7 第二次エチオピア戦争1
重大発表をさせて頂きます。
サトルは若返りました。
日本に居た時は30過ぎの草臥れたサラリーマンでした。
1周目の転生では、50過ぎのおっさんです。しかし此方は青年時代を労働運動や戦争など実際の暴力に、30過ぎてからは政界のドンとして陰に日向に陰謀をはたらく、闘争の人生を送ってきた大物。鍛え上げられた体に、叡智溢れる鋭い眼光。自他共に認める恐ろしい人物です。
では2周目は?
ハーフリンクがキャキャワイワイする環境に、50過ぎのマフィアを彷彿とさせるおっさんは絵ずら的にどうなのかと。
ましてや10代前半の幼さの残るエルフ、ココロを横に侍らせて「ご主人様」と呼ばせている。
犯罪臭が立ち込めます。
1周目?・・・・さあ、何の事でしょう!!
1936年1月1日は怒涛の勢いで過ぎていった。
明けて1月2日早朝
「なんじゃこりゃー!」
洗面所の鏡を前にしてサトルの絶叫が周囲の静寂を打ち破る。
サトルは若返っていた。年齢的には15歳前後。
あどけなさの残るその顔は、遥か昔サトルが毎日見ていた顔である。
サトルの絶叫を聞きつけ、ココロが洗面所へ飛び込んでくる。
「主様、如何なさいました?」
「顔が、顔が!」
意味不明である。ココロは首をかしげる。
「顔ですか?」
ココロが少し背伸びして、愛くるしい顔を近づけてくる。
「主様は今日も凛々しく、素敵です」
「〇×▽□」
サトルの意味不明な言葉を華麗にスルーして、ココロはサトルの頭に手を伸ばし、寝癖を優しく撫でつけるのだった。
「か、かお、顔が変わってる、若返ってるんだ!」
ココロはまたしても首をひねる。
「主様は主様、何時もと変わらず今日も素敵です。朝ごはんの準備が出来ております。食事に致しましょう」
満面の笑顔でココロはその場を後にした。
ココロにはサトルの変化は分からないようだ。
妖精族にはその人の心の有り様が見える。その情報量は非常に大きく外見は些細なもの・・・なのかもしれない。
取り合えず、サトルは若返った。
・・・・・・・・・・・・・
さて、約20日の船旅を終え、サトル一行は無事エルトリアへ到着した。
イタリア軍の各部隊も着々とエルトリア、ソマリアに合流しつつある。
現在のイタリア軍総数は39部隊、267大隊だ。兵士数にして凡そ24万人。
空軍は戦術爆撃機(術爆)288機、近接航空支援機(CAS)48機、エルトリア、ソマリアに分けて配備している。
現在までに得た情報ではエチオピアに飛行機は一機も無い。制空権は此方のもの。
対するエチオピア陸軍は7~20師団。兵数は4~8万人。
我が軍も装備が行き渡っているとは言えないが、エチオピアはそれ以上に貧乏。
歩兵銃が2人に1丁あればマシなほう。武器が無い兵士は徒手空拳で戦うしかないのだ。
手ぶらの兵士でも戦車や機銃に立ち向かわないといけない。
「鋼の心臓4」は鋼鉄の心を必要とするとても恐ろしいゲームなのだ。
戦争は数。
勝利は確実。
あとは、味方の損害を如何に抑えて速やかに勝利をするか。
戦闘計画は二正面作戦を採用する。
エチオピアは北に山脈が連なり、南は若干の平野と成っている。首都アジスアベパは深い山中の要衝。攻めるにとても不利な地形であった。
北のエルトリア側は大軍を持って包囲殲滅、南は虎の子の軽戦車部隊、サポートに騎兵、歩兵を伴い電撃侵攻で首都南方の空軍基地を一気に占領する。
激戦となるのは北方戦線だ。指揮はセバスティアーノ・ヴィスコンティ・プラスカ将軍がとる。
今は未だ実力不足だが、スキルに「頑固な戦略家」を持つ。
これは、防御と兵站に上昇効果をもたすもので、育て上げれば防御の要としてとても心強い指揮官となってくれる。
南のジョヴァンニ・メッセ将軍はイタリア陸軍のエースだ。ほって置いても勝手に戦果を上げてくれるだろう・・・たぶん。
口の周りにクリームをべったりつけクッキーを掲げるメッセ君の姿が、サトルの頭を過ぎるのだった。
・・・・・・・・・
準備は整った。
今サトルの前にはエチオピアの雄大な山々が聳えている。
その山裾ではイタリア軍とエチオピア軍が、お互いに士気を高め睨み合っては・・・いないよね?
いや、訂正しよう、エチオピア軍は士気を十二分に高めイタリア軍を威嚇している。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーー」
山々の至る所から聞こえてくるうなり声。
「わぉおおぉぉぉぉーーーーーん」
うなり声に合わせ、木霊する遠吠え。
時たま木々の間から放たれる小石。
チラホラと見え隠れするエチオピア軍の兵士の姿、身長はイタリア軍と差して変わりない。服は腰巻程度。すばしっこく木々の間を駆け抜ける。身体能力は圧倒的にイタリア軍に勝っている。
偶に四つ足で走り、両耳を頭の横に垂らした可愛い子犬顔。
そう、敵はコボルトだ。
断言は彼らに失礼かもしれない。
先祖にアヌビス神を持つ、犬頭人身の神の末裔とも考えられる。
まあ我が軍のハーフリンクと同じく妖精さんである事には変わらない。
彼らは、大いに威嚇し戦意旺盛であることに間違いはないのだ。・・・実力は、お察しであるが。
対して我がイタリア軍は・・・・
「あれ、何しているの?」
「さあ?でも楽しそうですね」
サトルとココロは周囲を見渡す。
其処では、至る所でイタリアの兵士が砂遊びをしている。
砂山を作りトンネルを掘る子供達、砂の城を作る子、溝を作ってバケツに組んできた水を流す子もいるね。
あ、あっちの子供たちは泥団子作って、お互いに投げ始めた。フレンドリーファイアですよ!
「プラスカ君、あの子たちは何しているの?」
サトルはエルトリア方面軍指揮官プラスカ将軍に尋ねずにはいられなかった。
「彼らは戦闘に備え、塹壕を建設中です!」
鼻の下を泥だらけにして、自信まんまんにこたえる将軍。
あ~~、塹壕掘っていたのね、途中で飽きて遊びだしたと・・・
大丈夫かイタリア軍!?
この世界でも最弱説は揺るがない。
「まもなく強い仲間が到着します。それをもって攻勢にでます」
「そうなんだ、期待しているよ~」
大きな仕事をやり遂げたという感じで発表を終えると、ブラスカ将軍は泥遊びに戻って行った。
両軍お昼になり、昼食タイム。そしてお昼寝の時間。
遊び疲れたのか、イタリア軍陣地では至る所で子供たちがスヤスヤと寝息を立てている。
こんなところを襲われたらと思い、エチオピア軍方面を見てみると。
彼らも木々の根本や草葉の陰でお休みになられていた。
あぁ、吼え疲れたのね。
日向を探して森の外に出てきている子もいる。
今は2月。暖かいアフリカ大陸といえど、日陰は少し肌寒い。
・・・これで良いのかエチオピア軍!
3時になりお昼寝の時間が過ぎると、街の方からザザッと足音を立てて兵士の一団がやってきた。
彼らの姿は、イタリア軍の一般兵と明らかに違っていた。
山歩き用の長靴とハイソックス。通気性に優れた半袖・短パン。頭に被った登山帽、中央には山と刺繍されている。
彼らはイタリア軍の特殊部隊、登山のスペシャリスト、山岳兵5部隊だ。
隊長がサトルの前で颯爽と敬礼する。
「ドーチェ、将軍、山岳兵5部隊、只今着任しました」
口の横に付いている涎がなければカッコよかったのだが。
どうやら、彼らもお昼寝してからやって来たらしい。
特殊部隊とはいえ彼らもハーフリンク、仕方ないよね。
「ご苦労」
さて、楽しい戦争の時間です。
「総員、突撃準備!」
ブラスカ将軍の号令に合わせ、何処からともなく突撃ラッパの音が鳴る。
昼寝をしていた子供たちが慌てて起き出す。まだ寝ている子をゆさゆさと起こす先に目覚めた子供たち。
同じ光景はエチオピア側でも見られていた。
全員が起きたのを確認すると
「突撃ーーー!」
ブラスカ将軍の合図に合わせ、イタリア軍の突撃が始まった。
先頭を行くのは、流石というか特殊部隊の山岳兵。山岳地帯では一般兵より一歩も二歩も早い。
射程距離に入ると、お互い軽機関銃を構え銃撃戦が始まる。
飛び交うドングリが両軍を襲う。
ドングリ、そうなのです。お互いの銃口から発射されているのは茶色い流線形にお尻が黒い、あのドングリ。
エチオピア軍の方は銃をもっていな子も多く、小石を投げてくるが飛距離が足らず遥か手前に落ちる。
ドングリがペシペシと当たり泣き出す子供達。
戦場を阿鼻叫喚の嵐が吹き荒れる。
ポン!と音を立て、煙を立て消えていく子供が現れだした。
あ、これが妖精界へ強制送還。一定以上ドングリが当たると発動するらしい。
強制送還される子はエチオピア軍の方が多い。
山岳部隊が森へ突入していく。続くイタリア軍一般兵。
エチオピア軍は追い立てられるように山の中へ逃げていくのだった。
こうしてイタリア軍とエチオピア軍の初戦はイタリア軍が勝利した。
まだまだ第二次エチオピア戦争は続く。
エチオピア帝国の首都アジスアベパへの道のりは遠く険しい。
辿り着けるのか!?