第48話 甘えてくる後輩ちゃん
「むぎゅ~~~~~~~~~~~~~~~!」
後輩ちゃんが俺の背中に抱きついている。柔らかな胸の感触が気持ちいい。
今日の後輩ちゃんは様子がおかしい。朝はニッコニッコ素敵な笑顔で、とてもとても嬉しそうだったけれど、昼休みに焦った様子で俺に抱きつき、クラスメイトに宣戦布告していた。
家に帰ったら俺の背中に抱きついてきて離れない。
料理するときも離れようとせず、何とか説得しても近くでじっと見つめてくるし、どこに行くときも後ろから抱きついてきて離れなかった。
お風呂入るとき、俺の着替え中に後輩ちゃんが覗こうとしてたのは焦った。気づいたら、ドアの隙間から後輩ちゃんの顔が半分覗いてた。
思わず悲鳴を上げることろだった。
「むぎゅ~~~~~~~~~~~~~~~!」
俺と後輩ちゃんは寝室のベッドの上にいる。
俺は日課の読書をしているんだけど、後輩ちゃんがずっと後ろから抱きしめてくる。脚まで使って俺を離さないよう抱きしめている。
足の裏がちょうど目の前のいいところにあって、くすぐりたい衝動に駆られる。
「むぎゅ~~~~~~~~~~~~~~~!」
「後輩ちゃん? どうしたの?」
読書に集中することが出来なくて、後輩ちゃんに構うことにする。
「う~んと…えーっと………マーキング?」
「マーキング?」
「はい。私の匂いをつければ誰も寄ってこないかと思いまして」
「ほうほう! 独占欲か?」
「…………そうですよ。悪いですか!?」
ふむふむ。昼休みに宣戦布告した理由は何となくわかった。嫉妬とか焦りで俺に抱きついているのか。後輩ちゃんは可愛いなぁ。
「後輩ちゃん後輩ちゃん。俺もぎゅってしたい」
「ほえっ? ど、どうしろと?」
「後ろからじゃなくて前から」
「わ、私の心臓が持ちませんよ!」
「俺、目を瞑っておくから」
「ぜ、絶対ですよ! 絶対見たらダメですからね! 絶対見たらダメですからね!」
俺は頷いて目を瞑る。これはフリか? お約束か?
目を開けておこうとも思ったけど止めておいた。
後輩ちゃんの温もりが背中から消えて、移動する気配がある。俺の伸ばした脚の上に乗ってきて、恐る恐る前から抱きついてきた。むぎゅっと脚まで絡めてくる。
「もう開けてもいいですよ」
俺は目を開けた。後輩ちゃんの顔は俺の真横にあるから見ることは出来ない。
「むぎゅ~~~~~~~~~~~~~~~!」
「後輩ちゃんどう?」
「心臓がバクバクしてます」
「そうか。俺も」
俺は後輩ちゃんの身体を優しく抱きしめる。柔らかくていい香りがして温かい。
恥ずかしくて緊張するけど、とても安心する。ずっとこのまま離したくない。
「先輩先輩。一体どうしたんですか? あのヘタレの先輩がぎゅってしたいと言い出すとは……。明日雨かもしれませんね」
「梅雨だから雨だぞ。まあ、えーっと、マーキング?」
「マーキング?」
「そう。こうして俺の匂いをつければ誰も寄ってこないかと思って」
「ほうほう! 独占欲ですか?」
後輩ちゃんが楽しそうに揶揄ってくる。
「………………そうだな」
「ほえっ!? ど、どどどどどどどどど独占欲!? あの先輩が!?」
「おい! 俺を何だと思っている!」
「私が他の男子に何度も何度も何度も何度も告白されようと全く顔色を変えなかった、乙女心をわからない最低最悪のヘタレ先輩です!」
「…………」
俺は何も言うことができない。確かに、後輩ちゃんが誰かに告白されても顔色一つ変えなかった。後輩ちゃんは絶対に靡かないという信頼もあった。
でも、どす黒い嫉妬や独占欲を心の中に抑え込んでいただけだ。
「まあ、冗談ですが。嫉妬や独占欲を見せないよう我慢していただけですよね。そんなのずっと前から知ってますよ」
「えっ?」
「はぁ…ずっと昔から、私が告白された後はめちゃくちゃ優しいじゃないですか。まあ、私の精神が疲れているから、という理由もありますけど。いやー最近は楽ですねぇ。先輩を巻き込んだおかげで告白がなくなりましたから! 中学の時もこの手を使えばよかったです!」
「………後輩ちゃん? 嫌じゃないのか?」
「はい? 私が嫌? 流石に超束縛されたりヤンデレになってもらうと困りますが、嫉妬や独占欲は全ての人間が持っているじゃないですか。私としては多少表に出してくれた方が嬉しいですね。今みたいに」
そっか。そうなのか。今まで後輩ちゃんに見せないようにしていたけど、少しは後輩ちゃんに甘えてもいいのかな。
「私は嫉妬や独占欲を見せる先輩も好………おっと! ○○ですよ」
「………後輩ちゃん? 今、何を言いかけた?」
俺はここぞとばかりに後輩ちゃんに問いかけて揶揄う。
今の俺の顔はニヤニヤしてるけど、同時に恥ずかしくて熱い。
「う、うるさいです! さっさと告白しやがれ、このヘタレ野郎~!」
「うぐっ!」
俺の心にクリティカルヒットする。後輩ちゃんが俺の背中をポコポコ叩いてダメージを追加する。身体も軽く上下に揺らし始める。
そ、その動きは俺のある部分を刺激するので止めて頂きたい。非常に危ない動きだ。
「はあ。たまには私に甘えてください。ホラー映画を観たり蜘蛛を見た時の先輩も可愛いんですから」
「あ、あれは嫌だ」
「えー可愛いのに!」
後輩ちゃんがクスクス笑っている。
あの時の俺はどうかしてたんだ。記憶から消したい。
俺は猛烈に恥ずかしくなったから、照れ隠しで後輩ちゃんの真っ白で綺麗な首筋にキスをする。
「ひゃう」
「可愛い声だな。もっと聞きたくなる」
「ひゃっ! さ、囁かないでください! その声はかっこよすぎます! 堕ちちゃう! 私堕ちちゃいますからぁ!」
「堕ちてないのか? 俺はもう葉月に堕ちてるぞ」
「それは遠回しの告白ですか?」
「………………急に真顔で言うな」
一言余計なことを言ってしまった。
真横にあった後輩ちゃんの顔が目の前に来て、真顔で俺の瞳を覗き込んでくる。
後輩ちゃんの両手で俺の顔を挟み込まれてそっぽ向くこともできない。
「それで? 告白ですか?」
「………後輩ちゃんはどう思う?」
後輩ちゃんは可愛らしく首をかしげて思案する。
「うーん……告白にはカウントしません」
「なら、告白はまた今度な」
「………………ヘタレ」
「うっさい」
後輩ちゃんの顔が目の前からいなくなった。ぎゅっと抱きしめてくる。
俺は片手で後輩ちゃんを抱きしめながら、反対の手で頭を優しく撫でた。
俺の肩に頭を置いてもたれかかっている後輩ちゃんが優しい声で囁いてきた。
「ヘタレ先輩?」
「なんだ?」
「私を思いっきり甘やかしてください。告白を先延ばしにされた私には、その権利があるはずです!」
「わかりました。俺のお姫様」
俺はいつも以上に後輩ちゃんを可愛がった。頭を撫でたり、抱きしめたり、膝枕したり、とにかく後輩ちゃんを甘やかして甘やかした。
いつも以上に甘えてきた後輩ちゃんはとても可愛かった。
気づいたら俺たちは夜更かししていた。
「先輩。なんで『俺のお姫様』なんていうセリフは軽々しく言えるんですか?」
「さあ? 嫌だったか?」
「…………嫌なわけないです。もっと言ってください」
「葉月は俺のもの」
「ひゃっ! そ、それはズルいです! 先輩のばか」
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