第14話『修羅場への打ち合わせ』
コミケ抽選に受かった修一。
早くも準備段階に入るも、人員不足に悩む。
有紗も、コスプレサークルのメンバーが仕事の都合で来れなくなり、最悪1人で参加しなければならない様子。
姉弟揃って危機的状況の中、名乗りを上げたのは亜音と舞奈だった…。
どうなる第14話!
10月末の授業中だった。
隠し持っていたスマホが、1件のメールを知らせた。
俺はその内容に目を丸くした。
「っしゃあ!!」
ガッツポーズをして立ち上がった俺は、たちまちクラス全員から注目を集めてしまった。
「須藤くん。後で職員室に来なさい」
「…ウッス」
ついでにスマホを没収された。
「だから言ったのに…」
放課後、俺達のクラスに悠月と舞奈が集まった。
亜音は呆れてため息をついた。
俺は担任と学年主任にこっぴどく叱られたあと、なんとかスマホを返してもらった。
「で、報告って何よ?」
「よくぞ聞いてくれた」
俺は待ってましたとばかりにニヤリとした。
「冬コミの抽選受かった」
「おめでとー!!」
3人はバラバラに拍手した。
「有紗さんは?」
「アイツは当日に登録して参加だ。絵師と違って、レイヤーは抽選というのが無ぇ」
「マジかよ」
悠月は驚いた様子だった。
「毎回クオリティ高いのよね、アリシアさん。今年は何だろ…」
「さあな。当日まで内緒にしてるし」
舞奈は舞奈で夢見心地だった。
「てことはシュウ…しばらく忙しくなる?」
「いや、今週中にネーム決めて、コツコツ進める。これだけ時間に余裕があるんだし、十分入稿に間に合う」
そう。俺は普段から思いついた内容はネームにまとめて、コミケの為にストックしてあるのだ。どれを販売してもいいように。
しかし…。
「問題は売り子なんだよな…」
「1人ではダメなの?」
「トイレも飯も行けねーだろ。苦行過ぎるわ」
「その為の売り子なのよ」
「そっかぁ」
亜音は腕を組み、しばし考えた。
そして…。
「じゃあ、あたしがやる」
「おっ、マジか」
自ら名乗り上げてくれた。
「待って亜音。コミケ行ったことないでしょ?大丈夫なの?」
「そうだぜ?地区の祭りなんかとは比べ物になんねー規模なんだぞ?」
「え、そうなの?」
亜音は驚愕した。
オイオイ、まさかホントにそう思ってたんじゃねーだろうな。
「考えてみなさいよ。コミケは全国から10万人以上も来るのよ?それも3日間も。たかだか1000人前後ぐらいしか来ない地区の祭りなんか、比じゃないわ」
「始まった途端、満員電車みてーに混みやがるしな。押しくら饅頭しに行くようなモンだぞ?」
「えぇ…」
亜音は明らかにげんなりしていた。
「まあ、クリエイター側なら人混みに飲まれる心配はねーよ。販売の手伝いさえしてくれりゃいい。極力、亜音には手を出させねぇ」
俺はチラッと亜音を見やった。
「やってくれるか?」
亜音は力強く頷いた。
「やってみる。ただ、分からない事だらけだから、その都度教えて」
「任せろ」
俺はニヤッと笑い、それから舞奈に目を向けた。
「舞奈の分、取っとこうか?」
「いいの!?」
「何冊欲しいんだ?」
「えーと…3冊!」
「よーし、分かった。取り置きしとく」
「交渉成立!」
舞奈は俺と拳をコツンとぶつけた。
「あ、ユズと亜音はどうだ?」
「いらねぇ」
「いらない」
だろうな。
『へー。そっかぁ、みんな来るんだ』
その夜。
俺は有紗とボイスチャットをしながら、ネームを粗探ししていた。
「ああ。んで、亜音が今回売り子してくれる事になった」
『亜音ちゃんが!?大丈夫かなぁ〜』
「心配無用。俺がフォローする」
ネーム原稿をパラ見しながら、俺は力強く言った。
「姉貴はどうなんだよ。今年もサークルの人と3人ですんだろ?」
『それなんだけどさ…』
有紗は声のトーンが下がった。
『来月から出張で来れないみたい。「向こうで年越しする」って聞いたの』
「マジかよ。ボッチ乙」
『1人でとか無理だよ〜』
画面の向こうで、有紗が悄気ているのが分かった。
『他に呼びたくても、カオルとアズサ以外交友関係無いし…』
カオルさんとアズサさんは、有紗のサークルに所属するレイヤー仲間だ。
「SNSで訊けねーのかよ。『冬コミ当日私とコスプレしませんか?』とかよ」
『あまり遠い人だと遠慮しちゃうかな〜。どうしてもサイズ合わせの為に、1度は来てもらわなきゃだし。欲を言えば23区内の人がいい』
「たしかに…ん?23区内?」
俺はちょっと待て、と思った。
「待てよ。23区内でも、けっこうファンいるんじゃねーのか?最低でも数千人はいるぞ、多分」
『あー、そっかぁ。やっぱリアルの人脈から探さなきゃか…』
とは言っても、有紗はネットではともかく、リアルの人脈はかなり狭い。
話が進まない。どうしたものか…。
『ねぇ、舞奈ちゃんにお願いできない?できたら悠月くんにも』
「バカか。俺のダチ巻き込むんじゃねぇよ」
『うぅ…』
有紗はますます萎縮した。
だが、他に考えられる手は無さそうだ。
俺はため息をついて言った。
「まぁ、訊くだけ訊いといてやるから。ボイチャのリク送るわ」
『お願いします…』
「まぁ期待すんなよ。多分あの2人は乗り気じゃねーと思うし。特にユズがな」
念押しを入れると、俺は舞奈のアカウントにボイスチャットのリクエストを送った。
『え、コスプレの代役?いいですよ!』
「は!?」
まさかの快諾だった。
「待て待て、ユズはどうすんだよ。アイツ、コスプレしねー主義じゃね─」
『ユズは私が上手く説得するわ。アリシアさんの頼みだもん、これはファンとして協力しなきゃ』
「いや、どーゆー使命感だよ」
まさかこんなにあっさり了承するとは思わなかった。
もう少し抵抗あるかと思っていた。
「いや、舞奈。お前コスプレ平気なのか?」
『平気よ?イベでやった事無いけど、家ではたまにする』
「マジかよ…」
『アリシアさん。私で良ければ、メンバー代行させていただけませんか?』
『喜んで!!ありがと舞奈ちゃん…!!』
有紗が嗚咽を漏らす声が聞こえた。いや、多分大げさな演技だわコレ。
『お礼はたっぷりする!ご飯も連れてってあげるし、あ、何ならホテル予約しといてあげるから!』
『あ、当日ユズんとこの車で送ってもらうんで大丈夫です』
「まさかリムジンじゃねーだろうな」
『そんなまさか。たかがコミケの送迎にリムジンは使わないでしょ。目立つし』
待って?あることは否定しなかったよな?
「飯に関しては…まぁ俺ら姉弟のイベに巻き込んじまった詫びで、割り勘で出すわ。なんかホント、申し訳ねぇ」
『いいわよシュウは。亜音と2人で行ってきたら?2人でゆっくり楽しんで来なさいよ』
「ああ、お気遣いどうも。コス写送れよ」
『御意!』
「武士かよ」
それからボイスチャットを切った俺は、押し寄せてきた胃痛に顔を歪めた。
ホント…巻き込んで申し訳ねぇ…。
続く




