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喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第二章【集う異世界生活】
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第六十話:心の真偽

またもや更新遅れて申し訳ありません。

 突如として現れた銀等級の男に、当然心当たりなどない。

 どうして俺のことを知っている? 何が目的だ?

 疑問が頭の中を駆け巡るが、どうやっても答えが出ないことは直ぐに理解した。


「フッ……。私の名前はアルヴィン・エクダル。見ての通り、銀等級の冒険者だ。だが、そう構えないでほしいな。私は君たちに協力を要請しに来た」


「協力ですか?」


 なんだろう、声を聞く度にアルヴィンへの不信感が募っていく。

 銀等級であれば、他にいくらでも協力を求められる相手はいるだろう。なんならギルドの掲示板にでも貼り紙を出しておけば勝手に来る筈だ。それなのに、わざわざ無名の俺たちに声を掛けるのは……アクトのことでも狙っているのか? もしくはソラクロ?


「隠すようなことでもないからこの場で言ってしまうと、私は近い内にユニオンを設立しようと考えている。そこで、君たちを勧誘しにきたという訳だ」


 ユニオンに俺たちを? 見ず知らずの下級冒険者を入れる理由なんてあるのか? どんなユニオンを作るつもりだ?


「私の目指すところは、魔物とオーバーフローの発生抑止及び魔界の調査だ。全てはこの世界に住む人々の平穏のため、と言うと、余計に信用してもらえないかな?」


 こちらの警戒を解くために笑んだのだろうが、俺には嘲笑にしか見えない。嘘を吐くならもっと演技力を磨いてからの方がいいんじゃないか。アルヴィンの言葉が真実であろうと虚偽であろうと、俺の答えは決まっているがな。


「折角のお誘いですが、お断りします。俺たちはまだ銅等級星一のパーティです。お役には立てません」


「等級は問題ではない。その二人を連れている君なら、よく知っている筈だよ。それに、私が最もユニオンに加えたい人物は、君だよ。レイホくん」


 アクトとソラクロのことを知った上で俺に加入してほしい……正気とは思えないな。


「君が私に協力してくれるのなら、私も君への協力は惜しまない。ギルドへの返済、充実した装備、快適な住まいなどは当然、望むものを用意しよう。そして……」


 アルヴィンは腰を少し屈め、俺の耳の横に顔を持ってきた。なんの予兆も気配もなく接近されたことに驚きつつも、次の瞬間に俺の意識は鼓膜へ釘付けにされた。


「その少女の記憶の手がかりも」


 この場に少女と呼べる人物は一人だけだ。


「今日のところはこれくらいにしておこう。もし私に協力してくれるなら三日後、溟海の月に替わるまでに返事をくれたまえ。ギルドの掲示板で名指しでもしてくれればいい」


 顔を離したアルヴィンは含み笑いを浮かべながら俺の肩を叩き、街並みへ立ち去って行った。


「なんだったの、あいつ?」


 小さくなっていく背中を怪しみながらアクトが口を開いた。


「さぁ、な」


 あいつが何者なのか、俺の方が知りたい。あいつは何を知っている? 何を考えている? ……くそっ、せっかく平穏な日が続いていると思ったのに、なんで訳の分からないことが起きるんだ。


「……とりあえず、飯にしよう」


 相変わらずギルドは冒険者でひしめき合っている。頭を働かせるためにも、腹ごしらえは必要だ。


「んぉ! レイホじゃぁねぇかぁ!」


「おっ! うっわさをすればっ!」


「いいどこにいだな」


 冒険者の群れの中から見知った三人組が出て来た。何か良いことでもあったのか、三人ともニヤニヤしている。

 悪いけど、今はダルたちに構える気分ではない。適当に挨拶だけして立ち去ろう。


「へっへぇ、飯行くぞぉ」


今日きょっはオイらのおっごりだ!」


「めんでてぇ日だ」


 俺の意思に反し、屈強な三人は自然な流れで俺たちを囲うと、銭貨通りの方へ向かって歩き出す。


「なんなの、こいつら?」


「あぁ……面倒だけど、悪い人たちじゃない」


 迷惑そうに顔をしかめるアクトと、面倒くさくなって表情を消した俺のことなど気にも留めず、銅星の希望ブロンズスターは意気揚々と食事処イートンへ向かった。






「バクバク……ハグハグ……」


「おぉぅ、いいぃ食いっぷりだなぁ」


 迷惑そうにしていたアクトも、目の前に料理を運ばれてきた後は大人しいものだった。食べるのに夢中で、他の事が気にならなくなったのだろう。


「っでっだ、レイホ、蛇の抜け殻サーペント・モルトのリーダーに会ったんだって?」


 アクトの健啖家っぷりを機嫌よく見ていたホップが思い出したように聞いてくる。


「はい。ユニオンに入らないか誘いを受けました」


「はぁぁ、期待のルーキー様ともなっと、すんげぇもんだ」


 期待のルーキーねぇ……まったくギルドも余計なことをしてくれたもんだ。

 ギルドに出来上がっていた冒険者の群れ。あれは月末になると掲示される、その月の成績優良冒険者・パーティを見に来ていたのだ。金等級、銀等級、銅等級以下の三部門が基本となっていて、ギルドや町に大きく貢献した冒険者が特別に表彰されることもある。その特別表彰の一つが、期待のルーキー……今月は俺だったわけだ。まったく、本当に余計なことをしてくれる。

 一応、表彰された理由を聞いたが、東の魔窟の新ルートとブレードナイトを発見したことが大きな評価点となっている。その他にもトロールの討伐だとか、依頼成功率がイレギュラーを除いて百パーセントだとかが評価されたらしい。


「ん~……だぁがぁ、あの狡猾な男がぁ表彰ぉされたからってぇだけで、ユニオンにぃ誘うかぁ?」


 自問するように話すダルに、ホップとチーホーは一糸乱れぬ動きで縦にした右手を左右に振った。


「ぜってっ、なっんかあんな。大銀貨一枚賭けてもいっい」


「オラもそう思うな。大銀貨一枚」


「ばぁかたれぇ、全員ぜぇいんが同意見だったらぁ、賭けになぁんねぇだるぉがぁ! チーホー、おめぇは白いほぉに賭けろやぁ」


「な、なんでオラが不利な方に賭けねばいけねんだべさ!」


 不毛な賭けだが……なんというか、冒険者らしい。


「くぉらぁ!! オレの店で勝手に賭けごとするたぁ、いい度胸だ!!」


 ダルたちが騒いでいると店の奥から鬼の形相でイートンさんが飛んで来た。雷鳴の如き怒号にダルたちは勿論、俺とソラクロも驚いて身を竦めた。


「パクパクパク……あ、ちょうどいいところに。親父さん、追加いい?」


 アクト、すげぇな。






————————


 クロッス中流区のとある屋敷の一室に、黒の法衣を纏った長身の男が入室する。室内は色鮮やかな調度品に囲まれ、一目で実入りの良さが分かるが、そのほとんどは埃こそないが、使用した形跡もない。室内の奥、子供ならば寝台にでも使えそうな大きさの執務机には、部屋の内装に負けず劣らず、鮮やかな色合いのドレスを身に纏った女性が煽情的な姿勢で腰を下ろしていた。


「あらアルヴィン、お帰りなさい。案外早かったのね」


「挨拶だけだったからな」


 短く答えるアルヴィンは部屋の中央に、向かい合う形で設置された長椅子へ腰を下ろした。背もたれごと覆う質の良い革が、控え目に軋んだ音を立てる。


「あら、それじゃあ予定通りユニオンは結成できそうね」


 女性は大きく開いた胸元を強調するようにして立ち上がると、長椅子の後ろからアルヴィンの首元へ腕を絡ませた。


「まだ決まったわけじゃない」


「うっふふ……アタシに嘘? 心が読めないアタシでも分かるわよ。アルヴィンが勝算もなく動くわけないじゃない」


「嘘じゃないさ。実際どうなるか、五分五分だ。まぁ、断られたとしても、私の目的を達成させるための駒になることに変わりはないがな」


「楽しそうね……妬いちゃう」


「ベラも、少しは毒牙を隠せれば興味を持ってやるさ」


 アルヴィンがベラと呼んだ女性の手の平を表にすると、ドレスの裾から短剣ダガーの細い刃が覗いていた。


「ふふふ……。アタシ、一途で盲目的なの。どうせ隠し事ができないのなら、隠す必要なんてないでしょう? ねぇ、自分への恨みを知りながら、刃を向けられながら生きるのって、どんな気持ち?」


「人が何を思おうと自由だ。人の意思は誰にも止められん。それは人の心を読める私も例外ではない。だが、最終的に人の心に安息をもたらすのは私だ」


 ベラにはアルヴィンの考えていることが分からない。何故この男は、この世界の人を救うことにここまで固執するのか。この世界で産まれた訳でもなく、他人を……同じ世界の人間を駒と呼ぶような男が、何故。相手の心を読めないベラには分からないが、これだけは分かっていた。アルヴィンがたった今口にしたことは本心である。いや、本心だと言い切る力をベラは持っていない。彼女が持っているのは精々、アルヴィンが嘘を言っていないと判断する程度の力だ。



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