第1話『ヒロインは突然に』
てなわけで始まりました、『冷徹絵師は恋の魔法に掛けられて』第1話です。
この作品は主人公が絵師、もといイラストレーターという設定となっております。
ぶっきらぼうな修一、陽気な亜音、豪放磊落な悠月、しっかり者の舞奈の4人の物語をどうぞご覧下さい。
「修一、着いたよ」
母さんに声を掛けられ、俺は目を覚ました。
助手席のシートから身を起こすと、小洒落た白いアパートが見える。
そこが、新しい俺の住居だ。
夏休みもあと10日に迫った、とある日の昼過ぎ。
俺こと須藤修一は、東京の郊外に引っ越してきた。
丘の上に位置する、寂れた住宅街だった。
「修一、ご近所さんに挨拶してくるけど、一緒に来る?」
「行かねぇ」
俺はそう言って、新しい自室へと引っ込んだ。
ダンボール箱に詰めた機材類は、既に届いていた。
俺はデスクトップやハードウェア、ペンタブなどを取り出し、接続作業に移った。
幸いこのアパートは、全室インターネットに接続されていた。
手元のスマホで確認してみる限り、なかなかの電波だ。
隅に置かれた机に、様々なコードを繋げた機材を置いていく。
ものの1時間程度で、俺の作業場は出来上がった。
俺は中学生にして、某イラストサイトでは10万人を越えるフォロワー数を有する、非公式のイラストレーターだ。
今でこそイラスト界隈では有名だが、現実は違った。
親父の単身赴任の都合で転々とした学校で、その趣味を馬鹿にされた挙句、滅茶苦茶にされて晒し者になったせいで、不登校児となった。
お陰で俺はネットのファンを除き、誰も信用しなくなった。
どうせ今回の場所も、長続きしないだろう。
極力誰とも関わらず、誰にも内緒で趣味にふけりたい。
嫌われたって構わない。
元々、人付き合いは苦手なのだし、自分から関わりたいとも思わない。
俺は他人に興味が無かった。
晩飯はまだ食料もろくに揃ってない為、宅配ピザとなった。
マルゲリータを口に運んでいると、母さんが今日のご近所挨拶の事を話していた。
「そうそう。近所にね、あんたと同い年の子が住んでたの。この街で小学校時代から、ずっと同年代の子がいなかったんだって。良かったら仲良くしてあげて」
「ふーん」
心底どうでもよかった。
同年代が他にいない?だから何だよ。
俺は誰ともつるむ気は無いし、最低限の勉強ができてそれなりに成績残せりゃ、それでよかった。
俺の中学校生活に、これ以上の関わり合いは必要ない。
どうせ、どいつもこいつも寄ってたかって、俺の趣味を馬鹿にしてくるんだから。
部屋に戻ろうとした時、インターホンが鳴った。
「修一、手が離せないから代わりに出て」
「へーい」
めんどくせ、と舌打ちをしながら、俺はモニターを覗いた。
母さんが言っていた、例の同級生だろうか。
ショートヘアの女子が、ウチの前にいた。
「何か用か?」
ドアを開け、彼女を見下ろす。
「夜分遅くにごめんね。あなたが須藤くん?」
彼女は澄ました表情で問い掛けてきた。
「あたし、西垣亜音っていうの。今日引っ越してきた訳だし、新学期も控えてるから、挨拶しに来ようと思って。学校も学年も一緒なんでしょ?」
「だったら何だよ」
「その…良かったら初日、一緒に学校行かない?道案内してあげるからさ」
「いらねぇよ。別に1人で行けるし」
俺はそう言って、ドアを閉めようとした。
だが、彼女に慌てて止められた。
「待って待って待って、気に触ったらごめん。多分あなたのお母さんから聞いてると思うけど、ここ7年以上同級生がいた事なくて、ちょっと舞い上がってたの。ほんとゴメンね。嫌ならいいの、あたしも1人で行くから」
「あっそ。じゃあな」
俺は今度こそドアを閉めた。
いや待って?
俺、女子だなんて一言も聞いてねーぞ?
しかもこんな時間に押しかけて来やがって。
何この求めてないラブコメ的展開。
俺全く期待してなかったんだけど。
俺は西垣亜音と名乗る彼女が、ドアを閉めた際に見せた寂しげな表情が気になって仕方なかった。
勘弁してくれよ…。
俺の心を掻き乱すなよ…。
続く