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喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第一章【始まる異世界生活】
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第四十話:コボルト戦

 昇級してから一週間、毎日東の魔窟で魔物狩りを続けた。ゴブリン、インプの他にも二足歩行の犬の魔物——コボルト——や人型の骸骨——スケルトン——も倒した。主にソラクロが。俺はというと、上昇したインプを叩き落したり、ソラクロが魔物を仕留める隙を作るための囮になったりが主な役割だった。何度か怪我もしたが、なんとか五体満足で生きていられるから今のところは大丈夫だ。


 魔物を討伐して実入りが良くなったということと、ソラクロが装備品にほとんど金を使わないこともあって、既にソラクロが冒険者ギルドから借りた千ゼースは返済を終えている。俺はというと、防具を新調したこともあり、相変わらずカツカツの生活を送っている。今度の防具はハードレザーと呼ばれる硬い革を重ねて作られた物なので、いつもより長持ち……させたい。


 今日も今日とてインプ討伐のために東の魔窟に来たわけだが、どうも様子がおかしい。魔窟はマナの流れで形を変えるとは聞いていたが、これまで訪れたどの形とも違う。単純な運なのかもしれないが、何か、言葉で言い表せない空気が漂っていた。


 入り口はいつも洞窟だったり、草原だったり、広い空間に繋がっていたが、今回はいきなり細い坑道のようなところに出た。真っ暗で何も見えなかったので、ソラクロに灯りを点けてもらってから、角灯ランタンに火を灯して進行を始める。


「なにか……変な感じがしますね」


「ソラクロもそう思うか?」


 普段なら相槌を打つだけだが、今回聞き返したのは、それだけ異変に対し不安を感じている証拠だと、遅れて気付いた。


「いつもと違う魔物がいるかもしれません。わたしが前を歩きますね」


 狭い道幅で体を擦らせてソラクロが前に出た。自分から隊列を変えて来るのは初めてだったので、驚いている間に置いて行かれそうになるが、早歩きで追いつく。

 いつもなら……少し前の俺なら、不穏な空気を感じたら撤退を考えていただろうが、魔物討伐にも少し慣れてきたからだろう。この先がどうなっているのかといった、好奇心に歩を進められたのは。


 狭い坑道を抜けると、岩盤を削って出来た、天井は低いが左右に広く薄明るい空間が広がった。天井には手が届くが、垂直に跳ばなければ頭をぶつけることはない……か?


「グァン!」

「グァァァン!」

「グァッ!」


 侵入者を発見した途端、三体のコボルトが咆哮しながら襲ってきた。


「ソラクロ、散開だ!」


「はい!」


 言わなくとも分かっていたのだろう。ソラクロは既にマントを脱ぎ捨て、俺からコボルトを引き離すような位置に駆けだしていた。俺はというと、できるだけ空間の中央、壁から離れた所で逃げ道を確保したかったのだが、コボルトがいた場所が空間の中央だったので、壁を背負った位置から動けないでいた。


 こっちに来るのは……一体か。

 上手くソラクロが二体を引き連れてくれたお陰で負担が減った。この位置取りで二体に左右から仕掛けられたら長くは持たなかっただろう。一体ならどうにか時間を稼ぐくらいできる。


 コボルトから距離を離すように逃げるが、足はコボルトの方が少し早い。徐々に距離を縮められそうになるが、振り返りざまに投擲短剣スローイングダガーを投げる……振りをした。

 真っ直ぐ走って来ていたコボルトも、俺の投擲する姿を見て右に避ける。だが、実際には何も飛んで来ない。

 直線距離から外したことで少しばかり距離を離したが、直ぐにまた追いかけっこが始まる。

 薄明りの先で見えるソラクロは、まだ二体のコボルトと戦っている。このまま駆けていって不意打ちを狙うか?いや、ソラクロならコボルト二体くらい倒せる。余計なことして混戦にさせる方が危険だ。となれば……。

 振り向きざま、投擲短剣を横投げにする。今度は本当に投げた。胴体目掛けて投げたつもりだったが、動きながらだったので狙いが少しブレて脇腹辺りを目掛けて飛んでいく。


「グァン!」


 薄暗くともしっかりと見えているのか。コボルトは一歩横に避けて投擲短剣を避けると、その足を軸にして一気に俺へ飛び掛かって来た。

 振り向いた体を、そのまま後方に跳ばす。コボルトが交差させた爪は、俺の胸の前を通り過ぎていく。あぶねっ! 投擲短剣を投げてなかったら追いつかれてたかもな。

 腕を伸ばせば届く距離にコボルトの体がある。薄汚れた灰色の毛並みから、血に染まった赤い瞳がこちらを睨んでいる。


「やぁっ!!」


「クォォォン!」


 背後でソラクロの覇気と、コボルトの力ない鳴き声が聞こえた。一体倒したのか。一対一ならそこまで時間は掛からないだろうが、こっちはどうしたもんか。


「グアッ!」


 時間稼ぎに付き合ってくれはしない。牙を鳴らし、爪を振るって猛攻を仕掛けて来る。

 大振りだけど、踏み込んで一撃を加えるのは危険が高すぎる。一撃でもくらったら致命傷になりかねない。初突はつつきを突き出して踏み込む振りをしながら後ろに跳んで距離を保つ。更に、コボルトが気付いているかどうかは分からないが、回るように動いているので、今はコボルトの方がソラクロ達の方に背を向けている。


「グゥゥゥゥ!」


 攻撃が一向に当たらないことに焦れたのか、コボルトは両手を広げて突進して来る。後ろに跳んでも、横に跳んでも掴まれるし、方向転換して走り出す暇なんてとても無い。


「当たれ!」


 迎え撃つしかない。そう判断した時には既に初突を下投げで投擲していた。


「グァッ……グッ!」


 投擲された投擲短剣は腰の位置から斜めに飛んで行き、運良くコボルトの下顎に突き刺さった。即死させるには至らなかったが、コボルトは倒れ込んでもがいている。初突を抜かれる前に投擲短剣を取り出し、しっかりと頭部に狙いを定めて投げた。


「クァンッ!」


 悲鳴を上げた後、少しの間だけ手足をバタつかせていたが、直ぐに動かなくなった。


「レイホさん、無事ですか?」


 一息吐くと同時にソラクロが駆けて来た。様子を見るに、無事にコボルト二体を倒してくれたようだ。


「どうにか、な」


「ごめんなさい。少し手間取ってしまいました」


「……武器持ち二体相手でだったんだろ。仕方ない」


 ソラクロが戦利品と思われる片手両刃剣とツルハシを持っているところから推察する。ソラクロが強くとも、武器のリーチ差は縮めようがない。


「次はもっと頑張ります! あ、これ、使いますか?」


 握りしめた手に武器が握られていることを思い出したのか、片手両刃剣とツルハシを差し出してくる。


「あー……魔石を回収してくるから、この辺に置いといて。それと、荷物も持ってきておいて」


 武器はあることに越したことはない。持って帰ればそれなりの値段で買い取ってくれるし。


「はーい」


 コボルトの死骸の横に武器を置くと、魔法の灯りを点けて荷物を回収しに行った。そこで俺はもう一度一息吐いてから魔石と、投げた投擲短剣たちの回収に向かった。




 新しく魔物が出現することもなく魔石を回収し、更にコボルトは爪と牙が武具の素材に使えるということなので回収できるだけ回収した。死骸から素材を奪う行為には一生慣れないと思うが、できるだけ無心で爪と牙を抜いた。毛皮も素材に使えるのだが、毛皮の剥がし方を知らないし、持って運ぶには荷物になる。


「よし。先に進むか」


 どうにか投擲短剣を見つけ、回収を終えたので先に進むことにする。

 投擲短剣は無くしたり買い足したり壊れたりで、今は三本しか持っていない。回収できるなら回収して使いまわしておかないと出費が嵩んでしまう。


 岩場の空間の先は、また細い坑道が続いていたが、魔物の気配はなかった。だが、途中で坑道が二手に分かれていた。ソラクロに「どっちだと思う?」とは聞かない。俺の選んだ道に従うと返されることは分かっていたからだ。


「左にするか」


「はいです!」


 何も判断材料がなかったので適当に決める。ソラクロが前を歩いていき、俺はその背中をついて行くことにした。


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