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汚隣の後輩ちゃん  作者: ブリル・バーナード
第一章 一学期と後輩ちゃん
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第62話 デートのお誘いと後輩ちゃん

 

 キーンコーンカーンコーン


「テストを止めて筆記用具を置いてください」



 テストの担当の教師の声で一斉に筆記用具を置く音がする。そしてクラスメイトが全員大きく息を吐いた。


 ガヤガヤと騒がしくなり、疲れと嬉しさを滲ませて解答用紙を集めていく。


 これで期末テストは終わりだ。俺もふぅっと息を吐く。


 解答用紙を渡し終えたお隣の席の後輩ちゃんがニコニコと話しかけてきた。



「先輩! どうでしたか?」


「う~ん……普通?」


「普通って言った先輩って大抵よくできた時ですよね?」



 後輩ちゃんのジト目攻撃。俺は器用に躱す。



「どうだろうな。後輩ちゃんはどうだった?」



 俺の問いかけに後輩ちゃんが胸を張って断言する。



「普通です!」



 ふんす、と鼻から息を吐いてドヤ顔をしている。ドキッとするほど可愛い。



「普通って言った輩ちゃんは大抵よくできた時だよな?」


「どうでしょうね」



 後輩ちゃんは俺に可愛らしくウィンクしてくる。


 可愛いけれど、周りの男子からの視線が痛い。嫉妬と殺意が込められてる。


 最近、本当に殺されそうだ。


 女子からは、またやってる、みたいに呆れられてるんだけど。



「今回も点数で勝負しますか?」


「そうだなぁ…よし! 勝負しよう!」


「おっ? 何かやりたいことでもあるんですか?」


「試験の合計得点で俺が勝ったらちょっと遠くに遊びに行こう! デートしょう!」



 クラスメイトたちから歓声が上がる。俺たちの話を盗み聞きしていたのだ。


 男子たちが血の涙を流し、女子たちは羨望の眼差しでキラキラとした視線を向けてくる。


 盗み聞きが毎日の日課って、どうかしてるよな、このクラス。


 クラスの全員が後輩ちゃんの反応を待っている。


 注目された後輩ちゃんはそっと俺の前髪をかき上げ、おでことおでこをくっつける。


 クラスメイト達が更に大きな歓声を上げた。キスに見えたからだろう。まあ、実際しようとすればちょっと顔を動かすだけでキスできるけど。


 後輩ちゃんの顔が超至近距離にあって固まる。ふわっとあまい香りが漂ってきた。



「ふむ。熱はなさそうですね。頭をぶつけてもいない。ということは勉強のし過ぎで頭がおかしくなりましたか? あのヘタレの先輩がデートに誘うなんておかしいです。明日雨ですかね? ハッ! まさかっ! 中身が別人とかっ!? 宇宙人に乗っ取られましたかっ!?」


「後輩ちゃん後輩ちゃん。ちょっと失礼ではないですかね? 結構勇気を出したんですが」


「だからおかしいんです!」



 後輩ちゃんが自分の席に戻っていった。ちょっと残念だ。


 席に座って俺の瞳をまっすぐに見つめてくる。



「ヘタレの、あのヘタレの先輩がデートに行こうなんて言い出すはずがありません! 裏が何かあるはずです!」



 後輩ちゃん? なぜヘタレって二度言った? なぜ裏があると思った? 俺、結構傷ついてるよ。



「裏なんかありません。普通にデートがしたかったからです。後輩ちゃんってインドアだから、普段のお買い物デートしかしたことなかったから」


「「「「はぁっ!?」」」」



 うおっびっくりしたぁ! なになに!? クラスメイト全員が驚愕してるんだけど。


 俺も後輩ちゃんもびっくりして周りをキョロキョロした。一体何事ですかね?


 女子たちが詰め寄って話しかけてくる。



「それって本当? 遊園地とか水族館とか動物園とか映画とか、行ったことないの!?」


「後輩ちゃんと? 行ったことないよ」



 そう。俺と後輩ちゃんは二人っきりで遠くに遊びに行ったことがないのだ。普通にお買い物はあるけど。


 別に行かなくて家でゴロゴロしてもいいんだけど、少し憧れていたので提案してみました。後輩ちゃんってインドアで人混み大嫌いだから。



「そういえば先輩と行ったことないですねぇ。中学の頃もいつも先輩のお家にお邪魔して、先輩()遊んでましたし」


「ちょっと待とうか後輩ちゃん! 俺()遊ぶとはどういうことかね?」



 後輩ちゃんは何も答えない。美しく微笑むだけだ。男子のほとんどが胸を撃ち抜かれて倒れ込む。


 まあ、言葉の通り後輩ちゃんは中学の頃、楓と一緒に俺()遊んでたけど。



「それにしても、ふむ。先輩とデートですか。とても悩みますね」



 腕を組んで悩む後輩ちゃんに女子たちが取り囲む。



「いやいやいや! あんた馬鹿なの!? 即答してオーケーしなさいよ!」


「葉月ちゃん悩むところ!?」


「颯くんからのお誘いだよ! 私なら喜んで行くのに!」


「いやーだって私人混み嫌いだし」


「旦那に守ってもらえばいいでしょうが! それか人が少ないところに行くとか!」



 女子たちが呆れ果てている。


 みんなごめん。後輩ちゃんってこんな子なの。近くに買い物、とかはいいんだけどねぇ。


 後輩ちゃんを囲んでいた女子たちが、今度は俺に群がる。



「颯! そこの馬鹿が行かないならあたしと行こう?」


「あっ抜け駆けズル~い! 颯くん私とデートしよう!」


「私はお泊りデートでもいいよ~」


「「「「その手があったか!」」」」


「ちょっと! 『その手があった』ってどういう事!? 先輩とデートなんて禁止です禁止! お泊りも絶対禁止! 禁止ったら禁止! 私が先輩とデートに行くからみんなはダメ!」



 後輩ちゃんが焦って立ち上がり、女子たちを掻き分け、俺の膝の上に座ってくる。領有権を主張し、ふしゃー、と猫のように威嚇している。


 俺は後輩ちゃんのお腹をふにふにして落ち着かせる。太ももに感じる後輩ちゃんのお尻も柔らかい。


 周りにいた女子たちがニヤニヤと笑った。



「だそうですよ。颯く~ん! 貸し一つね!」



 女子たちに大きな借りを作ってしまった。



「みんなありがと。借りは返すから」


「じゃあ、あたしは颯くんとお泊りデート!」


「ズルい! じゃあ私は温泉旅行! 二泊三日!」


「葉月、一週間くらい旦那を借りてもいい?」


「ダメ―! ダメったらダメー! 先輩は私のモノなの!」



 ふしゃー、と威嚇する後輩ちゃんを落ち着かせる。


 女子の皆は後輩ちゃんを揶揄って楽しそうだ。思いっきりニヤニヤしている。


 後輩ちゃんはいつも俺を揶揄ってくるから、たまには揶揄われるのもいいだろう。


 女子の皆さん、もっと後輩ちゃんを揶揄ってあげてください。



「じゃあじゃあ! 夏休みにまた女子会しようよ! その時颯くんも来て!」


「女子…会………ガクガクブルブル……女子怖い……肉食系女子怖い………ガクガクブルブル」


「はいはいよしよし。先輩大丈夫ですからねぇ。よしよし」



 思わず恐怖で震えてしまったけど、後輩ちゃんが頭を撫でてくれたから何とか耐えられた。


 女子たちは恐怖で震える俺のことなんか気にせず、勝手に話が進んでいく。



「女子会でお泊りする? 温泉旅館とか」


「いいね! それ決定! みんなもいいよね?」



 女子の全員が頷いている。否定する者はいないようだ。


 だからなんで? 俺、女子じゃないんだけど! 俺がいたら女子会じゃないじゃん!



「女子の皆さん提案です! クラス会ということで男子たちも連れて行ってください! じゃないと俺は気まずくて行けません!」



 おぉ? 何やら男子たちから今までにない視線を向けられている。これは感謝? なんか手を合わせて感謝されている。初めての経験だ。


 女子たちは物凄く嫌そうな顔をしているけど、幸い、男子たちは俺を拝んでいて気づいていない。



「えぇー、まあいっか。颯くんが言うならそうする」


「クラス会なら先生とか保護者とかにも話をまわさないとね」


「はーい! ウチの親がPTAの役員なので言っておきまーす!」


「お願いねー! よーし! 男子ども! 颯くんのお願いにより誘ってあげます! 颯くんに感謝するように! そして、私たちに手を出したら死よりも恐ろしいことをするから気をつけてねー!」



 男子たちが首をガクガクと頷いている。ウチのクラスの男女の上下関係がはっきりしている。男子たちよ、頑張れ。


 女子たちはどんどん話を進めていく。俺と後輩ちゃん、そして男子たちは蚊帳の外だ。俺が後輩ちゃんをデートに誘ったのに、クラス会の話になってしまった。


 まあ、いいか。これはこれで楽しみだし。


 女子たちが盛り上がっている中、俺は膝の上に座る後輩ちゃんのお腹をふにふにしながら問いかける。



「後輩ちゃん? テストの勝負なんかどうでもいいと思わないか?」


「そうですね。デートしましょうか」


「どこに行きたい?」


「遊園地!」


「おぉ…人が多いけど大丈夫?」


「ふっふっふ! 大丈夫です! 先輩! お化け屋敷に行きましょう!」


「なん…だと…!」


「映画もいいですね! ちょうど観たいホラー映画があったんです!」


「………」



 一人盛り上がる後輩ちゃん。俺の顔は真っ青になっていく。


 俺は後輩ちゃんをデートに誘ったことを後悔しました。


 後輩ちゃん! ホラーだけは勘弁してくれ!


 結局、俺の願いは後輩ちゃんに届きませんでした。


お読みいただきありがとうございました。

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