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喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第一章【始まる異世界生活】
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第三十八話:力の差

 洞窟から現れたゴブリン。その数八。棍棒やら剣やら金槌やら、それぞれが何かしらの武器を持っている。インプと合わせて十体、遮蔽物もない場所で相手にするのは無理だ。


「グギャギャギャ、ギャ!」


 中央にいたゴブリン——他の個体よりも少し背が高く、頭に採掘用ヘルメットに似た帽子を被っている奴が剣を振ると、他のゴブリン達は俺とソラクロを囲むように動き出した。

 魔窟のゴブリン……穴ゴブといったか、森ゴブとは違って統率まで取れている。完全に囲まれる前に逃げよう。ソラクロへ撤退を告げようと口を開いて……そのまま声を出すことなく固まった。


「たぁっ!」


「ギャッ!?」


 指示を出していたゴブリンへ一直線に突っ込み、飛び膝蹴り。迷いのない真っ直ぐな攻撃の威力は相当なもので、ゴブリンの体は宙に浮き、地面に落ちて一回転して漸く落ち着いた。


「ギャギャ……!?」


 理解が追いついていないのだろう。ゴブリンは頭を振りながら起き上がろうとするが、そんな隙だらけの状態を見逃されるほど、戦いは甘くなかった。

 助走を付けて飛んだソラクロは空中で一回転して勢いを付けると、渾身の踵落としをゴブリンの額に叩き込んだ。ゴブリンは体を一度だけ大きくビクつかせたが、それだけで後は動かなくなった。


 俺もゴブリン達も一連の流れを見ることしかできなかったが、ソラクロは何食わぬ顔でゴブリンの落とした両刃片手剣を拾うと俺のところに駆けて来た。


「これ、使えそうですのでどうぞ!」


「あ、あぁ……」


 とりあえず受け取ると、ソラクロは次の標的に向けて突進して行き、【レイド】で簡単に息の根を止めた。

 ソラクロが剣を使った方が強いんじゃないのか?

 ゴブリン達とていつまでも呆けているわけではない。リーダーがいなくなったことで包囲は崩れたが、二体もしくは三体で連携して襲ってくる上に、インプが魔法でゴブリン達を援護する。


 前後左右、更に頭上と気を張らねばならない状況で長く戦い続けられるわけもなく。ゴブリンの攻撃を避けた隙を狙って放たれた魔弾が直撃する。


「がっ!?」


 角ばった形の、黄色の魔弾を食らった時、予想以上の衝撃に体が耐えかねて倒れてしまう。ある程度の衝撃を覚悟すれば耐えられると、足を踏ん張ってこれなのだから、もし当たり所が悪ければ気絶してしまうかもしれない。

 倒れた俺に、二体のゴブリンが一斉に群がる。棍棒と金槌、それぞれを振り上げて、力の限り叩きつけて来る。

 両刃片手剣と初突はつつきを交差して構えて打撃を防ぐ。始めは頭部ばかりを狙ってきたが、防御されると分かると、それぞれ別の部位を狙って武器を打ち付けて来る。


「ぐっ……がっ!」


 好き勝手に武器を振り下ろされて防戦一方となり、腹や足を何度も殴打される。このままじゃマズい。


「っそ!」


 左手に持った両刃片手剣を大振りして群がるゴブリンを引きはがし、素早く立とうとして、膝を付いた。

 痛ってぇな。めちゃくちゃに叩きやがって……。

 警戒して少し距離を置いていたゴブリンだったが、俺が立てないと分かると口元を歪めて武器を構える。

 立ち上がらないことには戦えない。歯を食いしばって痛みに耐え、足に力を入れたところで、ゴブリンは横から飛んできたゴブリンとぶつかって倒れた。


「大丈夫ですか!?」


 ゴブリンが飛んできた方からソラクロが走って来る。投げ飛ばしたにしては結構な勢いだったな。二体とも気絶している。

 辺りを見ると、いつの間にか立っているのは俺とソラクロだけであり、地面や壁には息絶えた魔物が転がっていた。ソラクロの圧倒的な戦闘能力に、俺は体の痛みも忘れて唖然とするしかなかった。


「あとはそこの二体をやっちゃいますね!」


 気絶しているゴブリンに駆け寄り【レイド】を当て、戦闘終了。

 俺、インプ一体しか倒してない……。




 広間に散らばった魔物の死骸から魔石を取り出し、荷物をまとめる。


「どうでした? お役に立ちました?」


 マントから出した尻尾を振って目を輝かせているソラクロを見て、俺は自分がげんなりとしたのが分かった。

 役に立ったとかそういうレベルじゃないのは誰が見ても明らかなのに、わざわざ聞いてくるなよ。


「……駄目でした?」


 尻尾と眉根を下げる。そんなあからさまに落ち込むなよ。


「……よくやってくれた。けど、張り切りすぎだ」


 ゴブリンの群れに突っ込んでリーダーに膝蹴りなんて誰が考えるんだよ。こっちは貧弱なんだから、予想外の展開を作られてもついていけない。


「えへへ……ごめんなさい」


 にやけ面で謝られてもな……もういいや。魔物討伐は終わったんだし、町に戻ろう。魔石と、ゴブリンが持っていた武器を売れば結構な稼ぎになるだろうし、ソラクロには好きな物を食べさせてやろう。


「帰るぞ」


「はーい」


 腰の両脇に抜身の剣を差して歩く俺の後ろを、ソラクロはぴったりとくっついて歩いてきた。






 黒い靄の渦を潜って魔窟を出ると、見知った森に戻って来る。出口は別の所に繋がっていた、とかにならなくて密かに安心した。

 余計な戦闘はしたくなかったので、ソラクロに周囲を警戒してもらいながら道なりに進み、無事にクロッスに帰って来れたので、そのままギルドへ報告に向かった。


「おかえりなさい。その様子だと、良い報告が聞けそうね」


「はい。これがゴブリンの魔石です」


 昇級試験で指定された分の魔石、俺とソラクロ合わせて二つを受付台に置く。


「……あの、ゴブリンなんですが、俺は直接倒していなくても大丈夫なんですか?」


 どうしても自分の力で試験を達成した気になれなかったので、思い切って聞いてみる。


「戦闘には加わったんでしょ? なら大丈夫よ。レイホが援護してソラクロが倒す。それも立派なパーティの在り方よ」


 援護にもなってないんだけど……卑下ばかりしても話しが進まないし、つまらないだけだ。


「質問が無ければ、昇級の手続きをして来るから、少し待ってて」


 ゴブリンの魔石二つを持って、エリンさんは事務室の奥に歩いて行った。

 いよいよ銅等級かと思うが、やはりどうしても納得というか達成感が湧いてこない。ソラクロの面倒を見るはずが、逆に面倒を見られている。冒険者になることも、手伝ってもらうことも強要しておらず、ソラクロの意思を尊重した結果であるので、負い目を感じる必要はないと分かっている。だが、分かっていること全てを納得できるほど素直でも利口でもない。


 後ろで立っているソラクロをチラ見すると、目で「なんですか?」と聞かれたので直ぐに視線を反らした。

 ソラクロは強い……けど、それで補えない程に俺が弱い。もっと鍛えて、戦闘経験も積んでいかないと、ソラクロの戦いに付いていけずに死ぬ。ソラクロに稽古でもつけてもらうか? ……なんか不安だな。それに、俺自身がどんな力を身に着けたいかはっきりしていないのだから、稽古のしようもない。


 もやもやと思考を膨らませていると、エリンさんが銅色の等級証を二つ入れた盆を持って戻って来た。


「お待たせ。これが銅等級星一の等級証よ。受け取ってちょうだい」


 言われた通り、銅色の等級証を受け取る。自分の名前の隣に、小さい星が一つ彫られている。

 これまで着けていた鉄の等級証を盆に入れ、銅色の等級証を首から下げる。経緯はどうであれ、銅等級になったことに変わりはない。変わりはないが、昇級したからといって何が変わるわけでもない。昇級よりもソラクロの存在の方が、俺の生活に与える影響は大きい。


「昇級祝い金を受け取るのも忘れないでね。それと冒険者手帳の更新だけど、魔窟から帰ってきたばかりで疲れているでしょうし、明日にしましょ」


 ゴブリンに殴られた所は薬を塗ったが、それでも全快とまでは至っていない。腹と足を動かすと、筋肉痛に似た痛みが残っている。測定するなら万全の状態のほうが良いので、エリンさんに言われた通り、冒険者手帳への能力値の更新は明日にする。

 等級証を入れて来た盆を見ると小銀貨が六枚。一人頭三百ゼースの昇級祝い金が乗せられていたので、ありがたく頂戴する。ソラクロに三百ゼース渡そうとしたが、「わたしはいらないのでレイホさんが持っていてください」と言われたので、預かっておくことにした。二つ目の財布を買っておかないとだな。



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