第9話『お出かけプラン』
友達と出かける機会の無かった修一は、初めて亜音達と都会へ遊びに来た。
しかし修一の格好を見て、3人はドン引きする。
外出に慣れない修一の為に、3人が立てたプランとは…?
第9話、どうぞ!
週末の朝9時半。
「おはよ!」
俺と亜音は、駅前の時計台で悠月・舞奈ペアと落ち合った。
「おせーぞ2人とも。9時の待ち合わせだったろ」
「悪ぃ。それは俺が寝坊した」
「徹夜?」
「ああ」
俺は眠い目を擦った。
昨晩は3時までイラスト作業に時間がかかり、少し寝不足気味だ。
「つーかさ…」
舞奈は俺の格好をまじまじと見つめた。
「ダサい」
「は?無難な格好だろ」
「どこがよ!!」
舞奈と亜音はユニゾンでつっこんだ。
亜音は白いオフショルダーに黒のホットパンツ、悠月はVネックのTシャツに黒のジーパン、舞奈は白のワンピースにデニムのジャケットだった。
それに対し、俺は…。
「「「誰が『ジャージで来い』つったよ!!!」」」
3人からの総ツッコミに、俺は耳を塞いだ。
「仕方ねーだろ。出歩く事ねーし、制服で来る訳にもいかねーだろ」
「だからってジャージはないわ…」
「ありえねぇ…」
「恥ずかしくて一緒の車両に乗りたくなかったわ…」
すると3人は、俺を差し置いて何やら話し始めた。
3分後、やっと話が終わった。
「よーし。じゃあ、まずはあたしがシュウのコーデをしてあげる!」
「あ?まさか今プラン立てたのか?」
「細かい事は気にせず…ついて来なさい!」
「ちょっ、待てよ!」
亜音は俺の手を取り、アパレルショップへ駆け込んだ。
「どーお?これがあたしの選んだコーデ」
「わぁぁ、さっきとは大違い!」
白無地のVネックTシャツに黒いスキニー、黒い薄手のロングコートだ。
首には十字架のネックレスを着けられ、さっきまで履いていた古いスニーカーは革ブーツに変わった。
「いや、落ち着かねーよ。なんで裾こんなに長ぇんだ?あとネックレスが邪魔くせェ」
「アンタ背が高いから、こーゆーコーデ似合うと思って選んだのよ。アクセサリーも立派なオシャレの1つ。少しは着飾りなさいよ」
「…まあ、ありがとな」
「ちなみに自腹切ってね。お金あるんでしょ?」
「え」
「あと、今日ずっとその格好で」
「え」
泣く泣く会計を済ませ、俺はジャージの入った紙袋を提げて店を出た。
「うん、やっぱその格好が映えるわ」
「やっと違和感が無くなった」
「ここに入ってるけどな」
「出すなよ。さてと…」
今度は悠月の番だろうか。
「次はオレの行きつけだな。深夜パトロールの時、よく買ってんだ」
こっちだ、と悠月が指差す方へ、俺達は続いた。
「…何じゃこりゃ」
真っ赤な屋台で作られているのは、見た事のない食べ物だった。
「ケバブだ。食ったことねーのか?」
「家庭の味かファミレスしか知らねぇ」
「なら食ってみろよ。大将、ケバブ4つ!」
「ハイヨ!」
トルコ人だろうか、浅黒肌の店主が、焼かれた肉塊を削ぎ始めた。
軽く炙ったピタに、削いだ肉塊と千切りキャベツ、スライストマトを載せ、ソースをかけて丁寧に巻いた。
「オマチドオサマ!」
悠月が代金を払い、俺達に配った。
「ささ、思い切りかぶりつけ」
「んじゃ、お言葉に甘えて」
大きく口を開け、俺はケバブにかぶりついた。
溢れる肉汁、キャベツのシャキシャキ食感、トマトのみずみずしさ、ピタの香ばしさが一気に押し寄せてきた。
「あ、うめーわコレ」
「だろ?首都圏ぐらいでしか、露店が無ぇんだ。まあ多国籍だかんな、ここは」
「野菜も摂れるし、ハンバーガーよりはヘルシーだもんね」
舞奈は頷きながら言った。
「てか、ちょっと辛くねーか?」
「シュウだけ激辛チリソースにしといた」
「お前ふざけ─かっら!!めっちゃ辛っ!!」
亜音がミルクティーを渡すまで、俺はしばらく辛味で悶絶していた。
「っはぁー。死ぬかと思った」
「シュウって辛いのダメなの?」
「多少は平気。けど、アレは無理だ」
「辛さ調節できるけどな」
「お前今度覚えてろ」
悠月はヘラヘラ笑った。
「さてと…」
今度は舞奈の番か。にしては、ペースが早すぎな気もするが。
「3時間ほどシュウ借りるね。多分、2人は入りたがらないと思うから。その間、2人でお茶でもしてて」
じゃあ行こ?と舞奈は俺を手招きした。
「遅くなンなよー」
後ろから悠月が声を投げかけてきた。
さて、今度はどんな店になるやら…。
「おい、舞奈…」
「どうかした?」
「お前…最っ高かよ」
訪れたのは、アニメグッズ専門店だった。
引きこもりがちだった俺が、長い事夢見た場所だった。
「スゲェ…」
見渡す限りの漫画やライトノベル。
アクセサリーやクリアファイルなどが、壁や棚いっぱいに陳列されていた。
「もっと凄いの、上にあるよ?」
階段を上がると、フィギュアやCD、DVD、ゲームソフトなどのコーナーになっていた。
「ヤベェ!!あ、コレ超欲しかったやつ!!あ、新譜出てる!!スゲェ!スゲェ!!」
「もう子どもみたい。いつものクールぶってるシュウはどうしたの?」
舞奈はクスクス笑っていた。
「だってこんなに尊いグッズが並んでんだぞ?オークションじゃ現物買わねーと、状態見れねーのに」
俺は興奮を抑えきれなかった。
「やっぱ物を見て買うに限るわ。この店は当たりだわ」
「もう、今日一番嬉しそう。やっぱ連れて来て良かった」
「ああ。ありがとな舞奈!ここしばらく通う─」
「という事は、あたしとも会うワケね?」
最近聞いた覚えのある声が聞こえた。
「うーわ…またアンタかよ…」
「チャオ〜、修一」
有紗だった。
「どうしたの?今日はずいぶんいいカッコしてるじゃん?」
「亜音に見繕ってもらった。てか、なんでここにいんだよ」
「冬コミに備えて衣装探しに…あっ」
「誰なのシュウ?…って、あっ」
有紗と舞奈が目を合わせた。
え?何だこの展開。
続く