第16話『気づいた気持ち』
冬が近づき、朝の冷え込みが厳しくなってきた、ある日の朝。
いつものように亜音と登校する修一は、以前の人間不信な自分から変わりつつあることに気がつく。
出会ったばかりの頃は鬱陶しく思っていた亜音にも、次第に思いを寄せるようになる。
たどり着いた結論に戸惑う修一は、悠月に相談する。
そんな修一に告げた、悠月の一言とは─?
どうなる第16話!
だんだんと冷え込みが増してきた。
さすがに11月も後半になると、マフラー無しでは厳しかった。
「さっぶ…」
「おはよー、シュウ。寒いねー」
亜音が内腿を擦り合わせながらやって来た。
「早く行こ?」
「ああ」
俺は亜音の手を握り、一緒に歩いた。
「最近、あたしから言わなくても、手を握ってくれるようになったね」
白い息を吐きながら、亜音が言った。
「どうして?」
「さあな」
「はぐらかさないでよ。それとも、照れてんの?」
「照れてねーよ」
「じゃあ答えて?」
俺は空いた手で頭を掻きながら言った。
「…俺がそうしたいから」
「そっか。シュウもだいぶ変わったね」
亜音は笑った。
変わった。
たしかに、俺は亜音達と知り合ってから、人を避けなくなった。
人を信じてみたいと思った。
人に関心を持った。
そのお陰で、以前はトゲトゲしていた心が、丸くなったのかもしれない。
そんな俺に亜音は、『あたしと付き合ってください』と言った。
そして今、俺は亜音に対する気持ちが変わりつつあった。
明るくて人懐っこく、寂しがり屋な亜音。
キスから始まり、最近は大胆なアプローチまでかけてきた亜音に、だんだんと俺は惹かれてきた。
そう、俺は…。
「どうしたの?」
「…んっ?いや、何でもねぇよ」
「なーに1人で考え込んでるのよ。あたしに言えないの?」
「今はな」
「またはぐらかす。まぁいいや、いつか教えてね」
亜音は悪戯っぽく笑った。
途端に、俺の胸が疼いた。
何だ、今のは…?
「お前さ、そりゃ完全に惚れてるよ」
昼休み。
久々に悠月と2人きりで、階段の踊り場にて話していた。
「そうなのかよ…」
「自覚ねーのか?」
「無い訳じゃねーよ。ただ、分からなかった。これを『惚れてる』って思っていいのか」
「いいに決まってんだろ」
悠月はあっさりと言った。
「最近亜音は、オレ達の前でもシュウに大好きアピールしてんじゃん。それをお前は嫌がったりせず、受け入れてんじゃねーか。てことは、少なからず亜音の事意識してんじゃねーのか?」
「ああ…」
「ハッキリしねーなぁ…」
悠月は後頭部をポリポリ掻いた。
「お前、以前は亜音のこと『可愛いやつ』って思ってたんだろ?そっから何か、新しく思ったことはねーのかよ」
「たしかに亜音は可愛いさ。小動物みてーで、構ってあげたいぐらいにな。でも…」
「『でも』?何だよ」
「最近小悪魔っぽいところまで見えてきて、以前より可愛いって思うようになった。時折魅せる仕草に、ドキッとするようになったんだ。
見ててホッとしてたアイツの笑顔も、いつの間にかドキッとするようになった。
あの日から、亜音を意識するようになったのかな、俺…」
「あの日?」
悠月は首を傾げた。
「亜音に告白された日。実は俺、亜音に…き、キスされた」
「マジかよ」
「アイツは『恋を教えてあげる。これは最初の魔法』って言ってた。今になっては、完全に虜にされてんのかな…」
「されてるな完全に。つーか、話がめんどくせぇ」
「いてっ」
ノリに任せて、悠月は俺の頭をはたいた。
「お前も単純だな、キスされて意識しだすとかよ。それでいいんじゃねーの?男ってのは単純でなんぼだしよ」
悠月はケラケラ笑った。
「この際ハッキリしちまおーぜ。シュウ、お前は亜音が好きか?」
俺はひとつ深呼吸し、言った。
「ああ、好きだ」
悠月は頷いた。
「これでまた1つ素直になったな。あとは、それを亜音に伝えてやれよ。そうすりゃ、お互い気兼ねなく付き合えるだろ」
「そうだな。冬コミ終わったら、帰りに告るか」
「いや、遅ぇな。冬コミん時、気まずくなんだろ?」
「あー…そっか。じゃあ、冬コミ前日か」
「なんで冬コミ基準にこだわんだよ。あーもうめんどくせぇ、さっさと告っちまえ」
「へいへい」
人もまばらな踊り場で、俺達の笑い声が高らかに響いた。
「シューウ」
「わっ」
帰り道、亜音が俺の腕にしがみついてきた。
「ユズと何の話したの?」
「ちょっと…な」
「なになに?」
「待て待て。今から言うっての」
亜音は子犬のように目を輝かせた。
また、胸が疼いた。
「あ、あのさ…俺達、付き合って1ヶ月経つよな?」
「うん」
「あの日、その…亜音にキスされてから、俺ずっと…ずっと亜音のこと意識してた」
「うん」
だんだんと亜音の声のトーンが低くなる。
真面目に相槌を打ってくれるのが分かった。
俺は亜音と向き合い、両手を掲げて言った。
「降参だ。亜音の恋の魔法とやらに、すっかり虜にされちまったよ」
「そっか…」
亜音は微笑んでいた。
俺は心臓をバクバクさせていた。
俺はもう一押しする為、大きく息を吸い込み、言った。
「亜音が好きだ」
俺は今回ばかりは、亜音から目を逸らさなかった。
まっすぐにこの思いを伝える為、亜音のキラキラした瞳を捉え続けた。
顔が赤くなろうが、緊張で手が震えようが、それでも亜音から視線を外さなかった。
「やっと…やっと言ってくれた…」
亜音は目に涙を浮かべた。
「おい、泣くなよ」
「嬉しい…ずっと待ってた…シュウがあたしに『好き』って言ってくれるの…不安だったの、いつかシュウがあたしに愛想尽かして、また離れていくんじゃないかって…」
「そんな事ねぇよ!」
俺は亜音の肩を掴んだ。
「愛想なんか尽かすかよ。ただ恥ずかしくて、照れくさくて、亜音どころか自分の気持ちにさえも、まともに向き合わなかっただけなんだ。
俺は絶対に亜音の心から離れたりしねぇ。これからは俺も、亜音に俺の『好き』を伝えてやる。それが俺にかけてくれた、魔法のお礼だ」
俺は亜音を力強く抱き締めた。
亜音も俺の背中に両手を回した。
「好きだ」
「うん」
「大好きだ」
「あたしも」
「好きだ」
「うん」
「好きだ」
「うん」
「好きだ」
「うん」
「大っ好きだ…」
「うん…ありがと」
言えば言うほど、緊張がほぐれてきた。
抱き締めれば抱き締めるほど、亜音の優しい暖かみが伝わってきた。
ただただ、やっと『好き』が通じ合えて、嬉しかった…。
続く




