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9 第二次エチオピア戦争3

この物語を読み、気分を害される方がいらっしゃいましたら、

深く謝罪します。(作者)

1936年3月27日、ゴンダール包囲戦、決行の朝を迎える。


「鋼の心臓」では、基本的に一人の将軍が指揮できる数は24部隊までとなっている。

その数を超えると、キャパオーバーとなり将軍のバフが低下するのだ。

もともと、統率が取れているとも言えない今の現状で、キャパオーバーは何としても避けたい。

収集が付かなくなるのは目に見えている。


ブラスカ将軍が率いるは最大数の24部隊だ。

これを事前に2つに分けていた。

ブラスカ将軍が直接率いる包囲軍主力、陣容は山岳兵5部隊、一般歩兵7部隊。

残り12歩兵部隊はゴンダールを守る様に、東から北へ流れるテケゼ川沿いに布陣していた。

離れていようと、ブラスカ将軍の指揮下にある事に変わりなく、将軍バフは反映される。

対するエチオピア軍は、イタリア軍に追われゴンダールに逃げ込んだ歩兵7部隊。補給を絶たれ士気も尽きようとしている。


タナ湖畔で一夜を明かしたブラスカ将軍が率いる精鋭12部隊は、朝食後ゴンダールを一望できる丘の上まで前進する。

同時刻、テケゼ川沿に布陣した部隊は・・・


川辺で水遊びをしていた。

渡河準備じゃないよ。本当に水辺で遊んでいるんだよ。

「みんな~、危ないから深いところまでいっちゃダメですよ~」

「「「「「「は~い」」」」」」

引率はココロ・・・・もうココロ先生と言うべきか。

ちびっこ達の懐き方が半端ない。

サトルはおろか、指揮官たるブラスカ将軍の言う事より聞き分けがよい。


川辺を小さなシャベルで掘り返している子、綺麗な石を見つけ喜んでいる子。

平べったい石を川に向かって投げ水切りしている子もいるね。

川中に入っていく子は、等しく浮き輪を抱えていた。

でもあれ、足付かない所へ行ったら絶対に流されるよね?

川の流れ速いし。


というか、この子たち渡河できるのか!?

この作戦は失敗かもしれない。


一時は危惧された渡河作戦であるが、サトルの頑張り(ロープを咥え川を泳ぎ切りました。対岸の木に結べば、ロープを伝い子供達も渡ってこれる)により、少数の脱落者を出すのみで渡河は何とか成功した。

川に流された子供たちが何処へ行ったかって?

不明だ。

妖精国まで流れ着いたことを信じるのみである。


そして、大幅に遅れたサトルたちがゴンダールに到着した時には、包囲戦は終了していた。

街の中は餓えた野獣・・・もとい、飢えた子犬で溢れかえっていた。


ココロがあわてて子犬たち・・・エチオピア兵の元へ駆け寄る。

状況を的確に判断し補給兵に指示を出す。

街の至る所で炊き出しの煙が上がり出した。



サトルを見つけたブラスカ将軍が駆け寄ってくる。

「どーちぇ!作戦は無事完了です。ゴンダールは完全に我らの掌中にあります。」

とても元気だった。

激戦の疲労を全く感じない。


サトルは戦闘経過を聞く。

「タナ湖畔で朝食を食べた後、ゴンダールへ向け前進しました。

街を目視できる位置まで着ましたが街の入り口で歩哨に当たっている敵兵は見当たりませんでした。

予定通りお昼ご飯をゴンダールが一望できる丘陵の上で食べていると、街から逃亡兵と思われる一団がゾロゾロと押し寄せてきました。食料を分け与えるととても懐かれました」

(あー、匂いに吊られてやってきたのね)

「昼食後、お昼寝をはさみ街へ突入したのですが、敵の抵抗は無く、市庁舎を始め主だった建物の占領を遂行しました。作戦目標は全て掌握済みです。以上!」

右手を大きく上げて発表を終えるブラスカ将軍。

あ・・・敬礼なんだっけ?

「大変よくできました」

サトルはブラスカ君のあたまを撫でる。

一度も戦闘をせずに包囲戦は終了した。被害が無いのは良い事だ。


イタリアは人的資源(徴兵可能人数)が非常に少ない。

極力被害を抑えないと、第二次世界大戦中に人的資源が尽き継戦不能=敗戦という事もあり得る。

兵士一人の命も無駄に出来ないのだ。


「あ る じ さ ま !」

ある程度炊き出しの目途も付き一段落したのか、ココロが少し頬を膨らませて戻ってきた。

怒った顔もカワイイです。


「可哀そうではありませんか。皆お腹をすかせています。これは如何いう事ですか?」

「えぇと、作戦で、抵抗されると此方の被害も大きいし、補給を止めて・・・」

「言訳は結構です。後で話があります!」

「はい、すみません・・・」

夕食後、正座をさせられ1時間ほど説教をされるサトルだった。



月が代わり4月11日、イタリア軍はエチオピア首都アジスアベバを見渡せる山々を掌中に収めていた。

山頂に立ち、眼下にアジスアベバを見下ろすサトル。

その視線の先には長期間の空襲に合い、見るも無残な姿をさらす街並みが広がっていた。


今現在も継続して行われている空襲。

上空をイタリア軍の爆撃機が通り過ぎ、沢山のドングリを落としていく。

アジスアベバは大量のドングリに覆われていた。


首都より放射状に広がる幹線道路は全てドングリに覆われ通行不可。

イタリア軍の進軍さえ阻む徹底ぶり。・・・やりすぎでは??


双眼鏡で街中を覗くと、市街地への被害は軽微だった。

一般住宅で破壊された建物は無し。市民がせっせとドングリを道の端に積み上げている。

雪かきならぬドングリかき。


屋根に大きく穴を開けているのは、民需工場や軍需工場など「建築」関連の施設だけ。

「鋼の心臓4」のゲームシステムに関係する建築物だけが被害を受けている。

なんというエコ。環境に優しい爆撃。


サトルは原爆の被害を想像する。

この10倍、酷ければ100倍のドングリが降る世界。

完全にドングリに埋もれる街並み。

市民に被害は出ない。

出ないが、恐ろしい。

原爆ならぬドン爆の研究は絶対にしないと心に誓うサトルだった。


屋外にエチオピア兵の姿は見られない。

「地図」で確認したところ、アジスアベバ内に歩兵2部隊が残っている筈だが、屋内に避難している模様。

ドングリに当たると妖精国へ強制送還される。

これだけ大量のドングリに覆われたら、外へ出れないみたいだ。



味方の爆撃に前進を阻まれるとは・・・


サトルは周りにいるココロとちびっこ達を見回す。

「俺が一人で話し合ってくる」

「危ないです、主様」

「「「「「いっちゃだめーーーーー」」」」

ココロはじめ皆に反対された。


しかし、他に方法はない。あのドングリ何時消えるんだ!?

過剰な被害が出た施設は、下手をすると回復に2、3年掛かる場合がある。

ここで、ドングリが無くなるのを待ち続ける事は出来ない。

ドングリの被害が出ない(?)サトルが単身突撃するより他に方法が無かった。


「他に方法が無い。グラツィ元帥、空爆停止の指示は出しておくので、外側よりドングリの撤去を進めてくれ。残念ながら工兵部隊の研究が完了していない。一般兵による人海戦術で処理するしかないのだ。危険な仕事だが、怪我の無いようによろしく頼む。」

「はい!」

右手をあげ、今日も元気なグラツィ君だった。


「では、行ってくる」

「主様、どうしても行かれるなら、ココロもお供します。」

「危険だ、ココロには此処に残っていて欲しい」

「いいえ、主様の行かれるところ、何処までもお供します。それが案内人としてのココロの使命です」

「だが・・・・」

サトルは揺らぎない瞳を見つめる。

ダメと言っても必ず付いてくる、ココロの瞳は言葉以上に多くの事を語っていた。

「判った。しかし俺の傍を離れず、危なくなったら俺を置いてでも逃げるんだ。それが約束できるなら連れていく」

「・・・・・・わかりました」


サトルとココロがドングリを掻き分けてアジスアベバへ向け進んで行く。

その後ろでは子供たちが右手を大きく掲げ見送っていた。

グラツィ君の敬礼が伝染しています。


ドングリを掻き分け進む事3時間、思った以上の重労働だった。ココロはサトルの掻き分けた後を付いてくる。

歩き始めは「主様に仕事をさせ休んでいる訳には~」とか「案内人が率先して前に出なければ~」とか言ってサトルの前に出てドングリかきをしようとしていたが、自分より小さい女の子に重労働を押し付けて、後ろをのうのうと歩くなど、サトルには出来なかった。

あれやこれやとココロを言いくるめているうちに、サトルたちはアジスアベバに到着していた。


街中のドングリ被害は、外に比べると軽微だった。

住民がこまめにドングリかきをしているからだ。

街の至る所に積み上げられるドングリの山。焼却処分が追いついていないのだろう。


住民同士がドングリかきをしながら談笑している。

「奥さん今日もせいがでますね」

「こまめに掃除しないと後が大変だからね、家は亭主も、子供達も手伝ってくれないのよ」

「それはお気の毒に。そういえば聞きました?このドングリ食べられるのですって」

「そうなんですか?」

「皮を剥いた中身をバター、卵、牛乳と混ぜて焼くとクッキーになるらしいですわ。お好みでクルミやドライフルーツをいれると更に美味しくなるみたい」

「今度試してみようかしら、でも皮を剥くのが大変そうね。亭主が手伝ってくれればいいのだけど」

「家の夫もね~、家事は女の仕事だって、古臭い考えよね~」

「ですよね~」


一般市民はタフというか、あまり堪えてはいないようだ。

サトルとココロは街の様子を眺めながら、皇宮を目指す。


白く輝く白亜の宮殿は街の中央に鎮座していた。

入口には鉄の格子が編まれた大門、両隣には石積みの門柱と通用門がある。

鉄格子から覗く広い庭はドングリに覆われ見るも無残な姿になり果てていた。

街中が程よく片付いていることに比べると、悲しみを誘わずにはいられない状況であった。

門番はいない。庭師も、使用人も。見渡す限りの場所に人の姿は見られなかった。

サトルは通用門を潜り、ドングリを掻き分けて正面扉を目指す。

大門?ハンター目指している子ならいざ知らず、重くてサトル一人では開きません。


「しつれいしまーす」

サトルは恐る恐る豪華な正面扉を開けて中を覗く。

宮殿内はひっそりとしていた。中にも誰も居なかった。


エントランスは毛足の長い、赤色の高級絨毯が敷き詰められていた。

正面には、アヌビス神の大きな肖像画。

左右には幅広のアーチ状の階段が二階へと続いていた。


二階へ上り意匠の施された大扉を開くと、大広間だった。

奥には階段が数段あり、中央に細工の施された立派な机椅子が一脚。

大きく取られた沢山の窓からは、日の光が燦燦と差し込んでいる。

謁見の間でした。


誰も居ないと思ったら、王宮に居るすべての人々がこの部屋に集まっていた。

一番手前には黒い耳をチョコンと突き出した子犬・・・コボルト?・・・アヌビス神の子孫?

が腹ばいになり、お腹を晒している。

その後ろに居並ぶ多くの子犬たち。彼らも一様に腹ばいになっている。


「くぅ~~~~ん」

先頭の黒い子犬が弱々しい鳴き声をあげる。

眼はウルウルとして今のも泣き出しそうだ。


『服従のポーズ』


手前にいる黒い子はハイレ・セラシエ1世。エチオピア帝国現皇帝。


此処に、第二次エチオピア戦争はイタリアの勝利で終結した。


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