第18話『いざ戦場へ』
ついにコミケ会場にやって来た修一と亜音。
会場には悠月、舞奈、有紗、そして見知らぬ男性が2人を待っていた。
その男性は菅正宗。日高組に所属する悠月の側近で、『眼鏡猫』としての修一のファンでもあった。
設営に勤しむ修一と亜音。そしてついに、冬コミが幕を開けようとしていた─。
どうなる第18話!
ついに迎えた冬コミ当日。
「…おふぁよ」
「おはよー」
俺は眠い目をこすりながら部屋を出た。
今日の亜音は白いダッフルコートに、紫のオフショルダーのニットワンピースだ。
「おっ、今日は短パン黒ニーソじゃねーのか?」
「残念でした、下に履いてますー」
亜音は裾をちょっとめくり、下に履いていたデニムパンツと黒ニーソをチラッと見せた。
「ちっ、パンチラは許してくれねーか」
「朝からなに言ってんのよ、このドスケベ。ほら、行くわよ?」
亜音と手を繋ぎながら、俺は駅へ向かった。
ガラガラと鳴る俺のキャリーケースの音が付きまとう。
「ねえ、何入ってんのそれ」
「ブースの設営で必要なやつだ。あと飲み物とか菓子とか」
「後でちょうだい」
「あんまり手を汚すなよ」
俺はニヤッと笑いながら言った。
「…っはぁー、息詰まるかと思った」
「いつもより多くない?」
ギチギチの満員電車から降りると、俺と亜音はゼイゼイ言った。
「改札抜けりゃ、ユズ達と合流だ。行こうぜ」
もはや名物である改札ダッシュを躱し、なんとか南口に出た。
その先に、有紗・悠月・舞奈の3人はいた。
いや、悠月の傍らにいる、オールバックの男性を含めて4人だった。
スーツもコートも黒ずくめの、いかつい雰囲気漂う人物だった。
男性と話していた悠月が、こちらに気がつくと手を振った。
「おー、やっと来たか。待ちくたびれたぜ」
「悪ぃな。電車が混んでて、乗りにくかったモンでな」
「おはよ、2人とも」
「おっはよーぅ!」
有紗だけがハイテンションだった。
「菅さんおはよー」
「おはようございます、亜音嬢」
「え、亜音知ってんの?」
「うん。悠月のお世話係さんよ」
「初めまして、若の側近を務めさせていただいております、菅正宗と申します」
オールバックの男性は、ズイっと歩み寄った。
外見の割に、声はソフトな響きだった。
「あ、初めまして。須藤修一です…」
俺は菅さんと握手した。
大人の男性らしく、一回り大きくゴツゴツした手だった。
「お話は伺ってますよ。『眼鏡猫』という名前でイラストをされてるそうですね?」
「あ、ハイ」
「いつも拝見させていただいてます。かく言う私も、あなたのフォロワーの1人でして」
「マジすか、あざっす」
俺は一気に眠気が吹っ飛んだ。
まさかここにも俺のファンがいたとは。
それも、悠月の側近の方が。
「菅って外見に似合わず、実はヲタだったりすんだよ。三十路過ぎてんのにな」
「若、帰ったらゆっくりお話しましょうか」
「やなこったー」
悠月は舌をペロッと出して反抗した。
「じゃあ2人とも、行こっか。菅さん、舞奈ちゃん達をお願いします」
「分かりました。では後ほど」
菅さんは丁寧にお辞儀をすると、悠月と舞奈を会場へ誘った。
「あたし達もブースに行こっか」
「そうだな」
しばしの別れだ、戦友よ…。
「うわっ、狭っ」
俺のサークル席を見た途端、亜音は思わず呟いた。
「え、スペースこれだけ?長机半分しかないじゃん」
「いつもの事だ。さ、設営するぞ」
俺はキャリーケースを開き、スタンドやラバーマットなどを取り出した。亜音も手伝った。
「このPOP、全部手作りなの?」
「ああ。今日の為に、また今回も作った。個人誌のアピールしなきゃな」
「そーいえばさ」
スタンドに値札を挟み込みながら、亜音が言った。
「あたしなりにコミケ調べてみたけど、普通は15歳以上で義務教育修了しないと、出られないんでしょ?」
「ああ。たしかに、俺1人ではサークル参加できねぇ。ただ、姉貴がサークル責任者という名目なら、話は別だ」
「だから参加できたのね。…って、あれ?そういえば有紗さんは?」
「タバコ吸いに行った。さっきコッソリ『そろそろニコチン切れそう』とかほざいてた」
「あの人吸うんだ…」
「まぁ人前であまり吸わねーし」
有紗が戻ってきた頃には、設営はほぼ完了していた。
他のサークルの人達も集まり始めた。
「おまたせー。今年も誕生日席で良かった〜」
「あ、アリシアさん、眼鏡猫さん!」
ちょうど来たのは、去年の冬コミで隣のサークルだった人だった。
「お久しぶりです!去年の冬コミ以来ですね!」
「メリッサさん、おはよ!今回も創作?」
「はい!お互い頑張りましょう!!」
メリッサさんは有紗と嬉しそうに手を握り合った。
メリッサさんは現役女子大生であり、大学で同人サークルに所属する傍ら個人サークルもやっている同人作家だ。
「あれ?眼鏡猫さん、隣の方は?」
「えーっと…俺の近所に住むクラスメートで─」
「シュウ─もとい眼鏡猫さんとお付き合いしてます、『カノン』です」
『カノン』というのは、亜音のハンドルネームだ。
「カノンさん初めまして!眼鏡猫さんも隅に置けないですね、こんな可愛い子とお付き合いできて」
「いやいや、まだこれからッス」
「ご謙遜を〜。それじゃ、ご武運を」
メリッサさんはウインクし、設営に取りかかった。
「驚いた…年上の知り合いがいたんだ」
「まあな、同人活動に年齢の壁は無ぇし」
俺はパイプ椅子に腰掛け、納品された個人誌をダンボール箱から開封した。
「今年も来たぜ。舞奈の分取っといてやんねーとな」
「3冊だったよね?」
「ああ」
「修一、あたしの分も1冊」
「へいへい」
俺は個人誌の束を、机の上に重ねた。
そして、AM10:00。
ついに冬コミが開催された。
続く




