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喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第二章【集う異世界生活】
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第七十一話:報復の末路

前回のあらすじ

 ハデスのお陰で死んでも生き返るようになりました。

 二度目の次元の境穴。そこには一度目と同じ洞窟が続いていた。毎回違うルートに変わる場合、死んで得た経験を役立てることが難しいが、これなら無駄死にになることはなさそうだ。安心する反面、覚悟を決めなければいけない。ゴブリンとの戦闘が避けられないのは当然として、その先、より強力な魔獣が出現した場合でも運任せの回避は困難になった。

 ゴブリンと会敵した場所までは少し歩くことになる。そこでゴブリンが復活しているかどうかで今後の不安が大きくなるか小さくなるか変わってくるが、心労ばかり重ねていても仕方ない。俺は人型ゴブリンとの戦いに備えて、シオンから使用できる魔法について詳しく話を聞き、作戦と言えるほどのものじゃないが戦い方を考える。

 使用できる魔法は三種類で、攻撃が二種類と妨害というか罠が一種類。回復を使えれば安心感が得られたが、覚えていないのならば仕方ない。魔法の威力はどれも強力なので、やられる前にやる戦法でいくか。

 ゴブリンの方は使って来た魔法の傾向から、最低でも二体は魔法使いが存在する。二体横に並んだ三列の陣形だったから、魔法使いがいるとしたら最後尾か? 窒息させられて焦ってる内にやられたから覚えてないな。


「シオンはゴブリンの魔法使いがどこにいたか分かる?」


「一番後ろにいたよ」


 あっさり答えてくれた。やっぱりちゃんと見ているんだな。

 最後尾だとしたら後ろに回り込みたいが、あの通路では前衛を躱して回り込むのは困難だ。となると、やっぱり……。


「ブラストで六体まとめて吹き飛ばせないかな?」


「中心に出せればいけると思うよ。ゴブリンが魔法とか雷耐性持ってたらゴメンだけど」


 その時は運が悪かったと諦めよう。簡単に死ぬのは嫌だから抵抗はするけど。


「サフケイションはどうすんの?」


 先頭を歩いていたアクトが、背負っていた大太刀を左手に持ち替えて聞いて来た。気付けば通路は徐々に狭まってきており、ゴブリンと遭遇した場所の近くまで来ているようだった。


「俺が引き受けるよ。避けられないことはないんだろ」


「……最初だけおれが引き付けて行こうか」


 不安というより不満そうだな。


「大丈夫だ。アクトはアクトの標的に集中しろ」


「……レイホが死んだら俺も死ぬから」


 そんな重度の依存者みたいなこと言うなよ。


「あっ、あたいもレイホが死んだ時は後を追うから」


 ……どんな脅しだ。ハデスの城に戻れればいいが、本当に死んだ時のことを考えてないのか。

 二人を諭す時間も無く、左右に分かれた通路を視界が捉えた。ゴブリンとの再戦の時がやってきた。


「人影は……無いね」


 壁を注意深く観察しながらシオンが小声で伝えてくれた。前回と同じ配置ではないのだとしたら、倒したゴブリンは復活していないと考えた方がいいか?前は通路を左に曲がった所にボウガンを持ったゴブリンがいたが、今回はどうだ?

 悩んでいると、珍しくアクトが鞘を放り投げずに抜刀して分岐点まで歩いて行く。

 あいつ、無理な行動は控えろって言ったばっかりなのに……。


「どっちにもいないよ」


 なに、それは予想外だ。……数が減ったから巣に籠ってるのか?それなら戦わずに済む分ありがたい。


「右に進もう。わざわざ戦いを仕掛ける必要はない」


 そう決めた直後だった。アクトが左側の通路に向かって左手を突き出したのは。


「来た」


 その声はアクトが放った攻撃の衝撃音で掻き消されるが、アクトが迎撃を行ったこと自体が敵襲を知らせてくれた。


「グギャ!」


 左手から放たれた衝撃波により、突っ込んで来たゴブリンは大きく仰け反り、容赦の無い大太刀の突きによって絶命した。


「こいつ、あのすばしっこい奴じゃん」


 仰向けに倒れたゴブリンを見下ろながら呟かれた言葉に俺とシオンは興味を惹かれ、共にゴブリンの死骸を目にした。


「確かに」


 一見、魔物のゴブリンと違いが見当たらないが、この次元の境穴ではそれこそが特徴になり得る。しかし、ゴブリンの体には妙なところが見受けられる。


「全身傷だらけだね」


 シオンの言う通り、ゴブリンの体は切り傷のような、抉られたような傷が複数付いていたし、得物であるダガーも持っていない。アクトが与えたのは致命の一撃であったが、その前に何者かと戦っていたのか?


「どうする?」


 聞いてくるアクトの瞳は真っ直ぐに通路の奥、ゴブリンの巣の方へ向けられている。この先で何ものかがゴブリンと戦っている。誰も口にはしないものの、三人は同じ思考に至っている。

 相手がこちらに気付いていないなら早々に立ち去るべきだが、何ものか、可能性として高いのはゴブリンと敵対している魔獣だった場合、後ろから追われる不安を抱えることになる。通路を右に曲がった先は未知の場所だし、魔獣がいる可能性だって十分にある。倒しに行くか? 通路の陰に隠れて様子見するか? いや待て、一回目に来た時、人型ゴブリンは通路の右側に走って行って、多分その先で仲間と合流したんだよな。ってことは暫くは安全地帯で、ゴブリンが五、六体集まれる空間があるってことだ。


「こっちから仕掛けに行く必要はない。背後を気にしつつ先に進もう」


「ん」


「じゃあ、あたいがしんがりになるからアクト先頭ね」


 自ら危険な役目を買って出るシオンであるが、彼女の言う通りの隊列が良さそうなので、対立することなく速やかにその場を離れた。

 少しばかり歩き進めていくと、微かに水滴が落ちる音が聞こえてくる。特に水場を求めているわけではないが、一本道であるため、自然と水滴の方へ近づいて行く。


「下、気を付けて」


 アクトがそう言ったのは、通路から広間に移る際に段差が生じていたからではない。段差の陰にトラバサミ状の罠が設置されていたからだ。

 少し大げさに跳んで段差を下りて周囲を見渡す。一先ず魔獣がいる気配はなさそうだ。広間のは横長の楕円形の中央を下にへこませたような形をしていた。その右側には大きな水瓶が置いてあり、天井から滴り落ちる水滴を受け止めていた。水瓶が置いてある場所より更に奥まった場所には通路が続いているが、広間の左側を探索していたアクトも同様に通路を発見していた。


「また分かれ道か」


 道を選ぶ判断材料が皆無だというのに、アクトとシオンは俺に選択を委ねてくる。右と左の通路を見比べてみるが、どちらも似たような坑道が続いている。高さは二メートルくらいで、横幅は人ひとり分といった感じで狭い。大柄な魔獣は入って来れないだろうが、こっちも武器を振り回し難い。アクトの大太刀では突き以外の攻撃は困難だ。


「なんだこれ?」


 道選びに難儀していると、シオンが水瓶の近くで何かを見つけたようだ。不用意に触るなと言いたいところだが、その手には既に、複数の牙に紐を通して作られた首飾りが握られていた。


「この牙は……コボルトのかな。こっちは爪バージョン」


 コボルトのって、冗談だろ。牙はダガーの刃くらいあるし、爪はもう少し長くて短剣並だ。魔獣化するとそんなに発達するのか。


「なんでそんなのあるの?」


「さあ? ゴブリンが戦利品として取っておいたんじゃないの?」


「ふぅん」


 聞いておいて興味無さそうなアクトであるが、いつもの調子なので気にしないでおく。それに、魔獣化ゴブリンの習性なんて気にしたって仕方ない。それよりも進む道を決めよう。そう思ってもう一度それぞれの通路を見ようとした時だ。俺たちが通って来た通路の方から、こちらに向かって走って来る足音が聞こえたのは。

 警戒を促すまでもなく、アクトとシオンは既に戦闘準備に移っており、通路から四足歩行で飛び出して来た魔獣をアクトが横に避けながら薙いで、鋭い金属音を発生させた。


「グォルルルルルゥ……」


 飛び出してきた魔物は人間の大人と同等の体長に、灰色の毛を針のように逆立たせ、手足には短剣のような爪を生やし、口から伸び出た犬歯はダガーのように鋭く、血走った眼で俺たちを捉えていた。

 魔獣化したコボルトからは明らかに危険な臭いを感じたが、幸いなことに一体のみである。コボルトは群れで行動する魔物だが、魔獣化すると単独行動になるのだろうか。


「グォァ!」


 コボルトは近くにいたアクトへ、自慢の爪と牙で猛攻を仕掛ける。その速度は魔物とは比べ物にならず、アクトも受け流すので精一杯といった様子だ。とても俺が手出しできるような状況じゃない。


「こいつ……!」


 足の爪で大太刀ごと腕を上に弾かれ、防御が空いたところに爪が突き出されたが、高速で背後に回り込むことで回避する。


「グォンッ!」


 背後に回ったといっても安全ではない。逆立った毛で針山になっている尻尾による薙ぎ払いはアクトの左腕を捉えた。


「いっ……てぇな!」


 防刃性のあるコートのお陰で腕に穴が開くことなく尻尾を受け止めたアクトは、大太刀を握ったまま右手を突き出して衝撃波を放った。だが、コボルトは身を翻しながら反転することで衝撃波の範囲から逃れる。


「そこ!」


 反転したコボルトに見舞われるのはシオンの回し蹴りだ。死角からの一撃を受けたコボルトは息を詰まらせてよろめき、入り口の下に設置されていたトラバサミに右足を噛まれた。


「グォォォォォッ!」


 骨が砕ける音に続いてコボルトの悲鳴が広間内に木霊する。敵のことながら、俺は思わず顔をしかめてしまう。


「うるさい」


 首元目掛けて大太刀を突き出すが、コボルトも死にたくないのだろう。痛みに耐えて爪を振るって大太刀を弾く。だが、動きを止められた状態でアクトとシオンの斬撃をいつまでも防げる筈もない。最期はシオンの動きに翻弄されたところにやってきたアクトの斬撃で首を失うことになった。


「いってぇ……」


 血を噴き出して倒れるコボルトに気も留めず、アクトは痛みを払うように左腕を振った。


「診せてくれるか」


 アクトの左腕は赤く腫れあがって酷い内出血状態であったため、急いで回復薬を掛ける。魔界の調査に行くからと、薬の準備を万全にしてきたから暫くは治療に困らないだろうが、無くなる前に次元の境穴は抜けなくてはいけない。何回死んでもハデスの城に戻れるとしても、時間が戻るわけではないのなら、使った薬も戻らないと考えた方がいいだろう。死ねば回復すると言って、命を投げ捨てるゾンビ戦法なんて嫌だからな。


「コボルトは一体だけっぽいね」


 治療中、周囲を警戒してくれていたシオンはそう告げると、首を失ったコボルトの死骸に歩み寄った。


「このコボルト、あたいらと遭う前から怪我してたみたいだね。掠り傷だけど、全身怪我してる」


「ゴブリンでしょ。縄張り争いでもしてたんじゃない」


 興味なさげに答えるアクトは左腕を振って調子を確かめている。

 この広間は恐らくゴブリンの拠点であり、そこにコボルトの牙や爪の首飾りが落ちている。その状況からして、アクトの言ったことは当たりだと思われるが、やはり魔獣の生態なんて気にしても仕方ない。俺は二人に先へ進むことを促し、左側の通路を進むことにした。大した理由はない。単に、右側の方が水の滴る音の聞こえがいい分、敵が近寄って来そうだと思ったからである。




次回投稿予定は10月26日0時です。

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