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汚隣の後輩ちゃん  作者: ブリル・バーナード
第二章 夏休みと後輩ちゃん
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第88話 花火大会と後輩ちゃん その2

 

 リビングには五人の人物が座っている。俺、後輩ちゃん、桜先生、楓、裕也、の五人だ。


 全員分のお茶を用意したところで少し一服。アップルパイの焼ける良い香りがする。


 お茶を一口飲んだ楓が口を開いた。



「それで? 詳しく説明してください」



 真剣な顔を作ろうとしているが見事に失敗して、目はキラッキラさせて口元は緩んでいる。なんて残念な妹なのだろうか。前から知ってたけど。


 俺が口を開く前に後輩ちゃんが喋り出した。



「えーっと、かくかくしかじか、です」



 いやいや、後輩ちゃん。かくかくしかじかで伝わるわけないだろ。ちゃんと説明しようよ。


 と思っていたのだが、楓は驚いて叫び声をあげる。



「えぇぇええええええええ! 桜美緒さんはお兄ちゃんたちの学校の体育の先生で、三十歳の独身なの!? こんなにおっぱい大きくて綺麗で美人でおっぱい大きくて良い香りがするのに男性経験ないの!? 葉月ちゃんと同じで家事能力が皆無!? そして、この部屋の真下に住んでるの!? ねえ、それなんてエロゲ?」



 いやいや、それを言うなら後輩ちゃんが俺のお隣に引っ越してきた時点で、エロゲ確定なんだけど。もうほぼ同棲してるし。題名を付けるなら『汚隣の後輩ちゃん』なんていうのはどうかな?



「エロゲじゃなくて現実だよ。まだ続きがあるんだけど、いあいあくとぅるふふたぐん、なの」



 えっ? 後輩ちゃん、何故にクトゥルフ神話?



「えぇぇええええええええ! 美緒さんは家族がいなくて姉弟に憧れていたから、お兄ちゃんと葉月ちゃんが弟と妹になったの!? 家族になったの!? 一緒のベッドで寝たの!? お兄ちゃんとあんなことやこんなことをしたの!? ねえ、それなんてエロゲ?」



『汚隣の後輩ちゃん』というエロゲ…じゃなくて、現実だから。



「というか妹よ。よく後輩ちゃんの『かくかくしかじか』や『いあいあくとぅるふふたぐん』で伝わったんだ? 全然わからないだろ」


「えっ? 普通にわかるけど」


「先輩、私はわかるようにしか言ってませんよ」


「うんうん。お姉ちゃんもわかりました」


「「「ねー!」」」



 仲いいな女性陣! 俺はイケメンなのに空気になって存在感が消えている裕也にこっそり話しかける。



「なあ裕也。お前わかったか?」


「いいや。全然わからんかった」


「だよな」



 うん、これが普通だよね。かくかくしかじかで伝わるわけがないよな。ここにいる女性陣が絶対におかしい。


 楓が嬉しそうに手をあげる。もう真剣さを取り繕おうとしていない。目がキラッキラ輝いている。



「はいはーい! お兄ちゃんと葉月ちゃんが弟と妹なら、お兄ちゃんの妹である私も妹になりまーす! 桜美緒さん、私の二人目のお姉ちゃんになってください!」


「なります! お姉ちゃんにならせてください!」


「やったー! お姉ちゃ~ん!」



 楓が桜先生に飛びついていった。先生も嬉しそうに楓を抱きしめている。


 んんっ? おい愚妹よ。顔をだらしなく緩ませて、先生の大きな胸に顔を擦り付けるな! グヘヘと涎を垂らしそうに親父感を出して堪能するな! 明らかに手で揉んでるだろ! 先生も満更でもない顔をするな! 止めさせろ!



「ぐへへ……これで二人目のお姉ちゃんゲットだぜ!」


「ん? 楓ちゃんにもう一人お姉さんいるの?」



 後輩ちゃんが可愛らしく首をかしげている。その後輩ちゃんに楓がビシッと指をさした。反対の手は相変わらず桜先生の胸を揉んでいる。



「何言ってるの葉月ちゃん! 葉月ちゃんが私のお姉ちゃんだよ! お兄ちゃんのお嫁さんである葉月ちゃんは私の義理の姉。お姉ちゃんでしょ!」


「あぁ~! なるほど~!」



 ポンっと手を打って納得するんだ。納得しちゃうんだ。いや、間違ってはいないけど、間違っている気がする。


 俺が矛盾に悩んでいると、空気になっていたイケメンが手をあげた。



「じゃあ、俺も弟……」


「それはムリ! 私の弟は颯くんだけなの。弟くんの座は一人だけなの!」



 言葉の途中でぶった切られた裕也が悔し涙を流し始める。嫉妬と殺意を込めて俺を睨みつけてくる。今にも殴りかかってきそうだ。



「くそ! なんでお前だけ! 俺たち男子のアイドルを独り占めしやがって! あの美緒ちゃん先生の弟だと! 一緒のベッドで寝ただと! この話を学校に広めてやる!」



 マジで止めろ! 俺死ぬから! 殺されるから!


 でも、裕也いいのか? 楓の前だぞ? そんなこと言ってもいいのかな?


 ほら、制裁された。南無阿弥陀仏。



「もう! 彼女の前で他の女性に現を抜かしていたらダメでしょ!」


「ご、ごめんなしゃい」



 楓に対してはドМの裕也が嬉しそうにピクピク痙攣している。イケメンが台無しだ。気持ち悪い。よそでSMをしてくれ。



「ウチのユウくんが失礼しました。それで、お姉ちゃんは葉月ちゃんと同じように家事能力皆無らしいけど、全てお兄ちゃん任せ?」


「あはは…お恥ずかしいことに」


「まあ、俺が掃除するまで姉さんの部屋は魔界だったな」



 それを聞いた楓の顔が真っ白になる。青を通り越して白くなった。恐怖でガクガクと震えている。



「ま、魔界? 魔王葉月以外にも魔王がいたの?」


「ちょっと楓ちゃん! 私は魔王じゃないよ!」



 後輩ちゃんが何かを言っている気がするけど、俺と楓は華麗にスルーする。今は兄妹二人きりの会話だ。



「魔界の主が魔王なら、後輩ちゃん以外にもジャージ姿の魔王はいたな。瘴気が充満してた」



 いやー、瘴気溢れる魔界を浄化するには丸一日かかった。あれは流石に大変だったなぁ。



「ちょっと先輩まで!」


「弟くん!? ジャージ姿の魔王って流石に酷いわよ! せめてお姉ちゃん魔王にして!」



 処女ッてる痴女の魔王と処女ッてるジャージの魔王が何か言ってる気がするけど、俺と楓は華麗にスルーする。



「わ、私のお兄ちゃんは魔王を二人も討伐した勇者だったんだね」


「おい勇者よ! もしかしてお前、魔王二人をベッドの上で倒してるんじゃないだろうな? もしその場合は、俺と楓ちゃんに詳しく説明しろ!」



 楓の制裁から復活したイケメンがセクハラ発言をする。


 楓もノリノリで聞く態勢になるな!


 それに何故お前らに説明する必要がある? どちらかというと、俺がベッドの上で倒されてるというか……うん、何でもない何でもない。


 でも、ここに同じことを考えている人が二人いた。



「先輩はどちらかというと私に倒されているというか…むぐっ!」


「弟くんって意外とヘタレだよね。いつも…むぐっ!」


「わーっわーっ! 二人とも何言ってんだ!」



 俺は後輩ちゃんと桜先生の後ろに回り込んで口を手で覆う。


 たぶんギリギリセーフ。何とか口を塞ぐことができた。危ない危ない。


 俺が安心していたら、楓と裕也が仲良く同時に口を開いた。



「「ヘタレ」」


「うっせぇ!」


「でもでもぉ~! お兄ちゃんと葉月ちゃんはもうキスしちゃったんだよね? ほらほらぁ~! 詳しく教えなさいな。ぐへへへへ…」



 涎を垂らしそうな楓。裕也に、お前の彼女をどうにかしてくれ、というつもりだったが、裕也も同じ表情をしていた。流石バカップルだな。


 楓の言葉を聞いた桜先生が俺の腕の中でビクンと驚き、俺を押しのけるようにして、口を塞いでいた手を外す。



「えぇ!? 弟くんと妹ちゃんってキスしたの? お姉ちゃん聞いてないんだけど! ………あっ!」


「うおっ!」


「きゃぁっ!」



 桜先生に押しのけられた俺はバランスを崩して後輩ちゃんと一緒に倒れ込んだ。受け身を取れず、大きな音を立てて床に背中から倒れ込む。


 痛みを堪えて目を開けると、目の前数センチのところに後輩ちゃんの可愛い顔があった。驚きでパチクリしている後輩ちゃんの綺麗な瞳と目が合う。甘い香りが漂い、後輩ちゃんの熱い吐息が顔にかかる。



「後輩ちゃん、怪我はないか?」


「はい。大丈夫です。先輩は?」


「俺も大丈夫」



 もう何もかも忘れた。ただ目の前の後輩ちゃんしか見えない。ちょっと動かせば唇と唇が触れ合う。後輩ちゃんの美しさに囚われた俺は、彼女の頬を優しく撫でる。



「………葉月」


「………はい」



 後輩ちゃんが目を瞑った。数センチの距離を、お互いにゆっくり距離を縮めていく。そして、唇同士が触れ合う直前―――


 チーーンッ!


 オーブンの音がした。アップルパイが焼けたらしい。


 俺たちはハッと気が付く。唇と唇があと数ミリで触れ合う距離で固まる。そして、今まで相手しか見えていなかった景色に、周りの音が聞こえてくる。



「うほぉ~~~~~~~! お兄ちゃんと葉月ちゃんがキスするよキス! 生キッスだよ! 私、キュンキュンしてる!」


「うほぉ~~~~~~~! やっちゃえやっちゃえ! 記念に動画録ってやる!」


「おぉ~~~~~~~~! 弟くんと妹ちゃんが私より先に行ってる! 嬉しいような悔しいような……二人ともやっちゃえ!」



 興奮した三人の声。俺と後輩ちゃんは急速に二人だけの世界から現実へと帰還した。


 後輩ちゃんが顔を絶妙に動かして、セミロングの黒髪で俺たちの顔を周りから隠す。ほんの数ミリの距離のまま後輩ちゃんに話しかける。


 喋ると唇が相手にぶつかってしまうけど、そこは暗黙の了解で気づかないふりをする。



「後輩ちゃん? 出来立てのアップルパイを食べたくないか?」


「はい。食べたいですね。ちょっとくらい私と先輩が大きめでも許されると思うんです」


「だよな。俺と後輩ちゃんの分だけ少し大きく切るか」


「やった! 先輩、あ~んはご所望ですか?」


「逆に聞こう。後輩ちゃんはご所望ですか?」


「はい! ご所望です!」


「なら俺も強制的にあ~んされるんだな」


「よくわかっていますね! 私が思いついた時点で決定済みなのです。強制的にあ~んしてあげます!」



 俺と後輩ちゃんは数ミリの距離で微笑み合う。お互い相手のことはよくわかっている。気持ちも、して欲しいことも、わずかに唇が触れ合っているのを気づかないふりをしていることも。



「まあ、よろしく頼む。それで、そこの三人はどうしようか?」


「………無視しましょう。あっ、続きは夜にお願いしますね」



 何の続きから具体的には述べない。言わなくてもわかっている。


 俺と後輩ちゃんはゆっくりと起き上がった。他の三人が何やらドキドキしているようだ。



「ねえねえ? 見えなかったけどキスしたの? ねえ? キスしたの?」


「かぁーっ! 絶妙に義姉さんの髪で隠れて録画できなかった! なあなあ? どうだったんだ?」


「弟くん妹ちゃん!? どうだったの!? お姉ちゃん知りたいなぁ」



 俺と後輩ちゃんはにっこりと微笑み合う。



「アップルパイ食べるか。姉さんと楓と裕也の三人には無しだけど」


「「「えっ?」」」


「私、お皿とか準備しますねー! 私と先輩の分」


「「「えっ?」」」



 流石後輩ちゃん。よくわかってる。料理や片付けは出来なくても、お皿の準備は出来るんだよなぁ。何故だろう? 不思議だ。


 こうして俺と後輩ちゃんは、出来立てのアップルパイを三人の目の前で美味しそうに食べました。三人の悔しそうな顔がとても愉快でした。これで懲りたら俺たちを揶揄うのは控えなさい。


 結局、泣きながら土下座してきた三人にアップルパイを与えて、五人で仲良く食べましたとさ。


 とても美味しかったです。


お読みいただきありがとうございました。

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