第46話 決意する私
チュンチュンチュン
鳥の鳴き声が聞こえた気がして目が覚めた。眠い。
私はいい香りがする抱き枕に顔をこすりつける。
あぁ…いい香り。安心する。誰かこの香水を発売してくれないかな? 先輩の香りってことで。
私は半分夢の中でそう思った。そして、ふと気づく。あれ? 先輩?
急に覚醒した私は目を開くと、目の前に先輩がいた。いや、私が先輩を抱き枕にしていた。まあ、いつも通りだけど。
私はよく先輩を抱き枕にしているらしい。平日、お弁当を作るために早起きしている先輩が嬉しそうに愚痴ってた。
幸い先輩はまだ寝ている。先輩の寝顔だ。可愛い!
そして、私は大事なことに気づく。
「昨日は私の誕生日で、お母さんたちのプレゼントで先輩を誘惑して、先輩に押し倒されて………………あれ? その先は? 記憶がない? えっ? なんで?」
先輩に押し倒されて、先輩がキスしようと顔を近づけてきたことまで覚えてる。その先が一向に思い出せない。
私はバッとシーツを捲る。私は寝る前のネグリジェを着ている。下着も着ている。シーツやベッドには血の跡はない。
私はお腹を触る。全く変わらない。お腹が空いているだけ。痛みや違和感はない。
初めては痛かったり血が出たりするって聞いてたけど、私は例外だったのかな?
「んっ? 後輩ちゃん?」
私が悩んでいると先輩が起きた。シーツを捲られて寒くなったらしい。
「後輩ちゃんおはよ」
先輩が私のことを優しく抱きしめてくれる。
わーい! 嬉しいな! ………って今はそれどころじゃなーい! 昨晩はどうなったの!?
「先輩おはようございます! 早速ですが、昨晩はどうだったんですか!? 私、覚えてないんですけど! ヤッたんですか? 私たちヤッたんですかっ!?」
「あー、えーっと……その………」
先輩がばつが悪そうに視線を逸らす。
「教えてください!」
先輩が観念して説明し始めた。
「昨日、俺は理性が崩壊したんだ。後輩ちゃんがそれはもう可愛すぎて…」
今も先輩は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに顔を逸らしている。昨日と同じ姿の私を見てくれない。
そっか。可愛いと思ってくれてたのか。とても嬉しい。
「ありがとうございます! それで?」
「抱きかかえてベッドに押し倒しました」
「ふむふむ」
「俺がキスしようとしたら後輩ちゃんは……」
「先輩にキスされようとした私は……?」
「……………直前で気絶しました」
「はぁ?」
「後輩ちゃんは気絶しました。それはもう幸せそうで起こすに起こせませんでした。んで、後輩ちゃんが起きるのを待ってたら俺もいつの間にか寝てたみたい」
私と先輩の間に沈黙が訪れる。
先輩によると、私は超大切で超いいところで気絶した……私の馬鹿! 大馬鹿! なんで気絶しちゃうの! 折角先輩が襲ってくれたのに! 私の馬鹿!
ということは、私ってまだヴァージン? 処女? 生娘? 先輩は童貞?
「先輩……………キスはしてないんですよね?」
「してないな」
「エッチも?」
「してない」
「先輩は童貞で私は処女?」
「……いろいろと言いたいことはあるけど、その通りだな」
そっかぁ。まだエッチしてないのか。キスもまだなのかぁ。そうかぁ。
「うぅ……せん…ぱい……グスッ………ごめんなさい…グスッ…ごめんなさい……ごめんなしゃい……うわ~ん!」
「ちょっ! 何で泣くの!? 泣くことないから!」
先輩が慌てているけど私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。私が誘ったのに全てぶち壊してしまった。
「うわぁぁああああああああん! ごめんなさぁぁあああああい!」
「えーっと、よしよし。後輩ちゃんは何も悪くないからな」
先輩が私を慰めようとしてくれるけど、今はそれが逆に辛い。
「私…私はっ…大切な時に……気絶しちゃって………グスッ………」
「俺は気にしてないから。ゆっくりでいいから。なっ?」
朝から大泣きする私を先輩がギュッと抱きしめてくれる。私が泣き止むまでずっと抱きしめてくれた。
ようやく泣き止んだ私は先輩の身体に顔を押し付けて、先輩のパジャマで涙をグシグシと拭う。
私は涙を拭いながら決意した。絶対に気絶しない、と。その為に特訓する、と。
決意に燃える私は顔を上げ、先輩と視線を合わせる。先輩の綺麗な瞳が私を貫いた。
「私、頑張ります! 気絶しないよう特訓します!」
「特訓? どうするの?」
先輩が首をかしげる。
「先輩に私の身体をたっくさん触って、たっくさん見てもらいます! 耐性をつけます!」
「えぇ…」
先輩は嬉しそうな辛いような複雑な顔をしている。
「俺がするかどうかは置いといて、今はどこまで大丈夫そうなの?」
「えーっと、たぶんお腹を見られるのがギリギリじゃないかと」
「下着姿は?」
「ダメだと思います!」
「…そうか…俺がしないとだめ?」
「先輩……お願いします」
必殺上目遣い!
先輩が固まってしまった。そして、スッと顔を逸らされる。効果は抜群だ。
「……わかったよ。もう俺の理性はすぐに崩壊するぞ」
「はい! 私はいつでもお待ちしています! …………気絶しなければ」
先輩が覚悟を決めたみたい。ちょっと本気モードの先輩が私の頭を撫でてくれる。先輩のナデナデは気持ちいい。そして、ちょっと感じちゃう。
しばらく撫でられていた私は、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「先輩? 男の人って生殺し状態だと辛いって聞いたのですが、どうなんですか?」
「うぐっ!」
先輩の顔が何とも言えない複雑な表情になった。
私は先輩の上に乗っている状態。先輩のとある場所が私の身体に当たっている。興奮しているみたいだ。
「こ、これはだな、朝の生理現象で」
「昨日のこともありますからね。よしっ!」
昨日は先輩に期待させちゃって何もしなかったからね。それに今もネグリジェのまま先輩に抱きついているし。おっぱいなんてずっと当たってる。
よしっ! やるぞ!
「後輩ちゃん!? よしって何!? 何が”よしっ”なの!?」
「私、頑張りますね!」
「頑張るって何を!?」
「まあまあ、大人しくしてくださいね!」
私はバッと起き上がり、先輩のストレス発散をお手伝いする。
ふっふっふ。このためにお勉強をしたのです! 一度全部見ているし、先輩の身体は面白いので、見ても触っても、もう気絶しません! むしろもっと見たり触ったりしたいです!
性欲………じゃなくて知的好奇心を満たすために!
「ちょっと!? 後輩ちゃんの目が怖いんだけど! 肉食獣みたいなんだけど! ちょっ!? ズボンを脱がさないで! パンツまで脱がせようとしないで! 後輩ちゃん気絶するでしょ!? あれっ? しないの? なんで? って脱げる! 本当に脱げるから! 今はダメだから! 後輩ちゃん待って! あっ! あぁぁぁああああああああっ!」
私に無理やり脱がされた先輩は、もう諦めたようです。ぎこちなかった私にアドバイスしてくれました。
私が頑張っている間、先輩は初めて見る顔をしていた。もっともっと見たいと思った。
時間はかかったけれど、先輩はストレス発散できたみたい。もっと練習が必要だな、と実感しました。
そういえば、冷蔵庫にヨーグルトがあったなぁ。朝食に食べようっと。
こうして、私は気絶しないように特訓することと、先輩のために頑張ることを決意した。
そして、私と先輩の距離は一歩……いや、半歩前進しました。
お読みいただきありがとうございました。
というわけで、前話では何もやってません!
今回はあんなことやこんなことをしましたけど……。




