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喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第二章【集う異世界生活】
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第四十六話:騒がしい日々

 セラフィーナ服飾屋での激闘の末、ソラクロは衣服を一式購入することができた。服装の色は相変わらず上下黒。服の系統も同じで、袖なしヘソ上丈のシャツに短パン。ただ、流石にそれだけではセフィーが許してくれなかった。ちなみに、セフィーはセラフィーナさんの愛称で、色々と話しているうちにそっちで呼ぶようになっていた。


 ソラクロの服装だが、シャツの裾にベルトが備わっており、締めることで服が体に密着し、より動きやすくなっているんだとか。ベルトしてもしなくても別に邪魔にならないだろ。と思ったが、裾が閉まっていれば、見えてしまった系の事故からは守られるので良いと思う。

 短パンの方は、短パンよりも丈の長いインナーが一体になったような物で、これまで踝から太ももまで露出していた足はいくらか布面積が増えた。足全体を覆う物を履いた方がいいのではないかと思ったが、災いの元にはなりたくなかったので黙っていた。多分、英断。誰にも知られないけど。

 見た目か会話か分からないが、俺たちが冒険者であると分かっていたセフィーは、こちらから何も言わなくても耐久性の高い服を選んでくれていた。これについては純粋に感心した。

 冒険用の服だけでなく、部屋着も購入したので結構な値段になったが、ソラクロは食費以外でお金を使わなそうなので問題ないだろう。


 疲弊しながらもどうにか買い物を終えたと思ったが、実はもうひと悶着あった。俺の身ぐるみが剥がされた。

 こちらのソラクロの服を買う用が終わったと分かるや否や、セフィーは標的を俺に代えて来た。冒険に出る予定がなかったので、現代の普段着を着用していたのがよくなかった。「新しい服の研究のために」とか「代わりの服は好きなの持っていっていいから」とか、半ば泣き付かれてしまっては強く断ることができない。そんな体力も残っていなかったし。

 というわけで、俺は現代の思い出の品をセフィーに譲ることにした。現代でもそれなりに着ていたし、このままだとそう遠くないうちに傷んでしまうことは予想できていたので、タダで新品の服に交換できるのはありがたかった。異世界人であることが初めて役に立った気がする。


 代わりの服は耐久性の高い服で、あまり派手過ぎず、現代で着ていた服とあまり変わらない感じのものを選んだつもりだが、やはり世界観の違いは出てしまう。俺が順応すれば何も問題はないから我慢するけど。


 怠さが残る体で買い物に出かけるもんじゃないな。と思いながら、日が高い内に塒へ帰り、ジャンク屋の手伝いをしたり体をほぐしたりして過ごした。




 そして翌日。朝起きたら体の調子もそれなりに回復していた。全快が十としたら七、八といったところだが、既に四日も冒険に出ていないので、ギルドが開くと同時に依頼を選びに来た。血気盛んな冒険者は朝一で旨味のある依頼を吟味していたが、俺たちは急いで受けなくても、それこそ昼ぐらいに来ても残っていそうな旨味の少ない依頼を探した。金に余裕があるとこういう選択もできるから素晴らしい。

 新規の依頼が張り出された依頼板に群った冒険者たちの喧騒が絶えない脇で、昨日から売れ残っている依頼をじっくりと眺める。

 久しぶりに薬草採取して、ゴブリン辺りでも討伐しておくか。魔窟は何が起きるか分かんないし、今日は東の森をウロウロしてよう。そんなのんびりとしたことを考えていた筈が、どうして本日も騒がしい奴の相手をしなければいけなくなったのか。


「申し訳ないわね。うちのバカが巻き込んでしまって……」


 そう言って頭を下げるのはノーラと名乗った女性だ。赤色の瞳を宿した切れ長な目。薄紫のセミロングの髪は、うなじのところで上げて髪留めを着けている。装備は膝上丈のローブを腰の位置でベルトで止めており、下は細いズボンを履いている。今は武器は持っていないが、椅子の上に置いている短杖ステッキがそうなのだろう。


「バカって言うな! 何度言えば分かるんだよ! ボケちまってんじゃねぇのか?」


 ノーラの言うバカは本名をラウルと言う男だ。茶色の瞳は、活発そうに開かれている。青の短髪は前髪を上げていて刺々しい感じになっている。装備は革のシャツとズボンの上に、局部を守る板金の防具を着けている。武器は腰から下げた両刃片手剣ロングソード

 二人の言い合いは、俺がギルドでこいつら——大地の星インフェリア・ライツと同じ席に座ってから幾度となく繰り返されている。それで思い出したが、こいつらのことは以前、ギルドの近くの公園で見かけたことがある。あの時も似たような言い合いをしたいたが、ひょっとしていつもこんな感じなのだろうか。


「二人とも、喧嘩ばっかりしてないで話を進めようよ。これで何人の冒険者に協力を断られてきたか分かってる?」


 激しい言い合いに割って入ったのはパオリーノ——愛称はパオという男だ。背は高くないが、少し肥満気味である。やや垂れがちな橙色の瞳と、クセのある暗い茶色の髪は彼の温厚そうな性格を表している。装備は冒険者のようなものではなく、普段着のままで、武器も無い。その代わりに肥満気味の体ですら覆ってしまいそうな巨大な背嚢を床に置いている。


「パオの言う通りよ。ラウル、いちいち突っかかって来ないで」


「んだとぉ!? この……えーと……すまん、名前なんだっけ?」


 釣り上がっていた眉根が一気に下がり、ヘラヘラとした表情で俺に尋ねてくる。さっきも名乗ったが、この世界じゃ馴染みのない名前だろうから仕方ない。


「レイホです」


 答えた途端、眉根は再上昇。ノーラに向き直った。


「そう! レイホを連れて来たのはオレだぜ!? 手柄を褒められることはあってもバカ呼ばわりされる覚えはねぇな!」


 腕を組んでふんぞり返るラウルに対し、ノーラはわざとらしい溜め息を吐いて両手の平を上に上げた。


「はぁ~……まったく話が通じていないのね。もういいわ。パオの言う通り、雑音は無視して話を進めましょう」


「そうそう。余計なことばっか言ってないで、しっかり説明頼むぜ!」


「……そもそもラウルが勝手に! あたしたちに相談もなく! 受けて来た依頼でしょう! 本来ならあなたが説明するべきでしょう!」


「細かい話はリーダーがするもんだろ!? 俺は戦闘の要なんだからな! オレはもう既に今回受けた魔物と戦ってんの! 頭ん中で!」


 この二人、無限に脱線し続けるぞ。この際、パオは仲裁を諦めて話を進めていいんじゃないか?もしくは……。

 視線を大地の星インフェリア・ライツ最後の一人、イデアという女性に向けたが、視線が合った途端に俯かれてしまう。薄い水色の瞳は丸く、深緑色の短めに切り揃えられた髪は内巻きになっている。見るからに人見知りであるのだが、その割りに装備はところどころ露出がある。肩掛けのお陰で隠れているが、中に来ている服は胸少し上くらいまでしかなく、肩から先は露出している。ニーソックスを履いているが、スカートが短い。武器は、宝石が取り付けられた木製のワンドを両手で抱きかかえるように持っている。


「ご、ごめんなさい」


 何が? とは言わない。初対面の人と話すのが苦手だからとか、説明が上手くできないからとか、そんなところだろう。寧ろ視線を向けて、こっちがごめんなさい。


「賑やかですねぇ」


 ソラクロは何でこの状況で和んでいられるんだ?

 俺がラウルに声を掛けられたのは、薬草採取とゴブリン討伐の依頼書を受付に持って行こうとした時だった。肩を掴まれ「オーク倒したそうな顔をしているな! いい話があるから聞いてくれ!」と、強引に引っ張って来られた。そこから一通りの挨拶が済んだところで、長い長い喧嘩が始まった。確かに、強引に連れて来られた先でこんな喧嘩を見せられては、依頼の協力を要請されても断られるだろうな。

 現に俺も、勝手に逃げようかなと思い始めていた。



次回投稿は16日の0時予定です。

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