りたレイキさんがすごく心配そうに言ったが笑顔で。
「平気ですわ……隠し事されるより遥かにマシです」
笑って居るようにも見えるが。怒った様にも見えた。
「じゃあもう心配しない」
そのまま歩いて行こうとする。
「酷いですよ!」
先に行くレイキさんの背中を、ポカポカと軽く叩くミナさん。
「なんだかんだ仲がよろしいですわね」
当たり前の様に俺の隣に座るエリスがいった。
「どこがだよ」
「あら。ケンカする程仲が良いって、言うじゃあありませんか」
「そうだと言いけど心配だよね」
俺の後ろに座ったレイナが顔を出していった。
「アオイとあたしの様に仲良ければ良いのに」
「クレアとあたしの様に仲良ければ良いのに」
前の席の双子がほほ同時に同じ事を言った。
「2人はいつも一緒だもんねぇ。あーあ。あたしもミナ姉ぇが来るまではお兄ちゃんとずっと一緒だったんだけどなぁ」
んーと唇に人差し指を当てて不満そうに言うレイナ。
「なあ、前から思っていたけど。お前って本当はミナさんの事嫌いだよな」
「この子達の前で言いたくないけど嫌いだよ。大嫌いだよ」
ハッキリと言いやがった。
「この事をレイキさんに話せばよろしいのですね」
エリスがメモを取り出していた。
「ちょっとエリス。お兄ちゃんにチクらないでよね」
俺達が話していると。運転席のシルヴァさんが。
「というかいつまで乗ってんだ。行くぞ!」
「スミマセン!今降ります!」
俺達も魔導車を降りた。
「パパとママ手を繋いでるね」
「ホントだぁ!仲直りしたのかな?」
先に降りた2人が仲良さそうにしていた。
「やっと降りてきたか。遅いよ」
振り返って、にこやかに言うレイキさん。
「よーし競争だぁ!」
「負けないよ」
と言い双子が走り出す。
「あたしも」
その後にレイナも続いた。
というか高速で追い抜いた。
「あたしの勝ち!」
あった時にも思ったけど。
どうすればそんなに早く走れるんだよ。
「大人気ないですね」
冷たく言うエリス。
「エリスは足遅いもんな」
俺が言うとムッとした表情で。
「むぅ。言いましたわね勝負しますか」
「おう。良いぞ」
「じゃあスタートです!」
いきなり走り出すエリス。
「待てよ、ずるいだろ!」
慌てて俺も走るが。俺も秒で追い抜いた。
エリスの足が遅すぎたからだ。
「ゼェゼェ。アイカ君速すぎますよ」
息を切らして死にそうなエリス。
「いやお前が遅すぎるんだよ。」
「大丈夫?エリスお姉さん」
「深呼吸すると良いよ」
双子がよしよしと頭を撫でる。
「あはは。あまり無理するなよ。後でエドに俺が怒られるからな──」
「待っていたぜレイキの旦那!」
突然金髪のヒョロっとした男がやって来た。
「イーじゃねぇか。久しぶりだな。シルヴァに頼まれたのかい?」
「はい、そうでっせ!」
また知らない人が増えたなと俺が思ってると。
「ああ。コイツはイー。シルヴァの部下で一応俺達のギルドのスタッフだよ」
察してくれたのか。紹介してもらえた。
「ソルジャーじゃ無いんですか?」
「ははは。恥ずかしんだけど。戦闘は得意じゃなくて」
頭に手をやり笑う。
「どこがよ。あたしより足速いじゃないの」
「レイナちゃんに敵うのはそれだけでっせ。戦闘スキル皆無だし。それにオレっちの役割は──」
「先に着いてたのか。待たせたなイー」
シルヴァさんも後ろからやって来た。
「シルヴァの旦那!お疲れ様ッス!」
「相変わらず元気だなお前」
「オレっちは元気だけが取り柄ですからね!」
本当に元気のいい人だ。
ハキハキと喋ってる。
「アールとサンはどうした?」
「宿屋に居ると思うッス!」
「そうか分かった」
2人が話しているとレイキさんが。
「なあ宿屋ってまだ部屋空いているのかい?」
「3部屋なら空いてるみたいッスよ」
「そうか。なら先に宿屋に行って部屋確保してから。それから院長先生に会いに行こうか」
レイキさんと手を繋いでるミナさんが。
「一先ずそれでよろしいのですが。部屋の割り振りは、どうするつもりですか?」
「あー。そうだな……着いてから考えようか。部屋の大きさにもよるしな」
「どうせ親友とミナが同じ部屋なんだろ……やらしい」
からかうようにシルヴァさんが言い。
それに反論するように。
「なにがやらしいんだよ。ったくよぉ。分かったよ。男女別々の部屋にしよう。うんそうしよう」
そう言うと明らかに不安そうな顔をするミナさん。
「ミナが嫌みたいだけど良いのか」
ニタニタと言うシルヴァさんにミナさんは、
「別に良いですよ。わたくしは寂しくありませんし」
顔をプイッと他所を向けて否定した。
「なんだつまらねぇな……まあ俺様は家に帰るから男女で分けるのが良いだろうな」
何故か俺を睨むシルヴァさん。
「どうかしましたか?」
「別になんでもねぇぜ」
そういう訳で先に宿屋に荷物を預けに行った。