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汚隣の後輩ちゃん  作者: ブリル・バーナード
第一章 一学期と後輩ちゃん
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第52話 調理実習と私

 

 今日は調理実習がある。だから今日はお弁当じゃない。調理実習の班は先輩と違ったため、先輩が作った料理が食べられない。


 あ~あ。先輩が作った料理を食べたいなぁ。


 調理実習が近づくたびに、先輩が心配そうに何度も何度も何度も何度も私に注意してくる。



「後輩ちゃん。絶対に何もしたらダメだからね」



 先輩が何度も言うから聞き飽きた。自分の料理の腕くらい知っている。料理するつもりはない。



「わかってますよ。クラスメイトを保健室送りにしたくないですし」


「保健室で済めばいいけど……」


「失礼な!」



 ちょっとムカッとした。私の料理を食べた人は保健室で寝込むだけだ……たぶん。


 先輩が私にちょっと失礼だったから、先輩の身体をポカポカ叩く。力は入れてないから痛くはないはず。怒ってますアピールが大切なのだ。


 先輩が何か私を愛でている気がする。ほんわかした表情だ。


 もう! 私怒ってるのに!


 周りから、またいちゃついてるよ、という声が聞こえた。


 ふふんっ! いちゃついてます! いいでしょ! どやぁ!


 私は周りの女子を牽制しながら家庭科室へ向かう。家庭科室でエプロンをつけた。


 エプロン姿の先輩はかっこいい! 家でもつけてるけど、いつ見てもいいなぁ。


 あ~あ。同じ班だったらよかったのに。


 授業が始まった。今日作るのは生姜焼き定食! 生姜焼きって美味しいよね。私大好き! あっ、今度先輩に作ってもらおうっと。


 調理器具やお皿を準備して、私の仕事は終わり。私が手伝ったらすごいことになっちゃうから。食べれらなくなるのは確実。だから絶対に何もしない!



「ねえ、山田さん。ちょっと手伝ってよ」



 同じ班のクラスメイトには私が料理できないのを教えた。女子はわかってくれたけど、男子はダメみたい。欲望丸出しの顔で私にお願いしてくる。



「ごめん。私は出来ないから」


「なんで? 切るだけだよ? ねっ? お願い」



 あーもう! しつこいな!



「ごめん。無理だから」


「出来ないなら俺が教えるよ。それとも、あいつにしか手料理を食べさせないのか?」



 面倒くさいなぁ。



「いや、先輩にも食べさせたことないし、それに絶対にするなって止められてるから」



 食べさせたい気持ちはあるんだけど、食べたら先輩が倒れちゃう。


 先輩が倒れちゃったら、私をお世話してくれる人がいなくなる! というのは半分冗談で、大好きな先輩を病院送りにしたら、私が先輩成分を補給できなくておかしくなっちゃう。私、倒れて病院送りになるかも。



「それって脅されてるのか? あいつそんなに束縛してるのか?」


「えっ? なんでそうなるの?」



 先輩から束縛? ないない。ちょっとくらいあってもいいって思ってるのに、先輩はそんな気配全くないんだもん。


 物理的に縛ってくれてもいいんだけどなぁ。おっと、私って思っていたよりもМかも。



「あ~、あの颯くんが束縛? 絶対ないでしょ。ほらほら男子、手を動かす! 美味しくなかったら承知しないからね~!」



 班の女子が助けてくれた。男子がちょっと不機嫌そうに調理に戻る。



「葉月ちゃん。洗い物ってできる?」


「出来ません!」


「そ、即答。で、でも、ちょっとお願いできない? 私、鍋から目を離せないんだけど」


「どうなってもいいんだね? 私、何が起こっても責任取らないよ」



 本当に知らないから! 私はスポンジを手に取って、洗い物に挑む。


 お皿を手に取って、ふきふきふきふき……。


 スルッ! カランコロンッ!


 私の手の中からお皿が飛び出して床に落ちる。


 陶器のお皿じゃなくてプラスチックだったから割れなくて済んだ。よかったよかった。またお皿を手に取る。


 ふきふきふきふき………スルッ! カランコロンッ!


 ふきふきふきふき………スルッ! カランコロンッ!


 ふきふきふきふき………スルッ! カランコロンッ!


 ふきふきふきふき………スルッ! カランコロンッ!


 ふきふきふきふき………スルッ! カランコロンッ!


 ふきふきふきふき………スルッ! カランコロンッ!


 ふきふきふきふき………スルッ! カランコロンッ!


 ふきふきふきふき………スルッ! カランコロンッ!


 ふきふきふきふき………スルッ! カランコロンッ!



 うん。お皿を洗うのは止めよう。次は包丁だ。怪我しないように慎重にっと。



 ふきふきふきふき………スルッ! ヒュ~ン! ザクッ!



「ぎゃー! 包丁が飛んで来た!」



 男子生徒が悲鳴を上げる。私の手の中から飛び出した包丁がまな板に突き刺さっている。男子生徒の指と指の間にちょうど突き刺さって揺れている。


 危なかった。あと少しで怪我をさせるところだった。



「…………ごめん葉月ちゃん。私の認識不足だった。何もしなくていいよ。葉月ちゃんは食べる専門ね」


「なんかごめん」



 私は戦力外通告された。そのままボーっとクラスメイトが調理するのを眺める。


 そうしたら、また男子たちがしつこく迫ってきた。



「山田さんの手料理が食べたいなー」


「俺も! ちょっとでいいから、一口でいいから食べたいなぁ」


「切るくらいできるでしょ?」


「キャベツの千切りでいいから、ね?」



 あーもう! うるさいなぁ。男子たちがネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチ!


 もううるさい! いいですよ! そんなに食べたいなら食べさせてあげますよ! どうなっても知らないから!


 我慢の限界を超えた私は、包丁を手にすると、怒りに任せてキャベツを切る。私に千切りなんて無理。ザックザックとぶつ切りにする。


 私が調理し始めて男子たちは目を輝かせたけど、すぐに顔が真っ青になる。


 そりゃそうだよね。キャベツがあり得ない色になってるんだから。



「きゃー! なんでキャベツが真っ赤になってるの!? 血!? 怪我した!?」



 女子生徒が悲鳴を上げて私の身体をペタペタと触ってくる。


 ねえ? 胸とかお尻とか触る必要ないよね? 何か顔を赤くしてるし。小さくボソッと『お姉さま』って聞こえたし。


 叫び声が教室中に響いたみたい。クラスメイト全員が集まってくる。



「後輩ちゃん? なんで料理してるの?」



 先輩の声が聞こえた。私は怒りに支配されており、機械的に答えた。



「しつこく私の手料理を食べたいという人がいたので、食べさせてあげようと思いまして」



 先輩が頭を抱えた。班の男子たちを見たら私の心の奥底から黒い怒りが湧き上がってくる。


 もうちょっとキレたら先輩が甘やかしてくれるかな? 先輩の料理が食べたいなぁ。



「さあどうぞ? 念願の私の手料理ですよ? たっぷりと食べてくださいな」


「後輩ちゃんストーップ!」



 先輩が私の手の中の包丁を奪い、私の瞳をじっと見つめてくる。



「俺が作った味噌汁をあげるからいつもの後輩ちゃんに戻れ!」


「はい! 戻ります!」



 私の怒りがパァッと消え去る。やった! 先輩が作ったお味噌汁が食べられる!



「作戦成功です!」



 思わず口に出てしまったけど、先輩は聞こえなかったみたい。


 近くにいた女子が話しかけてきた。



「葉月ちゃん大丈夫?」


「うん、大丈夫だよ」



 周りから心配されていると、先輩がガクガクと震えている男子たちにお説教を始める。



「さて、後輩ちゃんに無理やり迫ったのか? 後輩ちゃんは嫌がっただろう?」



 はい、物凄く嫌でした。



「だ、だって…食べたかったから」


「まあ、食べたいと思うよな。気持ちはわかる。だけど、無理やりはダメだろ」



 あっ、先輩もやっぱり食べたいって思っていたんですか。なんかごめんなさい。料理できなくてごめんなさい。


 先輩がまな板の上に置かれている真っ赤なキャベツを指さす。



「あれ、食べるか? 聞いた話だと、後輩ちゃんの料理を食べた人は一週間は目覚めないらしいぞ。生死の境をさまよったらしい。死なないといいな」


「失礼な! 病院送りにはしますけど、あの世には送りませんよ!」



 私は抗議したけど先輩に無視された。むぅ~! 先輩に罰則(ペナルティ)一つ!



「葉月ちゃん……」



 なんか周りからドン引きされてる気がする。気のせいかな? うん、気のせいだ。気のせいに違いない。


 自分に言い聞かせていたら先輩のお説教が終わったようだ。先輩がパンパンと手を叩いて注目を集めている。



「俺から言っておくが、後輩ちゃんの料理は壊滅的だ! 今後一切後輩ちゃんに料理をさせるなよ! 鍋をかき混ぜるだけで同じことが起こるからな! 死にたくなかったら絶対に何もさせるな!」


「「「了解!」」」


「ちょっとみんな酷くない!?」



 先輩も酷いけどクラスメイト達も酷い! 反対意見は全くなかったよ! まあ、真っ赤に染まったキャベツを見たら反対する気持ちはないよね。


 あっ、また私の抗議が先輩に無視された。むぅ~! 罰則(ペナルティ)のレベルを上げよう!



「ちょっと! みんな火から目を離すな! 火事になるぞ!」



 先輩の声で、周りからクラスメイト達が慌てていなくなる。自分たちの班に戻ったのだ。


 私は何やら安心している先輩の背後にスッと立つ。そして、私はにっこりと微笑んだ。



「先輩?」



 先輩がギギギッと錆びた機械のように振り向いた。顔が引きつって冷や汗が流れている。



「流石に酷くないですか? 間違ってはいませんけど」


「えーっと、その、あの…」


「出来た料理は一緒に食べましょうね?」


「は、はい!」



 先輩が直立不動で返事をした。


 こうして、私は先輩と一緒に料理を食べた。先輩には罰則(ペナルティ)として、みんなの前であ~んをしてあげた。


 恥ずかしそうにしている先輩は可愛かったなぁ。しれっとみんなの前で間接キスしちゃった。先輩は気づいていなかったみたいだけど。


 先輩が作ったお味噌汁は美味しかったなぁ。生姜焼きも美味しかったけど、先輩の味じゃない。今度絶対に作ってもらおうっと。


 いろいろと波乱はあったけど、無事に調理実習は終わりました。


 先輩! お味噌汁と間接キス、ごちそうさまでした!









「先輩? 私のキャベツのぶつ切り食べます?」


「食べません!」



 ですよね~!


お読みいただきありがとうございました。

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