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世界で紡ぐ英雄譚  作者: 地平線
1/1

時代の再到来

――千年、経った。


 霧の向こうの奥深く。真っ暗闇な空間の中でソイツは目を覚ました。


 永らく動かしていなかった巨体の細部細部へと力を込める。


 右脚、左脚、右腕、左腕、()()()()()()……それぞれに力を込めるたびに空気が震え、空間を揺るがした。もしここに、ソイツ以外の何かがいたとしたら、この時点で既に逃げ出していただろう。


 ソイツは、龍の姿を模していた。全身を堅固な鱗に覆われ、頭部に立派な角を日本備えた、全高何十メートルにも及ぶ身体を持つ、「天龍種」。


 最期に、両の瞼を押し上げる。瞳に黄金の光が戻る。


 そして、天に向かって咆えた。


 ――――――――ッ!!!!!


 その咆哮は、その空間に小さな歪みを生じさせる。次の瞬間、それに耐えられなくなった天井部分が崩れ落ちた。


 大崩落。大量の岩盤がソイツを押しつぶすように降り注ぐ。


 だが、ソイツはそれを前にして、指一本、動かさない。

 直後。


 激しい閃光と共に、落ちてくる大量の岩盤が消滅……否、()()


 瞬時に膨張する空気。それが今度こそ真上の岩盤を吹き飛ばし、地上までの道を開通させる。

 紛れもなく、ソイツの仕業だ。千年振りだが衰えていない力に、ソイツは満足の笑みを心の中で浮かべた。


 頭上の大きな穴からは、美しいほどに澄んだ青が覗いている。


 ソイツは懐かしむように遥か上の青い空を見上げ、翼を大きく広げた。そして、大きく羽ばたく。暴風が辺りに吹き荒れ、その巨体を空中へと押し上げる。

 そのまま遥か上空へ。


 恐るべき速さで大空へと舞い戻ったソイツの全身の純白の鱗が、日の光を反射して輝きを放つ。

 そしてその頭部を高く持ち上げ、再度大空に咆える。


 不思議なことに、「天龍種」のソイツには角が一本しか無かった。本来あるはずの右角は、半ばからへし折られたように失くなっている。


 ソイツはそのことを思い出す。何故、世界最強種と呼ばれる自身が、角を失っているかを。


 そして、その瞳を怒りに濁らせ、「人類語」でこう呟いた。


「――手始メニ、アノ精霊クズレノ人間ヲ滅ボストスルカ」


 まるで、どこかにいる右角の仇に語り掛けるかのように。


 そして、千年の間眠っていたねぐらに別れを告げて、その場を大きく旋回した後、彼方へと飛び去っていく。



 ◇◇◇◇


 昼間なのに光がほとんど入っておらず、薄暗い建物の中。緊迫した空気の中、二人の男女が会話をしていた。


「あやつが動いたわ」

「そろそろだとは思っていたが……よりによって今か」


 男……ルーデン・ディセウザーは神妙な顔で頷く。


「さて、どうするかね……」


 あやつ……世界を滅ぼしかねない化け物。破滅の象徴。

 その正体はすぐ隣、「霧の大陸」のどこかで眠っているといわれる《《巨龍》》。

 存在している時点で既に、世界の平和を、種族の均衡を崩しかねないと言われていた。

 なら、眠っている間に倒してしまえばいい、普通そう考えるだろう。だが、それは叶わない。眠っていることはわかっていても、肝心の「どこで眠っているか」、そこに問題があった。

 眠っている場所は、目の前の女が()()()かけて特定した。だが、問題はその場所だ。

――今の人類では、そこまで行くことができない。


 ルーデンは、仕方ない、そう言うと顔を濁らせた。もう少し、あと《《二十年程》》遅かったら状況は変わっていただろうか。


「あの作戦を使うしかないのか」


 あの作戦……人の身だけでは敵わない相手に、人の身で挑むのは無謀、というか自殺行為だ。

 ならどうするか。簡単だ。最高の舞台を用意すればいい。こちら側(人類)の《《全技術》》をもって相手出来る舞台を。


「舞台は俺達で用意しよう。問題は……」


 どうやって、あやつを舞台に参戦させる(スカウトする)か、だ。


 つまり、「餌」が必要になる。だから、ルーデンはこの作戦は使いたくなかった。

 だが、世界の存亡がかかっていると言っても過言ではないこの状況で、そんなことを考えている暇はない。


――さて、「餌」の確保をどうするかだが……

ふと、いつでも手が空いていて、またそれをするに相応しい人物に思い当たった。


「グランを呼べ。あいつに行かせるぞ、適任だろう」


「わかったわ」


 そして目の前の女は踵を返す。


 ルーデンもまたその場から立ち去り、次は書庫へと向かった。

 そこで探し出したのは一冊の英雄譚。

 そのとある部分を開く。


 その部分から、不自然に続く白紙のページ。それを見て彼は笑う。


「ふふ、この白紙、埋まればいいのだがな」


 ◇◇◇◇


 同刻。


「行くぞ」

 特大の大剣を構えた大男が、仲間を連れて霧の向こうへと歩き出した。



「では、行ってきます、父上」

 装飾の施された金色の剣を、胸の前で握った青年が親に別れの挨拶を告げる。



「仕方ないな、全く。それにしても何でそんな端くれの街に行かなきゃならんのかね?」

 商隊の荷車の上で、面倒事を吹っ掛けられた男がため息をついた。



「シア、僕はどうすればいいの?」

 最果ての村で、大切な人を失って心を壊した少年が大空を見て呟く。



「今日もギリギリ……食べ物を手に入れられたよ、母さん」

 どこかの路地裏で、ボロボロの服を着た少年はそこにいない誰かに語りかける。



「――――」

 最強の男は、今もまだ結晶の中で長き眠りについたままだった。



 かくして、役者は出揃った。

 今、「止まってしまった時代」が再度、動き出す。


 そう、それは「英雄時代」。

 波乱の時代の――幕開けだ。

読みにくいところや質問などあればどうぞ。

ちなみにまだ本編には入ってないです。

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