8 第二次エチオピア戦争2
エルトリア・エチオピア間の国境で始まった戦争は、一か月の期間をかけエチオピア首都アジスアベパを見晴らすことが出来る山の反対側まで辿り着いてた。
しかし首都目前とあって抵抗も激しく、ようようとして前線を進めずにいる。
ソマリランド方面軍のメッセ将軍率いる機甲師団も侵攻早々にアジスアベバ南方の空軍基地を占領していたが、同じく攻めあぐねていた。
これは戦力を北方エルトリア方面軍に集中した為の戦力不足と、空軍基地以北は山脈が連なり機甲師団の運用に難があったためである。
無理な侵攻をして背後を絶たれ、補給線を失う事を恐れたメッセ将軍は英気を休め、虎視眈々と情勢の変化を伺っていた。
決して新兵器たる軽戦車L3に乗るのが楽しくて、戦争を忘れ平原を駆けまわっていたわけではない。
それは、おもちゃを買ってもらた子供が時間を忘れて遊んでいる様に見えたとしてもだ。
北方軍と南方軍が合流したのは3月に入ってから。
合流地点はアジスアベバの東方、エチオピア第二の都市ハラール。
この都市の占領により、エチオピア東方でイタリア軍の勝利は決定的なものとなった。
エルトリア・ソマリランド間が陸路で繋がったことにより、前線への補給が安定し一息つける状況となった。
しかし、エチオピアの西方は峻険な山々に覆われた難所。
それにテケゼ川とジェネール川の両河川、及びアジスアベバ南方に連なる湖がイタリア軍の進軍を阻んでいる。
また、北方エルトリアとの国境に面するエチオピア第三の都市ゴンダールは未だ健在で、隙を見てはイタリア軍の背後を脅かす隙を伺っていた。
首都アジスアベバへ王手を掛けたものの、今だ余談は許さぬ。その様な状況であった。
多くの被害をエチオピア軍に与えているも、イタリア軍が決して無傷で此処まで来れたわけではない。
サトルは一人で占領後ハラールに設営された野戦病院に、傷病兵の見舞いに来ていた。
ココロは行動を共にしていない。
何故なら、ココロは朝食を食べて早々に此処へ向かったからだ。
サトルが野戦病院の扉を潜ると、そこは戦場だった。
音響兵器かと思われるほどの、傷病兵が発する号泣。
広い空間に隙間も無い程に埋めつくされた傷病兵が泣いている。
大合唱だ。
衛生兵に連れられサトルはが診察室に入ると、ココロが一人の傷病兵を診察しているところだった。
「ぶぇ~~~~~ん」
「よしよし、どこが痛いのかな?」
「こごー」
グスグスっとしながら傷病兵が膝頭を指さす。膝頭は擦りむいて血が滲んでいた。
「いたかったね~、よしよし。消毒するのにちょっと沁みるけど我慢できるかな~?」
「うん」
ココロは消毒し、手慣れた手つきで包帯を巻いていく。
傷病兵は消毒が染みたのか、口をへの字にして今にも泣きだしそうだ。しかしグズグスっとしながらも必死に我慢している。
「はい終わり、よく我慢したね。えらいえらい」
ココロは優しく微笑み、傷病兵の頭を撫でてあげる。
「おねえちゃん、ありがとう」
傷病兵がお礼をのべて診察室を後にする。
「次の方~」
新たな傷病兵が診察室に入ってくる、彼は肘をすりむいているようだ。
外にはまだまだ診察待ちの傷病兵が多く居る。サトルはココロの邪魔をすまいと診察室を後にするのだった。
重傷者?
居ません。
ドングリって当たっても怪我しないしね。それなりの速度(肉眼で追える程)は出ている筈なのに、まるでスポンジででも出来ているかのような柔らかい衝撃でした。
それはね、子供たちに危ないもの持たすわけにはいかないし、自分の体で実験しましたとも。
ではこの傷病兵は何かというと、9割位が転んで擦りむいた子供です。
戦争しているのだしね、流石に走っちゃダメとは言えないです。
待合室の中に山と刺繍された登山帽被った子供を発見。あの時の隊長でした。
一番はしゃいでいたよね。
続いて、サトルは臨時司令部へ向かう。
部屋の中には既にグラツィ君、ブラスカ君、メッセ君が来ていて、お菓子の取り合いをしていた。
君たち元気だね~
お!、ブラスカ君が、グラツィ君とメッセ君に食らいついていけている。ローマでは早々にリタイアしていたのに比べると、だいぶ力を付けたようだ。
戦争をすることにより、部隊は経験値を稼ぎ強くなるが、将軍もLVを上げていく。
今回の連戦でそうとう力を付けてたようだ。
思い通りに成長しているブラスカ君を見つめ、サトルはうんうんと納得する。
グラツィ君がサトルを見つけ、取り合いを止め掛けよ行ってきた。
ここら辺の判断は、年長組というか元帥だけはある。
右手を大きく上げる。
これは敬礼なのか?
「ドーチェ」
「よくできました」
サトルはグラツィ君の頭を優しく撫でる。
「作戦会議を始めます」
「「「はい!」」」
お菓子を食べ終わった子供達を席に付かせる。口の周りが汚れているのを気にしてはいけない。
彼らは軍の指揮官であるまえにハーフリンク、子供なのだ。
「現在、我が軍はエチオピア東部を完全に掌握した。敵首都アジスアベパ目前まで迫っている。このまま全軍をもって陥落させてもよいのだが、万が一、敵首都陥落後、エチオピアを講和に引きずりだせない場合、敵はゴンダールに首都を移し、徹底抗戦の構えを見せる事になる。これは断じて避けたい。ゴンダールはテケゼ川を挟んだ山中の都市、アジスアベパ以上の要害である。攻略には相当の被害を覚悟しなければいけない」
「鋼の心臓4」の戦争には、休戦や停戦、条件付き講和などなく、無条件降伏しかない。
首都や各都市の占領、爆撃によるインフラの破壊など戦勝ポイントを稼ぎ、一定値に貯まると敗戦国から無条件講和が提案されるという仕組みだ。優勢国からこの辺で~というような手打ちの提案が出来ないのだ。勝敗が付くまでは永遠と戦争を続ける事になる。
まあ、全領地を占領すればその時点で終了確実ですが。
問題は現在の戦勝ポイント。これを確認する方法が無い。敵首都アジスアベバを占領し講和に持ち込めればよいが、ゴンダールに敵首都が移転し戦争継続は何としても避けたい。そこで、その事態を回避するための作戦となるのだが・・・
キラキラとした目で話を聞いてくれているのはグラツィ君だけだった。メッセ君はポケットからL3のおもちゃを取り出し遊び始める。ブラスカ君にいたってはコクコクと居眠りだ。
グラツィ君、心の友は君だけだ!
「なので、先ずアジスアベバを包囲して敵の補給を絶つ。そのうえでゴンダールの南、川の無い地域よりゴンダールを急襲、同時に全方位より渡河を開始しゴンダールを先に落とし、その後アジスアベバを占領し第二次エチオピア戦争の終結を目指す。」
「鋼の心臓4」では補給は首都より行われる。
ゴンダールのような都市では多少の補給を受ける事が出来るがそれは微々たるもので、基本首都に繋がっていない部隊は補給を受けられず、士気を著しく低下させるのだ。
故に、今回の作戦は敵首都アジスアベバを包囲することにより、ゴンダールに駐留する敵軍を干上がらせ、弱った所を叩こうとうものである。
「敵首都アジスアベバの包囲をメッセ君、ゴンダール侵攻作戦をブラスカ君に。総指揮は変わらずグラツィ君、以降の詳細な作戦は君に任せる。健闘を祈る!」
「「はっ!」」「ほぁぃ」
元気よく返事するグラツィ君とメッセ君。
話を聞いていないようで締めるところはしっかり締める、出来る子メッセ君の一面を見た。
後はグラツィ君に任せておけば、上手く采配してくれるだろう・・・たぶん。
3月中旬、表面的にはイタリア軍の侵攻が止み、前線では両軍の間に睨み合いが続いていた。
しかし、その後方では大幅な配置転換が行われていた。
南北が陸路で繋がった事は大きい。
エルトリア方面軍の余剰兵力による、速やかなソマリランド方面への展開を可能としたのだ。
後顧の憂いを絶ったメッセ将軍率いる機動部隊が進撃を開始する。
メッセ将軍の機動部隊は、時計回りに北軍まで打通作戦を慣行するのだった。
その後を埋めるようにイタリア軍歩兵部隊が続く。
戦場に訪れたつかの間の平和、エチオピア軍の気が緩んでいたとしても仕方のない事であろう。
アジスアベバ西部はあっけない程簡単にイタリア軍の手に落ちた。
続いて、アジスアベバ西部から山岳兵を中心とする部隊が青ナイル川を渡り、ゴンダール南部に進出。
エチオピアは、首都アジスアベバ、ゴンダール、西南部山岳地帯と3か所に分断されるのだった。
斯くして、1936年3月下旬、全ての準備は整った。
イタリア軍はアジスアベバとゴンダールを完全に包囲下に収めた。兵士達はゴンダール突撃の合図を今か今かと待っている。