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喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第一章【始まる異世界生活】
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第三十九話:戦いに必要なもの

 銅等級に昇格した翌日、俺は自分でも分かるくらい微妙な気持ちになっていた。

冒険者手帳に能力値の更新を行った際、予想以上に能力値が上昇していた。これは良い。加えて、待望のアビリティを二つも習得していた。ここまでも良い。問題はアビリティの内容にあった。

 一つ目のアビリティ【逃走者の心得】は、逃走時に敏捷が少し上昇するというもの。二つ目の【単独行動】は、周囲に味方がいない場合、体力と敏捷と技巧と器用が少し上昇するというものだ。

 限定的でも能力値を上昇させるアビリティを習得したのは良いが、残念ながら単独行動の方はしばらく日の目を見ることはなさそうだ。能力値が上昇したとはいえ、相変わらず体力と精神力以外は推奨値を下回っている。そんな奴が単独行動の発動を狙うよりも、ソラクロの援護でもしていた方がよっぽど戦いの役に立つ。


 援護。俺の頭の中で考えているのは飛び道具による攻撃手段だ。ソラクロは強いが万能じゃない。魔窟でインプと戦ったように、空中を飛ばれると攻撃が届かなくなってしまう。ソラクロは魔法を使えるが、相手の筋力を低下させる魔法と、周囲の気温を上げたり下げたりする魔法しか覚えていない。

 ならば新しい魔法を覚えれば良いと考えたが、現実はそう簡単に解決策を通してくれない。ソラクロは【低速詠唱】という、マイナス方向のアビリティを持っている。これは詠唱が完了してから魔法が発動されるまでに間が生じるといったものだ。

 魔法は通常、詠唱に集中する為に足を止める必要があるので、ソラクロの攻撃力と機動力を考えたら攻撃魔法を使ってもらうのは下策に思えた。


 俺が魔法を覚える選択肢については、魔力を開放して魔法を覚えるまでの資金がないということと、そもそも俺に魔法の才能があるか怪しいことから却下した。高い金を払って魔力を開放したけど他の能力値と同じく、異様に低い数値でした。なんてなったら目も当てられん。


 そんな訳で、武器を買おうとエディソン鍛冶屋に来たわけだが……。


「やめとけ」


 弓を手にした瞬間、エディソンさんから厳しいお言葉をいただいた。

 そりゃあ、弓なんて今初めて持ったし、いきなり実戦で使えるとは思っていない。広場や森でいくらか練習してから魔窟に入るつもりだ。


「師匠から許しが出なかったら、オレも売るわけにはいかないな」


 そう言ってタツマは俺の手から短弓ショートボウを取り上げた。


「まぁ、オレも弓はあんまりお勧めしないぜ。矢は消耗品だし、持ち運ぶ手間もかかる」


 金も無く、能力値も低い俺が手を伸ばすものではないということか。じゃあどうやって遠距離攻撃をすればいいんだ。ゴブリンから投石紐スリングショットでも奪って使うか?


「こいつか、こいつだな」


 エディソンさんが見繕ってくれた武器は二種類。投擲短剣スローイングダガー投擲槍ジャベリンだ。

 投擲短剣と言ったが、投げやすくしたり、空気抵抗を考えたりといった形が工夫された物ではなく、ただ細長いだけの簡素な物だった。投擲槍にしても同様に、長さ一メートルちょっとの槍だった。槍と言うより、太くした矢と表現の方が正しいかもしれない。

 どちらにせよ粗末な物を出された……とは思わない。思うほどできた能力値じゃないのは百も承知なのだから。


「値段は?」


「投擲短剣が三十ゼースで、投擲槍が六十ゼースだ」


 ちょうど倍か。投擲槍の方が攻撃力は高いだろうし、回収できれば何度か使いまわせそうだ。……使いまわすなら投擲短剣もできるか? 見た感じすぐ壊れそうだけど。でも、攻撃力が欲しいわけじゃないからな。数買えて持ち運べる投擲短剣にするか。


「四本くれ」


「毎度あり! 短剣用鞘シースも要るよな?」


「あ、そうか。それじゃあ、鞘も付けてくれ」


 投擲短剣を収納するための鞘をベルトの左腰に付けてもらう。合計百四十ゼースの出費だ。


「ズボンも少しボロくなってきてんな。買い換えた方がいいぜ。上も、ただの服じゃすぐダメになるぞ」


「こいつに頼んで買ってもらうよ」


 買ったばかりの投擲短剣を見せて言うと、タツマは「へっ」と笑ってくれた。

 銅等級に昇級したことで三百ゼースを貰い、インプとゴブリンの魔石を買い取ってもらい百四十七ゼースの稼ぎ。稼ぎはソラクロと二等分して七十三ゼース一余り。今回の出費を引くと俺の所持金は三百八ゼース。


 エディソン鍛冶屋を出ると、ソラクロが大人しく待っていてくれた。多分、マントを羽織っていなかったらお節介な奴に声を掛けられていたんだろうな。


「もういいんですか?」


「ああ」


 想定よりも違う結果となったが武器の調達は終わった。投擲技能には全く自信がないのだが、遠距離攻撃を補助してくれるスキルとか覚えられないかな。スキルを覚えるとなると修練場に行かないとだけど、相変わらず金がない。それに、戦いにおいて自分の武器やスキルは大事だが、もう一つ大事なことがある。

 今回、インプと戦ってなんとなく感じ取ったのだが、同じ魔法でも属性によって特性が違うような気がした。属性については何となくの想像で、水は火に強くて、風は土に強いとか、相性があるぐらいだと思い込んでいたが、一回きちんと調べる必要がある。

 俺はソラクロを連れて冒険者ギルドを訪れた。クエストを受けるためではない。もう一つ大事なこと、知識を得るために来た。


 二階の資料室に上がって、ソラクロと手分けして魔法に関する資料を探す。ソラクロはこの手の作業にすぐ飽きてしまうのではないか、といった不安があったものの、終始真面目に資料を探してくれた。


 魔法について分かったことは多くある。初級、下級、中級、上級の四段階が基本となっており、これらに分類分けされている魔法は定型化した魔法となっている。各魔術師が考案した魔法は独自魔法となっていて、その効果は千差万別である。

 魔法を覚える手段については、魔術師に教えてもらうか魔法書を読むことで覚えられるようだが、知力が低かったり、覚えている魔法の数が多くて知力を圧迫していると覚えられないのだが、この辺りは流し読みした。なんせ、魔法を覚える予定は先の先の先だからな。


 魔法の属性。最も知りたかった情報については、俺が感じた事は当たりだった。定型化した魔法でも属性によって特性が加わり、十分に実戦で効果を発揮することができる。しかも、同じ属性でも攻撃・妨害系と回復・補助系魔法でそれぞれ特性が変わるというのだから凄いもんだ。

 

 個人的には風と雷が分かりやすく強い特性だと思った。

 風は攻撃・妨害系の時は誘導が付与され、回復・補助時には範囲魔法になる。誘導や範囲がどの程度のものか、範囲になったことで効果が下がることはないのか、といった詳細にもよるが、位置取りをある程度無視して魔法を発動できるだけで術者の負担は減る。

 雷は攻撃・妨害系の時は麻痺効果を付与し、回復・補助時には敏捷上昇の効果を付与する。こちらも詳細な効果が分からねば判断できないが、確定にしろ確率にしろ麻痺が付与されている以上は回避に重点を置かねばならない。敏捷が上昇するのは単純だが、それだけに扱いやすい強さとなるだろう。

 他の属性も特性は魅力的で、先の先の先にしていた魔法習得を早めたいと思うほどだった。


「ソラクロは魔法の特性は知ってた?」


「知っていたような……知っていないような……」


 右や左に首を傾げる。記憶喪失ってこの辺の知識ってどうなんだろうか。魔法とか戦い方を覚えているところから、知識は覚えていると思うけど、一部忘れてしまっていることはありえるのだろうか。


 考えても調べても分からないことに時間を割くのは無駄だ。

 今日は武器の調達や調べ物など、これからの冒険に必要な準備に費やす日と決めたので、腹ごしらえをしたらソラクロと街を回って、時間が余ったらネルソンさんの手伝いでもするか。




参考までに。

現在のレイホの能力値。()内は銅等級星一の推奨能力値。


体力:248(220)

魔力:0(25)

技力:10(20)

筋力:8(15)

敏捷:10(15)

技巧:1(10)

器用:15(18)

知力:0(10)

精神力:91(50)

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