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喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第二章【集う異世界生活】
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第五十七話:人が増えれば面倒事も増えていく

 眼力に負けてアクトをパーティに入れることになったわけだが、色々と面倒な問題が出て来た。

 まず、ギルドでアクトの冒険者手帳を再発行する。再発行した場合、罰則として等級を下げられるが、この下げ方には二通りある。

 一つ目は全くの初めからになる場合だ。これは冒険者手帳だけでなく、等級証までも紛失した場合だ。自分が冒険者であると証明できないのだから、初回登録時と同じく見習いから銅等級昇格試験のどこかから再出発させられる。

 二つ目は等級が一つ下げられる場合だ。これは冒険者手帳、もしくは等級証のどちらかを紛失し、再発行となった時に適用される。

 アクトの場合、等級証は無事だったので後者の等級一つ落とされるだけで済んだのだが、本人曰く今回で三度目らしい。


「能力値的には銅星四並なのに、もったいないわね。今度は気を付けなさいよ」


 再発行の手続きをしてくれたエリンさんは、やや呆れ顔で冒険者手帳と銅星一の等級証を渡した。


「今度は大丈夫」


 そう言って冒険者手帳を俺に差し出して来る。


「持ってて」


「……絶対に失くさないって保証はできないぞ」


「べつにいいよ、失くしても。ただ、おれよりは失くさないでしょ?」


 三回失くしている奴と比べたらな。


「べつによくないわよ! 冒険者にとって大事な物なんだから、しっかり管理しなさい!」


 なんで俺に向かって叱り付けてくるのだろうか。エリンさんも俺にアクトの冒険者手帳を管理しろと言いたいんだろうな。……めんどくさいな。


「預かっておくから、必要な時は言ってくれ」


「ん、ありがと」


 こうして、アクトの冒険者手帳の再発行は終わり、今度はパーティ加入の手続きに移る。そう、パーティが三人になるのだ。


「パーティ名はどうするのかしら?」


 難問にぶち当たった。パーティメンバーを増やすことなんて考えていなかったから、名前なんて考えていない。三人なら、ぎりぎり名前でいけないか?幸い、全員名前は短いし、レイホ&ソラクロ&アクト……うん、いける。


「とりあえず名前でお願いします」


「そう、わかったわ。でも、パーティとして行動していくなら、早めに名前を付けた方がいいわよ。名前があれば周りから認知されやすいし、パーティとして名前が売れれば、指名で依頼が来たり、武具が提供されたりすることだってあるもの」


「……その内、考えておきます」


 パーティとして行動した方が良いってことは理解している。というか、魔窟のように何が起きるか分からない場所を冒険するなら、パーティを組むことは必須だ。人付き合いが嫌だから一人でやっていこうだなんて、自殺願望も甚だしい。冒険者なら、自分と仲間の実力を世間に知らしめ、富も名声も地位も貪欲に求めていけ。

 ……分かっている。分かっているけど、どうせソラクロの記憶が戻ったら解散する予定なんだから、名前なんて付けても意味がないんじゃないか?

 俺は異世界らしい職業だからだとか、面倒な金勘定や仕事上の付き合いが無いからって理由で冒険者になっている。魔物から人々を守りたいだとか、仲間と一緒に名を上げたいだとか、一攫千金を夢見ているだとか、どっかの誰かみたいに英雄になりたいだなんて目標はない。それなのにパーティを組んで、名前を付けてだなんて、ただの身の程知らずじゃないか。


「考え事?」


 アクトの声で思考の沼から抜け出す。つい自分の中で自分を語ってしまっていた。えっと、今は何の話だっけ?


「おれの役割なんだけどさ、攻撃者アタッカーでいいよね?」


「あぁ……いいんじゃないか」


 許可なんて取らず、自分がやりたい、向いていると思った役割をやればいいと思う。例え最適解でなくとも、無理にあれやれ、これやれと指示をして意欲を削ってしまう事が一番怖い。べつに攻撃者だから他のことをやってはいけない決まりなんてないのだし、アビリティで何か不都合が発生しない限り、俺は意見する気はない。


「ちょっとレイホ、ちゃんと話聞いてなかったのに、そんなこと言っていいの?」


「え?」


 話ってなんだろう? 俺が考え事をしている間にそんなに重要な事を話していたのか? 面倒だな、勝手に決めてくれよ。


「え? って……疲れてるの? アクトの能力値は見た? 攻撃者にするのは勿体ないわよ。いないならしょうがないけど、もうソラクロがいるんだから、他の役割を与えた方がいいわよ」


 アクトの能力値か、そういや冒険者手帳を渡されたけど、見ないで仕舞っていた。


「アクト、能力値を見てもいいか?」


「好きにしていいよ」


 パーティメンバーだから断らなくてもいいのだが、最初だし、念のため許可を取ってから冒険者手帳を開く。


「わたしも見たいです」


「いいよ」


 ソラクロと一緒にアクトの能力値を確認する……うーん、俺と数字が違い過ぎて感想が出てこない。エリンさんから銅等級星四の推奨能力値を聞いて比べてみると、どうやら体力と筋力が推奨よりも大きく上回っている。逆に大きく下回っているのは器用か。魔力と技力のバランスも良くて、スキルも魔法も覚えている……あれ? これ、ソラクロと傾向似てるな。 ソラクロを成長させたような……。

 ショックを受けていないか心配になり、横目でソラクロを見ると……あ、良かった。「お~」とか言って目を丸くしてる。嫉妬とか卑屈って言葉はソラクロとは無縁っぽいな。


「アクト、あなた元は魔法使いじゃないの?」


 俺たちが能力値を一通り確認し終えたタイミングを見計らってエリンさんが口を開いた。

 確かに、元から攻撃者をやっていたにしては魔力や知力の値が優秀だ。魔力は体質かもしれないが、知力は魔法の勉強をしていないと上がらない。


「家がそうだっただけだよ。今はもう使ってない」


「使ってないの!? せっかく高速詠唱のアビリティを持ってるのに!?」


 エリンさんの荒げた声に、ギルド内は一瞬静まり返った。初めに音を蘇らせたのはギルドの職員たちだった。皆、一様にエリンさんの方へ視線を集中させたが、直ぐに仕事に戻った。だが、一人若い女性の職員は険しい表情をしてエリンさんの所に早足で歩いて来た。


「ちょっとエリン、そんな大きな声で能力値に関すること言ったら駄目だって」


「あ……ごめんなさい」


「謝る相手はこっちじゃないでしょ」


「わ、分かってるわよ……」


 こっちに聞こえる程度の小声でやりとりをした後、エリンさんはアクトの方へ向き直った。


「ごめんなさい。取り乱してしまって」


 いやいや、そんなに深く頭を下げなくても……。後ろの方で「高速詠唱だってよ」とか「あのチビがか」とか「なに考えてあの病弱そうな奴のパーティに?」とかとか言われてるけど、気にしてない。……俺って他の冒険者からは病弱そうな奴って印象なのか。


「謝らなくていいよ。隠す気なんてないけど、謝ったって言ったことは取り消せない」


 相変わらずの抑揚のない口調できつい事を言うなぁ。相手によっちゃ精神を抉ることになるぞ。


「あー……エリンさん、俺たちはべつに気にしていませんので……」


 後ろでヒソヒソ、奥でパタパタ。冒険者ギルドとは思えない空気の中、喉に詰まった言葉をどうにか絞り出すが、エリンさんは頭を下げたままだ。どうすればいいんだ……。

 頭を抱えたくなる状況だったが、突然響いた重い金属音に、ギルド内に漂っていた空気は打ち払われた。


「うおぉっとぉ! わぁりぃチーホー、盾ぇ蹴っちまったぁ!」


「んぁ! なーにすんだべさ!」


「うっさっ! 盾うっさっ!」


 ゴワンゴワンと鳴る金属音と共に聞こえて来る、三種類の独特な口調。後ろを見なくても分かる。銅星の希望ブロンズスターの三人だ。

 すっかりギルド内の注目を集めたダルたちだったが、一切気にせず言い合い、笑い合いしている。その普段の冒険者っぷりは瞬く間にギルド内に広がって行き、一分と経たずに元の喧騒を取り戻した。


「……よし。反省終わり!」


 周りの空気が戻ってから少し間を置いて、エリンさんは顔を上げ、いつもの営業スマイルを見せた。知ってはいたけど、銀等級星二までいくような人が、あれくらいで落ち込んだままにはならないよな。


「さてと、アクトの役割だったわよね。どうするの?」


「どうする?」


 エリンさんはアクトへ、アクトは俺へ視線を向ける。ついでにソラクロも俺の方を好奇心旺盛な目で見てくる。


「攻撃者でお願いします」


「そう。分かったわ。それじゃあ、それで登録しておくわね」


 優秀な攻撃者二人に、病弱そうな偵察者スカウト一人。前のめり過ぎて倒れそうだけど、知った事か。俺の目標は飽く迄ソラクロの記憶を戻すことであって、優秀な冒険者パーティを結成することじゃない。




次回の投稿予定は30日の0時です。


参考までに。

アクトの能力値。()内は銅等級星四の推奨能力値。


体力:396(400)

魔力:72(80)

技力:56(65)

筋力:40(42)

敏捷:32(42)

技巧:23(31)

器用:31(45)

知力:32(34)

精神力:87(110)

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