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喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第二章【集う異世界生活】
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第八十一話:本丸突破

 先陣を切るシオンがグールの視界に入り込み、注意を引き付けたところに構えたアクトが走り込む。

 血以外の気配に鈍感なグールが背後から接近するアクトの気配に気付いた時には、既に大太刀によって頭部を斬り潰されていた。


「アァァァ……」


 時折、シオンの動きに付いていけなかったグールがアクトに反応するが、一、二体程度アクトの敵ではない。瞬く間に斬り捨てられる。

 先行し過ぎに見えるシオンだが、たまにグールを道の端まで引き付けてから倒すなどしているので、直進している俺たちとの間隔は程良くなっている。


「全部を相手にする必要ないんだけどな」


 前で戦う二人を追いながら呟く。今後も通る可能性はある場所なので倒しておくことは悪くないのだが、体力の消耗は控えてもらいたい。

 俺の不安を他所に二人は楽々とグールを倒していき、あんなに遠く感じていた城門まで簡単に辿り着くことができた。そのまま突入、とはいかずに一旦城門前で集合する。


「ここからはアクトが前に出てくれるか?」


「いいけど、前におれが通った道、最後行き止まりだったから多分間違ってるよ」


「大丈夫だ。罠の場所を教えてくれればいい」


「ん、わかった」


「あたいはー?」


 と聞かれてもな……。


「アクト、城門の内側は狭いか?」


「狭かったり広かったり」


 だろうな。聞いてからそうだろうなとは思ったよ。敵は少ないと言っていたし、シオンの足で前に出てもらう必要は無さそうだな。


「俺の横か後ろでバックアップを頼む」


「りょーかい!」


 襲撃者レイダーにバックアップを頼むとはこれ如何に。まだ俺のパーティには襲撃者レイダーで登録してないから気にする必要ないし、シオンも承諾してくれたから問題ないか。


「じゃあ、行くよ。初め、門を抜けたあと左右から矢が飛んでくるから止まらずに進んで。ここからもう見えてるけど、左右の分かれ道はどっちに行く? おれは右に行ったけど」


 アクトの言う通り、開かれた門の先にはY字の分かれ道があり、右は登り道になっていて左は平地だ。立ち止まって考えようとすると矢に射抜かれるという訳か……俺みたいに。


「右でいい。行き止まりになった直前の分かれ道まで、前回と同じ道を進んでくれ」


 別の道を進んだら、アクトの前回の経験が活かせないからな。進めるところまで進んで、駄目だったらその時考える。紙と書く物があれば移動経路を記録できたんだが、誰も持っていないし……どっかの家にあるとも思えない。記憶力に自信があるわけじゃないけど、頑張って覚えよう。


「左右から矢が飛んでくるってことは、三人並んで行くのは危険だよな。……アクト、悪いけど先に行ってもらえるか?」


「うん、そのつもり」


 頷きを返した後、間を置かずにアクトは走り出す。城門を抜けた直後、タタン、という小気味良い音が三回鳴って左右から一本ずつの矢が通り過ぎて行く。

 矢は人の肩と膝上辺りを狙って飛んでくるようで、分かれ道までの一定距離間で三セット放たれる。矢の発射口を通る時に放たれるみたいだから、止まらずに走り抜ければ割りと簡単に避けられそうだな。


「次、俺が行っていいか?」


「いいよ」


 許可を貰ってから城門の先、アクトが待っている場所まで一気に駆け抜ける。短距離走は苦手だが、予想通り矢は俺が通った時に放たれるので問題なく駆け抜けられた。最後のシオンも危なげなく矢を抜けて合流を果たす。


「この坂を上ってると右に曲がっていって影からスケルトンが出て来る。数は多くないし、おれが倒すけど一応気を付けといて」


 頼もしいお言葉に頷きを返し、俺とシオンはアクトに付いて行く形で坂を上って行く。坂はしっかりと足を踏み込まないと上り辛く、ここだけでも体力を消耗しそうだ。

 その内、アクトの言った通りに道が急な右曲がりになっており、死角からスケルトンが四体と遅れて更に二体出て来た。魔物との違いは一か所だけ、部位は別々だが発光している骨が組み込まれていた。


「なんか、光ってる骨を砕かないと、バラバラにしても復活するんだよね」


 普段のスケルトンよりも少しばかり動きが機敏だったよに見えたが、アクトの大太刀によって発光した骨を砕かれたスケルトンはただの骨の残骸と化している。


「この先にある建物に入るよ。中は落とし穴とか槍が出て来たりするから」


 サクサクと先に進んで行くアクトの背から視線を外す。高台にいるので本丸全体を見渡せないかと思ったが、樹木や塀や屋敷が邪魔して明確な全体図は分からない。特に分かれ道の左側の方は遮蔽物が多い。


「レイホ、どうかした?」


「いや、何でもない」


 尋ねて来たシオンに首を横に振って答え、先に進む。やっぱり、そう簡単には攻略できないか。


 上り坂の先に建っていた屋敷に入ると左手に渡り廊下が見えたが、そのまま行くと屋根から槍が突き出されるようなので、タイミングをずらすか仕掛けを解除する必要があるらしい。


「この中じゃ敵は出てこないけど、何が起きるか分かんないから気を付けて」


 アクトは前回通った道を忠実に辿っているのだろう。進める足の動きは速い。よく一回通っただけの、しかも何が起きるか分からない状況だったにも関わらず、道を覚えているものだ。

 木張りの廊下を通り、壁から放たれる吹き矢のような飛来物を躱し、毒の塗られた襖を斬り捨て、落とし穴を跳び越え、入り口の反対側まで辿り着く。


「結構、ハードだな……」


 分かっている罠を躱すのも楽じゃない。ここは敵が出ないと聞いていたので、体力と集中力を回復するために出口前で小休憩を取った。


「この先に出たら直ぐに矢が飛んで来て、通り過ぎたらスケルトンが襲って来る」


 マジか……。罠屋敷を抜けて安心したら矢に射抜かれるって訳か。俺が一人だったら間違いなく刺さっていたな。


「……よくこれだけ進めたな」


 本当に凄いな、アクト。これだけの罠を初見で潜り抜けて来れたのか。しかも、前回は大通りに蔓延っていたグールを倒してからここに来たんだろ。これで魔法も使ってたら……銀等級くらいになっているんじゃないのか?


「でも、ここまでしか進めなかった。この先のスケルトンを倒した先は道が入り組んでいて、そこで迷った」


 迷路か……。また壁に手を付いて……は駄目だな。迷って死んだってことは、壁から槍とか矢が飛んで来るのは間違いないだろうし、伏兵にも気を付けないとか。…………シオンのパイルバンカーか魔法で壁ぶっ壊して進めないかな?


「あたい魔力全快だし、魔法で迷路壊しちゃおっか?」


 おっと、まさか冗談を口にされるとはな。


「……状況によっては頼むかもしれない」


 べつにアトラクションを楽しみに来た訳じゃない、寧ろ城を落とそうって側なんだから、行儀よく敵の用意した道に従う必要はない。不正をしたら強制的に死ぬとかだったら、この空間を創って監視している存在がいる可能性を疑う。

 体力も回復したので先に進む。出口の扉を開け、アクトが先陣を切る。言っていた通り両側の壁から矢が放たれた。今度は一定間隔で左右交互に放たれ、道が狭いので一気に駆け抜けないと矢が命中してしまいそうだ。

 足の速いシオンは難無く矢を抜け、俺は屋敷の中で助走を付けてギリギリ躱すことができた。俺が安全地帯まで走り抜ける頃には、アクトが先に潜んでいたスケルトンを全滅させていた。


 スケルトン以降敵は現れず、罠も無かったが、曲がりくねった道を進むだけなのに異様に緊張したのは両側を壁が囲んでいたからだろう。何も無いと思っても、これまで得た経験から勝手に神経を尖らせてしまう。精神的疲労を与えることが目的であるならば、何も無いことすら罠と言える。


 休憩したばかりなのに疲労感を覚えたが、出来るだけ表情に出さず、問題の迷路と思われる場所に着く。屋敷や塀で区切られた細い道を、罠が無いか注意深く確認しながら進む。


「んにゃぁぁ~! めんどくさい!」


 三回くらい突き当りに進行を阻まれると、シオンが頭を抱えて叫んだ。歩いた距離的には迷路から城門までの方が長いくらいだが、精神的疲労は比べるまでもない。アクトも表情や言葉には出さないが、動きに怠さが出て来ている。


「魔法打っていい!?」


「……やめておけ」


 迷路を形成しているのがただの塀だけなら考えたけど、屋敷の存在が踏み切ることを躊躇わせた。屋敷の中からキラーアントが出て来たぐらいならまだいいけど、屋敷を破壊したことが引き金になってグールの群れが押し寄せてきたら堪ったもんじゃない。大通りにまで溢れかえったら……折れるかもしれない。

 俺も気分が滅入って来ているな。早くここを抜けたいが焦りは禁物だ。集中しろ。


「魔法が駄目なら……」


 シオンが何か企んだようなので見ていると、塀に向けてダッシュし塀を蹴り上げてよじ上る。

 塀は三メートル弱程度だろうか、敏捷が高く、身長も百七十センチ近いシオンは天辺に腕を乗せることに成功した。


「んしょっ、んしょ……」


 あら、罠とか何もなく上ったぞ。案外イケるもんだな。


「にゃはは~! 試してみるもんだねぇ!」


「そこから出口までの道のりは分かるか?」


 肌着を履いているとは言え、短いスカートを履いた女性を見上げるのは抵抗があるので、道の先に視線を向けたまま聞く。


「え~っと……あっちだから、一回来た道を戻って」


 あ、分かるんだ。こういう変な空間だから、視覚を遮る結界とか張られてもおかしくないと思ったんだけどな……。

 それから、シオンの「そっち」「こっち」という言葉に一々視線を上げさせられながら迷路を進み、呆気なく脱出することができた。


「にはは~。楽勝だったね!」


「……そうだな」


 落ち込んでいた時の表情を忘れてしまいそうになるくらいの明るい笑顔に胸が高鳴ったわけではなく、こんな攻略の仕方でいいのか疑問に思い、一瞬返事をするか迷った。こうなったら意外と遠慮なく暴れてしまってもいいのかもな。

 そんな考えを抱いたが、その後は強攻策に出る必要はなかった。

 

 迷路の先、細い道を抜けた先の広間では、突然無数の矢が降りかかって来たが、後退して通路に戻るだけで簡単に躱すことができた。こちらの人数が多かったら後退するにも時間が掛かって、少なからず負傷者が出ただろうが、三人という少数が功を奏した。

 再び広間に戻って扉を開けた先にある屋敷に入ると、再び罠屋敷だったが一度見たような罠ばかりだったのでアクトやシオンが危なっかしくも罠を突破し、時に破壊し、俺は必死に後を追うことで先に進んだ。

 そして、屋敷から伸びた梯子を上って外に出ると、いよいよ天守閣の入口が目と鼻の先に迫っていた。




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