第1章 第10話 船が怖い理由2
223/01/7 11:30
船の中
アイカ視点
レイキさん達と氷の国スノードールへ行くため。
城下町から船に乗った俺達。
「わたし船始めて乗った」
「そうだね。それに国外に出るのも始めてなんだよね」
双子は相変わらずはしゃいでいたが。
「ヤバい。もう怖い」
対照的にレイキさんは顔色を悪くしていた。
「大丈夫ですか?」
心配した俺が声を掛けるが。
「ごめん。無理」
そう言うだけでひとりで部屋に入っていった。
「ちょっとレイキさん。離れないで下さい」
ミナさんも部屋の中へ入る。
俺も続いて入ろうとしたが。
「あたし達はこっちよ」
とレイナに案内され。少し離れた部屋に着いた。
というか俺以外みんな女の子なんだけど。
着替えとかどうするんだよ。
「着替えるから部屋の前で待っててね」
レイナにそう冷たく言われ。
大人しく部屋の前で待つことにした。
が暇である。
辺りをウロウロとしてると。
「こんな所で一人で何してるのかしら?」
銀色の髪の綺麗な女性に声を掛けられた。
「女の子達が部屋で着替えるから外で待ってたんです」
「あら、ということは、あなた一人が男の子なんだね。ふふふ。大変ね」
優しく微笑む彼女を見て。何故だが懐かしい気持ちになった。
「あなたお名前は?」
聞かれたので名乗ろうとすると。
「聞いた方が先に名乗るべきだわね。ふふふ。私は、プリシア。よろしく」
「アイカです。よろしくお願いします」
「ふふふ若いって良いわね」
独特の雰囲気を持った人だな。
「アイカ君はソルジャーなのかしら?」
「はい。一応そうです」
「そうかぁ。そうなんだね。それならクエストを1つ頼もうかしら?」
「ああ。でもまだなったばかりだし。それにレイキさんの許可が」
俺がレイキさんの名前を出すと表情が変わった。
それに辺りの空気もやや重くなった。
「そう。レイキの所に所属してるんだね」
気のせいだったのか。
俺が感じた違和感は元に戻った。
「ふふふ。良かったじゃない。彼は、世界でも有名な人だから。そんな人のギルドに入れるって。アイカ君。実は、かなり強いのじゃないかしら」
「いや、そんな事は無いですよ」
「あらそうなの、レイキのギルドは、少数だけど優秀な人しか入れないって話だよ」
やっぱりそうなんだ。
詳しくは、知らないけど。みんなクエストで世界各地に出向いてる話を聞いたことがある。
それだけ頼まれる仕事が多いって事だ。
俺が一人で納得していると。
「お嬢様。探しましたよ」
恰幅の良い男性が走ってやって来た。
「あら、エル。遅かったじゃない」
「貴方を探していたのですよ」
ハンカチで額の汗を拭うエルと呼ばれた男性。
もう寒くなって来たのに汗をかくなんて。かなり探し回ったんだろうな。
「ごめんなさいね。少し用事が有りましたので」
「貴方はいつもそうやってふらぁっと何処かへ行かれますね。毎回探す私の身にも──」
「私。怒られるの嫌なんだけどな」
また先程の様に空気が重くなる。
男は慌てて気を付けをする。
「いえ。決して怒ってるわけでは」
「なら良いのよ。心配かけましたわね。それじゃあ、アイカ君。また今度ね」
2人は船の中の方へと消えた。
「なんだったんだろうな。あの違和感・・・っともうそろそろ着替え終わったかな?」
俺は自分達の部屋に戻ることにした。
「入って良いか?」
部屋をノックして確かめる。
なんだか部屋の中が騒がしい。
「アイカ君。助けて下さい!」
エリスの声がしたので慌てて扉を開けた。
「ちょっと何開けてんのよ!」
二人共下着姿で何やら争っていた。
「なにしてんだよ!」
「良いから見るなぁ!」
何故かレイナから飛び蹴りを喰らった俺。
なんでそうなる。
「いってぇな!」
「だから早く出てけぇ!」
続け様に攻撃をするレイナ。
「あわわわ」
「レイナ姉ちゃん。喧嘩は駄目だよ」
双子は怯えていた。
「分かったから。辞めろ。見ないから」
「早く出ていけぇ!」
誰かこの状況を説明してくれ。
223/01/7 11:45
船の中
ミナ視点
わたくしの膝枕でスヤスヤと眠るレイキさんを見て。とても幸せな気持ちになっていた。
「船が怖いって言っても平気じゃないですか」
昔から船が怖いって言っていましたが。
理由は教えてくれないのです。
「いい加減に理由が知りたいのになぁ〜」
ただ単に怖いと言うのであれば。努力次第で克服出来ると。わたくしは思うのです。
「う、どうした」
独り言を言っているとレイキさんが目を覚ましました。
「スミマセン。起こしたようですね」
「ああ、別に良いよ。それより膝枕キツくないかい?」
「平気ですよ」
どんな時でもわたくしの事を気遣ってくれるレイキさん。
嬉しくなって頭を撫でてしまう。
「やっぱミナと居ると落ち着く」
「わたくしもレイキさんと一緒に居ると落ち着きますよ」
かけがえのない夫婦の時間。
結婚して何年経ってもこういう時間は大好きです。
「前々から聞きたかったのですが」
「何でも答えるよ。膝枕のお礼代わりに」
「どうして船が怖いのですか?」
目を開け、口を真一文字にして悩むレイキさん。
また隠し事されたのかと不安がるわたくし。
「ミナには言いたくないんだよな……ミナを傷付けるから」
「どうしてですか?隠し事された方が傷つきますわよ」
「小さい頃に事故にあったから」
事故?わたくしは7歳になるまでレイキさんと一緒に居ましたが。
そんな話を聞いたことはありません。
「いつ事故にあったのですか?」
「だから小さい時だよ」
繰り返して誤魔化すレイキさん。
わたくしの経験上この様な時は、大抵大きな隠し事をしている時です。
「言わないと怒りますよ」
わたくしが少し怖い口調で言うと。
観念したのか。
「分かった。後悔しても知らないからな」
そう言ったが、頭を抱え30秒ほど考えていた。
「怒りますわよ」
再度急かすように言うと。
ようやく観念してくれた。
「……セプテ家の研究所で事故があっただろう」
わたくしが7歳になった頃に、研究していた魔物が暴走して。大変な事になりました。
わたくしは、よく憶えていないのですが。
その件でレイキさんとお姉様が行方不明になってわたくしは寂しかったです。
「あの時。急に居なくなったので寂しかったですよ」
「俺もだよ。それでさ、あの時逃げる為に船に乗ったんだよ。嵐が吹く中、ナミとまだ生まれたばかりのレイナを連れてね」
「その時に事故を?」
「そうだよ。海の魔物に襲われて船は沈没。ナミは気を失っていたから覚えていないし。レイナもまだ小さかったから覚えてないって」
知りませんでした。
何回も知りたくて聞いたのに。今まで教えてくれなかった。
「船は沈没したけど。俺必死になって2人を掴まえてたんだ。それで気が付いたらアイシクルタウンに流れ着いたんだよ」
アイシクルタウン。スノードールの西にある町。
後にわたくしとレイキさんが再開する町です。
「だから船に乗るとまた魔物に襲われて沈むんじゃないかってね」
「そうだったのですね。スミマセン……事情も知らずに無理強いをして」
「別に良いよ。こうして一緒に居てくれればかなりマシだからさ」
「そう言って頂けると幸いです」
それから。わたくしは、前から思っていたら疑問を聞くことにしました。
「どうしてその時。わたくしも連れて行ってくれなかったのですか?どうして置いていって──」
「暴走したのがミナだったからだよ」
「えっ」
驚くわたくし。
「あっ!」
言った後にしまったと口を押さえるレイキさん。
どうやら聞き間違えでは無かったようです。
「いや。違うんだ。ちがくて」
起き上がろうとする、レイキさんを押さえつける。
「だから覚えてないのですね」
ようやく疑問が解消されました。
いや、薄々思っていました。
あんなに仲が良かったのに。どうしてわたくしを連れて一緒に逃げてくれなかったのかと。
それにその事件の日の記憶が全く無いのが不思議でした。
「それならわたくしのせいで、レイキさんは、船が怖くなったのですね」
「いや、違うよ……別にミナのせいじゃ……」
言葉に詰まるレイキさん。
「どうして隠してたのですか。話してくれれば」
「じゃあ言うけど。あの日俺の両親は、死んだ。俺の目の前で殺されたんだよ」
「暴走した魔物によって殺されたって聞いてますが……まさか!」
世界から音が消えた。
時も止まった。
色も消えて視界がモノクロになった。
「わたくしが殺したのですか?」
「だから言いたくなかったんだよ。知るとミナは凄く後悔する。自分は悪くないのに」
わたくしを抱きしめてくれるレイキさん。
抱きしめる体は震えていた。
「頼む。頼むから忘れてくれ。ミナは悪くないんだよ。頼む」
泣きながら言うレイキさん。
泣きたいのはわたくしの方なのに。
けれど心にぽかんと穴が空いたみたいに。
感情が消えていた。
「ミナ、何をしようとしてんだ!やめて!」
無意識の内にわたくしは刀を取り出していた。
「気にしないで。ただ生まれ変わるだけだから」
そう言った所で記憶は無くなりました。
223/01/7 11:40
船の中
アイカ視点
2人が着替え終え。落ち着いたので何があったのか聞いた。
「私が服を脱いだら急にレイナさんが胸のサイズ聞いてきたのですよ」
「だって知りたいじゃない。服の上だと気付かなかったけど。あたしより大きいのよ」
そう言われたので見比べてしまった。
確かにレイナは細く。出る所は出ていない。
エリスは背は小さいく。体型も服の上からだと見た目通りに見える。
「比べんな!腹が立つ」
「お前が言ったんだろうが。つい見ちゃうよ」
「アイカ君最低だよ」
エリスからもジトーとした目で言われて傷つく。
「大体人の胸のサイズ聞いたら何になるのですか?それで自分の胸が大きくなるとでも」
「別におっぱいの大きさ位教えてくれたって良いじゃないの!この隠れ巨乳!」
男には分からない喧嘩が始まった。
「レイナお姉さん喧嘩は辞めて」
「そうだよ。ママなんか全く無いんだから。気にしちゃイケないんだよ!」
ミナさんが聞いたら怒るだろうな。
「アオイ。今の事ミナ姉ぇに言うよ」
「あわわわ。それはやめてよ!」
「もうそんなくだらないことで喧嘩すんなよ。レイナこそ、この事レイキさんに言うぞ」
俺が言うとレイナはしゅんとなった。
「始めからそう言えばよかったのですね」
にぃっと憎たらしく笑うエリス。
そんなエリスを見て。
「笑うなクソ王女!」
「きゃあ何をするんですか!」
レイナが怒って取っ組み合いの喧嘩がまた始まる。
俺は止めるのもバカバカしくなったので。
部屋の隅で黙って着替える事にした。
「あわわわ。駄目だよ二人共」
「そうだよ。駄目だよ」
2人が止めに入るが当然止まらない。
こんなんでこの先大丈夫なのか?
俺は少し不安に思ったが。考えても解決策が思い付く訳でもないので諦めた。