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喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第二章【集う異世界生活】
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第八十二話:罠という名の直接攻撃

 天守閣に突入すると、短槍を構えたスケルトンの群れが待ち構えていた。数は……無駄に多く立っている柱が邪魔していることもあり数えきれないが、とにかく多い。柱は角ばった木製で、横に向けば体を隠せそうな幅である。

 カタカタと骨を鳴らしながら、前方と左右から短槍を突き出して来る。先陣を切るアクトは体勢を低くしながら斜めに前進して短槍を躱し、前方のスケルトンの発光した骨、右脚の脛辺りを大太刀で砕いた。更に、振りぬいた大太刀を返すと、前進しながら回転斬りを見舞って固まっていたスケルトンを吹き飛ばす。


「シオン、右方向に罠の魔法を頼む! 狙いは適当でいい!」


 アクトに続こうとしたところを呼び止めて指示を出す。ブラストで一気に吹き飛ばせればいいのだが、柱まで破壊して上階に影響が及んでしまうのは避けたい。罠の魔法は……何と言ったか忘れたけど、効果は範囲内に踏み込んだ相手の地面から無数の槍が出て来ると聞いたのは覚えている。これだけ密集していれば、何体かは巻き込めるだろう。

 入口で詠唱に入るシオンを狙ってスケルトンがやって来る。俺の仕事はこいつらからシオンを守ってやる……は言い過ぎだな。詠唱の邪魔をさせないように邪魔をしてやる、くらいが丁度いいか。

 入口から少しだけ奥に入り込んでスケルトンの注意を引き付ける。右から突いてくる槍をサイドステップで躱して反転し、翔剣とつるぎを斜めに振り上げる。すると、右手に何かを弾いた手応えを感じる。背後への牽制として振り上げただけだが、どうやら運良く突き出された短槍を弾いたようだ。


「マナよ、我が下に集結し、地を汚す者に裁きを与える力と化せ。ライトニング・スクリープ!」


 背後から鋭利な物が突き出す音と、電気の弾ける音、それに骨がばらける音が耳に届いた。想像よりも派手にやってくれたらしい。それなら……。


「シオン! もう一発! 密集している所を狙え!」


 声を張り上げながら、短槍の攻撃を躱して……躱して……ちっ、次々とやって来られると踏み込む隙がない。初めは邪魔だと思った柱に助けられながら、前から後ろからの攻撃をやり過ごす。


「ちょっと無理! 敵が邪魔!」


 攻撃を躱している間に離れすぎてしまったか。ショートソードだと短槍相手でも分が悪そうだが、シオンの能力値ならどうにかしてくれるだろう。けど、武器で一々構うなんてやってられないぞ。最悪こっちの武器が壊れる。


「アクト! 戻って来い!」


 敵を倒してくれるのはありがたいんだが、前に進みすぎるんだよな。近くで大太刀を振り回されると危ないけど、一か所に留まって戦うことも覚えてもらった方がいいな。

 スケルトンの残骸が散らばっているので、アクトがどの辺りに居るかは目星が付けられるが、今は周りを見ている暇はない。周囲に味方がいるからだろうが、短槍は突きだけで薙いで来ることはない。それに突き出しの速度も十分に目で追える程度だから、俺でも回避に徹していればどうにかなる。


「避けているだけってのもっ!」


 柱を利用して回り込んでの反撃を試みたが、読まれていたのか偶然なのかは知らない、柱の壁から左胸を狙った突きが繰り出された。


「うぅっ!」


 反射的に身を捻り、圧迫された唸り声を漏らしながら左腕を開く。脇の下を短槍が通過して行ったのを確認して脇を閉める。得物を引き戻せないスケルトンの発光した肩甲骨に翔剣とつるぎを叩き込む。

 肩甲骨が砕け、全体が崩れ落ちた後に残ったのは俺の脇に挟まれた短槍と左手だけだ。短槍を左手に持ち替えたいが、直ぐに別のスケルトンがやって来る。前後から挟まれる形となったので、柱を盾にして前方からの攻撃を遮断し、背後から来たスケルトンに向き直りつつ潜り込んで短槍を避けて斬り上げる。発光した背骨を破壊するには至らなかったが、肋骨を吹き飛ばされたスケルトンは大きくバランスを崩した。このまま追撃と行きたいが、横目で後方を確認すると柱から回り込んで来たスケルトンが映る。

 左脇から短槍を解放し、ずしりと重さを感じながら肘と手で絡めるように短槍を持つ。背後からの突きを横に跳んで避け、体を捻り、肩ごと槍を突き出す。が、手応えはない。出鱈目な狙いは、どうやら骨の間を突いただけに終わったようだ。

 くそっ、やっぱ上手くいかねぇか!

 踏ん張っていた足から力を抜いて体の捻りに従うように体を反転させ、翔剣とつるぎを横から叩き込もうとするが、引き戻していた短槍に防がれた。

 攻防の間にもスケルトンは集まって来ていて、いよいよ避ける場所が無くなる。


「っ!」


 息を飲み、眼球を左右に動かす。少しでも力を抜いたら諦めてしまいそうだ。どいつだ、どいつからから仕掛けて来る?

 緊張した空間で初めに動いたのは俺から見て左に位置取りしていたスケルトン。眼球に体を動かされると、スケルトンが動いたのではなく、吹っ飛ばされたことに気付く。


「お前ら、邪魔だ」


 密集してきていたスケルトンをまとめて薙ぎ払い、叩きつける。

 アクトの援護によって包囲網は崩れるが、感情を持たないスケルトンが動揺することはなく、俺目掛けて短槍を突き出して来る。それでも、ほぼ全方位から狙われていた状況から比べれば避けようはある。左手の槍は手放し、回避に徹していると……


「マナよ、我が下に集結し、地を汚す者に裁きを与える力と化せ。ライトニング・スクリープ!」


 迫って来ていたスケルトンの群れが、床から不規則に生えた雷の槍によって串刺しになる。

 シオンが魔法を放つ余裕ができたということは、敵の数も減ってきたということか。


「助かった!」


「にゃははは! どういたしまして! あとは二人の周りにいる奴らだけだよ!」


 ……何でシオンの声が上から聞こえるのだろうか。

 声のした方向に視線を向けたいが……魔法を抜けて来たスケルトンの相手をしなくてはいけない。

 突き出された短槍を下から弾き、空いた胴体、発光した肋骨へ翔剣とつるぎを叩き込み、続いてやってきたスケルトンも同様に倒す。


「はい、終了!」


 やっぱり上から聞こえるな。視線を上げて探すと……いた。柱の上に短槍を突き刺してしがみ付いている。


「遊んでんの?」


 アクトが息を整えながら突っ込むとシオンは慌てて下りて来た。


「遊んでないって! 戦ってる内に届かなそうだと思ったから隙を見て登って、上から魔法放ってたの!」


「ふぅん」


 状況を見て動いてくれたのはありがたい。それにしてもよく登ろうと思ったな。短槍を投げられたら危なかっただろうに。


「敵は倒せたし、階段を探そう」


 敵を倒したばかりだが、まだまだ上階はある。二人とも疲れた様子ではなさそうだし、先に進むことを優先しよう。

 それにしても、俺も大分体力がついてきたな。あれだけ動いたけどまだ余裕がある。この分なら他の能力値の上昇も期待できるんじゃないか?

 地上に戻ってからの楽しみを増やしながら一階を探し回ると、部屋の隅に梯子と見紛うような急な階段を発見した。


「……何か降って来そうだな」


 二階への入口の狭さから過った不安をそのまま口に出してみる。


「んー、でもここしか階段ないし、行くしかないでしょ」


 シオンが不用意に階段を上ろうとすると、二階からスケルトンが顔を出して瓶を投げつけて来た。


「わっ!」


 真っ先に跳んで逃げるシオンに続いて、俺とアクトも階段から離れる。


「なんだ、あの液体?」


 階段の下に叩きつけられた瓶は粉々に割れ、中から粘着質な液体が床に飛び散っている。


「キラーアントの体液みたいだね……」


「……当たりたくないな」


 瓶の破片で怪我したところにあの体液が入り込むことを考えると鳥肌が立つ。あの体液って体内に入ったら……いや、考えるのは止そう。全部避ける。


「おれはあの階段の方が嫌だな」


 一瞬聞き返そうになったが、急で段差も高い階段とアクトを見て納得した。背の低いアクトにとって、あの階段は上るだけでも一苦労になるだろう。


「シオン、どうにか掻い潜って行けないか?」


「りょーかーい! 期待されちゃったら断れないなぁ!」


 少しは嫌な顔をしてくれた方が頼みがいがあるというか、ここまで快諾されると逆に悪い気がしてくるな。


「あ、これお願い」


 肩に担いできたパイルバンカーを下ろして差し出して来たので受け取ると、想像以上の重量に落としそうになった。

 こんなのずっと担いでたのかよ……。それで壁や柱を登っていたってことは、今はもっと身軽に動けるんだろ。


「にはは! 重いっしょ! 頑張って持ってきてね!」


 両手で抱える俺を笑ってから、助走を付けて階段に挑む姿は俺の想像以上だった。スケルトンが投げて来る瓶を右に左に跳んで避け、あっという間に二階へ到達してショートソードでスケルトンを倒す。


「オッケー、とりあえず上がって来て良さそうだよ」


 スケルトンの代わりに顔を出したシオンに感謝してから、パイルバンカーを担いだ俺は唸り声を上げながら階段を上がった。これ何度も繰り返せば良い筋トレになりそうだな……。

 アクトは精一杯上げた足を段差に引っ掛け、腕も使ってあくせくと動いており、その姿をシオンは上から微笑ましく見つめていた。





次回投稿予定は11月11日0時です。

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次回投稿予定は11月12日0時です。

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