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∩¶フェチとは違うらしい

作者: 索☆創

「お待たせ! 待った?」

「イヤ、イマキタトコロ ダヨ!」

 駅前の時計の下で十時の約束。

 九時五十五分の会話ならこんなモノだろう。


 だか、俺は内心、(つぶや)こう。


「なんで、こうなった?」と。


∩¶


 お笑い芸人を目指したのはお笑いが好きだから。

 子供の頃に目立つのは、クラスの面白いヤツだったし。

 中学、高校でもう「面白いな、アイツ」と他人から評価される人達もいるが、俺はそうじゃあ無かった。


 養成所で、なんとなくコンビを組んで、方向性の違いで別れて。

 ピンになって苦労して、最終的に見つけた相棒はジョウだった。


 ジョウ。フルネームをジョウ=ワンニ=トウキン。


 なんとなく指輪を中心とした物語を書きそうな名前だが、その正体は、自分自身の上腕二頭筋である。


∩¶


 筋肉芸人。そう呼ばれるジャンルがある。

 通常、鍛え上げた肉体によって何らかのパフォーマンスを繰り出す人々だ。


 俺がそのグループに入れるかと問われれば、答えは微妙。

 なぜなら、ムキムキなのは右腕だけだから。


 小中高と打ち込んだ卓球がもたらした産物である。


 これを武器に、昔は。

「はいどうも、両腕普通の○○と」

「右だけふっとい○○です!」

 ・

 ・

 ・

「右手ツッコミ!」「ぐはぁ!」

「左手ツッコミ!」「弱ゎぁあ」


 ・・・うん。コンビで売れなかった事は忘れよう。


 今は今のスタイルがあるのだ。


∩¶


「でなー、聞いてくれジョウ」

「ナンヤネン」

「おかんが買い忘れたモン、買ってこいって」

「ハー。オヤコウコウ ハ セントナ」

「お、いいこと言うねー」

「マアナ」

「米、俵でなんだけど」

「モツノ オレヤンカ! モオ エエワ」

「ありがとうございましたー」


 ダブルバイセップスの右だけバージョン。

 バイセップス状態で盛り上げた上腕二頭筋に書いた顔を相棒に腹話術。

 筋肉の緊張状態によって上下する眉毛が受けたのか、腹話術の甲高い声がその要因なのか。

 そこがわからんから、もう一段上に行けないような気がするが、一応、テレビにも出れ、知名度が上がった芸人。


 町を歩けば「写真良いですか?」と言われつつパシャリ。

 「サイン下さい」と手だけ出され───つまり、色紙こっちもちであ───る存在。


 それが今の俺の立ち位置だ。


∩¶


 そんなこんなで、そこそこ忙しい日々を過ごす中で変化があるもので。


「季節は春!」

「二月やで」

 そんな先輩芸人のツッコミは気にしない。


 なぜなら。


「またきてるで」

「本当ですか」

 うりうりと先輩芸人の兄さんの肘が俺の脇腹に刺さる。


 |うりうりうりうりうりうり《あ、これ本気のヤツや》。

 しつこいエルボーをずらしながら客席をそーっと覗くと。


 いた。


「今日も可愛いな」

「はい」

 近頃よく見かける若い娘さん。

 俺の出番が無い時はいないという、先輩の話を鵜呑みにすると、ファンと判断しても、うぬぼれでは無いだろう。


「声、かけてみたらどうや?」

「俺からですか?」

「そうやがなー。他に誰がいるんや?」

「・・・」

 後にして思えば、ここが。

 右側を向いてしまったのが、運命の分岐点だったのだろう。


∩¶


「ずっと前からファンでした!」

「ハー。カナワンナー」


「そ、それでですね」

「ナンヤネン」


「つ、付き合って下さい!」

「エエデ」


「ありがとうございます! ジョウさん(・・・・・)

「へ?」


 今、なんて? いやいや。ジョウさんて?


 などと考えているうちに、連絡先は交換されていた。


∩¶ ───そして冒頭に───


「今日はドコ連れてってくれるんですか?」

「まずは・・・」

「貴方には聞いてません!」

「マズハ エイガ ヤデ」

「わー。ちょうど見たいのがあったんです!」


 うん。マジか。

 どうやら、この(ひと)マジである。

 付き合う対象が俺じゃあなくて、ジョウである。


 しかも、ジョウ≠俺。

 

「私、ジョウさんに良いもの持ってきました」

「ナンヤネン?」

「ジャーン!」

 彼女が取り出したのは、サングラスとマスク(上腕二頭筋用、メディカルテープ付き)


「顔ばれまずいですよね。有名人ですし!」

「・・・アリガト」


 ペタペタと俺の上腕二頭筋に書いた顔にサングラスと、マスクが装着された。


「これでよし! もう、誰だかわかりませんね」

「・・・ソウヤネ」


「ヒソヒソヒソヒソ」「あれ、芸人の」「ああ、腹話術の」


 うん。この寒空の下、バイセップスポーズを続けている人間はそういないからね。


「どうしたんですかー」

「イマ イクー」

 そう口を開かず、声だけ出して嬉しそうな彼女を追いかける。


 とりあえず、ネタにはなるな。

 そんな人として最低な事を考えながら、俺は右腕に力を込めるのだった。


☆☆☆☆☆

二十一日追加。


茂木 多弥様より素敵なFAを頂戴しました。


挿絵(By みてみん)


 そして気がつく、驚愕の事実!

 うん。イラストだとわかりやすい。

 ∩¶(これ)左腕でしたね・・・。

 そもそも、腕に見えるかも怪しいですが。


 そして、ジョウの恋人が小柄で可愛らしい。

 抱きついて腕にぶら下がる様子が目に浮かびます。


 ・・・ジョウじゃ無い方の腰。

 ぐきっとかなりませんように。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 企画よりお邪魔させていただきました。 ジョウのフルネームがちょっとツボでした。 本当にこんな筋肉芸人さん存在するかもしれないとか思いつつ、そういえば上腕二頭筋のジョウには名前があるのに本体…
[良い点] 面白かったです。 主人公(本体)が実際に居そうな人で、「相方が上腕二頭筋かーい!」とツッコミ入れつつ読んでました。 ラストからぐるっと最初に戻るのですね。 筋肉芸人として頑張ってほしいです…
[良い点] 芸人だけに予想外のオチでした(笑) [一言] 読ませて頂きありがとうございました
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