第3話『鋭いアイツ』
図書室に来た修一は、最新のイラスト資料集を借りようと手を伸ばす。そこへ、同じ本を借りようとしていたのは、転校初日にクラスメートに囲まれたのを助けてくれた悠月の幼なじみ、舞奈だった。
帰宅した修一は、その資料集を参考にイラストを描き、投稿する。さっそく寄せられたコメントの中に、ふと気になる文章があった。
そのコメント主は─。
第3話、どうぞ!
数日後の昼休み。
俺は図書室に向かおうとした。
イラストの参考書が無いか、探したかった。
「どこ行くの?」
「教えねぇ。金魚のフンかアンタは」
例によってついて来ようとする西垣を追い払うと、俺は図書室に向かった。
昼休みなだけあって、人が多かった。
どんだけ外出たくねーんだ。
資料コーナーに向かい、イラストの本は無いかと探す。
そして、下段の端にそれを見つけた。
ところが、取ろうとしたら他の手も伸ばそうとしてきた。
「…ん?」
「…あ」
見ると、どこかで見覚えのある顔だった。
「アンタ、たしか日高のツレの…」
「ああ。私、川口舞奈って言うの。あなたは須藤修一くんね?」
「そーだけど…日高から聞いたのか…」
あの日、クラスメートと揉めてた俺を助けた日高と話してた、黒いショートボブの女子生徒だった。
「ところで、あなたもこれ借りるの?」
「ああ」
「ふーん。必要なさそうに見えるけどなぁ…」
「どーゆー意味だよ」
「その手のペンだこよ。見た限り、相当描いてるようね。もしかして、プロ絵師?」
「…んな訳ねーだろ。まだ駆け出しだ」
何て洞察力してやがるコイツ…。
垢バレだけは絶対したくねぇ。
「そう。じゃあ今回は譲るわ。まぁどうせ、その本借りる人他にいないし、1週間待ってあげる」
「上から目線かよ…じゃ、お先に」
俺は資料集を引き抜き、カウンターへ持って行こうとした。
「ねえ、良かったら今度イラスト見せてよ」
「やだよ」
「ケチ。見られたくない理由でもあるの?」
「アンタに関係ないだろ」
「あーあ、こりゃ一筋縄ではいかないの分かるわ。亜音の言ってた通りね」
「あの女…てことはアンタ、アイツの知り合いか」
「ええ。去年の体育の授業で、バディ組んで以来ね」
「あっそ。じゃあな」
「早く返しなさいよー」
川口の言葉を背中に受け、俺はさっさとカウンターへ向かった。
放課後。
家に帰った俺は、早速資料集を開いた。
パラ見すると、今までに無い手法がいくつか記載してあった。
さすがは最新の資料集。思わず俺は舌を巻いた。
俺はパソコンを起動した。
サイトを覗くと、既に何十件ものコメントが寄せられていた。
『やっばああああああああぁぁぁい!
もう尊すぎて死ぬ!!』
『甘酸っぱ!!思わずキュンとした!!』
『誰か救急車呼んで…尊死しちゃう…』
思わず笑みがこぼれる。
やっぱり、サイト上のフォロワーは俺のイラストを理解してくれる。
絵なんか描きそうにないアイツらなんかに、このありがたみは到底理解できないだろう。
何度も俺のイラストをバカにしてきたリアルの連中なんて、もう信用できない。
俺は資料集を見ながら、作業に取り掛かった。
「できた…」
テーマは『孤独と絶望』。
1人の少年が、周囲の嘲笑に背を向ける、我ながらなんともダークなイラストだった。
投稿して1分と経たないうちに、さっそくコメントが寄せられた。
『個性が認められず、馬鹿にされるって辛いよね…』
『今回けっこう暗いやつだな』
『今の私を投影してるみたい…共感しちゃう…』
嬉しいような、見ている自分も暗くなるような、複雑な気持ちだった。
ふと、1件のコメントが目に止まった。
『あれ?今回なんか描き方違う。新しい資料でも参考にしたんですか?』
俺はキーボードを打ち、返信した。
『よく気づきましたね!そうなんです!最近出た資料集を参考にしました!』
「よくもまあそこまで察しがつくもんだな…」
思わず俺は呟いた。
先のコメントを送ってきたアカウントを見てみる。
すると、そのハンドルネームには見覚えがあった。
『m@in@(マイナ)』
「まんまかよ。いや、まさかな…」
俺はふと浮かんだ、図書室で会った顔を振り払おうと、頭をブンブン振った。
続く