第2話『眼帯野郎』
アパートを出て待っていたのは、まだ通学路が分からないであろう修一に道案内をしようと思っていた亜音。
しかし、修一はそれを突っぱね、スマホの地図アプリを頼りに1人で行こうとする。
そして始業式後の教室で、雑な自己紹介を済ませた修一に、クラスメートが詰め寄る。そこに現れたのは─。
どうなる第2話!
「行ってきます」
始業式当日。
俺はカバンを肩に引っ掛け、部屋を出た。
スチール製の階段を降りると、西垣亜音が待っていた。
「おはよ、須藤くん」
「『待っといてくれ』って頼んだ覚えはねーよ」
俺は冷ややかに言い放つと、彼女を無視して先に行こうとした。
「待ってよ」
西垣が後を追ってきた。
「ついてくんな」
「仕方ないじゃん、同じ学校なんだから」
「鬱陶しいんだよ」
俺の言い分も聞かず、西垣はそれでも金魚のフンのようについてきた。
「脚長すぎでしょ。早いよ」
「知るか」
「そんなに先に行って、場所分かるの?」
「スマホで調べりゃ早い」
「ウチの学校スマホ禁止よ?」
「バレなきゃいい」
「先生に言うよ?」
「好きにしろ」
煩わしいことこの上ない。
今どきナビ使えば簡単だというのに、校則がどうのこうのと西垣は口うるさく言ってきた。
「次はこっちか…」
「こっちが早いよ」
「じゃあそっち行けばいいだろ」
「そーゆー訳にもいかないのよ。あなたのお母さんや先生にも頼まれてんだし」
「うるせーなぁ…」
堪らなくなり、俺は立ち止まって振り返った。
「邪魔だって言ってんだよ。俺は俺のやり方で学校行く。アンタの案内なんていらねーんだよ。これ以上関わんな」
「何よその態度は。あたしが須藤くんに何かした?」
「俺の邪魔をした。あと勝手について来た癖して、何偉そうな口利いてんだ」
「よくそんな事が…」
「ああ、いくらでも言ってやるさ」
俺は西垣に詰め寄った。
「アンタみたいにお節介焼くヤツほど、俺は信用なんねーんだよ。そういうお人好しの皮被って、ターゲットにしてくんだよ。
アンタもどうせ、そのクチだろ。だから俺は誰とも関わりたくねェ。
アンタらを信じるくらいなら、俺は1人で十分だ」
「あたしの事知りもしないくせに…」
「ああ、知らねーな。興味もねぇ」
俺はそう言い捨てると、再びナビの示す方向へ歩き出した。
朝から不愉快極まりなかった。
「元陽南中2年、須藤修一。以上」
始業式後の教室にて、俺は自己紹介を手短に終えると、さっさと席に着いた。
クラスメートが唖然としようが、『何アイツ、感じ悪くない?』と囁かれようが、俺は気にしなかった。
前の学校でもそうだったし、今回もそのスタンスは崩さないつもりだった。
ホームルームが終わると、俺はさっさと帰り支度を始めた。
と、誰かが俺の机をバンッ!と叩いた。
見向きもしなかったが、複数人はいるようだ。
「おい転校生。何だよあの自己紹介は」
「新学期早々ナメてんのか?」
「調子乗ってんじゃねーよ」
ハイきた因縁つけてくる系バカ共。
相手にしないだけマシだと思った俺は、そのままギャラリーを抜けようとした。
が、残念なことに行く手を阻まれた。
「どけ」
「うっせぇ!さっきからその態度腹立つんだよ!」
「じゃあ関わらなきゃいいだけだろ。気に入らないなら無視すればいい。いちいち相手するだけ時間の無駄だろ。とにかくどけ」
「いいや、帰さねーぞ。こっち来いや」
「『どけ』つってんだろ。何度も言わせんな」
「調子乗んな!無事で帰さ─」
「何やってんだオメーら」
突然、落ち着いた声が聞こえた。
見ると、眼帯をした赤髪の男子生徒が、廊下の真ん中で仁王立ちしていた。
「ソイツ、転校生か?ソイツの言う通りだ。気に入らなきゃいちいち絡むな。みっともねーぞ」
「でも悠月、コイツ自己紹介ん時の態度が─」
「言い訳すんな。『いちいち絡むな』って言わなかったか?」
赤髪の男子生徒は、眉をピクリと上げて凄んだ。
「お前ら、さっさと帰れ。俺の目に止まっちまった以上、もうトラブルを起こすな」
俺を取り巻いていた連中がバラけた。
「帰るぞ」
連中は俺を睨みつけると、気だるげに教室を出た。
赤髪の男子生徒は俺に目を向けた。
「悪ぃな、いらんお節介して。なんか訳ありって顔してっけど、まぁ詮索したりはしねーよ。そーゆーの嫌いだろ?じゃあな」
ソイツはさっさと踵を返し、手を振って歩き去った。
「何やってたの?ユズ」
「気にすんな、舞奈。揉め事を収めただけだ」
隣のクラスから現れた、ショートボブの女子生徒と親しげに話す姿を眺めながら、俺は呆然と立ち尽くした。
何だあの眼帯野郎…。
「いきなりトラブル起こしたと思えば…」
帰り道、やっぱり西垣はついてきた。
しかも、勝手に文句言ってやがる。
「悠月がなんとか止めてくれたからいいけど、そんなんじゃ孤立しちゃうよ?」
「知るか。むしろ好都合だ。つーか、やっぱついてくんのな」
「仕方ないでしょ、同じとこ住んでんだから」
煩わしいったらありゃしない。
だが、どうにも気がかりな事があった。
「なぁ…あの眼帯野郎の事、知ってんのか?」
「ユズのこと?知ってるも何も、あたしの友達だよ。どうかしたの?」
「あのDQN共を散らせた圧力がどうしても気になるんだが、アイツ何者だ?」
「日高組って知ってる?そこの若頭よ」
日高組。
名前はニュースでも聞いた事があった。
たしか、江戸中期から続くNPO(非営利)及びNGO(非政府)法人のボランティア団体で自警団、と聞いている。
ネットによれば、全国各地に支部を置き、イベント事や災害時トラブル等に率先して働きかけているらしい。
この東京に総本部があるのは知っていたが、まさかあの眼帯野郎が若頭とは思わなかった。
「マジかよ…」
「何?まさかユズと揉めた?」
「ちげーよ。むしろ揉め事を収めてもらった」
「あー…まぁ、ユズらしいっちゃユズらしいね。アイツ、何か言ってた?」
「さあな。アンタに話すような事じゃねーだろ」
「ふーん」
西垣は前髪をクルクルといじった。
「人に興味無いんじゃなかったの?」
「うるせぇ、アンタから話しかけて来たんだろ」
「そーだっけ?悠月の件に関しては、須藤くんから聞いてきたんでしょ?」
「うるせっ」
俺はピシャリと言った。
日高組の若頭、日高悠月か…。
俺ひょっとして、ヤベーやつに絡まれたか…?
続く