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1、二人の出会い

※ウサギを飼っている方には残酷描写入ります。

長閑な昼下がり。

私はお腹を冷たい土につけて、モフーンと一人涼んでいた。


自慢の艶やかな銀の毛が汚れるけど、まぁ気にするこっちゃない。

王城内には、私達銀狼兄妹達の為の足洗い場がいくつも点在してるしね。


兄妹達は、賑やかに木登りに勤しんでいる。

妹よ。耳と尻尾が出たままだが、それで良いのか?可愛いから良いか。



さてさて皆さんこんにちは。

私は先祖返りした銀狼である父と、普通の人間の母を持つ獣人(ハーフ)な子供……のうちの、一人である。私達は五つ子なもんで。因みに男は三人、女は二人だ。


元々我が国では、先祖返りをする事自体が珍しいらしく、ほぼ人型をとらない父はひっそりと王城の裏にある隔離された塔で過ごしていたらしい。


だが、たまたま父の兄弟が流行り病で亡くなってしまったらしく、父に王家の血を引く跡継ぎを作らなければならない義務が発生した。そこで父に慣れていた母と結ばれ、めでたく私達が生まれたという話だ。


私達を取り上げた産婆と医師は、愕然としたらしい。


何故なら私達は、弟一人を除いて全員が先祖返りした状態で生まれたからだ。これには母も、悲鳴を上げた。歓喜の方ね。


で、父の様にひっそりと……ではなく、全員が王城内で堂々と育てられる様になったのである。


小さく生まれた私達は、そりゃもうぐんぐん育った。

生まれた時に人間の姿だった弟は、夜だけ狼の姿になった。


生まれた時に狼の姿だった兄達は、一人は父と同じく殆んどを狼の姿で過ごし、もう一人は直ぐに人間の姿を作れる様になり、どちらの姿になるのも苦ではないらしい。私の妹も、どちらの姿にもなれるのだが、結構耳や尻尾をしまい忘れる事がある。可愛いから誰も教えない。


で、私はというと、弟と逆で、夜だけ人間の姿になるのだ。父曰く、恐らく成長するにつれて全員が自由意思で狼にも人型にもなれる様になるだろうとの事。


しかし私は、仮に自由意思で変化出来たとしてもそれはずっと自分の胸のうちにしまっておくつもりである。

やー、うちの両親に限って積極的ではないだろうけど、昼間に狼なら絶対政略結婚とか無理でしょう。ラッキーである。何だかんだで我が国は住みやすいしね。



狼だから、ハッキリ言って身体能力が五人とも高い。

流石に国民の血税である国庫でニートするのはいけないので、この身体能力を活かした仕事に就ければ言う事はない。夜警なんて如何だろうか。視力は普通だけど、夜目はきくんだな。


そして、こっそり恋愛結婚出来れば良い。私は父や母の様に、ラブラブな毎日を送りたい。

それが、八歳になった私の将来設計である。




***




兄妹達の笑い声に混じって、微かに子供の悲鳴が聞こえた。


……?


今、狼型なのは自分だけだから、仕方なく身体を起こす。私達は通常の人間よりもずっと耳はよく聴こえるけど、人型の時は狼型よりは聴力が劣る。そして、先程の子供の悲鳴は狼型の私が辛うじて聞き取れる位だったから、私以外誰も気付いていない。


……うん、やっぱり王城の裏の森から何か聞こえている。


「ちょっと森で一駆けしてくるね」

「待って姉様、僕も……!!」


弟のイオがついてこようとしたが、昼間は人型しか取れない彼は私に追い付けない。王城の裏の森には、猛獣が住み着いている。我々がその頂点だから襲われる事はないが、国民は違うのだ。


結構な全速力で、悲鳴がした方へと駆けた。

木々が身体にピシピシと当たるが、それによって速度が落ちる事も身体が傷つけられる事もない。ただ駆ける。それがこんなに心踊るのは、私が子供だからなのか、それとも狼だからか。



「……!!……だぞっ!!あっち行け!!」

私がその場に到着すると、同じ年頃の人間が鞭を使って猛獣を威嚇していた。


私の足の速さをもってしても、到着するまで五分はかかっただろう。

よく襲われずに生きていたものだと思ったが、少年の持っている鞭から何となく嫌な感じがする。恐らくあれで時間を稼いだんだな、と推測出来た。


グルルルル、と猛獣は鋭い牙と爪を剥き出しにし、今にも少年に飛びかかりそうだ。


私は高くジャンプすると、少年を背にしてその前に踊り出た。

「うわあああっっ」

急な(わたし)の出現に、パニックになる少年。


鞭を振り回すものだから、見事に私の尻にパシンッッ!とクリティカルヒットした。



おいお前良い度胸だな!王女に鞭を当てるなんて!!



イラっとしながら、少年への威嚇を我慢し、ここに到着するまでに捕まえ口に咥えていた野うさぎをポイと猛獣に投げる。


野うさぎは我が国で普通に食べられている肉だが、当然目の前の猛獣の食事にもなる。

だから、どうか少年と野うさぎのエサ度合いのボリュームは違うだろうが、これで手打ちにして貰えないものだろうか?


出来たら戦いたくはない。噛まれたら当然痛いし、五人なら早くても一人だと簡単に倒せる敵ではない。たまーに乱闘して帰宅すると、母や城の者達も心配する。


私達はしばし睨み合った。

しかし、まだ生きていた野うさぎが意識を取り戻して急いでその場から離れようとした為、その猛獣は慌てた様に野うさぎを追いかけて行った。


少年は何とか命を繋いだ。

だがしかし、お灸を吸えねば。こんな森の中に一人で入った事と、私の尻に鞭を当てた事!!特に後者は死んでも許すまじ。



「……銀色の……狼……?」

私が少年を驚かせない様に距離を取り、ゆっくりと振り向けば少年は呆けた様にこちらをガン見していた。


顔に擦り傷があるものの、意外と美しい顔立ちをしている。

まぁ、親兄妹には負けるが。

勿論、身内の贔屓目ありです。


「あなた、怪我はない?」

私が人語を発すると、少年は更に眼を丸くする。


「……も、もしかして……王様……?」

「の、娘だよ」

少年は視線を外さないまま、その場にひれ伏した。


「王女様でいらっしゃいましたか!!こ、この度は命を助けて頂き、大変感謝致します。私のこれからの命、王女様に捧げ……」

少年は臣下の礼をとろうとしたが、私はそれをぶったぎる。自分より弱い臣下なんて要らないからね。


「いやそれは良いからさ。駄目でしょ、この森に入っちゃ。何で入ったの?」

「わ、私は職務で……猛獣遣いの師匠に弟子入りしているのですが、試験としてこの森に入って何でも良いから一匹手懐けて来いと言われております」

「あなたが?」


まだ10歳位だよね?今度はこっちが眼を丸くする番だった。

「うーん、おかしいなぁ」

「……?」


確かに、猛獣遣いと呼ばれる職業はこの国には存在する。猛獣遣いの仕事は様々だが、危険な仕事だし必要とされる職業の為、高給取りに入る部類だ。


だから、危険だとわかっていても貧困から猛獣遣いに弟子入りする子供は多いと聞く。そして、その子供達の多くが恐怖に勝てず、辞めていく。


とはいえ、こんな10歳の子供を大人の付き添いなしに危ないとわかっていて放り出すのはまともな猛獣遣いの行いとは思えない。


では何か?


恐らくこの子供が師事する猛獣遣いは、許可を与えられてないにも関わらず看板を掲げたモグリに違いない。


「あなた……少年、名前なんて言うの?」

「わ、私はエーベルハルト、と申します」

「そうか、エーベルハルト……長いな、エーベルって呼んでも良い?」

「勿論です。……差し支えなければ、私にも王女様のお名前を……」

「私?私はヴァーリア」

「ヴァーリア殿下……」

「んじゃ、ひとまず私に着いてきてくれる?」

「畏まりました」


これが、私とエーベルとの出会いだった。


……(のち)に変態猛獣調教師となるのがわかっていたら、助けたとしても名乗らなかったと思うんだ、絶対。

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