第11話『舞奈の迷い』
ある日の昼休みに、舞奈から『放課後付き合ってほしい』と頼まれる修一と亜音。
悠月は『用事で休んでいる』との事。
その理由は、3人が訪れた場所で明確になった…。
舞奈の口から明かされる胸の内とは?
それを聞いた修一と亜音は─。
どうなる第11話!
10月のとある日。
「やほー」
中庭の木陰で亜音と涼んでいると、舞奈がやって来た。
「あれ?ユズは?」
「今日休んでるの」
「アイツが?風邪か?」
寝耳に水だった。
普段取り巻きと一緒にいる姿を見慣れていただけに。
「違うわよ。用事でね」
「組のか?」
「んー、まぁそんなとこ」
「どーゆー事だよ」
「今は教えない」
舞奈はペロッと舌を出した。
「ところで2人とも、放課後予定ある?」
「無いよ?」
「依頼が1件だけ」
「じゃあ、ちょっと付き合ってくれる?」
「何だよ」
「それもまだ教えない。とりあえず、一緒に来て欲しいの」
俺はだんだんモヤモヤしてきた。
そんな俺の表情を察してか、舞奈は手を合わせて懇願してきた。
「お願い、今は訊かないで。後でちゃんと説明するから」
きっとこの場で言えないんだろう、と俺は勘ぐった。
「分かったよ。亜音は大丈夫か?」
「あたしもいいよ」
「ごめんね、ありがと。じゃあ、また放課後にね」
舞奈は踵を返し、歩き去った。
「舞奈…何か隠してる事でもあんのか?」
「どうだろ。またあの店なら、あたしは帰るけど」
「にしてはおかしいだろ。多分、趣味は関係無さそうだな」
俺の予想が当たるとは、この時想像してすらいなかった。
てなわけで放課後。
「ここよ」
舞奈に案内され着いた場所は、古びた墓地だった。
しかも…。
「『日髙家之墓』って、まさか…」
「ここに納骨されているのは、ユズの両親のよ」
墓の前には、たくさんの花や酒、菓子箱などがお供えされていた。
きっと生前は、多くの人に慕われていたのだろう。
舞奈は線香にマッチで火をつけ、墓前に供えた。
俺と亜音は、花屋で買ってきたコスモスの花束を置くと、舞奈と共に合掌した。
舞奈は墓石に話しかけた。
「悠月のお父さん、お母さん。今年は友達と共に来させていただきました。悠月が今日、ここに来たと思います。
今年も悠月に、新しい友達ができました。仲間思いの優しい、絵の上手な友達です。
悠月は相変わらず元気です。そして、みんなと仲良くやっています。若頭として、慕われてもいます。
私はそんな彼が大好きです。幼い頃からずっと。
しかし時々、彼の背負うものを思うと、私はこれからも彼のそばにいていいのか、将来の彼に相応しい存在なのかと、不安でたまりません。
私はどうすればいいのでしょうか?どうあるべきなのでしょうか?
答えは分かりません。でも、いずれ見つけ出します。その時には、お二方にまたここで伝えさせていただきます。
これからも私は、お二方に代わり彼を日高組の方々と共に、幼なじみの友達として支えていきます。
どうか見守っていてください、私達のこれからを」
俺と亜音は、黙って聞いていた。
舞奈は再び合掌し、立ち上がった。
「さ、積もる話は別の場所でしようか」
舞奈は手招きし、俺達を別の場所へ案内した。
墓地から離れたベンチに座ると、舞奈は語り始めた。
「14年前、ユズが産まれて間もない頃に、お父さんが病気で亡くなったの。お母さんはその数日後、暴走車に轢かれてね。
それからは、お祖父さんや屋敷の人達と一緒に暮らしてるの。今もずっと。
お父さんは病弱だけど、豪放磊落で人情味溢れる人だった。
ユズのお母さんは元々OLだったけど、荒んでた頃に出会って、精神的に救われてから好きになったみたい。
お二方とも、産まれたばかりのユズを大変可愛がってたそうよ。でも、長いこと愛情を注ぐことはできなかった。
小2の頃にユズが屋敷を抜け出したのは、普通の家庭じゃないことや、組織の若頭であるプレッシャーだけじゃない。両親がいない寂しさもあったんだと思う。
ユズはきっと、こんな辛いこと言いたくなかったんじゃないかな。だからシュウや亜音に言わなかった。今日の墓参りのことだって…」
舞奈は涙目で、俺たちを見据えた。
「どうかユズを責めないであげて。辛い胸の内をなかなか打ち明けられないのは、2人がよく分かってるでしょ?」
「ああ…」
「うん…」
知らなかった。
悠月がこんなに暗い過去と、ずっと向き合ってたなんて。
俺は、今日のことを言わなかった悠月を責めたくても責められなかった。
「私、ユズが好きだからこそ、今までも、そしてこれからもユズが背負っていくものに、自分を加えたくないの。一緒に暮らすってことは、私の人生も加わるから。
ユズのことずっと好きでいたいし、報われたい。この10年近く、ずっとそう思ってきた。ずっと苦しんで、悩んできた。
でも、そろそろ終わりにしたいの。結論を出して、ユズとこれからどう向き合っていくか、考えたいの。
けど分からないの。どんなに考えても、なかなか結論に辿り着かない。それが悔しくてたまらないの。だから…」
舞奈は両手で顔を覆い、泣き崩れた。
なかなか難しい問題だった。
舞奈も悠月も、お互いに運命を共にするのが怖いんだろう。
舞奈が悠月と結ばれるってことは、日高組の看板を舞奈も背負う事になる。
悠月はそうしたくないし、舞奈もさせたくない。けど、2人とも好きでいることを望んでいる。
だから、簡単に告白できないでいる。
全てはそういう事だった。
俺には同年代の考える恋バナの類はさっぱり分からないが、中学生にしてはあまりにも重い問題だというのは分かった。
そして俺は、ふとある事を思い出した。
「俺がなんでお前らを信じようとしたか、知ってるか?」
「なに?」
「お前らが俺を特別視しなかったからだ」
「あっ…」
舞奈と亜音は、同時に気づいた。
「ユズに比べりゃ、俺は大したもん背負ってねェ。両親を失った過去も、大組織の看板背負った事も。
けどな、そこそこ名の売れた絵師とか、絵の上手いボッチとしてじゃなく、亜音は近所に住むクラスメートとして、舞奈とユズは亜音の友達として、俺に普通に接して来てくれた。俺があんな過去があってから、一番望んでた事をお前らが叶えてくれたんだ。俺はそれが嬉しかった。だからお前らを信じてみたかった」
俺は立ち上がり、舞奈に指を突きつけた。
「舞奈はどうなんだよ。ユズはお前の幼なじみで、好きな人なんだろ?
そんな長い付き合いでありながら、それでもユズを組織の人間として見るか?そうやって特別視して、以前の俺みたいに距離を置き続けるつもりか?
人ってのはそんな感じで、離ればなれになるんだよ。舞奈はユズと離れたいのか?答えろよ」
舞奈は目を見開き、ワナワナと震えた。
「…やだ」
「聞こえねーよ」
「嫌だ」
「ハッキリ言え」
「嫌だ!!離れたくない!!」
舞奈はいきり立った。
「ずっと好きでいたい!!付き合って、結婚して、人生を共にしたい!!離れたくないよ!!」
舞奈は涙を流すまいと、唇をギュッと結んだ。
「だったら、もう答えは出たな?」
「うん。私、ユズに告白する」
「よく言った」
俺はニヤリと笑ってみせた。
「女はワガママでなんぼ。それに振り回されんのは、男の役目。現に、舞奈はどんだけアイツを振り回してきたよ?」
「数えきれない。でも、ユズは嫌味を1度も言わなかった」
「だったら十分だ。早くくっついて、どんどん甘えろ」
「うん、ありがとう」
舞奈は涙を拭い、頷いた。
墓地を後にし、家の前で俺達と別れた舞奈は、清々しい笑顔だった。
俺も雲がかった心が晴れて、スッキリした。
「まさかシュウが舞奈を諭すなんてね」
帰り道、亜音は言った。
舞奈の話の最中、コイツはずっと泣いていた。
「俺と重なって見えたんだ。けど、俺がお前らを信じたように、舞奈にも悠月のことを信じてやってほしかった。そんだけだ」
「そっか。やっぱり根は優しいんだね」
「お、俺は別に優しくなんか…」
「ううん。シュウは優しいよ。あたし達の事を大切に思ってくれてる証拠、見せてくれたじゃん」
「…そーかよ」
俺は照れ臭さを隠すようにそっぽを向いた。
「シュウの説教聞いてたら、あたしも踏ん切りがついちゃったかな」
「何のだ?」
亜音は俺の前に立ち、言った。
「あたし、シュウが好き」
亜音は満面の笑顔だった。
「ぶっきらぼうだけど優しくて、冷たいように見えて本当は情に厚い。そんなシュウが、あたしは大好きです。付き合ってください」
亜音は手を差し出した。
俺は、生まれて初めての告白に戸惑うばかりだった。
何年も人を疑って避けてきたからか、どう答えていいか分からなかった。
でも亜音は、この数週間で抱いた想いを今、こうして俺に打ち明けてくれた。
正直なところ、亜音の事は嫌いじゃない。
むしろ…。
「いいのか?俺、恋愛とかさっぱり分かんねーけど」
「いいの」
「ヲタクだけど、いいのか?」
「気にしない」
「絵師の仕事で忙しいけ─」
「あーもう!!」
亜音は俺の胸ぐらを掴み、思い切り引き寄せた。
「関係ないわよ、そんなの」
亜音の唇が、俺の唇と重なった。
亜音はパッと手を離した。
「あたしが教えてあげるから、恋を。これは、最初の魔法ね」
亜音は悪戯っぽく笑った。
こうして俺は、亜音という魔女に恋の魔法を掛けられた。
冷え切った俺の心が溶かされていく、炎のような情熱に溢れた魔法だった。
続く




