24、両親公認の恋人に昇格
ででーん!とでっかい狼の登場に、ここ数日で私を見慣れた筈の町民ですらも萎縮したまま頭垂れた。
まぁ、気持ちはわかる。
父は私より二回り程大きいし。
あの口が開いたら、その中に人間の頭ひとつ位楽に入りそうだもんな。
因みに母は父が大きく口を開けた際に「のどちんこ発見!」と叫んだらしいが。
「ヴァーリアアアアっっ!!良かった、無事だったか!」
「うぐっ……母様、心配をお掛け致しました」
大のもふもふ好きの母は、私の首にがしっと両腕を回し、頭を撫でながらすーりすーりと顔を寄せる。
母が涙目になっていたから何も言わないけど、すーりすーりの限度を越えて地味に痛い。
私の顔がひしゃげているのにお気付きだろうか?
それどころじゃないですね、はい。
「怪我はない?」
「大丈夫です、軍隊の皆が直ぐ助けに来てくれたので」
母に聞かれて私は直ぐ様尻尾を大袈裟に振り「だから誰も処罰しないでね!」モードを発動したが、父は私のゴマスリをスルーして言う。
「いや、本来ならもっと早く助けるべきところを、助けるのをわざと遅らせて済まなかった、ヴァーリア。お陰で今回猛獣の大量発生に関する騒動を起こした組織やら犯人やらを一網打尽にする事が出来た……全てお前達のお陰だ」
……ん?今何と?
私は父の言葉を聞き間違えたのかと思い、耳をピクピクと動かす。
「エーベルハルトという猛獣調教師は何処にいる?」
「こちらに、陛下……偉大なる狼王様にご挨拶申し上げます」
父の呼び掛けにエーベルが一歩前に出て、敬礼する。
「この度は、定期的なヴァーリアの無事の確認と救出に尽力して貰って感謝する。悪かったな、ヴァーリアの安全を最優先にと申し出てくれたのに、応えられず……だが、娘をそこまで大事にしてくれていて、正直嬉しく思った」
ここで父、破顔。
エーベルは敬礼したまま、「差し出がましい真似を致しまして……申し訳ありませんでした」と謝罪している。
……何なに!?何の事!?
私はエーベルと父を交互に見つつ、事態を図りかねていた。
母がそんな私にこっそりと耳打ちする。
「陛下はあまり頭脳派じゃないからさ、宰相や将軍の説得にどうしても反対意見を押し通せなかったんだよ……ごめんねヴァーリア。エーベルハルト君から直ぐに救出するって連絡貰ったんだけど、蜥蜴の尻尾切りさせない為に可愛い娘を売買させて組織を把握、壊滅する方向に話がいってしまって……」
なんだとうっっ!?
私が一週間無事だったから良かったものの、毛皮にされてたらどうしてくれたんだっ!!
私は口を尖らせた。狼型だから気付いて貰えないけど。
「エーベルハルト君が、『ひとまず命令には従いますがもしヴァーリアの安全が保障できなくなったら、命令に背いてでも助けます』って連絡くれて、私も陛下もそりゃもう逆に安心して計画の実行を命じる事が出来たんだよ」
半眼になった私に、「本当にごめんね~」と母。
娘の命大事にしてくれよ!
……いやしかし、私が檻の中に入っていた最中、エーベルが多分ずっとなんかしらの方法で無事を確認してくれていたって事か。
本当に有難い。
考えてみれば、私の無鉄砲さが招いた事態を好機とした訳だし、どうやら私も隊長達も怒られるどころか誉められてるし、父は私に後ろめたさを感じているみたいだし……逆にこれはラッキーでは!?
私がニンマリしていると、父はエーベルの功績をたたえて褒美が云々という話に移行していた。
エーベルは、真っ直ぐに父を見て言う。
「……では、恐れながら陛下。平民出身の身ではございますが、どうか今後もヴァーリア様のお側にいる事をお許し頂けますでしょうか?」
父が固まった。その後ぐぎぎ、と私を見て言う。
「……ヴァーリア、彼とはどういう関係だ?」
「あ、昨日から恋人です」
「「!?!?」」
隊員はざわめき、母は興奮して私の顔をむにむにしながら「聞いてないっ!どゆこと!?」と目を輝かせ、父の綺麗な毛は全身ぼわっと逆立った。
寝耳に水で申し訳ない。
なんせ昨日の事だから、報告も出来ませんでして。
でも、多分、エーベル程の能力があれば父は身分なんて気にしないと確信していた。
能力のある者には、身分を与える事もできるしな。
「……ヴァーリアより強くある自信はあるか」
「はい」
「……そうか。……わかった……認……め………よ………………ぅ……」
父、語尾小さくめっちゃ嫌そうに頷く。
ともかくこうしてエーベルは、私の恋人として両親に認知される事となった。
因みに後で何で嫌そうだったのか父に聞いたら、「彼の持っていた鞭が物凄く気に食わなかった」と言っていた。やっぱり私達は親子だ。
***
その後、私は父と一緒に例の花が群生していた現場を見に行った。どうやら、私を売り飛ばそうとして捕まった組織の目的は猛獣の素材だったらしく、猛獣の子供を乱獲する為に猛獣を発情させていたという。
シーズン関係なく発情させれば確かに子は増えるが、縄張り以外の問題でもその弊害は大きい。妊娠した親が本来の子育て期間を経ずに幼子を放置し、亡くなってしまう子が増えたり、生存本能が強く働いて共食いが増えたり。
今回の猛獣の闇売買組織の主犯格は、他国の人間だったらしい。その人間は、この国のそれぞれの森に生息する固有種を狙い、猛獣の売買許可証を持っている人間に近付き、森に花を植えさせた。
花は改良が重ねられ、物凄い繁殖力で増えていく。
増えた幼い猛獣を捕獲した後、国内で売買をするのは危険だが国外まで運び出せさえすれば、ほぼ安全に売買する事が出来てしまう。
ただ、猛獣遣いの手に余る状態になってしまうのは想定外で、国が調査に乗り出してしまった……。
「この花は自然物ではない。全て焼き払え」
「はっ」
父が命じ、軍隊が風向きや火の勢いを考慮しつつ、その一帯を燃やした。
私は父の横に並び、赤く立ち上る炎を眺める。
「……あの、父様。もしかして今回の調査って……もうおしまい?」
一年はかかると言われていたのに、あっけない幕引きにちょっと驚く。
でも、早く兄妹に会いたい気持ちもある。
「いや、本来あるべき正しい生態系になるまで、後一、二年程、調査自体は続けてくれ」
「はーい」
その時、風向きの変わった突風が吹いて、火の粉がこちらに舞ってきた。
私は風に靡いた肘位の長さの銀色の髪の毛を、手で押さえる。
うーん、カツラの中に入れていた時には気付かなかったけど、ちょっと煩わしい長さになってきた。
結ぶか切るかしなければ。
「陛下、ヴァーリア殿下。もう少しお下がり下さい」
「そうだな。……ヴァーリア、そろそろ町に戻ろう。お互い疲れただろう」
「うん」
隊長に声を掛けられ、私達は火に背を向けた。
花の効果を軽減させる為に、私達親子は狼ではなく人間の姿を取っている。
私は昼間に人型は辛いし、父に至っては一日の殆んどを狼型で過ごす人だ。
だから、花がきちんと焼かれたのを見たらさっさと退散したかった。
狼の姿で町に戻ると、私に子供達が群がってきた。
「ヴァーリア様!また人になってよ!!」
「凄く、綺麗で可愛かったのにー」
「お姫様みたいだった!!」
……や、最初からお姫様なんですが私。
私をもふろうとする子供達を、町民達が引き剥がそうとする図ももう慣れたものだ。
「ちょっと、皆離れなさい!ヴァーリア様は第一王女殿下なのですよ、失礼です!!」
「大丈夫です~」
「ヴァーリア殿下、子供達を甘やかさないで下さい!」
えっと、ごめんなさい。
私は子供達に別れを告げ、母とエーベルがいる猛獣隔離室に向かった。
私の後ろをついてきた隊員達が、こそこそ話しているのが耳に入ってくる。
「でも本当にまた人型も見たいな」
「マジで綺麗過ぎた。ヴィーニル殿下は可愛いが、ヴァーリア殿下はヴィーニル殿下と似てるのに綺麗だよな」
「妹殿下は皇后陛下、ヴァーリア殿下は陛下似だろ」
「昼間も人型とれるとか知らなかった。誰か知ってたか?」
「エーベルハルト殿は狡いな、絶対昔からヴァーリア殿下の人型知ってただろ」
褒めてくれるのは勝手にしてくれて構わないが、エーベルが狡いと言われてムッとする。
何が狡いだ。
狼型であっても人型であっても私は私だ。
どちらの私も大切にしてくれるのがエーベルなだけであって、人型を見た途端にチヤホヤしてくる奴等と一緒にしないで貰いたい。
私は口を尖らせる。
狼型だから、誰も気付かない……筈、なのだが。
「エーベル」
「お帰りなさいませ、ヴァーリア様。……森で何か嫌な事でもございましたか?」
「いや、ないよ?」
「ではなぜ口を尖らせているのですか?……まぁ、そんなヴァーリア様も大変可愛らしいですが」
うん、流石エーベルだ。
……いいじゃないか、変態でも。




