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喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第二章【集う異世界生活】
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第五十三話:翔剣

「ソラクロさん」


「はい!」


「今日は平和的に生きようと思います」


「はい!」


 腹ごしらえした後に断固として譲らぬ決意を持ち、今朝は冒険者ギルドの前にエディソン鍛冶屋へと足を運ぶ。


 昨日、大地の星インフェリア・ライツと達成したオーク討伐の報酬は全て等分して貰えた。達成報酬六百ゼース、物資の回収で二百五十ゼース―ス、トロールの魔石で百ゼース。これらを六で割って百五十八ゼースが一人当たりの取り分となった。ちなみに、死んだ護衛が身に着けていたと思われる片手剣ショートソード短槍ショートスピアは、ラウルの意向により生き残った弓使いに渡した。

 ラウルは情報に無かったトロールとの遭遇と討伐をネタに、追加報酬を出すようギルドの職員に訴えかけたが、悉く却下された。トロールがオークを従えていたとはいえ、誰に依頼されたわけでもない魔物を倒しただけなので、魔石分以上の対価を求めても無駄なのは当然だ。

 討伐推奨等級銅星四のトロール一体で百ゼース、小銀貨一枚と考えると中々の稼ぎになると思うが、六人で分けると十六と一余りにしかならない。大地の星インフェリア・ライツの皆も、俺も苦労に見合わないと少なからず思ったが、自分達の判断で不釣り合いな魔物を相手にしただけなので、こっちの苦労を買ってくれる者がいるわけもない。ギルドの職員や偶然居合わせた冒険者が感心して褒めてくれたぐらいか。

 

 無事に依頼達成したということで打ち上げに連れて行かれ、大地の星インフェリア・ライツへ継続パーティとして加入しないかと誘われた。

 戦力的については俺が口出しできる立場ではないが、申し分ない。人柄も多分問題ないと思う。ただ、毎回、今回みたいな無理をしなくてはいけないのなら、命がいくつあっても足りない。そしてノーラ曰く、ほぼ毎回あんな感じだと聞かされたので、丁重にお断りした。もし、普段はもっと危なげなく依頼を熟していると言われたとしても加入は断っていたが、当たり障りない理由ができたので都合が良かった。


 報酬やパーティ加入よりも、だ。俺にはもっと重要な問題がある。武器だ。冒険者初日から愛用してきた初突はつつきだが、トロールとの戦闘でバキバキに折れてしまった。トロールの足に俺が吹き飛ばされた時か、その後で踏まれたのかは不明だが、素人目で見ても修復不可能といった具合だった。回収できた柄の部分も酷く割れており、こんな無残な姿をタツマに見せていいものか少しだけ悩んだ。……見せるけど。


 エディソン鍛冶屋に着いて扉を開けようと手を伸ばしたところで、扉が開いた。当然ながら自動化したわけではない。先客がいたのだ。


「……」


 店内から出て来た男の赤い瞳に睨まれる。身長は変わらないくらいだが、バランス良く付いた筋肉だとか、吊りがちな目だとか、雰囲気がおっかない。

 関わりたくないので、視線をずらしてソラクロと共に脇へ避けた。それから先頭の男に続いて三人の男が出て行く。視線を合わせたくないので顔は分からないが、背は低かったり高かったり同じくらいだったり。恰好は、魔法使いマジシャン然としていたり、盗賊っぽかったり、騎士みたいな鎧だったり。


「お前……」


 え、絡まれた? こっち見られてるけど知らんフリ、知らんフリ。


「……チッ」


 舌打ちだけでなんとかやり過ごした。なんだ、あの騎士。俺の知り合いに騎士はいないぞ。


「なんだったんでしょうね」


「知らん」


 気持ちを切り替えて店内に入ると、さっきの冒険者を相手した直後だからか、タツマとエディソンさん、二人ともカウンターの近くに立っていた。


「へい、いらっしゃい! お、レイホ。今日はどうした?」


「……すまない」


 先に謝っておく。当然タツマは「何が?」という顔をするが、変わり果てた姿の初突を見せた途端に顔色を青くした。


「うおーっ! 初突ぃぃぃ! ……何があったんだ?」


 騒いだと思ったら直ぐに平静を取り戻したな。忙しい奴だ。


「トロールに踏まれた」


「トロールって緑色のでかい奴か?」


「そうだ」


 緑色のでかい魔物が他にいるかは知らない。


「あ~、そっか。まぁ、武器はいつか壊れるもんだからな。レイホが無事なら問題ないぜ!」


 初突はタツマが初めて販売を許された武器だったかで、思い入れがある筈だが、こう言ってくれるのはありがたい。


「今日はレイホの武器を探しに来たってことでいいのか?」


「それなんだが……どの武器がいいか、自分じゃよく分からなくてな」


「そうか。師匠はどんなのが合うと思います?」


 タツマに話を振られ、エディソンさんは俺の体をつま先から順に見ていった……と思いきや、何も言わずに店の奥の工房へ入っていく。去り際に「自分たちで考えてみる機会だ」とだけ残した。


「おぉっと、課題を言い渡されちまったな」


「そうだな」


 ちょっと、というか半分くらい当てが外れてしまった。エディソンさんが見繕ってくれた武器の中から選べれば楽だったのだが、俺のこの他人任せな思考を読まれたか?


「無難にいくなら、使い慣れた短剣系だな。ある程度取り回し易くて、同じ刺突系の武器としたら短槍ショートスピアか。少し扱いが難しいくなるが、細剣って選択肢もあるぞ」


 店内の隅に置いてあった樽の中から、それぞれ武器を取り出して受付台へ置いていく。

 タツマの言う通り、無難なのは短剣だ。使い慣れたってほど器用に扱えないが、これまでと変わらず戦えるだろう。だが、少しは能力値が上がったので別の武器も扱ってみたい気はする。

 短槍は記憶に新しい武器で、長さ一・五メートルくらいか。立ててみると……耳を抜かしたソラクロと同程度だ。柄は木製で丸型。刃は細長い三角で、何の変哲もないな。重さは……今は疲れていないから問題ないけど、体力が減ってきた時に振り回すのは少ししんどそうだ。


「そいつは一番平均的な短槍だから、重量や長さの違う物ももちろんあるぜ」


「う~ん……」


 新たに短槍を取り出して来るタツマに、手の平で遠慮を示して今度は細剣を手にしてみる。

 柄は片手分だけの長さしかなく、複雑な形をした護拳が付いている。細長い刀身には刃が付いているが、この刀身で斬り付けた場合、当たり所によっては折れてしまいそうだ。全長は一メートル前後で、重さは短槍より幾分か軽いが、片手で刺突しかできないと考えると、戦闘における必要技量は短槍より大きそうだ。


「そいつは細剣の代表格レイピアだ。ただ、持ってきておいてなんだが、扱いは短細剣スモールソードの方が断然いい」


 じゃあ、最初からそっちを持ってきてくれよ。と思っていると、タツマは樽の中から該当する剣を取り出して渡してくれた。

 レイピアを小型化した感じで、こちらの方が幾分か刀身の幅はある。斬撃もできなくはないが、基本は刺突になる。護拳は至ってシンプルな物であり、代わりに鍔がやや大きめだ。護拳を見て思ったが、これで殴るって手段もなくはないのか?


「刺突以外だと……片手剣に、小斧と棍棒辺りもいけんのかな」


 ガタガタと樽を鳴らして武器を出す。どんどん選択肢が増えていくが、いまいちこれだって思える武器がない。

 戦力的に考えれば、ソラクロは打撃を基本として【レイド】で斬撃もできると考えると、刺突系か破砕系の武器なら被らない。ブレードナイトやトロールと遭遇して感じたが、ああいった大型で硬い魔物相手には破砕系の武器があれば少しは有効打を与えられるよな。斧とかメイスを持てればいいのだが、俺には縁遠いな。小斧ハチェットを勧められたが、破砕系の武器として扱うのは心もとない。

 無難に両刃剣にしておくかと思ったが、案外重量がある。振り回し続けていれば直ぐに体力を切らしてしまいそうだが……片手剣ショートソードくらいなら扱えそうか?


「ふっふっふ……お悩みのレイホにいい品があるぜ」


 悩む俺を見かねたタツマは、これまでとは別の樽から一振りの片刃片手剣を持ち出した。


「こいつはどうだ?」


「ん……随分と軽いな」


 全長一メートルないぐらいの剣だが、細剣と片手剣の中では一番軽い。長さがある分、短剣よりも重く感じる程度だ。


「刀身をよく見てみな」


 言われるがまま、鞘から抜いて刀身へ視線を落とす。輝く銀の刀身は真っ直ぐに伸びており、切っ先は槍の如き鋭さを持っている。鏡の様に磨かれた刀身であるが、腹の部分には両側とも一本の溝が入っていて……なんだこれ、翔剣しょうけん


「そいつはオレが打った片刃片手剣。その銘も、翔剣とつるぎ!」


 変なポーズを取った後、どこかを指差しながら剣の銘を宣言するタツマに、ソラクロは「お~」って言いながら小さく拍手している。付き合いがいいな。


翔剣しょうけんじゃ駄目なのか?」


「ノー! 翔剣とつるぎ!」


 ふーん……こだわりがあるならそれでいいか。


「で、この剣は何なんだ? 随分と軽いけど」


「ふっふっふ……その銘の通り、鳥が空を翔るが如き鋭さで振るうことのできる剣だ!」


 ふーん……要するにタツマの能力……銘打フェイマスっていったか。それで軽量化された剣ってことだな。


「これを貰いたいんだが、なんで最初に出さなかったんだ?」


「おっと、指摘してくるね~。それはだな……軽量化を重視しすぎて、耐久性がちょっとな……」


 だからか、柄は片手分の長さしかなく、護拳は無し、鍔は細い棒状の物が左右に伸びているだけの質素な剣だ。


「…………」


「そ、そんな無の表情で見るなよ! ちゃんと師匠の販売許可は取ってあるから大丈夫だ!」


「それならいいんだが、幾らだ?」


 斬撃も刺突もできて軽い。耐久性に難があるとは言うが、とりあえず今はこれ以上の武器を選べる能力値でもない。


「二百七十ゼースだ。そういや、スキルとかアビリティとか……役割だっけ。そういうところの兼ね合いはいいのか? 片手剣だから汎用性は高いけど、目指している戦い方があるなら考え直してもいいと思うが」


「いや、大丈夫だ」


 スキル無し。アビリティもそんなに関係ない。役割っていったって、ソラクロと二人パーティだからそこまで重視することでもない。

 料金を支払い、翔剣を腰に差してエディソン鍛冶屋を後にした。


「……スキル、か」


「どうかしましたか?」


「いや……なんでもない。ギルドに行こう」


 俺もそろそろ習得しないとな。技力が低いから一、二回しか使えないと思うが、それでも有るか無いかでは大きく違いが出る。問題は何を習得するかだ。攻撃系か、補助系か……技巧が未だに最低値なのはスキルを使ったことがないからだとして、補助系でも技巧って上がるのだろうか。上がるなら最初は補助系を習得して、ある程度技巧が上がってきたら攻撃系を覚えた方が良さそうだ。




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