第15話『アシスタントの初仕事』
いよいよコミケに向けた、修一のペン入れ作業。
そんな彼に、亜音はアシスタント仕事を申し出る。
しかし、修一の同人誌は全てデジタル。
亜音に手伝える仕事が無い。
そこで修一が思いついた妥協案とは─?
第15話、どうぞ!
「シュウ、来たよー」
「ああ、入ってくれ」
土曜日の昼過ぎ。
オーバーサイズのパーカーにデニムジャケット、ホットパンツという格好の亜音がウチに来た。
数日前、亜音が『アシスタント仕事がしたい』と言い出した。
『できること何もねーと思うぞ?』と、俺は初めは断った。
しかし、『できることは何でもする』と言って聞かなかったので、仕方なく来てもらうことにした。
「お邪魔しまーす」
亜音はジャケットを脱ぎ、バッグと一緒に部屋の端に置いた。
「ねえねえ、何すればいい?」
「うーん…」
とは言っても、基本的に全てデジタルなので、ベタ塗りとかペン入れは亜音にはできない。
トーン貼りなんか、もってのほかだ。
アナログなら、多少は手伝って貰えるのだが。
「とりあえず、コレ読んどいてくんねーか?」
俺は机の下から、去年描いた同人誌を出した。
「これ、シュウのオリジナル?」
「ああ。読み終わったら、感想を聞かせてくれ。参考にする」
「それだけでいいの?」
「不満か?」
亜音はビクッとした。
心がチクリと痛んだ。
「悪ぃ、そんなつもりはねーんだ。ただ、亜音はデジタルの描き方は、さっぱり分かんねーだろ?」
「うん…」
「しょうがねぇよ。分かんねぇモンは分かんねぇ。だから、そんな亜音でもできそうな事を任せてんだ。読んで感想を聞かせる事ぐらいはできるだろ?
それにその同人誌は、サイトにあげたモノと違ってコミケで出したヤツだし、読んだ感想をまだ知らねーんだ。貴重なリアル読者の意見を、参考にさせてほしいんだよ」
俺は亜音の肩に手を置いた。
「一区切りついたら、マッサージ頼んでいいか?」
亜音に微笑みかけると、亜音は嬉しそうに笑った。
「うん!」
「じゃあ頼むわ。好きなペースでいい、じっくり読んでくれ」
亜音の肩をポンポンと叩くと、俺はゲーミングチェアに再び腰掛けた。
亜音は近くの座椅子に腰を下ろし、同人誌を読み始めた。
デスクトップの時計を見やると、もう1時間は経ったようだ。
後ろから亜音が鼻をすする音が聞こえた。
「ん?どうした?」
「これ…ヤバい…」
椅子ごと振り返ると、亜音は泣いていた。
「ちょちょちょっ、待て。泣くほど出来が酷かったのか?」
「ちーがーう。感動しちゃったの」
「はあ?」
亜音はページをパラパラとめくり、とあるシーンを見せた。
SFバトルのストーリーで、ライバルの死んでいくシーンだった。
「切ないけど、心が暖かくなった。戦闘シーンは激しくて、描写が細かいけど分かりやすかった。見ていて熱くなった…」
「お、おう…」
「コレすごい。普通に漫画として出版してもおかしくないと思う。何なのかな…これがシュウや舞奈が言う、『尊い』って感情かな。胸が苦しくて、熱いの」
いや、最後待て。そのセリフはアカン。
俺は鼻血が垂れそうになり、慌ててティッシュを探した。
「何やってんの?」
「お前さ…ずるいわ」
「いや、なんで鼻にティッシュ詰めてんの?」
「あのさ…お前『尊い』について、何て言った?」
「え?『胸が苦しくて熱い』って…」
そして、亜音は顔を真っ赤にした。
「…エッチ」
「どっちがだ」
「あーもう忘れて!!無かった事にして!!」
同人誌で顔を隠しながら亜音が叫んだ。
誰かめちゃくちゃ気まずいこの空気、何とかしてくれ…。
読み終わるごとに、俺は次の同人誌を渡しては、亜音に読ませた。
かれこれ5冊目を読み終わった頃には、一区切りがついた。
「うーし、少し休憩だ」
俺はペンを置くと、カーペットの床に腰を下ろした。
「マッサージ?」
「ああ、頼む」
俺は背を向けると、肩を指差した。
「わぁ、だいぶ凝ってるね」
「ああ、机に向かう時間が長ぇからな」
亜音の細い指が、俺の肩をほぐしていく。
「上手いな」
「両親共働きの家庭だしね。毎日やってあげてんの」
「親孝行なこって…おうっ」
亜音の親指が、肩甲骨の付け根に食い込む。
「ちょっ、変な声出さないでよ」
「悪ぃ、気持ち良くてつい」
うつ伏せになると亜音が跨り、背中から腰の指圧を始めた。
「なあ、亜音」
「なに?」
「俺と付き合ってて、楽しいか?」
「何よ急に。別れ話は勘弁してよ?」
「ちげーよ。ただ、ろくにデートしてもねーのに、ウチに来て同人誌読ませるだけで…つまんなくねーのか?」
亜音は突然、背骨に肘鉄を食らわしてきた。
「ぐっふ!」
「バカね。楽しいに決まってんじゃん」
声が優しかった。
「たとえデートじゃなくても、あたしはシュウと2人きりでいられるのが好きなの。
シュウはあたしの知らないこと、いっぱい教えてくれるし、気遣ってくれる。
そんな優しいシュウと一緒にいられるのが、つまらないわけないわよ」
「そーかい。ありがとよ」
俺はフッと笑みが零れた。
安心した。
そう言って俺を好いてくれるのが嬉しかった。
「そーいえば」
「何よ」
「いつの間にか尻が当たってんぞ」
「バッ…!な、何言うの急に!」
「いやー、ホットパンツに黒ニーソとか最高ですか。ご褒美かよ」
「ほほーぅ…なら、とびっきりのご褒美をあげる!!」
「ぐえっ!!」
亜音は俺に跨ったまま、チョークスリーパーをかましてきた。
後頭部に亜音の胸の膨らみを感じた。
「どーお?あたしからのスペシャル大サービスは!」
「ありがとうございます!!てか、当たってんだよ!!」
「当ててんのよ、このドスケベ!!」
「ご馳走様で─あだだだだだ!!」
そんなプチ騒ぎもあったが、原稿は予定通りのペースで終わった。
つーか亜音って、見た目以上にあんのな…。
続く




